□sampling・loop



システム7、スティーヴン・ブラウンのディスクガイドはページ下にあります。


サンプリングとループによって、曲ごとに均質で特定の雰囲気を与
えるという手法は、アンビエントの主要なアプローチとしてすでに
定着したように思う。イーノの『オン・ランド』で聴かれる各曲そ
れぞれに多彩な色や空気を決定付けているのは、演奏時間は短いな
がらも強い印象を残す、それぞれに据えられた音素材によってだっ
たように。

ループとは繰り返しであり、ミニマリズムと近い関係にあることは
言うまでもない。繰り返されることに含まれる意味、そこには二つ
のアプローチがあるように思われるが、両者を比較してみるなら、
ミニマリズム一般での繰り返しとの本質的違いは、初期のスティー
ヴ・ライヒ
のようにフレーズを徐々に変化させるそのプロセスその
ものを音楽とするものではないこと、またフィリップ・グラスのよ
うに長大な繰り返しによって時間感覚を異化させる(「1時間だっ
たの?10分だと思った」 *)のでもなく、サンプリング素材のルー
プに依っているアンビエント作品は、基本的には、これを単純に背
景音(時に前面にも)として並べていく。ループは、特徴的な選ば
れた素材によってまさに特定の「場」つまり「アンビエンス」を作
りだし、響きの統一の上にさらに何らかの表現をするための、言わ
ば着色あるいは地紋入りのキャンバスの働きを担っている。

*フィリップ・グラス「知覚を変える」(インタビュー)
『Ur』No.2 特集・ポストモダン・ミュージック(ペヨトル工房,1990)より。
引用部分の前には「えぇ!ほんとに10分間だったの?1時間かと思ったよ」とも。

サンプリングは生演奏以上の微細な加工(つまり伝統的な意味での
訓練を要する「演奏」)が容易であるだけに、だからこそ「単純な
シーケンサ任せの素材の並置はミュージシャンの怠慢」と片付ける
のは早計のように思われてくると、あえて言いたい。音楽的意図と
結果が、そこに投じた作業量と技術に単に比例するものではなく、
まして聴き手が一度聞き流すだけで安直にそれを「安易な音楽」と
決めてかかる証拠は、見つかるとは限らない。アンビエント音楽の
視点から考えてみるなら、たとえ全く同じ繰り返しであるだけの響
きの運動が音楽と聴き手に与える効果を、「アンビエンスの生成」
という点において、認めることはできるだろう。

地紋(アンビエンス)か、模様の変化自体の音楽(ミニマル)か。
これらがサンプリングとループという共通の手法による音楽の二つ
の方向ではないだろうか。

追記:その一方で、微細・入念に計算されたサンプリングとその変容するプロ
セスの可能性を追及しているミュージシャンに例えばカール・ストーンがいる。
彼の作品では響きの推移するプロセス自体が音楽の核であり、結果としては柔
らかなアンビエント的感触を持ちながらもミニマル・ミュージックの一形態に
近い位置にある。これらはスティーヴ・ライヒのある種の作品にも通じる、変
化のプロセスから発生する副産物的アンビエント、とも呼びたい音楽であり、
ひとつの属性にこだわることをつまらなくさせてくれる。



ディスクガイド



System 7
"777"
(Big Life,1993)BF LCD 1



日本語ヴォイス・サンプリングが私たちにとっては単なる繰り返しではない、
具象的「意味」を持つことは避けられない。これは日本語を理解する聴き手に
とっての複雑なケースではあり、他の言語のサンプリングを含むトラックをそ
のように理解できる聴き手にも同じことが起こる。こうして多国籍な歌と楽器
と言葉がトラックごとに色を付けていくものの、もはやかつての「ワールド・
ミュージック」的郷土趣味はどこにもない。響きの質感を決定する素材にとど
まる「世界のうた」である。(Track 2 "A cool dry place")

ギターのゆるやかなフレーズがいくぶん不定形なリフレインとなって背後のルー
プと同調する。エッジを効かせる垂直のコード楽器とは異質な扱いによる、水
平に流れ、寄せては返すギターをフィーチュアしたこのトラックこそがもっと
も生身の「演奏」を感じさせながらも、このディスクのアンビエント指向が実
はここで極められているようだ。ギタリストとしてのスティーヴ・ヒレッジは
アンビエントをこんな風に響かせる。(Track7 "Faydeaudeau")

リリースから時間が経過しているが、すでに完成されたアンビエントの姿を聴
くためのディスクとして記憶したい。



Benjamin Lew/Steven Brown
"Douzieme Journee : Le Verbe, La Parure, L'amour"
Made to Measure Vol.15
(Made to Measure,1982)MTM 15 CD



ループへ管楽器主体のライヴ演奏を融合させることと、ループそれ自体の持つ
旋律性(サンプリングというより「引用」と呼びたくなる)とによってかなり
メロディックに聞こえながら、あくまで音楽は「場」を発生させ、空間をまず
意識させる。素材の配置は明瞭で室内楽的とさえ言えるトラックを含みながら
も、展開を抑えたフレーズの繰り返しはミニマルとアンビエントの中間あたり
にとどまりそうな音楽を形作る。


Jan112001 shige@S.A.S.
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