
| column 39 「タイムアライメント調整」 3/1 |
| 先日、投稿室に「時間軸特性」の質問が載り、それに対する丁寧な回答も載って質問者も納得されたようであるが、時間方向の特性というと一番先にくるのが群遅延特性(正確には群遅延時間周波数特性)である。 すなわち、周波数によって遅れてやってくる部分があると音波の波形が正しい姿にならないから(注)、各ユニットの周波数範囲においても、ウーハーに対するスコーカー、スコーカーに対するツイーターにおいても時間ズレを無くすること、フイルターによる位相ズレもなるべく無くしようというのが、日本では20年ほど前に盛んにスピーカーメーカーで研究された技術(タイムアライメント調整)である。 その成果を組み込んで、テクニクスは丁度今日のB&Wのような積重ね型のスピーカー群を発表した。すなわち、群遅延特性がなるべくフラットになるように、各ユニットの位置関係を決め、ネットワークも含めてそれを製品化した(SB−7000他)。これらのスピーカーはエンクロージャーの分類では「タイムアライメント調整型」という。 ところがその後、日本では積重ね型は次第に姿を消し、タイムアライメント調整は忘れられたかの感があるが、勿論、これはこれで重要な技術であり、続けて改良を進めることが技術の進歩というものである。その頃、外国製ではKEF(105型)がそのスタイルをとった。 さてここで一転して、実際のリスナー席ではどんな音を聞いているかを考えてみる。 以下、典型的なリスニングルームを例にとって、リスナーが聴く音を想定してみよう。 ◆ 広さ: 12畳 3.6m×5.4m×2.6m ◆ 残響時間: 0.25秒(かなりデッド、すなわち直接音の割合の大きい部屋) ◆スピーカーの指向係数: 2(周波数にかかわらず) ◆ スピーカー/リスナー席間の距離: 3メートル この諸元を入れて、リスナー席では何パーセントの直接音と何パーセントの間接音(反射音)を耳が受け取るかを計算してみる。途中の演算は省略して結果を示すと、 直接音:15.6 % 間接音:84.4 % で、実は耳に入る音波のエネルギーは殆どが間接音であることが分かる。直接音が多くなるデッドな部屋を想定してもこの程度なのである。 耳に入ってくる音波のうち、84.4%を占める間接音、すなわち1回以上反射をして遅れてやってきた反射音は、方向も位相も時間遅れも全くランダムなものであることは容易に想像出来よう。 そうすると、仮に直接音が良好な波形を再生していたとしても、優勢な間接音の中に埋もれて、あまり有効ではなさそうである。 上記の条件は決して特殊なものではなく、ごく普通のリスニングルームでの状態である。 とすると、群遅延特性に注目して頑張ったとしても、その成果をどのように評価するかは議論の分かれる処であろう。 それやこれやで、小生は実のところいい加減なユニット配置で聴いている。現時点で問題にしなければならない点はもっと他にあるというのが怠けている弁解の辞である。 ただし、スピーカーの本には必ず群遅延特性の大切なことが書いてあり、決して軽視してはいけない。それは理想的スピーカーの具備すべき性能の一つであり、コストと評価のバランスがとれれば広く取り入れられるべき技術である。 同一ユニット内ではバスレフのエフゼロあたりが10ミリ秒程度と最も遅れが大きいが、密閉型はその1/4程度である。密閉型の利点は、エフゼロ以下のローエンドの遮断特性が緩やかということの他にこのこともあるのかも知れない。 注 「波形の合成」 方形波は基本波と多くの高調波成分に分解することができる。逆にその高調波成分を寄せ集めて方形波を再現することができるが、基本波に対する各高調波の位相を正確に保たなければ、成分は同じでも正しい方形波にならない。スコーカー、ツイーターのボイスコイルの位置が前後することは高調波成分の位相が変わることで、方形波の再現は困難になる。このことは音楽の波形についても同じである。 |