逃がさないわよ…!
◆第159話【私、恋してます!】 |
「それでは また明日 この時間にお会いしましょう」
“NEWS600”で、朋美がニコリと笑みを浮かべた。
モニターを注視していた番組のスタッフたちは、それを見てハッとなる。
「な……今? かすかに笑った…朋美女史?」
「え…… ええ…」
「嘘だろォ……」
「でも…… 彼女 最近明るくなったっていうか 機嫌がいいっていうか ……変わってません?」
「おつかれ〜〜〜」
「おつかれさま〜〜」
番組の終わったスタジオに響き始める、収録スタッフたちの声。
朋美は「♪」と軽く手を上げ、原稿台を離れていく。
「う〜〜む…… どういう心境の変化だ?」
「おつかれさま〜〜」微笑んで皆に挨拶をすると、朋美はすぐに携帯電話を取り出した。
ピ・・・、ピピ…ピッと、スタジオの隅で携帯のボタンを押し始める朋美。
そんな彼女の様子を見た女性スタッフが、朋美に声をかけながら近付いていった。
「どうしたんです? 朝倉さん 何かいい事でも あったんですか?」
「え……? ううん 別に何も」
「そうですかぁ〜〜 まるでいい人に電話かけてるみたいですよぉ」と、女性スタッフは朋美の顔を覗き込む。
「何 言ってるの そんなんじゃ………」
そう返事をする朋美の耳元で、その時、電話が繋がった。
「こちら 留守番電話サービスです」
「新しいメッセージは お預かりしておりません」
「………」
それを聞いた朋美は、携帯電話に向けてム・・ッと顔をしかめた。
「あいつぅ〜〜 今日は かけてこない気…?」
女性スタッフは、クスッと口をおさえて笑う。
「ホントに 恋人からの連絡待ちしてるみたいに見えますよぉ」彼女はそう言いながら、朋美のそばを離れていった。
黙ったまま、その場に取り残される朋美。
「もう! 毎日 電話するって言ったくせに! ちゃんとかけてきたの 最初の一週間だけじゃない!」
テレビ局を出て、朋美は一人で帰っていく。
「ホントにいい加減なヤツね! こんなに人をイライラさせといて〜〜!」
……?
そうよ 私 何こんなに苛ついてるんだろ……?
朋美は夜道を歩きつつも、しばらく考える素振りを見せるのだった。
恋人からの連絡待ちしてるみたい……!
先程の女性スタッフの言葉が、朋美の頭の中で繰り返される。
まさか……私………
☆
喫茶キャッツアイ。
プルルルルと、電話の着信音が鳴る。
プルルル
リョウは携帯電話を取り出し、ディスプレイを確認した。
「おっ 朋ちゃんからだ!」
ピッと電話に出る、笑顔のリョウ。
「冴羽さん… 朋ちゃんって まさか……」信宏が、カウンター席の香瑩に聞いた。
「そう 例の女子アナの………」と、リョウの隣で答える香瑩。
カウンターには、絵本を読んでいるミキの姿もあった。
「はい もしもぉ〜し」
「どうして 電話してくれないんですか!?」
突然、電話器から聞こえた大きな声に、リョウは後ろにひっくり返った。
「あ…ああ ゴメン… ちょっと たてこんでて……」苦笑しながら言うリョウ。
「あんな有名人と ホントにつきあってるの? 冴羽さん」信宏は、続けて香瑩に聞く。
「さぁね〜〜 どうなんだかね〜〜(ウチの のやることは…)」
「フン いつまでも女と女の間をフラフラと…あのケツの軽さは一種の病気だな」と、そこで海坊主が口を挟んだ。
「罰として 今夜 会ってください 話があるんです」朋美は、電話で切り出した。
「罰ぅ〜〜?」
「OK いいよ 先日行った バー・キリエでどうだい?」
そうリョウが話すのを、横で「………」と冷ややかに見つめる香瑩。
ホントよね〜〜
問題ありだよねぇ……
リョウ の女の人との つきあい方って……
キリエ……か
頬杖をつく香瑩は心の中で思い、それからフッと、微かな笑みを浮かべた。
☆
“BAR Kyrie”。
「――遅かったですね……」
「18分の遅刻です!」と、朋美。
「ゴメンゴメン あっちこっち声かけられちゃってさ〜〜(オレ 顔広くってさぁ〜)」リョウは頭の後ろに手をやり、カウンター席の朋美に謝った。
「………」
「いらっしゃいませ」リョウに、おしぼりが差し出された。
リョウはすかさず、それを出してくれた女性バーテンダーの顔を見上げた。
「いつもので よろしいでしょうか? 冴羽さん」
そう笑顔を見せる女性バーテンダーは、何と香瑩であった。
リョウは、ガッタンンと、椅子からひっくり返る。
