AHストーリー最新話(第352話)
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月夜が照らす、天使の舞――。

第352話笑顔の理由

あはははは・・
夜の喫茶キャッツアイに、笑い声が響いた。

「とんだ御曹司おんぞうしだなぁ そりゃあ」と、楽しそうに笑うリョウ。
「そうなの…… 何だか浮世離れしてるっていうか――」
香瑩は頬に手をあて、困ったように言葉を続けた。

「とにかく変わった人だった とっても」
CHに300坪の土地 買える首輪をつけるくらいだからな そりゃ 別世界人だろうさ」

カウンターで交わされるそんな会話を、陳もコーヒーを飲みながら黙って聞いていた。
「……」

「てか すっごく面倒くさい人なの だから さっさと逃げて来ちゃった」香瑩は、信宏に答えて言う。
「とか言いながら な〜〜んか嬉しそうに話してるよな」と、不満気な目を彼女に向ける信宏。
「だって 思い返すと笑っちゃうのよ」

するとその時、陳が落ち着かない様子で、話に割り込んで来た。
「あ…… 香瑩さん」
「はい?」

「その人は そのォ…」「少しは… ほら 素敵…とか思わなかったカ?」
「う〜〜ん 悪い人じゃないとは思うけど…… 別に」香瑩は少し考える素振りを見せ、それに返事をした。
「…そう」「あるカ…」引き攣った笑みを浮かべる陳。

 完璧な出会いを演出したと思ったのだが……
 香瑩様のお眼鏡には かなわなかったか…

陳は顔に汗を滲ませながら、心の中で呟いた。
「陳さん 気分でも?」信宏が、そんな彼を見やって聞いた。
「あ いや 何でもないヨ ははは…」

乾いた笑い声を上げ、「はぁ〜…」と溜め息をつく陳。
「?」信宏は彼の事を、なおも不思議そうに見やるのだった。

「でも……」
そこで香瑩が、ポツリと言った。
「その時は面倒だなぁって さっさと帰っちゃったけど… 今思うと――」

「いっ… 今思うと?」陳は期待に満ちた顔で、すかさず香瑩を促した。
「……会いたいかな… また」と、香瑩は下を見つめながら、憂いの表情を浮かべた。


ザシャァと、地面を踏みしめる足。

「はぁ」「はぁ」「はぁ はぁ」「はぁ」「はぁ〜…」
息を切らしたそのボロボロの人影は、猫のCHの後を追い、喫茶キャッツアイへの道を進んでいた。

「まぉ〜〜〜ん」CHが店の前で、背後を振り返って鳴いた。


「そっ…」「それは…」
そう言って表情を明るくさせる陳を遮り、信宏が香瑩に向かって身を乗り出した。
「それって どういう意味だよ!?」

「何…興奮してんのよ 信宏?」と、キョトンとして聞く香瑩。
「こっ興奮なんかしてないっ!」信宏は、ムキになって声を荒らげた。

「ただ そのォ」「なんだ…… あれだ その………」

彼は言葉に詰まり、拳を握り締めたまま固まるのだった。
「……」

香瑩は、改めて皆に言った。
「もっとちゃんと話を聞けばよかったって思っただけ」
「基本明るい人だったけど どこか鬱屈した気持ちを抑えているみたいなところがあって…」

