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アンビエント、その一般的解説






「アンビエントとは何か」について、これまで多くの言葉が費やされてきまし
た。その過程で概ね合意に達した一般的イメージというものがあるように思え
ます(あくまで「おおむね」であり、異論は当然ありますが)。ここでは主に
それについて解説を挟みながらご紹介します。



「アンビエント」のもともとの意味

形容詞アンビエント'ambient'は「周囲の」「取り囲んだ」
名詞アンビエンス'ambience'は、周囲、環境。

「人を取り囲む音楽である」という意味と、ある音楽が囲んでいる
「環境、空間」それ自体のふたつにポイントが置かれていると意識
しておくと分かりやすい。


アンビエントの響き

例えばこういう音楽をアンビエントと呼ぶだろう。

・ふわっと空間を包み込むような
・音楽それ自体に明確な旋律も主張もないように聞こえる
・ヴォーカル抜きの
 (歌詞が出てくると音楽の存在感が強くなるから)
・静的で変化の少ない、
 ある一定時間以上の長さにおよぶ均質な響き

などの特徴を持った
インストゥルメンタル音楽、あるいはそんなテクノを。


「環境音楽」と「アンビエント」

アンビエントの訳語として「環境音楽」という言葉が充てられるこ
とが多いのは、次のような「環境」にかかわる言葉の意味によると
考えられる。

(取り囲む)環境:ambience、surroundings*
      環境:environment

* 「囲む」の動詞'surround'からの派生語であることが、アンビエントについて
考えるにあたって、示唆的である。

『リーダーズ英和辞典』(研究社、1984)によると、
'environment'が「取り囲む」の意味を持つことは<まれ>である。


つまり、上記のように'ambience'という言葉自体に「環境」の意味
が含まれることと同時に、「(人を)とりまく環境」のニュアンス
も強く、「空間を包み込む音楽(アンビエント)」を指すことに、
'ambience'、'ambient'は一定の有効性を持っている言葉だと言え
そうだ。

人をとりまく音楽をアンビエント的と呼んだりするのは、つまりこ
れは、鑑賞の対象としての音楽であるというよりも、環境が先行す
る音楽である、ということ。そこにすでにある空間のために一歩下
がった控えめな音響がアンビエントであるという意味。
さらに、能動的に空間そのものを響きによってデザインする響きが
アンビエントである、というのは、もともとこの言葉が空間を指す
ものであることからも一応の説明になっているのではないだろうか。


自然環境音と「アンビエント」

「アンビエント=環境音楽」という印象のもうひとつの大きな要因
は、自然環境音を収録した効果音CDの存在だろう。ここではむし
ろ一般的な「環境」の意味、つまり英語で言えば 'environment'で
あるということになる。しかし、アンビエント・ミュージックとい
う言葉通り、自然環境音CDはそれ自体、そこに何らかの加工を施
さなければそれは音楽作品ではない**ので、やはり両者は区別する
ほうが妥当である。
なお、自然/人工環境音を素材に用いた音楽という両者の中間に位
置する作品も多く、これについてはこのサイトでもアンビエントの
カテゴリの一つにしている。

**
「自然の音こそ最高の音楽」といった情緒的・美的側面については主題から逸
れるのでここでは扱わない。もちろん筆者はこれを否定しない。



聞き流す音楽?

柔らかな感触を持つアンビエントが多いことからも、この種の音楽
によって囲まれた空間でゆったりと、特に音楽に注意を向けずに過
ごすことはもちろんできる。しかしアンビエントにはもう一つの作
用、「耳を鋭くする機能」も持つ。

つまり、音楽自体が控えめであるということは、それをしっかり聴
こうとすることはとても能動的な状態であるし、静かな音楽である
だけに周囲の音も一緒に聴こうとすることにもなる。これは特定の
音だけを聞き分けることができる人間の耳の機能(騒がしい場所で
も特定の相手の話は聞き取れるという「カクテルパーティ効果」)
とは別の側面で、言い換えれば、アンビエントを契機に周囲の音環
境にまで聴覚の注意力が拡大される、ということ。慎重で繊細なリ
スニング活動をアンビエントを通じてすることで、自分のいる環境
が音に溢れていたことに気付くことがある。


アンビエントの定番ディスク。

入手が容易で、知名度の特に高い名盤3枚。

・Brian Eno(ブライアン・イーノ/ミュージック・フォー・エアポーツ)
・"Music for Airports"

「空港のための音楽」というアイディアが音になったもの。音楽自体の主張を
抑制することで、空港のさわがしさをマスキングするのではなく、むしろこの
空間独自の音の風景を強調しようとした音楽。なにも空港でなくてもいい。自
室でこの音を鳴らしてみても、音楽に向き合って聴いているのにさっぱり展開
しない均質な響きに飽きてきたら、リスナーは音楽自体というよりも、むしろ
部屋の周囲の音に注意がそれてしまうかもしれない。それがこのディスクのひ
とつの目的。ボリュウムを下げずに、かかってきた電話に答えるかもしれない。
それもよし、な音楽。

→このディスクの詳細についてはこちら
→ブライアン・イーノについてはこちら

・Aphex Twin (エイフェックス・ツイン)
・"Selected Ambient Works 85-92"
・"Selected Ambient Works Volume 2"

ハウス、そしてテクノの接頭語として「アンビエント」が付くようになったの
は、いつ頃からだったろうか。もう実は10年ほどのはずだ。明確なビートを
伴うアンビエントなんて、普通に考えたら音楽としての存在感が強すぎると思
う。しかしビートの持つ本質として、繰り返されるパルスは陶酔や、その単調
さゆえに音量とは無関係に無視される可能性も持っているのだった。いつしか
意識下へと忘れられることもあるビートだけに、実はアンビエントとの相性は
悪くない、の見本のような、すでに古典的ディスク。

→関連記事はこちらと、こちらにも。





このサイトで筆者がしていることについて

アンビエントの定義らしきものをここに示し、それらを「一般的に
は」と断わってきました。筆者自身はこれを否定し、新たなアンビ
エントの定義を提示するのではなく、なぜ一般的に、ある種の音楽
がアンビエントと呼ばれるのか、それらの音楽が持っている要素を
抽出し続けています。これは進行中の作業です。また、抽出した要
素が色濃く現れた音楽をディスクガイドで紹介する、というページ
も設けています。
つまりこのようにサイトの更新を続けながら、アンビエント的要素
をさまざまな音楽から採取し、複数のアンビエントの概念を並置す
ることで少しずつ本質(のいくつか)へ近づこうとしているという
ことになります。

強い限定性を持つ定義を与えることが、多くの「それ的」作品、つ
まりアンビエントとしての何らかのポテンシャルや特質を持つ音楽
を犠牲にするだろうと考えています。もしお読みになる方が筆者と
同じテーマを探っていらっしゃって、筆者の考えるいくつかのアン
ビエントをめぐるキーワードの、その並列性(節操のなさ)自体か
ら何らかのヒントを得ていただけるなら、これがいちばん望んでい
ることでもあります。






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