辛口オーディオコラム

column 72 「ホールの響き」  7/15
 サントリーホールが完成してから、日本の音楽ホールは大きく変身したと言って良い。それまでは響きが少なく、空間が豊かに音で満たされて、朗々と鳴り響くという印象はなかった。
 その時代の影響を引き継いだユニークなホールとして「中野サンプラザ」がある。JR中野駅の直ぐ近くに立つ、背面全部が傾斜しているという異形のビルは中央線の窓からよく見えるので、東京の人は一度は目にされたことと思う。

 そのサンプラザがユニークと言ったのは、ホールの電気音響システムが時代と共に進歩してきた結果、ホールの音響をすべて電気システムでコントロールすれば、完全な自由度が確保できる、と考えたことである。
 その場合、ホール自体に響きがあってはそれが出来ないので、17,000立方メートルの容積に対して、残響時間0.4秒というデッドさに仕上げた。その場合の平均吸音率は55%に達したという。(通常の吸音率は20%〜30%)
 このようなホールを造った目的はポピュラー音楽の専用ホールを意図したためで、当時話題になったものである。

 ところが、その後、ポピュラー音楽の演奏会は、武道館やドームのような超大型コンサートか、ライブ演奏の小型空間に二極分化し、中間のコンサートホールは使用されなくなった。そして、一旦デッドに仕上げたホールはクラシックには向かないので、ホールの利用率が大幅に低下しているという。

 建物の響き具合は、その場に相応しい「程度」というものがあり、それを外れると、途端に違和感を感ずる。リスニングルームにもそれがあり、その基本は「実物の楽器を演奏したなら、丁度良い響き具合か」と考えてみるとわかりやすい。
 日本人は和室の生活が長いために「デッド指向」が強いと言われるが、西洋の楽器を演奏するのであれば、それに合わせた響きが求められるのではなかろうか。

 ホールもリスニングルームも、「楽器の楽しさ」を活かす方向で考えなければいけない。どうやら「中野サンプラザ」はある時代の一つの実験だった如くである。

(この記事は永田穂氏発行の「静けさ、良い音、良い響き」を参考にしました)

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