陳は彼女がそう話すのを、「……」と思いながら聞いた。

「命を狙われてるみたいだし ……今になって ちょっと…ね」
表情を曇らせて、視線を落とす香瑩。

「…それって…」
リョウは彼女を横目で見やり、その言葉を続けた。

「ちったぁ そいつに興味 持ったって事じゃね?」
「そんなんじゃないって C・Hシティハンターとしての反省かな」香瑩は、困惑気味に顔を上げた。

「……」
信宏と陳は何も言わず、香瑩の事をじぃっと見つめる。

 まだ諦めるのは早いのかもしれぬ…
 もう一押し…

陳はまた、心で呟きを漏らした。

カラン
ドアを押し開け、その時、CHが店に帰って来た。
「まぁ〜お」

「あら CH お早いお帰りだこと…」
香瑩はドアの方を振り向き、そしてその目を見張った。

入って来たCHと一緒に、そこにボロボロの人物が立っていたのである。
彼の姿を見て、信宏も目を点にしていた。

「やぁ」彼は、二本の指を横に向けて大きく伸ばし、
ピッ

シィッ
その指先を、額にあてて敬礼した。
「また会えたね 香瑩さん(はぁと)」
ボロボロの顔で、にこやかに微笑む彼は、御曹司の佐久間崇彰であった。

佐久間さくまさんっ!?」
香瑩が驚きの声を上げ、リョウも「え?」と、目を丸くした。
やはり驚いたように、崇彰を見つめる陳。

ボロ・・・
全身ずたずたの格好の崇彰は、額から指先をピッと離し、ポーズを決めた。
一同はその彼の様を見て、頭の後ろに大きな汗を浮かべた。

「アシャン…これがその… 御曹司?」と、リョウ。
「てか…どう見ても」その続きを信宏が言う。
「ホームレスなんだけど…」

「佐久間さん そのカッコは?」香瑩は席を立ち、崇彰の側に駆け寄った。
「え?」

「あ ああ これ? 君の真似をしたんだよ」崇彰は、屈託のない顔で笑った。
「え?」と、聞き返す香瑩。

「CHの後を尾行ければ 君の家に行けるかな…ってさ」
床で毛づくろいをするCHを前に、崇彰は言った。

「……」香瑩は言葉を失い、崇彰の事を見つめた。
「それって…大変だったんじゃ…」

「そりゃあ〜〜もう!」崇彰は大袈裟な身振りで、彼女に返事をする。

 CHのヤツ
 塀は登るわ屋根の上を走るわ…
 好き勝手おかまいなしで…

CHを追い、ゴミだらけの狭い路地裏を通ったのを思い出し、崇彰は笑った。
「おかげで この有り様…さ(はぁと)」と、上着の裾を開きながら、胸に手をあてて一礼する崇彰。
スチャ

「フン (ストーカーかよ)

不愉快そうに表情をしかめる信宏をよそに、香瑩はプッと吹き出した。
崇彰の向かいで口をおさえ、そのまま「ぷ・・く く・・くっ」と、笑いを堪える香瑩。

あはっ」「あはははははは…
ほどなくして香瑩は、口を開けて、大きな笑い声を上げるのであった。

「ほっ」と、彼女を見る陳。
リョウも香瑩を「へぇ…」と見やった。
信宏がそんなリョウに、ふと視線を向けた。

「めったに大笑いしないアシャンがねぇ…」「ふ〜〜〜ん」と、リョウは感心したように、笑い続ける香瑩を見守っている。

「え……」信宏は、思わず驚きの表情を浮かべた。
「確かに…香瑩をああも笑わせたヤツは初めてだろうな」横で海坊主が、マスクの下から声を発した。

決まりが悪そうにする崇彰の前で、なおも笑う香瑩の姿。

信宏と陳は、そんな二人を後ろから「……」と見つめた。
(何か… イラっとする! あんにゃろォ〜〜〜)と、信宏は肩を怒らせた。
(これは… 意外と脈あり……かも!)と、陳は密かにほくそ笑んだ。

その陳の目が、ふと驚いて点になった。
「……でも」
そう言葉を続けた崇彰の体が、ふらぁと後ろに倒れていったのだ。

「精も根も尽き果てたよ…」と、崇彰は、そのまま床にドテッと倒れてしまった。
香瑩はハッとなって、崇彰の横に屈み込んだ。
「佐久間さんっ!?」
陳も「!」と、席を立つ。

「よかったぁ ……また会えて…」崇彰は残された力を振り絞るように、香瑩に言った。
「え…?」と、香瑩。

同じように崇彰の側に屈んだ陳が、そこで慌てて彼に叫んだ。
崇彰たかあき様っ! やはり佐久間の崇彰様 私です 陳あるヨ!」

「あ…れぇ? 陳さぁん… (なんで ここに…?)
崇彰は陳の顔を見やった直後、ガク・・・となって力尽きた。
「崇彰様っ!」

「んごぉ〜〜お」と、そうしてすぐにイビキをかき始める崇彰。
香瑩と陳は、そんな彼の姿に、呆れて目を点にした。

「陳さん… 佐久間さんと知り合い?」香瑩は、陳に聞いた。
「はい…」
陳は返事をし、さらに言った。
李堅強だんな様に仕えていた頃から つき合いあるヨ」

様の会社の取引先のご子息ネ」
その彼の説明を聞いて、表情を動かすリョウたち。
信宏は「……」と、考え込む様子をみせるのだった。

「そうあるカ… この方が先程のお話の…何というか 偶然ネ」と、陳は続けた。
「ホントに……」香瑩も、崇彰の横に屈んだまま、彼を心配そうに見つめた。

リョウはフ・・・と笑って、香瑩たちに声をかけた。
「んな事より どうすんだ? その御曹司 もう起きそうにないが…」

崇彰はドアに頭をもたせかけ、「んごぉ……お」と幸せそうに眠っている。
「に…しても」「CHを追ってくるたぁ 御曹司にしちゃあ根性あんじゃね?」リョウは彼の様子を振り返って、微笑みを浮かべた。

「まったくだ 大したヤツだ…」と、それに同意する海坊主。
「いや… くっ くっ・・ (←笑ってるらしいι)
海坊主はマスクの下の顔を揺らすと、「大したバカだ!」と言い直した。

