シングルコーンは何故無理なのか
シングルコーン型スピーカーシステムについて、これまで触れてきませんでした。しかし、結構自作している人が多いと聞きますので、ハイファイ再生用には無理なのです、ということを一度はきちんと説明しておきましょう。
まず、ハイファイ用スピーカーに要求される条件です。
1.原音、或いはそれに近い音量が得られること
原音再生というのは、本物と変わらない偽物を作ることですから、まず、大きさ、すなわち音量が必要なだけ出せなければいけません。
2.原音と相似形であること
ソックリさんでなければいけません。そうでなければすぐ見破られてしまいます。
3.不要音の排除
一つは歪み成分の発生、もう一つは雑音の発生です。どちらも極力小さく抑えなければいけません。
以上の3条件を満たすために、オーディオ屋は長年苦労を重ねてきました。スピーカーも最初は絵に描いたようなシングルコーンで、振動板は紙でした。ついでに、振動板の条件を説明しておきましょう。
1.軽いこと
重い振動板は当然能率が悪く、高い振動数にはついていけないことなどから、良い材料ではありません。
2.固いこと
剛性が大きいと言っても同じですが、シナシナしていてはボイスコイルが動くだけで、振動板全体は動いてくれません。
3.内部損失が大きいこと
振動板が振動した後、ボイスコイルが停止したら振動板全体も直ぐに停止して欲しいのですが、内部損失が小さいと振動が残ってしまいます。そうすると、その振動板の共振周波数の振動がなかなか消えず、固有の音色を作ります。
以上の条件を満たす材料を探して苦心してきたのですが、以外に良かったのが紙なのです。紙をコーン(円錐)状に作り、その頂点からボイスコイルで駆動すると剛性もそこそこあり、軽いし、内部損失もある、という具合にです。
勿論、振動板としては高分子化合物、グラファイト、ジュラルミンなど、まずは有りとあらゆる材料が試されてきました。
以上のような事情を背景にしてシングルコーンスピーカーを考えてみます。
1.低音を出すには大口径が必要です
直径2メートルもあって、牛1頭分の皮を張るという大きな太鼓を眺めると、その振動を直径16センチのコーンがどんなに働いても出せるものではない、ということが直感的に理解できると思います。そうすると、どこかで妥協せざるを得ないとしても、低音のためには大きな振動板が欲しくなります。
では、ということで大きな振動板を用意して、それに20,000Hzを出せ、と命じても無理なことが、これも容易に想像できましょう。
2.高音を出すには小口径が望ましい
20kHzを出す、すなわち毎秒20,000回の振動をさせようとすれば、振動板は軽くしなければいけません。当然3センチとか2.5センチの振動板を使うことになります。高音では空気の負荷がよくかかりますから、小口径でも必要な音量が出せます。
3.中間をどこが受け持つ
仮に低音は38センチが受け持ち、高音は3センチが受け持ったとしても、おおよそ、500Hzから5000Hzまでを更に別の振動板に頼らなければなりません。
このように考えてくると、何とかオーディオ帯域と称する20Hz-20,000Hz間をカバーするためには、少なくとも3個程度のユニットの分業とせざるを得ないことが分かります。
それでもシングルコーンという立場
しかし、そんな大型のシステムは使いにくいとして、16センチないし20センチのシングルコーンユニット1個というシステムも昔から使われてきました。有名なダイヤトーンのP−610型ユニット、パイオニアのPE−16などです。これらのユニットをメーカー指定のエンクロージャーに入れると、纏まった、バランスの良い音がします。ただし、低音も高音もそこそこの限界があって、オーケストラを大音量で聴くなどという目的には適合しません。とりわけ低音が貧弱で、オーケストラのスケール感が出ないのです。それを少しでもカバーしようとして25センチにすると、今度は高音の指向性が強くなり、分割振動から特性も暴れて、ギャーついた音になるなど、感心しないのです。
それやこれやで、高音を伸ばすためには10センチないし15センチの振動板で、あとは何とか低音の増強を工夫しようというのが現在のシングルコーン型の方向ですが、致命的な問題点は、低音の大音量が出せないことです。低音の振動板の振幅は直径の2乗に反比例しますから、15センチは30センチの4倍動かなければなりません。もし30センチが±5ミリの振幅とすると15センチ型は±20ミリという振幅を要求されます。磁気回路からダンパーの設計まで、並大抵の苦労ではないでしょう。もしそこが不完全なら、当然歪みの多い低音を聴かなければなりません。
そしてもう一つの不満は、そのように小口径の頑張った低音というものは、伸びやかさに欠け、とてもコントラバスの風のような低音のイメージは伝わって来ないのです。
そのような難点をもっていても、日本の住宅事情からは小型システムの要求があり、シングルコーンまたはそれにツイーターを付けた程度のシステムが売れています。勿論、それも立派なオーディオライフではありますが、いわゆる「本気のもの」とは一線を画するものでしょう。ここが結論になりますが、小型という条件付きのハイファイ再生にしかならないのです。
もう一つの立場は、入門用、或いは訓練用という意味でのスピーカーシステムです。日曜大工としての愉しみでもよし、わずかな費用でテレビの音がグッと良くなったなどという効用もあります。
いずれにしても、シングルコーンのスピーカーシステムには、簡便さに伴う限界があることをきちんと認識しておいて、呉々もオーディオとはこの程度のものと思わないで欲しいということです。オーディオ屋が長年苦労してきたのにはそれなりの理由があるのです。
自分の部屋のサイズに合わせて最初からシングルコーンのフルレンジなどと決めないで、オーディオショップでマルチウエイの音の良さも認識しましょう。 |