HiFiオーディオ教室

 AUDIO LESSON 88 「オーディオの始まり−5」3/15
 ステレオレコードが発売されると、一斉にフォノカートリッジの開発が始まりました。アンプやスピーカーは複数用意するだけで、それほど大きな問題はなかったのですが、カートリッジはそうはいきません。あるいはHiFi再生の先頭を駈けたのがこのカートリッジだったかも知れません。

初期のカートリッジ


 最初はやはり輸入品が頼りでしたから当然高価でした。そのころ、オーディオ誌で輸入カートリッジの評判を読み、あれこれ迷った末にオルトホンのSPU−Gを購入し、丹念に測定し、試聴したものです。
 今でも記憶していますが、3個テストすると、出てくる音はみんな違っていて、MC型カートリッジの品質管理が大変なことがよく分かりました。チャンネルセバレーションは20dB/1kHz前後で、それも左右不揃いなどは当然という感じでした。

 初期の国産カートリッジの難点は「トラッカビリティー(音溝を辿る能力)」の不足で、大振幅のレコードをかけるときは気が気ではなかったものです。

カートリッジ競争の時代

 最初は小規模な会社がカートリッジを作りだしたのですが、そのうち、デンオン、松下、ソニーなどが開発に乗り出し、急速に進歩しました。特にデンオンはプロ用のプレーヤーで大きなシェアを誇っていただけに大いに力を入れ、DL−103などの名器を開発しました。

 カートリッジの技術競争は

◆楕円針
 高音になって音溝のカーブがきつくなると「トレーシング歪み」や「ピンチ効果」という歪みが発生しますが、それを軽減するのが楕円針です。更に超楕円針、シバタ針なども考案されました。
◆ハイコンプライアンス化
 コンブライアンスは動きの柔らかさを表す数値です。この数値が大きいと滑らかに音溝をトレースし、針飛び(針先が音溝の中をスキップして歩く現象)を起こさないというわけです。
◆軽量化
 振動する部品、すなわち、針先、カンチレバー、マグネット(MM型)やコイル(MC型)の質量を軽くして、高域共振の周波数を高くし、高音の再生限界を広げました。
◆カンチレバーの高剛性化
 剛性の大きいカンチレバーを使用すると、ねじれが少なく、これも高域特性の高性能化の方法でした。最初は加工性の良いアルミが主でしたが、ベリリュ−ム、チタン、ボロンなども使われました。また、一部のメーカーでは針先とカンチレバーの一部をルビーやダイヤの「一体削りだし」で行ったりして頑張ったものです。
◆可動コイルの空芯化
 MC型では可動コイルの出力を大きくするために鉄心を入れるタイプが主流でしたが、音色の透明化を意図して、後期には空芯タイプも多くなってきました。

 特色があって記憶に残っているものを並べてみます。

★デンオンDL−103:主として放送局向けに設計したとかで、無色透明というのが目標だったようです。それまでは輸入品の個性の強いカートリッジに慣れていた人たちは「蒸留水のようで詰まらない音」という評価を下したようですが、その後人気が出て、現在でも愛好者が絶えないようです。

★東芝(オーレックス)C−100P
 光電型ですが、針先の動きで光源と受光フォトダイオード間のシャッターを動かし、信号を取り出す方式です。
 この方式とコンデンサー型、セラミック型は振幅の大きさで出力が出てくる「振幅型」ですから、イコライザーはMM型、MC型の速度型とは違っていて、特別の等化特性のものを使用します。このC−100Pも電源兼イコライザーアンプがペアになっていました。
 この光電型の音色の特長は分解能がよいことと、低音の本当らしさにあり、リボン型が出るまではこれをリファレンスに使用していました。
 低音の本当らしさというのは、38センチ/2トラックのテープと比較してみるとよく分かります。

★ナガオカ(ジュエルトーン)JT−RV
 「リボン型」と称した最初にして最後の製品です。リボンというのは、分類するとMC型と同じ動電型ですが、リボンマイクのように可動部分は1ターンのコイルということになります。音色の特長は抜群の分解能と、どういう訳か他のMC型と違って、低音が本物の感じを出してくるのです。
 このカートリッジの問題点は、出力が40μVと、一般のMC型の250μVに比べて格段に低いことで、超低ノイズのヘッドアンプを自作しない限り十分な性能を発揮できないことでしたが、入力換算雑音レベルで−155dBV程度のヘッドアンプを使うと見事な音色を示しました。このカートリッジはデンオンのDL−1000などとともに現在もLP再生時のリファレンスになっています。
 このリボン型を通じて感じたことは、MMにしろMCにしろ、発電機構部分のインダクタンスが小さいほど分解能が向上するらしいということでした。

 その他印象に残っているカートリッジは

★テクニクス305MC
 振動系を軽量化して高域を伸ばすという方向の先端を切ったモデルで、非常に端正な音の形を提示してくれたMC型カートリッジです。本当の意味での高忠実度タイプで、言うなれば優等生でした。このカートリッジもリファレンスとしてよく使用しました。

★ダイナベクター社
 独特の設計理論で造られたMCカートリッジ群で、切れ味の見事な、いかにも近代的な音形を示すカートリッジでした。ルビーを使った、「針、カンチレバー一体削りだしタイプ」を最初に出したのもこのメーカーです。

★オルトホン社
 良かれ悪しかれ、日本のオーディオ界をリードしたカートリッジの巨人です。今後もLPが存在している限り、まさに永遠でしょう。
        

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