江戸ぐるめ 瓦版

1998.6.30
27日には国立劇場小劇場で『近松座』の公演を観てきました。なんと260年振りに
復活させた近松の歌舞伎作品、『けいせい壬生大念仏』が注目でした。今月の『演劇界』
に脚本が全文公開されていたのですが、軽く斜め読みしかせずに出かけました。
全く親しみのない狂言なので、最初の内はやはり筋を追うのが精一杯。染五郎さんの
女に化けた演技が笑いを誘っていました。この序幕は鴈治郎さんは登場せず、ちょっと
期待外れ。一番の活躍は秀太郎さん。縄にすがって柱を登り、梁を伝って土蔵の中に
忍び込むという、アクロバチックな動きを見せてくれました。決して男であることが
分かられてはならず、なよなよしながらも舞台上の梁を渡るのは見応えがありました。
また、定法ですが、落ちそうになったり、真っ白な脛を露わにしたり、大活躍でした。
そして2幕目、紙子に身を包み、酒売りに身をやつした鴈治郎さん登場。すでに酔って
いて、婚約者の玄関前で独狂言を演じます。やはりこうした演技は当代一、柔らかさが
身体全体からにじみ出てきます。そして扇雀さんの姫と対面。この扇雀さんが、ぐっと
良くなっていました。まだ一瞬気の抜けた表情をする時もありましたが、お姫様らしさ
が強く出ていました。本舞台ではあまりお目にかかれない、市川青虎さんや中村扇之丞
さんの姿にも触れられ満足です。この2幕目でも秀太郎さんが殺されて井戸から幽霊に
なって出てくるなど大活躍。息子の愛之助さんも、爽やかな前髪役で今後の活躍が期待
される出来でした。
このお話は、全体の三分の一程度ということで、その後の展開が気になります。機会が
あれば続きを見せて欲しいものです。
『吉原雀』『傾城』・・・どうも舞踊に迷いが出たのはこの吉原雀を観たからかも
しれません。つまり振りを記憶できないのです。まあ、1回舞台を観ただけで覚えられる
訳もないのでしょうが、つい昨年の10月に玉三郎さん新之助くんコンビで観たばかり
なのに、その比較が出来ません。あの時とどこか違うと思うのですが、指摘できません。
と言う訳で感想だけ。ここでも扇雀さんがなかなかの女振り。染五郎さんも楽しそうに
踊っていました。本当にこの人は歌舞伎が好き、と感じられます。鴈治郎さんの傾城は
貫禄十分。特に最後の太夫に戻った姿は傾城としての大きさを感じさせました。

1998.6.30
先週の23日(火)に歌舞伎座夜の部を観てきました。いつもより30分以上も終わり
時間が短かったのですが、かなり充実した舞台で、満足して帰りました。
『俊寛』・・・これはなにしろ幸四郎さんの独壇場。最後の見送りのシーンの細かい
演技に感心しました。船がいなくなって、ちょっと良いことをしたといった微かな
微笑みを漏らして小屋に寄りかかり、しかしああ俺はとうとう一人になってしまった、
という寂寥感がじわっと湧き出てきて、岩に登るシーンになる。松にすがって遠くを
見て、枝が折れてよろよろと突端に座り、何度か多分豆粒のようになっていく船に
呼びかけ、そして見えなくなって放心・・・。これくらい、丁寧に演じられると、
まいった!というしかありません。こうした心理劇は新劇での経験が大いに生かされる
のでしょう。松江さんは、前回の吉右衛門さんの時<と比べてちょっとふっくらとした
感じに見えました。あの時ほどの感銘は受けなかったのですが、愛らしい島の娘を
好演。藤十郎さんは公家の品と少し高い声のしゃべりが秀逸。公家は幸四郎さんも
そうしていましたが高い声で話すのが特徴のようです。瀬尾の左團次さん、丹左衛門の
梅玉さんもニンにかなって立派。わたしの注目の橘太郎さんは瀬尾の供侍として、
千鳥を押しとどめる役を演じていました。
『保名』・・・多分團十郎さん初演の保名。全体的に明るめの照明と、セットの背景が
春霞をイメージして、黄色を基調にしているのが新鮮でした。踊りの善し悪しは全く
分からないのですが(ちょっとまた舞踊の見方が壁にぶつかっています。)、狂気の
男という印象は薄く感じられました。
『日本振袖始』・・・初めて観る演目で期待していたのですが、何と言っても玉三郎
さんの妖しさにクラクラしてしまいました。まず、登場が妖怪変化のポイントとも
いうべき花道のスッポン。その姿が、男(八岐大蛇)が女(岩長姫)に化けている、
しかし女形である玉三郎さんが本来は男(八岐大蛇)である存在として演じている、と
いう非常に複雑な組み合わせ。何ともまあ魅力的な姿でした。そして、正体を現してから
は、全く本来の顔が分からないほど凄まじい隈取で、その上舌に紅まで塗って迫力満点。
しかも分身が7人同じ衣装扮装で登場して目を剥いたり、真っ赤な舌を出したり。
なんとも愉快で緊張感もある舞台になりました。左團次さんの扮装がちょっと違和感を
感じましたが、それは神話の中の素盞鳴尊のイメージがあるからでしょう。芝雀さんも
なかなか可憐にお姫様を演じていました。

