ジョアン・ジルベルト 初来日公演

日本のボサノバ・ファンの悲願叶っての初来日!
公演は2003年9/11、12、15、16の4日間、東京と横浜で行われました。
今年4月にサンパウロで初めてジョアンのステージを観た私ですが、信じられないことにわずか数カ月後に、日本でまたジョアンに会えるなんて...ということで、もちろん4日間、全日観に行ってきたのであります。
曲目リストと共に、各日のレポートです。

*曲目リストは、会場に貼り出されたものを元にしています。
青表示は4日間共通演奏曲、緑表示は1日のみ演奏曲、Disse alguemはライブ演奏世界初。

9/11(木)
東京国際フォーラム
9/12(金)
東京国際フォーラム
9/15(月)
パシフィコ横浜
9/16(火)
東京国際フォーラム

01.Nao vou pra casa
02.Saudade da Bahia
03.Bolinha de papel
04.Samba de uma nota so'
05.Rosa morena
06.Voce vai ver
07.Sandalia de prata
08.Este seu olhar
09.Precinceito
10.Pra que desctir
com madame
11.Eclipse
12.Vou te contar
13.Que reste-t-il de nos amor
14.O pato
15.Adeus America
16.Ave Maria no morro
17
Desafinado
18.Tristeza
19.Corcovado
20.Estate
21.Izaura
22.Ligia
23.De conversa em conversa
24.As tres da manha
25.Chega de saudade

01.Tim tim por tim tim
02.Caminhos cruzados
03.Acontece que eu sou Baiano
04.
Meditacao
05.Doralice
06.
Corcovado
07.Este seu olhar
08.Isso aqui o que e'
09.
Vou te contar
10.Pra que descutir
com madame

11.
Ligia
12.Louco
13.Bolinha de papel
14.Rosa morena
15.Voce vai ver
16.Adeus America
17.Preconceito
18.Aos pes da cruz
19.Chega de saudade
20.Desafinado
21.O pato
22.A felicidade
23.
As tres da manha
24.Garota de Ipanema

01.Samba de uma nota so'
02.
Vou te contar
03.Carnaval da vitoria
04.Bolinha de papel
05.Pra machucar meu coracao
06.De conversa em conversa
07.Acontece que eu sou Baiano
08.Samba de aviao
09.Preconceito
10.Pra que desctir
com madame
11.
Corcovado
12.
Disse alguem
13.Falta-me Alguem
14.Foi a noite
15.Adeus America
16.Desafinado
17.A felicidade
18.
Ligia
19.Isso aqui o que e'
20.Retorato em branco e preto
21.O pato
22.O samba da minha terra
23.Sem voce
24.Estate
25.Um abraco no Bonfa
26.Chega de saudade
27.Aquarela do Brasil
28.Garota de Ipanema

01.Isso aqui o que e'
02.Disse alguem
03. Bahia com H
04.Ligia
05.Bolinha de papel
06.Preconceito
07.Samba de aviao
08.Foi a noite
09.Pra que desctir
com madame

10.Saudade da Bahia
11.Nao vou pra casa
12.Louco
13.Samba de uma nota so'
14.Adeus America
15.Estate
16.
Desafinado
17.A felicidade
18.Corcovado
19.Rosa morena
20.Doralice
21.Meditacao
22.Aos pes da cruz
23.Sem voce
24.Chega de saudade
25.As tres da manha
26.Vou te contar
27. Garota de Ipanema

9/11(木)東京国際フォーラム
いよいよ初日、会場はもちろん満席、チケット完売。自分が歌う訳でもないのにドキドキしながら会場へ向かう。
さて、 いったい何時に始まるか??というみんなの不安は適中、開演の19:00になっても会場のドアさえ開かなくて、客はロビーで待たされることに。アナウンスによると、ジョアンはまだ会場へやって来ていないらしい。言い訳でそう言っているだけかもと最初は思っていたけれど、15分置きに入るアナウンスでは、「アーティストは会場へ向かっております」「アーティストは会場へ到着しました」「アーティストは開演の準備をしております」...という具合に変化していくので、どうやらウソではないらしい? ブラジルでは時間通りにライブが始まるなんてありえない。当然遅れるだろうと覚悟はできていたし(どうもみんなもそうらしい)、特別怒っている人や文句を言っている人も見受けられず、会場にやっと入れた後も、アナウンスの変化にお客全員の苦笑いがどよめくといった和やかな雰囲気だった。
ジョアンが本当に現れてくれさえすればそれでいい!そんな気持ちはみな一緒だったのかも。
開演が遅れたことにプラス、アーティストの希望により、開演と同時にエアコンはストップ。気分が悪くなられた方はお申し出くださいとまで案内が入る。たいてい、ホールは冷房が寒くて困るほどなので、私はエアコン無しは大歓迎だった。実際、途中、多少は蒸し暑さを感じたものの、送風はしていたようで、私にとってはこれは何の問題もなかった。
携帯電話の電源も、もちろん全員が切る。トータル4日間、誰一人とて演奏中に着メロを響かせる不届きものはいなかった。そんなことにでもなったら、会場の客全員から袋だたきに合う。私も、何度も確認してしまった(笑)。

