田村高広さん主演の映画「イタズ」の撮影中だった。 雪の中の撮影は寒さもさることながら、雪道には充分注意が必要だ。 工事用の車両で、ユンボというのがある。荷台に大きなクレーンが付いていて、 重い物を引き上げられるようになっている。 山の上から大型扇風機を運ぶため、そのユンボはクレーンで荷台に積む作業をしていた。 一本道の両側は切り立ったがけになっていて、作業は慎重に行われていた。 扇風機といっても、直径は人の身長ほどもある大きなもので、重量も相当なものである。 扇風機はクレーンに取り付けられ、ゆっくりと引き上げられた。 そのまま荷台に下ろされ、作業は完了する・・・・はずだった。 そのとき、ギュッ、ズズ・・という鈍い音がした。雪の地面にユンボが沈む音だった。 扇風機は谷側で吊り上げられ、ユンボはその重さで谷側の地盤が沈み、バランスをくずしたのだ。 スローモーションのようにゆっくりと横倒しになっていくユンボを、 スタッフ達はどうする事もできずに見ているしかなかった。 作業員はあろうことか谷側にいて逃げ切れず、ユンボの下じきになった。 扇風機はクレーンからはずれ、谷の下までもんどりうって転がって行った。 大事故か・・。 騒然とした中、ユンボの下で何かが動いた。 !!?? 作業員が自力でユンボと地面の間から這い出してきたのである。 「だ、大丈夫ですか!?」 横倒しのユンボの下じきになったのだが、地面が雪だったために自分のからだもうまり、 ショックがやわらげられたのだった。 幸い作業員はかすり傷程度で済んだ。 雪のために起こった事故だったが、一方で雪のために助かったのである。 |