1998.6.21
すっかり書きそびれていましたが、7日日曜日に国立劇場の鑑賞教室を観てきました。
時間の都合で男寅くんの解説はカットして、『葛の葉』のみの鑑賞でした。
この日は日曜日ということで、学生さんの観劇はなし。静かでありがたい反面、若い人
たちの反応も知りたく思いました。ちょっと贅沢な相談ですが・・・。
これはほとんど福助さんの一人芝居と言っても良い内容で、まずは早変わりで驚かして
くれます。以前鴈治郎さんの葛の葉を見た時は確か最前列で、早変わりの時、セットの
後ろをドタドタ走って行く足音がはっきり聞こえ、御幣がゆらゆら揺れていたのが
可笑しかったのですが、今回はそうしたことはナシ。セットの作りの違いか、二人の
体重の違いかは不明です。福助さんは母親としての情愛の表現に優れていて、特に
子供を寝かしての語りはなかなかのものでした。ただし、狐言葉が今一つだったのと
狐手の表現ももう一つ徹底していないように見えました。あと、曲書きの字が残念なが
ら、ちょっとお粗末。また子役が寝ながら何か手を見たり動かしたりと落ち着かず、
気になりました。道行はかなり異色の演出で、暗い森というより、お花畑の印象を
受けました。また最後に宙乗りになるのも、若い人向けとはいえ、苦衷に沈む母狐の
心理状態とは異質の演出に思えました。まだ早い時期だったので、その後どのように
変化しているのか、ちょっと気になりますね・・・。

1998.6.21
8月歌舞伎座のチラシを入手しましたので、書いておきます。
第1部          第2部           第3部
小栗栖の長兵衛      荒川の佐吉          伽羅先代萩
 長兵衛 ・・・歌昇    荒川の佐吉・・・勘九郎    乳人政岡・・・福助
 堀尾茂助・・・橋之助   大工の辰五郎・・歌昇     沖の井 ・・・扇雀
              隅田の清五郎・・翫雀     松島  ・・・孝太郎
棒しばり          成川郷右衛門・・橋之助    荒獅子男之助・橋之助
 次郎冠者・・・勘九郎   お八重  ・・・孝太郎    八汐  ・・・勘九郎
 大名某 ・・・吉弥    鍾馗の仁兵衛・・弥十郎    仁木弾正・・・八十助
 太郎冠者・・・八十助   お新   ・・・福助     渡辺外記・・・三津五郎
              相模屋政五郎・・島田正吾   細川勝元・・・勘九郎
源氏店
 与三郎 ・・・橋之助  流星
 お富  ・・・扇雀    流星   ・・・八十助
 蝙蝠安 ・・・弥十郎   牽牛   ・・・翫雀
 多左衛門・・・八十助   織女   ・・・福助

改めて書き写してみましたら、これはなかなか面白い。勘九郎さん、八十助さんの
棒しばりも楽しみですし、橋之助さんの与三郎も嬉しい。荒川の佐吉の勘九郎さんに
島田正吾御大の出演はなによりのご馳走。流星もなんだか奇妙で期待が出来そう。
そして先代萩、政岡に福助さんが挑戦!!松島を孝太郎さんが演じるのは語呂合わせ?
勘九郎さんの八汐は勘三郎さんばりの憎らしさが期待。八十助さんの仁木弾正も楽しみ。
かなり正攻法でやってきたという印象です。それなりに気合いを入れて見に行かなければ
ならないようです。

1998.6.21
遅くなりましたが、夏に行われます、気になる自主公演のお知らせです。
『第十回宗十郎の会』
日時 8月8日(土)9日(日) 昼の部12時/夜の部5時
場所 国立劇場大劇場
演目 苅萱桑門筑紫轢(かるかやどうもんつくしのいえづと)
出演 宗十郎、田之助、我當、時蔵、芦燕、松助、上村吉弥、梅枝、羽左衛門
入場料 1等15000円、2等9000円、3等4000円。
前売りは6月15日から。お申し込みは澤村宗十郎事務所03-3863-0575

『第六回市川右近の会』
日時 8月15日(土)16日(日) 昼の部11時/夜の部4時半
場所 国立劇場大劇場
演目 仮名手本忠臣蔵(五段目六段目)、船弁慶
出演 船弁慶に尾上辰之助友情出演となっています!?
観劇料 S席11000円、A席5000円
前売りは6月26日から。お申し込みは市川右近の会03-3359-5223

『鶴賀松千歳泰平』
日時 8月27日(木)〜29日(金) 12時・5時半開演(27日は5時半のみ)
場所 歌舞伎座
出演 團十郎、福助、菊之助、新之助、菊五郎
観劇料 1等14000円、2等11000円、3等A4000円、3等B2000円
前売り開始は7月6日から。お求めはチケットホン松竹03-5565-6000

全部観たら、時間もやりくりも大変だけど、1等だと4万円か・・・。8月の歌舞伎座
は3部制で3万円もかかるし、家計は破産だ!!結構悩ましい選択を迫られそう・・・。 なんとか、後半の2本は観たいのですが・・・。特に右近さんには上方式の勘平を
演じて貰いたいです。それじゃなきゃ意味無いと思うけど!!!?