開演のブザーが鳴って灯が消えると、会場内はすごい緊張感に包まれた。始まる前に咳もしてしまおうということで、ここぞとばかりせき払いがあちこちで聞こえ、今か今かと待ちわびる何千人もの聴衆。そして訪れたはりつめた静寂。しかしなかなかジョアンは現れない。...もうこの時点で私は肩がガチガチ。そして、やっと神様はギターをたずさえてにこやかに登場した。もちろん割れんばかりの大拍手!! ああ、本当にジョアンは日本へ来てくれたんだ!!やった!!という思いである。
意外にも、第一声は「こんばんは」と日本語で挨拶。そして、1時間15分遅れでステージはスタートした。

日本はやはり音響が良いのか、サンパウロで観た時よりも音は良く、ジョアンも演りやすそうに見えた。
前回、初めて「動くジョアン」を観た私は夢の中にいるようで、ところどころ記憶があやふやである。しかし、今回は免疫ができているので、最初から正常な頭で聴くことができた。

ジョアンの足下には、大きな文字でたくさんの曲名が書かれた紙が貼りめぐされていて、1曲終わるごとにそれを見ながら次の曲を考える...といった具合にライブは進んだ。ブラジルでは、客が次々に「○○を弾いて!」と口々に叫ぶので、ジョアンが自分で演奏曲目すべてを考える必要はないのだが、日本ではみんなそんなリクエストなんて大それたこと、ましてやジョアンにしてもいいものか?と思うのが普通。叫んでもおそらく平気だろうなあとわかっている私も、まさかそこまで冒険はできなかった(後半は拍手喝采にまぎれて叫んでみたが)。

日本でのジョアンは、”自分に入り込んで弾く”スタイルで行くようだ。
ブラジルでは客がリクエストの他にも話しかけたり、一緒に歌ったり色々するし、ジョアンもすごく喋るのでちょっと違うのだが、私はどちらもそれぞれに良いと思った。途中、1時間くらいしたところで疲れが出たかな?という場面もあったけど、初日はトータル約2時間半でステージは修了。緊張と興奮覚めやらぬまま、帰途についた私であった。

9/12(金)東京国際フォーラム
いよいよ2日目。なんと、この日の私の席は、1列目のど真ん中。昨日は3列目の中央だったのでそれで充分よく見えたのだけど、今日はまるで「私のためにジョアンは歌ってくれている」状態。勇んで席に座ると、昨日はなかった柵がステージと客席の間に設置されていた。
これは、昨日、「ジョアンの座るステージを近くで観たい」お客さんが多数、開演前にステージに押しよせて、まるで博物館のようになってしまい、係員がみんなを席に戻すのに苦労していたからだ。そりゃあ、やっぱりどんな椅子に座ってやるのかなとか、床に貼られた曲目リスト用紙をそばで観てみたいのが人情というもの(もちろん私もやりました)。
直接は影響はないものの、あるとやっぱり目障りなこの柵。しかし、開演と同時に取り外されて(紐の簡易的なものなので)、私の前にはジョアンだけ!になった。
「生きててよかった」というのはこういう事?! 私は自分の後ろに5千人のお客さんが居ることを忘れました(涙)。

この日も、開演が遅れる事45分、エアコンはなし。しかし エアコンを止めて、一番暑いのはジョアン本人。スーツ姿で2時間半も弾きっぱなし、歌いっぱなし。しかもいつも彼はただの一滴も、演奏中は水を飲まないのだ。 歌いながら、ジョアンの額からは汗が流れ落ち、ポタポタと床に落ちるのが何度も見えた。もうお年だし、水分を取らないのは体にとても良くないのでは...と心配になってしまったが、水を飲むと喉の状態が変わるから嫌なのかもしれない... 

