アライグマの憂鬱


「野性のアライグマは食物を洗わない」という話をきいた。
ホントかどうか知らないけど、ちょっとショックな話だ。


野性のアライグマは川辺なんかに住んでいて、
いつも水草とか藻とか、水辺のものをとって食べている。
でも、人に飼われたアライグマは違う。

いつも流れる水や、みずみずしい水草の感触を
その手に感じているはずなのに、
目の前にそんなものはない。
だからアライグマは食べ物を手にとるたびに、
いてもたってもいられなくなって、
手を水にくぐらせている。

ほんとうは、いつだって流れる水を感じていたいのに、
それはかなわない。
だから、食べ物を洗う。
だから、憑かれたように水を感じようとする。

  ほんとうは、どうしたいのだろう?
  ほんとうは、なにを求めているんだろう?

     人は、いろいろなことをする。
     時にはなにかを創りだそうとする。
     そしてそれは、人になにかを伝えたり、与えたりすることが
     できるものなのかもしれない。
     でも、人が素晴らしいと感じるものを創り出したとしても、
     それは、その人がほんとうに求めている行為なんだろうか?

     もし違うなにかを求めていたとしても、誰がそれを知るだろう。
     誰にも知られなくても、誰にも伝えられなくても、
     自分自身さえ気がつかなくても、
     その想いは存り続けるんだろうか?


       ほんとうに欲しいものはなんですか?
       それに触れることができますか?



      アライグマが餌を洗う。

      「ほら、アライグマが食べ物を洗ってるよ、
       かわいいね、かわいいね…… 」





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