1998.6.21
またまた報告が遅くなりましたが、17日水曜日、歌舞伎座昼の部を観てきました。
全体的にはまあまあの舞台でした。
『薫樹累物語』・・・初めて観ましたが、なかなか面白い累ものでした。『かさね』と
違って与右衛門はそれなりに良い人であり、前半の累とのやりとりは、夫婦の情愛を
醸し出して興味深かったです。梅玉さんはこうした白塗りの二枚目は最高。宗十郎さん
も、けなげな女を可愛らしく演じていました。しかし、素晴らしかったのは、自らの
顔の醜さを知らされてからの演技。その悔しさ、怒り優しい夫の心遣いなどの様々な
想いがない交ぜになった、身体全身から立ち上る複雑な感情が見事に表現されていま
した。家橘さんは先月の『お祭佐七』に続いて憎まれ役を好演。芝雀さんはやはり
赤姫の衣装がお似合いです。歌舞伎座では昭和26年以来の本公演でしたが、これは
もっと上演されても良い素材だと思いました。
『金閣寺』・・・幸四郎さん、團十郎さん、玉三郎さんの共演で、一番注目の舞台で
したが、途中で睡魔が襲い、半分薄目を開けての鑑賞になってしまいました。失敗だ。
全体的な印象はちょっと義太夫味に書けているように思えました。特に、東吉と大膳が
碁を打つところなど、もう少し糸に乗った科白回しがあっても良かったように思います。
雪姫は相変わらず美しく、可憐で結構でしたが、性格の激しさが見えても良かったのでは
と感じました。この雪姫と言う役は意外に難しい役なんですね。桜の木に縛られるのを、
下手の木に変えて演じていましたが、鼠の登場など、舞台中央で演技できる利点を感じ
ましたが、夫との別れの位置関係がちょっと不自然になる問題も見えました。つまり
近寄る事が可能なのに無理矢理離れた位置に立つことになってしまいます。
『藤娘』・・・雀右衛門さん、また一段と若返ったように見えました。これも六代目の
演出とは異なり、中央に大木の藤は配置せず、登場も花道から。いわゆる藤の精ではなく
大津絵から飛び出した少女という設定になるそうで、こちらの方が本来の演じ方の様で
す。ただ観た印象から言いますと、やはり六代目は天才で、あの演出は藤娘の美しさを
強調した内容になっているように見えました。

1998.6.3
ちょっと嬉しいご報告。最近はめったに買わない、インターネット雑誌「internet」、
インプレス社の7月号をたまたま購入した所、ジャンルから選んだクールサイト55、
の中で、歌舞伎のページがあり、その中で、かもねぎ亭さんらくらく歌舞伎さん
共に、この江戸ぐるめが紹介されていました。連絡は一切なかったけど、まあいいか。
他にも素敵なページがあるのに、ありがとうございます。
あっ、それと言い忘れていましたが、5月の連休中にカウンターが1万を超えました。
最近は更新が滞りがちなのにもかかわらず、何度も見に来て下さる方々のお陰です。
極めて私的なホームページですが、なんとかこれからも続けて行きたいと願っています。
今後とも宜しくお願いいたします。

1998.6.3
更新をさぼっている間に、いろいろな情報が新聞などに掲載されていました。ちょっと
遅くなりましたが、気が付いたものを書いておきます。

ニッカンスポーツ5/20。8月の松竹座で染五郎さん主演の『ハムレット』が上演され
ます。『葉武列士』ではなく、『ハムレット』。オフィーリアは奥菜恵さんです。

国立劇場7月の歌舞伎鑑賞教室のパンフレットから・・・。
演目は『傾城反魂香』土佐将監閑居の場
出演  浮世又平・・・歌昇
    雅楽之助・・・玉太郎
    女房お徳・・・孝太郎
7月4日から22日まで。一般の料金は3800円と1500円。学生は1300円。

指導は吉右衛門さん。また吃又か、という印象はありますが、若手の斬新な舞台が期待
されます。初めて見る学生さんが、どもりの演技をどう評価するか、単に笑いが出るだけ
では失敗ですよね・・・?
歌昇さんは「前からやってみたかった役です。」と張り切っています。(ニッカン5/21)

毎日新聞5/25。藤十郎さんの発案でスタートした、「屋島篝火歌舞伎」も今年で3回目。
今年は菊池寛没後50年を記念して、新作の『袈裟の恋塚』。市川森一さんの脚色で、
源平盛衰記に出てくる、袈裟御前と夫、渡、袈裟に横恋慕する盛遠の悲劇を描きます。
藤十郎さんが袈裟、盛遠が段四郎さん、渡は梅玉さん。もう一本が『藤十郎の恋』
舞踊劇に仕立てたもの。竹田真砂子さんの補綴。藤十郎が藤十郎さん(なんだかやや
こしいな)、お梶が松江さん。
8月7日〜8日、高松市の玉藻座。午後6時と9時。