今更だが、ジョアンは すごい。この日はほぼ完璧な演奏。文句なくあっぱれな出来栄えだった。
あまりの素晴らしさに拍手がなりやまず、それに応えてジョアンがボソッと「ありがとう」と日本語でつぶやいた場面も。

曲数は4日間で一番少なかったけど、演奏時間のトータルはかわらず約2時間半。ステージには時計も置いてあって、ジョアンが時間をわかるようにはなっているが、彼が時計を見ていた様子はずっとなかった。それでも、体内時計がライブ版になっているのだろう。
この2時間半は全日ほぼ同じだった(サンパウロでも同じだった)。

2日間の連日公演、ジョアンもさぞ疲れただろう。でも2日目のが調子が出てきたのかな。
ゆっくり休んでもらって、3日後の横浜で会いましょう!

9/15(月)パシフィコ横浜
この日は祝日なので、開演は17:00。しかしまたたぶん遅れるだろうと見越して、中華街で飲茶なんぞを食べていたらちょっと遅くなってしまい、会場へ着いたのが17:05。もし時間通りだったらマズいな...と思ったら、ロビーには人が溢れて、まったく始まる気配はない。みんな慣れたのか、17:30過ぎても、CDやパンフを買う人、ジュースを飲む人、おしゃべりする人、景色を楽しむ人...といった具合で、誰もイライラしてなくて、なんだかとてもおかしかった。そう、ここはもうブラジルなんだ!

結局、50分程度の遅れで開演。今日の席は4列目のちょっと中央から左。真ん中から少し逸れると、角度が付いてギターさばきもよりよく見える。また、少し後ろの方がスピーカーのバランスはよくなるので、音の聞こえ方も変わった。
ジョアンは出てくるなり、調弦を気にし始める。どうも、今日は狂いやすいようで(2弦はもともと合わせずらいのだが)、何度も何度も直しては弾き、直しては弾く。途中、客席に英語で「Sorry...」と謝る場面もあり、弦が狂うんだよ、みたいなゼスチャーもしてみせた。最初、ギターの音も小さく、ヴォーカルとのバランスがよくなかったが、それも時間が経つにつれ改善され、途中でスタッフがマイクの位置を直したので、トータルで問題は解決された。

そして、アンコールの途中、客席の拍手がなりやまず、それに酔いしれたのか、疲れが出たのか、ジョアンがまったく動かなくなってしまうというハプニングもあった。 最初は拍手と歓声で沸いていた客席も、なんとなく「大丈夫かな」という心配色に。私の席からは、ステージ袖から心配そうに見守るブラジル人スタッフ数人がなんどもジョアンの様子を気遣っているのが見えた。約15分は経っただろうか。さすがにスタッフが出て来て、ジョアンに声をかける。彼は「大丈夫、もう少し」のような反応をしたので、スタッフはそのまま引っ込んだ。が、やはりまだ動かない。数分後、またスタッフが出てきて、ジョアンはギターを持ち直し、歌のないインスト「Um abraco no Bonfa」をゆっくり弾き始めた。
その後、数曲弾いてその日は修了。終わった時、会場はほぼ総立ち状態だった。

公演の後、ロビーにはいつもその日に演奏されたリストが貼り出されるのだが、この日はそれがなく、前日分までのものだけしかなかったので、その日にはわからなかったが、3日目が一番曲数も多く、ジョアンが止まっていた時間をなしにしても、一番長かったライブなのではないか?と後日わかった。
休んでいたこの週末の間にホテルの部屋でひとりあれこれ練習したのだろうか、ここまでの2日間とは曲のラインナップが変わり、この日だけやった曲も一番多く、盛り上がりも一番だったような気もする。
さて、明日は最終日。なんだか寂しささえ感じてしまう。明日はどんなライブになるだろうか?
(3日目の曲目リストは翌日、国際フォーラムに貼り出された)

