広義のドローンとオスティナート






中断のない持続音ではなくとも、ある環境において聴かれる特徴的な音の繰り
返し。沈黙は多いが、同質の音素材が繰り返されるアンビエントやミニマル・
ミュージック。そんな均質な響きを持つ空間は、音楽用語でいうならドローン
やオスティナート(繰り返される同一音。直訳は「固執音」)によって作られ
たものだ。この、ドローンとオスティナートというものの定義を拡大したり、
または両者の中間にある響きの質を考えてみることによって「アンビエント的
感触」を説明できないだろうか。



ドローンとはもともと持続音、特に低音のそれを指す言葉である。
アンビエントの持つ特質である「均質さ」をもたらす音素材として
このドローンが使われた例は数多い。

しかしここでは次のようにドローンの定義を拡大することで、アン
ビエント的音響の特質を捉えることにしたい。

・ドローンを「低音の」持続音には限定せず、
・完全な持続ではなく、間欠的・断続的で均質な響き
・同様の音素材の繰り返し

こうした間欠的なドローンはオスティナートという既存の用語へと
近づいていくことになる。つまり、沈黙を持っているが、同様の音
の繰り返しである。

例えば数十秒に車一台程度の交通量の道路沿いで一定の時間過ごし
た場合、それは沈黙のない完全な持続音ではないにしても、特定の
音の繰り返しつまりここで新たにこう呼ぶことにする間欠的ドロー
ンとなり、人の記憶に「音の帯」のような何かが残ることになるだ
ろう。通過する無数の車の音のように、赤信号や不思議なアルゴリ
ズム* による不規則な休止もあるが、記憶の中では連続音のように
定着する特定の「雰囲気」である。心理的ドローン、という言い方
も可能かもしれない。

* ある時一斉に誰もが話を止める瞬間のような、謎めいた交通量の
 揺らぎが存在する。あれは何なのだろう。


音楽ではどうだろう。ブライアン・イーノ『ミュージック・フォー・
エアポーツ』。彼のアンビエントのように、それぞれの素材が間欠
的で沈黙の多いものであっても、その組み合わせにより沈黙が埋め
られる場合は、総体としての、複数の音素材による相補的ドローン
と呼べるのではないか。ここにも響きの全体像を均質なものとして
捉える心理が働く。

「響きの全体像」。この言葉は、つまりは「雰囲気」という少しも
新しくない言葉で言い換えていいものではあるが、アンビエントの
特質としての一定時間持続する空気感というものは、やはりこの拡
大されたドローンという概念やオスティナートに源泉を求めること
ができる場合が多い。当り前なことではあるが、アンビエントの構
成要素として確認しておきたい事柄ではある。
これらは、アンビエンスを統一する有効な手段である、と。


▼note:
このドローンを例えば「記憶で補強される間欠的ドローン」
(off-and-on drones reinforced by memory) とか、
矛盾した言い方ではあるが「断続的連続体」
(interrupted continuum) などという言葉を思いついているが、
音楽心理学などではすでに定義済みのものかもしれない。調査中。

▼ドローンによるアンビエントの参考ディスク
Stephen Scott "Minerva's Web"
Wieland Samolak "steady state music"
▼オスティナートによるアンビエントの参考ディスク
Harold Budd and Brian Eno "the Pearl"






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