ニッカンスポーツ5/25。24日に歌舞伎座で行われた子供歌舞伎で、新之助くんが
『素襖落』の太郎冠者を演じた。終演後新之助くんは「父には負けたくないと思って
いましたが、納得いかないところがたくさんありました」と語っていたそうです。
今回の舞台で、いつもより真剣な新之助くんが気になったのですが、これだったのですね。

今日のニッカンスポーツには、團十郎さんと新之助くんが、8月27〜29日の3日間、
歌舞伎座で新作歌舞伎『鶴賀松千歳泰平』を上演すると発表していました。これはかつて
三船敏郎さんの主演で上演された『上意討ち』と同じく、会津若松の松平家で起きた
史実を元にした作品になるそうです。共演は菊五郎さん、菊之助くん、福助さん。
台本はどなたが書いているのかは分かりませんが、かなり意欲的なものになりそうです。
新作が次々と生まれてくることは、本当に楽しみです。

先日、各スポーツ紙に勘九郎さんのコクーン歌舞伎の記者会見の記事が出ていました。
演目は『盟三五大切』。上演は9月2日から26日まで。前売りは7月18日です。
ようやく決まりましたか・・・。実は1月に松竹の関係者から、今年のコクーンは演目
選びに苦労している、という話を聞いていました。その時、『盟三五大切』が候補に
上がり、いろいろな条件で消えた、と聞いていたのですが、復活ですね。
去年の10月の歌舞伎座の上演、なかなか見応えはありましたが、ストーリーの理解に
苦しんだ記憶があり、その辺をどう処理するのか、また5人殺しの場がそれほど迫力を
感じませんでしたが、串田和美さんの演出でどう変えていくのか楽しみです。
共演は福助さんや橋之助さん。なにしろ切符を取ることが困難です。

江戸ぐるめ 瓦版

1998.5.29
実は今月は、12日と20日に国立小劇場の文楽『伊賀越道中双六』を見ています。
スケジュールの都合で、後半部分を先に見ましたが、歌舞伎ではまずは見られない
通しが味わえて、満足しました。文楽素人としては太夫さんの語りや三味線の善し
悪しは分かりませんが、独特の雰囲気が好ましく感じられます。ただ全体的な印象は
歌舞伎の様な陽気さ、屈託のなさが少なく、皆さんお勉強に来ているような雰囲気を
漂わしていますね。
個別には「岡崎」の段にいたく感動しました。特にお谷、蓑助さんが使うとその人形
が感情を持っているかのように見えました。よく歌舞伎で思い入れを強調しますが、
人形のお谷が思い入れの演技をしているように見えたのです。多分左手の微妙な
使い方がポイントなんでしょう。この段は子殺しが大きな要素になっているのですが
赤ん坊を殺すことが説得力に乏しく、歌舞伎で演じにくいのでしょうか?雪の降り
かかる木戸口。老母の回す糸車、歌舞伎で見たいものです。最後にやったのはいつ
なんでしょう。
それに引き替え、「沼津」は歌舞伎でも、かなり頻繁に出ています。客席を回る愛嬌は
歌舞伎独特のものでしょうが、この段の意味は通しで見てようやく理解できました。
最後の方に十兵衛はあっさり斬られてしまうのですが、そうした全体の流れを知って
いると、親子の悲しさがより強く伝わってきます。
これからも機会があれば文楽も見、少しは勉強していきたいと思っています。

1998.5.29
27日の千秋楽、歌舞伎座夜の部を観てきました。3月の千秋楽で、菊五郎さんが
いたずらをしたと聞いたので、今月もやるのではないかと期待してわざわざこの日に
出かけたのですが、残念ながらなにもなし。鳶の頭なんか格好の材料だったのに?
全体的には、まあまあの印象でした。
『お国と五平』・・・中盤までは、どうしようもないお芝居。特に八十助さん役の
見苦しいセリフには我慢が出来ない程で、客席からも何度も失笑が漏れていました。
しかし、後半お国と五平が不義を働いたと友之丞が語る辺りから、俄然緊迫感が
出てきて、それなりに楽しめました。でもやっぱりこれは歌舞伎じゃない。谷崎の
シニカルな人間観察、もっと言えば悪意さえ感じる、人間の醜さの表現は、さすが
と思いましたが・・・。
『船弁慶』・・・今月一番期待の作品。以前富十郎さんの知盛を見て、感動しました
ので、かなり期待していたのですが、ちょっと菊五郎さんの知盛、スケールが小さく
感じられました。また実際にちょっと背が低く感じられたのはどうしてでしょうか?
恨みを持って海中に沈んだ知盛の無念さ、平家で一番の猛将の迫力、残念ながら、
半分ほどにしか感じられませんでした。三之助の舟子はなかなか楽しそうに演じて
いて、それなりに好感がもてました。芝雀さんの義経は感情表現が今一つ。
團十郎さんは大きく弁慶を演じていましたが、さすがに疲れが出たのか、
静が別れの舞を舞っている時、ほとんど眠りかけていました。気が気じゃなっかった
・・・。
『お祭佐七』・・・これは初めてなので楽しみにしていたのですが、短い時間で
話を完結させるには、ちょっと無理があるように思えました。つまり、人間の奥行き
が希薄で、佐七が何故突然あそこまで狂うのか?小糸の養母は何故、鳶の頭を騙して
まで、伴平に小糸を差し出そうとするのか?良く理解できませんでした。特に、佐七
が小糸を殺すには話が短絡的。原作を読んではいませんので、分かりませんが、佐七
の性格をもう少し分かりやすくして欲しかったです。
このお話の一番沸いた所は、劇中劇の落人。團蔵さんの長男茂々太郎くんと友右衛門
さんの二人の子供が何と言っても可愛く、客席は大受けでした。清元の太夫さんたち
も鬘をつけての出演で、何だか恥ずかしそうな楽しそうな。新之助くんと菊之助くん
の駕籠かき姿もなかなか良かったです。團十郎さんはなにしろ格好良く、今度は
ロングバージョンで見せて頂きたいものです。