9/16(火)東京国際フォーラム
来てしまった最終日。この日の私の席は、7列目中央。全体的によく見えて、スピーカーバランスもよく、しっかりジョアンを目に焼き付ける勢いで着席。
この日も1時間5分遅れでのスタート。遅延にもエアコン無しにも客席も慣れた様子。
私の感じた限りでは、この日も会場は送風はしていたようで、暑さは問題なかったのだが、ジョアンにはそうではなかったらしい。1曲目が終わると「Excuse me,」 と英語で前置きをした後、ジョアンは初めてポルトガル語をステージで話し始めた。どうも、エアコンの風が歌う時に喉に当たってよくないので、切ってくれとスタッフに言っている。
...うーん。 やっぱり会場は客席のことを考えて、「エアコンは止めさせていただきます」とは言っていながらも、少しは入れていたのだ。その風がステージのジョアンにも届いて(そもそも、それが嫌で会場のエアコンを止めてくれという要望になっていたのだろうし)、こういう訴えになったのだろう。その後、送風は弱まった気がする。ジョアンはその後もまるで言い訳するみたいに「エアコンの風は歌ってる時の喉によくない」ということをポルトガル語で言っていたが(さっきよりちょっとよくなったというような事も言っていたような気がするが、よく聞き取れなかったので定かではない)、喉のコンディションはやはりすごく気にするようだ。相変わらず水もぜんぜん飲まないし...

そして、この日もアンコールで再登場し「A felicidade」を歌った後、鳴りやまない拍手に聞き惚れるように、まったく動かなくなってしまった。あぁ、昨日と同じ。疲れてるのか、具合が悪いのか、ただ休んでいるだけなのか...誰にもわからない。そしてやはり15分くらいは経っただろうか。昨日と同じブラジル人スタッフが出て来て、ジョアンに声をかけ、そこからジョアンはなんと10曲も歌ったのである。渾身を込めた歌は素晴らしく、聴衆はみな1曲1曲をしっかり聴き、心にとどめたことだろう。そして、ジョアンは果てしない拍手にボソボソと「ありがとう、Japao。」とつぶやいたのである(この言葉の前にも、たくさんの拍手と...を、みたいなことをつぶやいていたが聞き取れず)。

素晴らしい演奏を私達に聞かせてくれたジョアンは、こうしてステージを後にした。
ライブの修了は、この日が一番遅く、10時45分。帰りの電車の危うい人も多かっただろう、感激もそこそこに、終了後はあっという間に聴衆は出口へと向かった。

「ジョアンを最初に観る時人は、夢うつつ、あるいは放心状態、または感涙にむせぶ、腰が抜ける...といった状態になるのよ」と、ジョアンを知らない友人に宛ててその素晴らしさを書いたメールを読み直して、私は自分で笑ってしまった。これじゃまるで妖怪である。でも、ある意味、彼は妖怪なのかも。何をしでかすかわからないけど、たった1人しかいない才能の持ち主であり、天才であり、ボサノバの神様。それを世界中の人が受け入れてしまうのだ。

私は4月にサンパウロで2日間、公演を観た。思いもよらず同じ年にまたジョアンのステージを観る機会に恵まれ、今回迷わず4日間も行くことにしたのは、最初は失礼ながら「どの日が当たりかわからない」からというのもあった。
もしかしたら、途中で演奏を止めて帰ってしまうかもしれない。日程半ばで体調が悪くなって、帰国してしまうかもしれない。そんなことになったら見逃してしまうことになる。だから、全日取っておけば、どの日かは必ず観られるという保険のような意味もあったのだ。しかし、実際にライブが始まってみると、サンパウロでもそうだったけれど、彼は同じことは2度やらない。毎日が違うライブ。4日間がそれぞれにすばらしく、優劣なんてとうていつけられない。 全日行って本当によかった!!という気持ちでいっぱいだ。同時に、失礼なことを考えて申し訳ない気持ちでも一杯である。
そして、ジョアンの記憶力には脱帽だ。リストが床に貼ってあるにせよ、順番はバラバラ。同じ曲を同じ日に二度やってしまったり
しないのかとも思ったが、そんなことはまったくない。しかも、歌詞もコードも全部ジョアンの頭の中なのだ。

最終日に一緒に行ったブラジル人の女性(私のポルトガル語の先生)は、この日初めてジョアンのステージを観たのだが、帰り際に「彼はかたつむりみたいな人ね」と言っていた。シャイで、マイペース。壊れやすくて、繊細で、突然自分の殻に閉じこもってしまうことがある...なるほど、本当にかたつむりみたい。なんだか、ジョアンにぴったりだな、と思った。
これからもゆっくり、自分のペースで演奏活動をして欲しい。観た感じでは、日本での演奏はとてもやりやすかったようにだし、日本は気に入ったのではないかな...、再来日も無きにしもあらず?!
まぁ、もしくは、私がまたブラジルまで行きましょう。その日までしばし、お別れ。
夢のような1週間をありがとう!ジョアン!

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