平成歌舞伎評判記
1997年2月

二月大歌舞伎(歌舞伎座)
昼の部
江戸の夕映
 本田小六 ・・・八十助
 芸者おりき・・・時蔵
 堂前大吉 ・・・左團次
 許嫁お登勢・・・芝雀
 吉田逸平太・・・團蔵
 松平掃部 ・・・三津五郎
 米つき男 ・・・亀蔵

勧進帳
 武蔵坊弁慶・・・團十郎
 源義経  ・・・菊五郎
 富樫左衛門・・・富十郎
 亀井六郎 ・・・辰之助
 片岡八郎 ・・・菊之助
 駿河次郎 ・・・新之助
 常陸坊海尊・・・左團次

十六夜清心
 極楽寺清心・・・孝夫
 扇屋十六夜・・・玉三郎
 俳諧師白蓮・・・富十郎
 寺小姓求女・・・孝太郎
夜の部
山科閑居
 加古川本蔵・・・羽左衛門
 妻戸無瀬 ・・・菊五郎
 娘小浪  ・・・菊之助
 大星由良之助・・孝夫
 妻お石  ・・・玉三郎
 大星力弥 ・・・八十助

保名
 安倍保名・・・菊五郎

藤娘
 藤の精 ・・・菊之助

雪暮夜入谷畦道
 片岡直次郎・・・團十郎
 暗闇の丑松・・・左團次
 按摩才賀 ・・・権十郎
 三千歳  ・・・雀右衛門


熊さん  テケテンテケテン、ご隠居、やっぱり菊ちゃんはいいねぇ。

ご隠居  なんだい、お前さん、近頃落語に宗旨がえしたのかい。

熊さん  えっ???

ご隠居  きくちゃんと言やぁ、林家木久蔵師匠に決まってるだろう。

熊さん  やだね、ご隠居。俺が菊ちゃんに会ったからって、まだ僻んでんのかい。菊ちゃんと言やぁ、菊之助、尾上菊之助に決まってんだろう。

ご隠居  ハヽヽ、からかって悪かったねぇ。七世尾上梅幸3回忌追善公演、二月の歌舞伎座。『保名』が終わって、館内が真っ暗闇になり、セットが変えられ突然明転した時のどよめきに近い、声が上がったが、まあ半分はセットの美しさだったのだろうが、菊之助さんを待ち望む、観客の声でもあったのだろうな・・・。

熊さん  巨大な藤の木に美しい藤の精。いやぁ良かった良かった。

ご隠居  ちょっと気になったのは、菊之助さんの眉の書き方。『へ』の字になっていたが、折角の美貌がちょっとおかしな具合に見えた。もう少し工夫があっても良かったんじゃないかな。

若旦那  にっこり笑って人を斬る。デェヤァ〜〜〜。

熊さん  オイオイ若旦那、どうしちゃったんだい。ハタキぐるぐる振り回して。

若旦那  円月殺法、まるで満月のようにこの刀が回り終わると、ソナタの命はないぞ。デェヤァ〜〜〜。

熊さん  困ったねどうも。最近の陽気で、おかしくなっちゃんたんだよ。

若旦那  馬鹿を言うでない。眠狂四郎じゃ。『江戸の夕映』の八十助さん、何だか似てなかったかい?

茶ぱつ  そうなのよ。本田小六が函館で敗れて江戸に戻った時の姿形、故市川雷蔵に生き写し。雷蔵さまが蘇ったのかと思ったよ。

ご隠居  新歌舞伎と言うのは、どうもしっくりこないものが多かったが、今回の『江戸の夕映』はなかなか良かった。特に、三津五郎さんの演技が光っていたな。時蔵さんも粋な芸者を好演していたし、物語にも破綻はなく、安心して見ていられた。

茶ぱつ  儲け役は亀蔵さん。誰かが、竹中直人の秀吉が出てきたのかと思った、と書いていたけど、裸同然の米つき男を演じて、一身に笑いを取っていた。

熊さん  しかし、今回の話題はなっと言っても、新三之助が四天王で揃った、『勧進帳』でしょう。

若旦那  團十郎の弁慶に富十郎の富樫、そして菊五郎の義経と併せて二五郎のぶつかり合い。團十郎さんは数えればこれで20回目の弁慶、と言うことで、さすがしっかり手の内に入れておりましたですな。

ご隠居  まあ、先代に比べれば、発声など迫力はいま一つではあるが、風格もあり主人を守ろうとする肚もよく表現できて、富十郎さんとの掛け合いも息がぴったりで、気持ち良く見ることが出来た。
茶ぱつ  今月は菊之助さんに加えて、玉三郎さんも出演。本当に美しさが堪能出来た舞台だったね。

若旦那  『十六夜清心』はいいとこ取りで、なんだかあっけなく終わってしまったけど、『山科閑居』のお石役はなかなかの迫力だったですな。

ご隠居  わたしは今回の最大の収穫は『山科閑居』だと思うよ。特に前半の菊五郎親子と玉三郎さんの掛け合いは、緊迫感に満ちており、それぞれぴったりの役柄で迫力満点。まさに息を詰めて見た、と言っても過言ではないな。

熊さん  後半のストーリーにちょっと無理があり、本蔵役もちょっと年を取り過ぎていて、あれじゃ塩谷判官を抱き止められねぇなぁ、と思ったが、3人の女の争いは最高だったね。

茶ぱつ  残るは『直侍』だけど、一昨年の暮れの舞台と比べて、脇が甘いのか、ピリッとしなかった。

熊さん  なんで、直次郎が蕎麦をツツッーとすする時、笑いが出るんだ。タクもう。最近の歌舞伎座の客は、どうかしてんじゃねえか。

若旦那  ホントにねぇ。『直侍』はあそこが一つのポイント。江戸の粋を感じる舞台でしょ。くちゃくちゃ噛みながら食べる目明かしの野暮との対比で見せる所で笑いがきちゃ、團十郎さんのやりにくかっただろうね。

ご隠居  蕎麦屋の親爺を演じた鶴蔵さんは私も好きな役者さんだけど、声に張りがなく、科白が聞こえにくかったのが、残念。三千歳役の雀左衛門さんは花魁姿を可憐に演じて、さすが。左團次さんはちょっと立派過ぎたけど、悪党の雰囲気を旨く出していた。

熊さん  ご隠居、最後に新橋演舞場の話もしましょうよ。補助席まで出て、爆笑につぐ爆笑。新派であれだけ客席が明るかったのは、初めてじゃねぇかね。

ご隠居  芸達者が揃って、伸び伸びと演じていた。脚本も演出もツボを心得た人が楽しんで作ったという印象。新派的なサイドストーリーがちょっと臭く感じ たが、なにしろお客を楽しませようという意識の役者さんが勢揃いして まあ面白くない訳がない。時代や浅草の空気や匂いがもっと感じられたら更に良くなっただろうね。
 3月は大阪・松竹座が開場し、ますます歌舞伎ファンには選択の幅が広がる。金も時間もかかるが、精一杯楽しみたいものじゃな。



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