1998.5.7
ちょっと遅くなりましたが、国立劇場の「あぜくら」に、六月の鑑賞教室の案内が
ありましたので、記しておきます。

期日 6月1日〜21日(8日を除く)午前の部11時 午後の部 2時半
解説 歌舞伎のみかた  市川男寅
演目 蘆屋道満大内鑑 (葛の葉) 福助 翫雀 ほか
一般前売日 5月12日(火) 一等3800円 二等 1500円

学生さんのためのものなので、一般の我々は少々肩身の狭い思いで観なければなりま
せんが、福助さんの葛の葉は何としてでも、観たいと思っています。

『オグリ』について、気が付いたことで先日書き忘れていたことを、書いておきます。
実はその日一番前で観ていたのですが、時々気になったのが、笑也さんが横顔を見せ
ると、オトコになってしまうのです。目の錯覚かと何度か確認したのですが、横顔は
オトコ。なんでかと考えていたのですが、笑也さんの骨格の問題もあるのでしょうが、
どうやら鬘の問題ではないかと思いました。『オグリ』の照手姫はしっかりと耳を
出した鬘を付けており、耳から顎の線がはっきり分かるのです。歌舞伎では女形で
耳を出すような鬘はほとんど記憶にありません。そうしたちょとした違いが、女形が
オトコに見えるという、めったにない体験につながったのではないかと、思います。

1998.5.7
昨日、歌舞伎座昼の部を観てきました。スタートして4日目ですが、なかなか
まとまった良い舞台に仕上がっていました。
『外郎売』・・・ここは新之助くんをひたすら観る演目でしょう。周囲が意外に緊張
した雰囲気なのに、かなり堂々としており、また落ち着いて見えました。問題の早口も
失敗はなく、目線の配りもしっかりしていました。またまた大きく成長したように
見えました。天性の美形といい、声の良さといい、さすがに成田屋の若旦那。祖父から
の血が、一気に開花しようとしているようです。その他には、十蔵さんが洒脱に演じて
おり、亀寿くんも良い雰囲気を出していました。
『御存鈴ヶ森』・・・こちらは菊之助くんをみるお芝居。前髪の若衆姿もなかなか良く
似合っていました。長兵衛役の團十郎さんもさすが貫禄十分。ぐっと舞台が締まり
ます。雲助たちもそれぞれ意趣をこらし、それなりに面白くは観られましたが、いかん
せん、立ち回りが長すぎます。また、ここだけだと権八小紫の悲恋が全く触れられず、
なんだか汚い雲助の印象が強く残り、後味がそれほど良くはありません。
『素襖落』・・・團十郎さんの太郎冠者が、なかなかのはまり役で可笑しかったです。
特に酔っぱらってからの楽しそうな表情が最高。辰之助くんがまた太郎冠者を徹底的に
観察していたのが(筋書で「ゆくゆくは太郎冠者を演じたいので」と語っています。)
印象的でした。きっと同じセリフを口の中で言っているのでは、と思える程でした。
菊五郎さん、八十助さんも楽しそうに演じており、ホンワカした雰囲気が心地よかった
です。
『野晒吾助』・・・一番気になっていた演目ですが、多分原作大幅カットで、ちょっと
こくのない内容でした。つまり、八十助さんの浮世戸平や南無右衛門は何であれだけ
なの?、とか、なんであんなに簡単に女房にするの?とか、いくらなんでも百両の
身売り、安易過ぎないのでは?とか、ストーリーへの疑問の他に、吾助自体の人物の
掘り下げが浅く、何のために数珠を持っているのか、そこにはどういう経緯があった
のか、何故今まで独り身だったのか、など、分からない事だらけ。原作を読んでいない
ので見当違いのことを言っているかもしれませんが、脚本としてはB級に思えました。
舞台は『夏祭』的な構成で、それなりに華やかでしたし、最後の立ち回りも久々に
音羽屋の名前入りの番傘を効果的に使って、楽しめました。
あっ、あと芝雀さんの首のラインと背中のなんともぽっちゃりした肌が妙に
色っぽかった事を書いておきます。

1998.5.4
今日は調子に乗ってもう一つ。『演劇界』5月号を見ていましたら、3月に行われた
名題試験の合格者が発表されていました。その中に右近さんや笑三郎さん、笑也さん
猿弥さん、亀治郎さんの名前がありました。澤瀉屋一門の中心俳優が一気に名題昇進
という訳ですが、あれ?今頃に?とも思えます。何らかの理由があったのでしょうね
・・・??その他には尾上菊丸さん、澤村宗丸さんの美形コンビ。片岡進之介さん、
中村獅童さん、中村信二郎さん、中村玉太郎さんという御曹司たち。そして私の
好きな橘太郎さんの相棒みの虫さんの名前もありました。