ハハハハ・・・ ハハハッ
キャッツアイに、皆の笑い声が響いた。

「フン… 俺は笑わねっ!」
その中で、ひとり憤る信宏であった。


翌朝。
キャッツアイのカウンターで、コーヒーサイフォンが、コポ・・・ コポポ・・と音を立てていた。

沸き上がる湯気が、すやすやと眠る崇彰の顔の上に漂っていく。
「くん…」「くんくん」と、鼻をひくつかせる崇彰。
彼はパチッと、目を開けた。

「こ…この香りは!?」
奥の席に寝かされていた崇彰は、毛布を跳ねのけガバッと起き上がった。
ぼーっと目の前を見つめ、「……」となる崇彰。

「目が覚めたか? 御曹司さん」
サイフォンのフラスコを手にした海坊主が、カウンターから彼に声をかけた。

「疲労困憊こんぱいして 起きそうになかったもんでな そこで寝てもらった」
海坊主はそう言って、フラスコのコーヒーをカップに注いだ。
コポポ・・・

「ふん 自宅のような高級ベッドじゃないから腰を痛め…」
海坊主が笑いながら続けると、湯気を上げるそのフラスコが、ガシィと両手で掴まれた。
「こっこの芳醇ほうじゅんなる香りっ!」と、崇彰が、海坊主の持つフラスコを手で包み込んだのだ。
「な… (熱くないのか!?)」

「おお…」と、そのままコーヒーの匂いを嗅ぐ崇彰。
彼は腰に手をあてると、高々と掲げたフラスコから、直にコーヒーを飲み干した。
ぐいっ

呆気に取られる海坊主と信宏。

「…お」「お…」
崇彰は目を閉じて、うっとりとした声を上げた。
「おお…! 素晴らし〜い!」

「この香りの花の様な香ばしさ 酸味と苦味とコクが見事に調和した この大地の味!」
立ったまま両手を広げ、崇彰はなおも続ける。
「コーヒーの真髄を余さず抽出した これはまさに珠玉の一杯!」

「な…」「何…と!」
思わず驚愕する海坊主の両の手を、崇彰がガッと引っ張った。
「こんな所で これほどの奇跡のコーヒーに出会えようとは!」

「まさにここは れた都会のオアシスです!」崇彰は、そのまま海坊主の手を取って言った。
「あんたこそ! ここまでコーヒーの味が判る人物がいようとは!」と、海坊主は感激した。

「そして あなたはまさにコーヒーのたくみっ!」崇彰の目から、ぶわっと涙が溢れ出た。
海坊主もすっかり感極まり、二人は向き合って、滝のように涙を流すのであった。

その様子を見る信宏は、頭の後ろにひとり汗を浮かべた。
「な… 何なんだ…」

「くんっ」「くんくんっ」
そこでまた崇彰の鼻が、漂う湯気の香りを捉えた。
「おや… そっちのサイホンは…」と、信宏の沸かすコーヒーに視線を向ける崇彰。
「な… 何スか?」信宏は、ギクッとなって身構えた。

崇彰は目を閉じつつ、信宏のサイフォンにフンフンと鼻を近づかせた。
そして残念そうに、ハの字にその眉を寄せた。
「惜し〜〜い 君はまだ もう一歩だね」
「ちょ… 飲みもしないで何が…」

怒って反論する信宏の肩を、前から掴む崇彰。
「だが君には素晴らしい師匠 コーヒーの匠がついている! 精進すれば必ず結果は出る この僕が保証するよ!」

海坊主はその向こうで、涙を流した格好のままオーラを放出していた。

「……」と言葉を失う信宏を、崇彰はキラリと光る笑みで励ました。
「頑張って!」

信宏は表情を歪め、イラッと顔に青筋を浮かべるのであった。


「アシャン 朝食のあと キャッツアイに行くんだろ?」
リョウのアパート。

「え… こんなに早く……?」
「あの御曹司 もう目を覚ましてるだろう」
カウンターで並んで食事をとりながら、リョウは香瑩に言った。

「ああやってまで会いに来てくれたんだろ? おまえに」と、朝食を口一杯に頬張るリョウ。
「それは …そうだけど…」
「その努力に 少しは応えるのは礼儀ってもんだ」

「……」
香瑩はフォークを持つ手をしばし休め、横でコーヒーを飲むリョウに「そう…だね」と、返事をした。
かすかに明るい顔になる香瑩。


「あ〜もう すっげぇイラっとくるぅ! (あのバカ曹司ッ!)
信宏は悔しそうに言い、拳を握り締めていた。
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週刊コミックバンチ第10号(2月19日号)p.55-p.71 掲載分 Total:17p
2010.02.05
御曹司の根性が、香瑩の心を動かした!?

☆予告☆ なし
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※キャッチと予告は本誌より。
ver.100205
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