「当たるも八卦」は外野席では結構おもしろい。専門家ともなれば、その業界の先行きについてある程度の「予測」が出来なければならない、というのが小生の持論である。
CDが出始めたとき、あるメーカーのセミナーの席で「5年でLPの発売枚数(年間)を超える」と卦を立てたことがある。幸いこれは4年半で実現したのでまずは当たった方である。
もう一つはDCCとMDが出されたとき、MDは受入れられそうだがDCCは難しいとMJ誌のコラム欄に、きちんと理由もつけて書いたことがあるが、これもその通りになった。オーディオフェアにおいて各社は一斉にDCCの製品を展示したが、翌年にはきれいに全社撤退した。そして現在はMDの一人勝で、ホームオーディオのシステムには
カセットに代わってMDが標準装備されるようになった。
と書くと自慢話になって顰蹙を買いそうだが、外れもあることは勿論である。
一番ひどかったのはラジカセの普及で、出現したときは「なんといじましい発想かな」と感じたものであるが、現在の普及を見ては、不明を恥じるばかりである。
さてDVD(デジタル・ビデオ・ディスク)である。製品自体はビデオテープのディスク版であるが、条件が整えばMDと同じように普及する。条件とは次のものである。
▲ 現在のビデオデッキと大差ない価格で記録と再生のできるデッキが発売されること。
▲ ブランクディスクがブランクテープに近い価格で供給されること。
▲ ある程度の数のソフトが出ること。
このように考えるとDVDが普及するかどうか、甚だ疑問である。実現するだろうか。
「知足(足るを知る)」という言葉があるが、現在の消費者はテープのビデオでほぼ満足している。そこに新規の商品を売込むにはそれなりのメリットがなければならないが、録音、録画の機器で、消費者にとって何が有難いかと考えると次の点である。
▼ ランダムアクセスの速さ。
これが一番である。MDの勝利はここによる。
▼ ストックスペースの高効率化。
ビデオテープの増殖は難儀なものである。
▼ 長時間記録。
これは長い方が断然有難い。
このように条件を並べてみるとMDと同様に普及しそうであるが、問題は録画の機能が付いたときの価格がどうなるかで、現時点では見通しは明るくない。
さて、ここまで、画質の向上には触れていない。良くなれば有難いが、それで売れるかどうかは別である。DCCの見込み違いはここであった。カセットテープに高忠実度を求めるのは一部のオーディオフアンだけで、その数は世の中の大勢には影響しない。大衆は従来のアナログカセットで「知足」していたのである。
DVDによる記録容量の増加によって浮上しそうなのが「高規格CD」の出現である。現在のCDの規格(16ビット/44kHz)に「不満あり、新規格を」という声があるが、CDの世界単独では「高規格CD」の出現はありえない。一握りのマニアを除けば現在のCDで十分音楽しているのだから、ここは「知足」である。
ここ50年で、オーディオの世界で行なわれた主な改革は次にようなものである。
● SPレコードからLPレコードへ。
ここでは長時間録音と音質改善が圧倒的に支持された。
● モノラルからステレオへ。
立体音響再生への移行であるが、ここでは立体的に音場を再現するという技術が抵抗なく受け入れられた。ただし、その後の4チャンネルステレオは、効果が今一訴求力に欠けていたこと、方式の乱立とメーカー主導の情勢に反発があって挫折した。
● LPからCDへ。
LPの取扱いの煩わしさを避けて、CDが容易に受け入れられた。小型化と74分の長時間録音、選曲の自在さ、音質の向上など、プレーヤーの新規購入を促すに十分なメリットがあった。
このように眺めてくると「高規格CD(DVDを含めて)」の出現がどれだけの支持を得られるか、想像がつく。以下はその理由である。
@ 現行CDの「74分」というのはベートーベンの第九がそっくり入るように決められたものであるが、この74分を一杯に使用しているCDは多くはない。録音時間はもう十分という域に達している。また、もっと長くすると、著作権に絡んでCDの単価が上がる。
A 仮に「20ビット/96kHz」に規格を上げたとして、どれだけの音質向上につながるかとなると、とても、感激するほどのものにはならない。勿論、高度のオーディオマニアならば購入を決心すると思われるが、この程度の差は一般の消費者に決心をせまる程のものではない。現在のCDユーザーがプレーヤーを買い替えるほど音質に不満を持っているとは考えにくい。
B 「高規格CD」のソフトが続々と発売されることも予想しにくい。理由はプレーヤーが普及した時点でなけれはソフト側は動かないし、ソフトがなければ当然ハードも売れない。それを突破るだけのメリットが見当らない。
このように眺めてくると、スタジオでの録音規格は別として、新規格のCDを出してもDCCの二の舞になるだけ、ということははっきりしている。
ただし、DVDが普及期に入って低価格化したならば、それに合わせて、ソフト側が動き出す可能性はある。
現在の日本のオーディオフアン数は約6万人。普及にはずみがつくという世帯数は約170万であるが、高規格のCDが出現する可能性が見えてくるのは早くて2010年以降であろう。
|