また、6月の三越歌舞伎の演目も出ていました。
『毛谷村』・・・信二郎の六助、桂三の弾正、孝太郎のお園。
『鷺娘』 ・・・時蔵
入場料は8200円   5月1日から前売り開始で、電話は03-3274-8675三越劇場
です。開演は11時半と4時。5日から24日まで。

1998.5.4
7月の歌舞伎座は猿之助さんの『義経千本桜』の通しであることは皆さんもう御存知
だと思いますが、演舞場でちらしを入手しましたので、簡単に配役を書いておきます。

昼の部       夜の部
堀川御所           椎の木・小金吾討死・鮨屋
秩父庄司 ・・・歌六     いがみの権太・・猿之助
卿の君  ・・・春猿     女房こせん・・・門之助
源義経  ・・・段治郎    若葉内侍 ・・・笑也
武蔵坊弁慶・・・猿弥     主馬小金吾・・・右近
静御前  ・・・笑也     弥左衛門 ・・・吉弥
               娘お里  ・・・亀治郎
鳥居前            梶原景時 ・・・段四郎
忠信・源九郎狐・猿之助    弥助実は維盛・・芝翫
源義経  ・・・段治郎
武蔵坊弁慶・・・猿弥     川連法眼館
静御前  ・・・笑也     忠信・狐忠信・・猿之助
               駿河次郎 ・・・段治郎
渡海屋・大物浦        亀井六郎 ・・・猿弥
銀平・知盛・・・猿之助    静御前  ・・・笑三郎
武蔵坊弁慶・・・段四郎    源義経  ・・・右近
源義経  ・・・門之助
典侍の局 ・・・宗十郎

道行初音旅
静御前  ・・・芝翫
逸見藤太 ・・・段四郎
狐忠信  ・・・猿之助

猿之助さんの忠信、知盛、権太三役は多分最後になるだろうとの触れ込みです。
堀川御所が出るのも楽しみです。また、昨年右近さんが演じた上方風の権太を出す
のか注目です。多分、右近の会と同じ幕の表現がちらしに書かれているので、
(東京では「椎の木」ではなく「木の実」と呼ぶ)そうなるのでしょう。これは
本当に楽しみです。
因みに日にちは7月2日から26日まで。電話予約は6月15日(月)から。みなさん
もう御存知でしょうが、まず電話予約を先行させ、窓口での販売は17日からになって
います。先日見ていたら、15日に窓口で翌月の切符を買おうとしている人を何人も
見かけました。尚、7月19日に限り?通しのみの販売となり、12%ほどお安く
なっています。体力に自信のある方、向けですね。

江戸ぐるめ 瓦版

1998.5.4
4月29日水曜日に新橋演舞場の『オグリ』夜の部を観てきました。
実は以前TVで見たスーパー歌舞伎の印象があまりに悪く、これまで敬遠してきたの
ですが、昨年観た『當世流小栗判官』の印象が素晴らしかったので、今回はどう
演じるのかという興味で出かけました。結論から言いますと、歌舞伎と思わなければ
最高!です。いわゆる我々が考える歌舞伎と思うと、イライラするのでしょうが、
全く別物として見れば、かなり良くできていて、なかなか感動ものです。
この劇のポイントは小栗判官と照手姫のラストの再会、その一点に尽きると思います。
観客全員がこの新しい国主が小栗判官であることを知っている。知らないのは照手姫
だけ。その照手姫が判官と知っての演技、これが上手くいくかどうかがこの劇の最大の
ポイントで笑也さんが完璧に演じてくれました。この一点で最高!となったのです。
あと面白かった点をあげれば、なにしろ花道上にはしごを立て、その上の碁盤に
馬もろとも上がる所、びっくり仰天です。いくらワイヤーで吊しているとはいえ、
馬の中に入っている人は大変。また、後半の大津の宿に登場した通行人たちの衣装が
極めて当時(室町時代)の雰囲気を現していて興味深かったです。その他には、歌六
さんと猿弥さんが演じた船頭。何故かここだけ完全に歌舞伎になっていて、妙な
味わいが残りました。これはどう言えば良いのか分からないのですが、團蔵さん。
商人の衣装にも驚きましたが、その動き、なんだかシェクスピアに出てくる道化の
ようで違和感が・・・。多分それが狙いなのでしょうが・・・。そして閻魔大王。
巨大さが迫力満点。う〜ん、これ以上は表現する言葉がない。カーテンコールの
閻魔さんはかなりヘンだった!!?
気になったのは、梅原さん的な説教臭さ。まあもともと説教節ですから、仕方ないの
でしょうが、セリフで説教されるとうるさく感じます。これは以前も書いたと思い
ますが、歌舞伎と新劇の大きな違いは思い入れ。新劇は全てセリフで説明しようと
するために、返って感動が薄れ、伝わるはずの感情が上滑りするのです。良い脚本は
感情の襞を演技で補うように出来ていると思います。
そして最大の違和感は「ロマンの病」。ロマン!!!どこの言葉だ!!?忠臣蔵で
師直が判官の顔を「半魚人のようだ」とからかうよりもひどい。もっと良い言葉は
なかったのでしょうか、梅原さん??意図するところは理解できても、時代劇に
電話やタクシーが登場するようなものではありませんか?これにはちょっと参り
ました。うしろのおばさんさえ笑っていましたよ!!
まあ、こうした細部の気になる点はあるものの、なにしろ猿之助さんと笑也さんの
濃厚な演技が素晴らしいのと、鏡を使った舞台装置の工夫がかなり目を引くのと
先程書いたポイントがきちんと演じられていたことで、満足です。
また思いついたので付け加えますと、歌舞伎との大きな違いの一つに、四季の意識、
があります。歌舞伎の『小栗』は見事に四季が背景にありました。これは江戸が
四季を常に意識する文化であることの現れで、さすがに鏡では困難でした。ただし
猿之助さんのすごい所は、四季を枯れ葉と桜花を降らすことで表現したことでしょう。
吉弥さん竹三郎さん、良かったです。亀治郎くん、見得を切る時、一人だけ「にらみ」
を見せていたこと、見てますよ。笑三郎さん、眉をコバルトブルーで書いていたこと、
しっかり確認しました。う〜ん、まだまだ言いたいことがあるような・・・。
まだ一月あります。ご覧になっていない方は是非足をお運び下さい。

