辛口オーディオコラム

column 52   「再生音の判断力」   9/15
 再生されている音を判断する能力をどのようにして習得するか、という話である。ただ、このことは以前にも書いたので重複する部分については御寛容戴きたい。
1. 楽器の演奏音を出来るだけ多く聴く。
 ここで言う楽器はアコースチックのものを指す。また、当然ながらSR、PAなどの拡声されたものではないこと。
 この演奏音をひたすら機会を捉えて聴き、身体にしみ込むようにする。こうすると、自然界の音の佇まいみたいなものが会得できるようになる。注意としては多くのレコードは分解能を上げるために近距離で録音するから、なるべく近接して聴くこと。これが大きくものを言う。
 この自然界の音の一つに「人間の声」がある。これほど聴く機会の多い音はない。したがつて、不自然さがあると、たとえ知らない人の声でも異常を検知できる。
2. 良い再生音を出来るだけ多く聴く。
 次はなるべく良質の再生音を聴く機会を持つようにする。一番良いのは完璧な再生音を多く聴くことであるが、一般の人には無理な注文で、特に地方在住の人には困難であろう。その場合は次善の手段として、その地方の評判の高いオーディオフアンにお願いして聴かせていただく。
 この、良い再生音を数多く聴くことを繰り返すと、次第に再生音の限界みたいなものが掴めるようになる。その場合、必ず聴き慣れたレコードを使用することが大切である。それらの音は互いに驚くほどに異なっているに違いないし、自分の装置とも異なっているに違いない。
 この訓練を繰り返すと、音の評価はどんな点に注目すると判断しやすいかが分かるようになる。小生の注目点は次のようなものである。
@ 音のバランス
 これは強すぎたり、弱すぎたりする部分がないか、というもので、別な言い方をすると「不自然な感じ」があっては困ると言うことである。  この判断に際して活きてくるのが「自然界の音(楽器の音、人間の声も含めて)」の、耳に対する馴染み具合である。バイオリンがブリキ製に感じられたとしたら、再生装置(時には録音)の責任である。この項が最優先にあげられる。
A 音域の広さ
 オーディオ装置は一応20Hz〜20kHzを周波数レンジの目標としている。最近はDVD、SACDなどが高域を広げてきた。それはそれで有り難いことであるが、問題は低音側を何処までフラットに近く出せるかである。−10dBの範囲で、30Hzならばまずまず、25Hzならば大喜びしても良い位に低音の再生は難しい。この低音の限界がそのシステムの「格」を決定づける一番のポイントである。もちろんリスナー席での特性の話であるから、リスニングルームの状態も問われる。
B 分解能
 分解能という言葉はカメラの性能を表す用語である。2本の線をどれだけ近づけても分解して写せるかという性能で、再生音では楽器の数、コーラスの人数が聴き分けられるような性能を指す。この性能はまた、透明感という表現とも関連する。
C 音の鮮度
 魚や野菜と同じように音にも「鮮度」がある。マスターテープをコピーし、それを更にコピーすることを何度も繰り返すと、見る見る鮮度が低下するのが分かる。通過するアンプの数、ケーブルの品質でも同様の鮮度低下が生ずるが、その鮮度の保持がどれだけ良く行われているかである。鮮度の良い音は「活き活きした音」という印象につながる。
D 迫真力
 これは「プレゼンス」と言うこともある、いかにも録音現場の雰囲気をうまく再現している、という性能である。大太鼓の迫力のこともあり囁き声のこともある。「鮮度」とも密接な関連がある。

 以上のポイントに注意して音を聴くことを重ねると判断力が身に付いてくる。よく、雑誌の記事を読んで「このスピーカーとアンプなら、絶対に良い音が出ている筈である」というのが一番困った姿勢で、音は自分の耳で直接聴いて判断しなればいけない。

 さて、もう一つ「音像の定位」という項目にも触れなければいけないのであるが、小生はあまり重視しない。せいぜい前方を5分割して、その何処に定位しているか、程度で満足している。マルチウエイのスピーカーユニットがひどく離れてさえいなければ、問題になることはないからである。これは個人の癖みたいなもので、他の人がシングルスピーカーシステムは定位が良いと自慢しても、とやかく言う気はない。

 このような判断力の養成に最適なのが「生録」である。すなわち、ギターなりピアノなりを自分で録音し、再生してみることである。
 録音エンジニアがオーディオ界で最も音の判断力に優れているという評判をとるのは、生の音と再生音の比較を、仕事として毎日繰り返すことによって身に付けた能力による。
 楽器がない場合は「銅鑼(ドラ)」がよい。大型のものは低音も含まれていて恰好の音源となる。