辛口オーディオコラム

column  15   「ジグザグ・ヒアリング」
 かってLPの時代に、レコード評論家の世界に「3点着陸」なる言葉があると聞いたことがある。
 3点着陸とは、飛行機が、2個の主輪と尾輪を同時に着地させることで、プロペラ機時代には最高の操縦技術とされた着陸であるが、レコードの場合は「始め」と「中」と「終わり」の3箇所にカートリッジを着陸させて演奏評を書くという省エネ試聴を指す。それでも「眼光紙背に撤す」という能力があれば書けるのだろう。   

● ある時に実施したフイルム・コンデンサー5種のヒアリングテストは、なかなかに面白い実験だった。ベテランのオーディオ研究家、音楽家の、都合3人に、「完全ブラインドテスト」を自宅でじっくりと実施して貰ったのであるが、人によって僅かな差はあるものの、コンデンサーは素材によって音質に差があることが、かなりはっきりと、確実に言えることが分かった。 
 ここで、「はっきり言える」と書けるのは、テストが完全にブラインドで実施でき、先入観の入る余地を全く無くすることが出来たからである。
 このブラインドテストの方法は、ロータリースイッチに5種のコンデンサーを取り付け、1カ所はコンデンサーの代わりに短い銅線を入れておく。それを密封ケースに入れて留めビスには封印をし、コンデンサーは1から5までの番号で表示する。銅線の所が番号0で、そこを原音として比較する。実施担当者は1人のテスターが試聴を終わると装置を回収し、封印を確認し、コンデンサーの順番も変更して次のテスターに届ける。
 たった5機種のコンデンサーを試聴するのにも、本気でやろうとすると、このくらいの手間をかける。 

● 昔、秋葉原のNEC−BSVAシアターでパワーアンプの鳴きあわせを実施したとき、次のような実験を行なってみたことがある。
 ◆ 1回目の試聴・・・アンプ名その他を一切伏せて、アンプの背番   号だけで試聴。好感度で採点して、用紙はすぐに回収する。
 ◆ 2回目の試聴・・・各アンプは型名、メーカー名、そのアンプの    特長、価格等を紹介したのちに試聴、採点。
 この結果、2回目の各アンプの得点は、きれいに価格順にならび、1回目とは相当な食違いがあった。
 このことは、当然のことながら、先入観によって「聴こえ方」が違ってくることを示している。     
 試聴者は各アンプと利害関係がないと思われる人たちばかりの20人程の集団なので、この価格順の得点は、その瞬間には本当にそのように「聴こえた」と考えざるを得ない。        

● 問題は、パーツのヒアリングでも我々は、ついこのような先入観支配の試聴を行なっているのではなかろうかという心配である。
 小生は「テストはブラインドで」と機会ある毎に呼ばわっているが、技術誌であってもなかなかお目にかかれない。いささかの残念さを込めてその理由を詮索してみようか。
@ テストの準備、実施が面倒である。
A 自分の耳は不偏不党だと本人は信じている。
B ブラインドで実施して、もし判定を間違えると自信を失うし、恥ずかしい。
ということだろう。

 小生が何故ブラインドテストに拘るかというと、プロの書いたものであれ、アマチュアの記事であれ、活字になった時はそれなりの影響力を持つからで、それを読んだ人がそのコンポなりパーツを買うかも知れないことを考えると、テストする人にはそれなりの責任があると考えるからである。
       
● オーディオの方でも3点着陸まがいの省エネ型試聴があると聞いたときにはびっくりした。
 例えば、右チャンネルにAという銘柄のコンデンサを入れ、左側にB銘柄のコンデンサを入れて、ステレオ信号を流しっ放しにして、そのまま左右を切り替えて音の差を聴き比べるというテストらしい。抵抗でも真空管でも通用する話しなので、ひょっとして本当かもしれない。 
 しかし、これはさすがに乱暴な話でひど過ぎる。
 一般には、モノラルの音を入れても左右の音が同じだというシステムは極めて稀なのである。同じ型名のスピーカだとは言っても、部屋の左右の壁の音響条件が全く同じとはなかなかいかない。当然反射の違いから定位は勿論、音色まで変わるのが普通である。
 ましてやステレオならば左右の音片も違うし、左から右に切替た途端に全く別の音が出てくるかも知れない。それでも音質の違いが分かるということになると
@ 故障と言ってもよいほどの音の差があるとき。
A 先入観があって、結論が既に決まっているとき。
B 超能力を持っているとき。
ででもなければ、このようなステレオ信号による右、左、右、左というジグザグ・ヒアリングでは、音の差の判定は極めて困難であろう。
 多少手数でも、試聴は丁寧にやろうではありませんか。セットメーカーにしろパーツメーカーにしろ、みんな苦労してそれらを造っているんですから。

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