1998.5.4
またまた更新が滞って申し訳ありません。新しい情報がないにも関わらず、度々
アクセスしていただいた方、本当にありがとうございます。 さて、4月21日火曜日に歌舞伎座夜の部を観て来ました。まずは愚痴です。
私の一つ離れた左隣に座っていたおじいさんがなんと溜息親爺だったのです。
何が不満なのか、あるいは癖なのか、5秒ごとにア〜、ア〜アと大声を出して
うるさいことこの上なし。なかなか舞台に集中出来ませんでした。またそのおじいさん
を私の前に座ったおじさんがいちいち睨み付けるのでそれも気になり、最悪でした。
おしゃべりがうるさいと注意も出来るのでしょうが、溜息は・・・??
気を取り直して感想です。昼の部と違って夜の部は全体的に満足しました。
『一條大蔵譚』・・・奥殿のみ。出来れば檜垣から阿呆ぶりを見せてくれると良かった
のですが、さすが吉右衛門さん。登場すると一気に舞台が締まります。阿呆ぶりの
何とも言えぬ愛嬌、武家の勇壮さ、公家の高貴さ、その演じ分けが良く理解でき
ました。気になったのは梅玉さん。主家を思う真摯さがさらさらして伝わって
きません。常磐を打擲する場面もただ型通り演じているだけ。その怒り、悔しさが
伝わらないと常磐の本心が見えにくくなります。どこか冷たい男の役はさすがに
見応えがあるのですが、情熱的な役は向いていないのでしょうか?芝翫さん、時蔵さん
は無難。弥十郎さんは大柄な身体を生かして迫力十分、ただ仕どころが少ないのは
仕方ないですね。
『釣女』・・・ここでは意外に梅玉の太郎冠者が好演。大名がニンだと誰もが思うの
でしょうが、存外ひょうきんな側面を垣間見せてくれました。ただちょっと生真面目
な印象が残り、もっとへなへなになっても良かったのでは、と感じました。
歌昇さんは無難。福助さんは楚々とした上臈でやはり綺麗。そして吉右衛門さん。
その顔が大受け。周囲のおばさんたちはもう大喜び。こうした顔の作りへの批判も
多々見ましたが、こうした笑劇は歌舞伎の魅力の一つだと思うのですが・・・?
『瞼の母』・・・私はどうも新作歌舞伎とは相性が悪いのですが、この作品には
満足しました。テーマがきちんとしていて(生き別れた母を慕う、というのは
ちょっと反則のような気もしますが)、ついほろりとさせられます。勘九郎さんが
べたべたせず、さらりと演じながらその心情を見事に表現していました。
少し気になったのは、宗十郎さんがこの日は調子が出なかったのか、母親の複雑な
心境の微妙な変化を上手く伝え切れずにいたことです。勘太郎くんはまたまた好演。
特にラストの「忠太郎にいさ〜ん」の声にぐっときました。

1998.4.17
歌舞伎とは関係ありませんが、私の高校のクラブ(剣道部です)の後輩で、俳優兼
演出家の山本健翔くんが演出する、お芝居『湖上』が今日から両国の
シアターX(カイ)で始まりました。脚本は今最も注目を集めている平石耕一さん。
一昨年同じコンビで上演された『月下』は素晴らしい作品で、NHKでも放送され
ています。出演は仲谷昇さん、勝部演之さんなど。私も何とか出かけようと思って
います。関心のある方は是非お出かけ下さい。料金は一般5千円、学生3千円。
お問い合わせは演劇集団円まで03-3366-2576。26日(日)まで。

1998.4.16
そういえば以前、6月に玉三郎さんの天守物語が歌舞伎座で上演する、という記事を
書きましたが、昨日見た看板にはなかったですね。と思っていたら、今日の日刊
スポーツに中止の理由が掲載されていました。歌舞伎座の舞台機構に制約が多く
制作側が要求する音響効果や舞台装置が実現出来ないことだったようです。
中日劇場で可能で歌舞伎座で無理というのはちょっと疑問が残りますが、その代わり
『日本振袖始』になったのなら、まあ良しとしましょうか・・・。

同じニッカンに勘九郎さんが座頭になったスウェーデン公演が6月に行われる、という
記事が出ていました。期間は6月2日から4日、ストックホルム市立劇場で。なんと
この公演で海外公演は33カ国100都市になるそうです。次男の七之助くんと
『連獅子』を。他に『乱』『竜虎』。「日本人の芝居は二度と来るなと言われぬよう
頑張りたい」と勘九郎さんは語っています。

1998.4.15
6月の歌舞伎座公演の看板が出ていたので、簡単に書き写してきました。配役までは
書けませんでしたので役者名から想像して下さい。
昼の部       夜の部
伊達競阿国戯場        俊寛
(薫樹累物語)         幸四郎、左團次、藤十郎、松江、彦三郎、梅玉
宗十郎、芝雀、東蔵、梅玉

金閣寺            保名
幸四郎、玉三郎、田の助、    團十郎
左團次、宗十郎、團十郎

藤娘             日本振袖始
雀右衛門            玉三郎、芝雀、左團次

どうもつい1〜2年前に見たような演目が並んでいますね。ここでの注目はやはり
玉三郎さんでしょうか・・・。金閣寺の雪姫には定評がありますし、日本振袖始は
昨年友右衛門・芝雀兄弟の会で上演されたものですが、元は歌右衛門さんが復活させ
たものだった筈です。着々と歌右衛門さんの遺産を(まだ亡くなっている訳ではない
のでちょっと申し訳ない表現ですが)継承している湯におもわれます。後は妹背山の
定高が残っているのでしょうか?

歌舞伎座横の切符売り場で、演舞場で上演されている『オグリ』の切符を購入したの
ですが、かなり空席がありました。私が購入したのは連休始めの休日ですが、意外に
連休中は穴場なのかもしれません。東京では多分7月までお目にかかれない、猿之助
ワールドを楽しむチャンスです。

1998.4.15
今日歌舞伎座昼の部を観て来ました。全体的に迫力不足の感は否めませんでした。
『矢の根』・・・橋之助さん、思ったよりふっくらして痩せた印象はありませんで
した。古風な風合いの演目ですが、橋之助さんがゆったりと演じています。ただ
古風さはあまり感じません。声も張る所がかすれてちょっと苦しそう。この後、
国立に回って新派に出ているのですから、ちょっとお疲れか???
『十種香』・・・昨年正月の人間国宝の共演が目に焼き付いているせいか、さすがに
小粒な印象。しかも途中から睡魔に襲われ、記憶が途切れ途切れに。一所懸命演じて
いる役者さんたちには本当に、申し訳ありません。全体的に竹本との間合いが悪く
思えました。
『須磨の写絵』・・・今日一番満足したのがこの演目でした。芝翫さんと福助さん
親子が姉妹を演じ、梅玉さんが行平。吉右衛門さんが漁師此兵衛。みんなニンに
適って安心して見られました。福助さんは美しく、芝翫さんは妹が去って気が触れた
演技になってから俄然光り出します。(福助さんと二人の時は、なんだかつまらな
そうな表情が気になりました。)梅玉さんも品良く演じ、吉右衛門さんがどこか愛嬌
のある悪役を楽しんでいました。1時間を超え、ちょっと退屈する長さではありま
したが、かなり気に入りました。あと、福助さんの指の決まり決まりの美しさが
特に印象的でした。
『西郷と豚姫』・・・吉右衛門さんと勘九郎さんの共演で楽しみにしていたのですが
ちょっと期待外れ。勘九郎さんのお玉が顔と身体のバランスが悪く、まず減点1。
吉右衛門さんの西郷も、以前見た『一本刀土俵入』の駒形茂兵衛を思い出してしまい
ました。ここでも減点1。そして中村半次郎と大久保市助があまりに歴史的印象から
遠い雰囲気で減点1。しかし一番の問題は、台本が悪いのか勘九郎さんの作り込みが
足りないのか分かりませんが、お玉の心情が全く伝わって来ないこと。舞妓たちから
慕われている理由も分かりませんし、死にたいという気持ちも理解できません。
最後の西郷を見送る時の心情も伝わって来ず、一緒に死のうと言ってくれた男が、
突然去って行ったら、お玉はどう思うのでしょうか?「先代そっくり」などという
くだらないかけ声をかけていた女性がいましたが、だめ押しのぶちこわしでした。

ところで、今月の筋書の表紙は明治21年に出された錦絵で中央に中村福助、左右に
市川団十郎と尾上菊之助が描かれています。その福助の絵が、現在の福助さんに
そっくり。考えてみれば錦絵の福助は5代目歌右衛門。晩年の写真しか見たことが
なかったのですが、さすがに現在の福助さんからみたら直系の曾祖父。似ていても
何の不思議はないのですね・・・。



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