香瑩の隣で、信は苦笑いを浮かべるばかりだ。
「どうかしたんですか?」朋美は、心配そうにリョウに言った。
「い…… いや 別に…」と、カウンターに突っ伏すリョウ。
香瑩は、黙って成り行きを見守っている。
「――― 何だい 話って?」
並べられた酒を前に、リョウは朋美に問い掛けた。
「………いきなり 本題ですか?」と、朋美。
「え…?」
「元気か? とか 仕事の調子は? とか……」
「私の事 気にしてくださらないんですか?」朋美は、続けて言う。
「ですよね〜〜 そういう気遣いできない男って ダメですよね〜〜」そこに香瑩が、わざとらしく話に相槌を入れた。
リョウは汗を滲ませるが、香瑩はソッポをむいて知らん振りをする。
「そういうわけじゃないさ ただ……」と、朋美に弁解しようとするリョウ。
「冴羽さん 今日 お呼びしたのは…… 私………」朋美は、意を決したように話を始めた。
プルルルッ
その途端に、リョウの携帯電話が、懐で鳴り出した。
「ちょい失礼…… もしもぉし」
タイミングを逸した朋美は、頭の後ろに汗を浮かべた。
「うん 久しぶり……え? そぉ〜んな事ないさ ……ホント」
リョウの電話は、なかなか終わる気配がない。
「うん…うん……そうそう……あたり」
「ははは…… うんうん… わかってるね〜」
朋美と香瑩は、「………」と、目を点にした。
「OK わかったよ じゃ またね〜〜〜」
リョウは電話を切り、朋美の方に向き直った。
「悪い悪い で? 何の話だっけ?」
「………」と、呆れ顔をする朋美。
香瑩も、はぁ…と、ため息をつく。
「冴羽さん…… 私 最近とても変なんです……」朋美は下を向きながら、再び話を始めた。
「変?」と、聞き返すリョウ。
「私…あなたから電話がないと ……その…一日中イライラ……」
プルルルル
そこでまたもや、リョウの携帯電話が、けたたましく鳴り出した。
「おっと 失礼」
ピッと電話に出るリョウ。
「はいはい リョウちゃんだよぉ〜〜」
「うんうん… そりゃひどいな……うん」と、リョウは電話の相手に向かって話す。
「ガツーンといくんだよ そういう時は ……うん うん…… そうさ」
「よし その調子だ……」
香瑩は後ろを向いて呆れ果て、片手で頭を抱えた。
うつむく朋美は、苛立ちに体をプルプル・・・と打ち震わせている。
「何度もゴメン ……で 何だって?」リョウは苦笑しながらピッと電話を切り、また朋美の方を向いた。
「イライラするんです 電話がないと!」大きな声を出す朋美。
リョウはその迫力に驚き、両目を点にするのだった。
「電話…? 誰からの」
「だからぁ あなたからの毎日の電話! 私の話 聞いてないんですかぁ!?」
「聞いてる 聞いてる それで?」と、また苦笑するリョウ。
「だからぁ それで気づいたんです 私 あなたを……」朋美は、リョウの方に身を乗り出して言った。
プルルルッ
その時、リョウの電話がまた鳴った。
「あ… ゴメン」
朋美の中で、ついに何かがブチッと切れた。
「は〜〜い もしもぉ〜〜」
と、応答するリョウの携帯電話を、手からバッと奪い取る朋美。
朋美はその電話器を、折り畳みのヒンジ部分からバキィと真っ二つに折ってしまった。
驚愕の表情で、ハッとするリョウ。
「私 あなたに恋してます!!」朋美は、リョウに向かって声を張り上げた。
そこにいる一同は、呆気に取られたように固まる。
「私を口説き落とすって 言ってましたよね! 私 落とされました! つきあって下さい!!」なおも続けて言う朋美。
リョウは、「あ……」と、声を絞り出した。
朋美は顔を紅潮させ、思い詰めたような表情である。
「ああ……」
目を白黒させながらリョウが答えると、朋美の表情がパァーっと明るくなった。
「勢いに押されて 返事しちゃったな‥‥ι」と、心の中で呟く香瑩。
呆然となるリョウの頭には、極楽トンボが降ってきた。
「じゃあ もう 女専用いらないわね 捨てて下さい」リョウの壊れた携帯電話を、朋美は香瑩に差し出した。
「はい かしこまりました!」と、すかさず香瑩がそれを受け取る。
「!!」リョウは、はッとなって、そこで我に返った。
ポイッと、ゴミ入れに捨てられる携帯電話。
「あ〜〜〜 俺の486人の もっこりちゃんメモリ〜〜」カウンターから身を乗り出し、リョウは奥を覗き込んだ。
「はい! これあげる」そんなリョウに、朋美が別の携帯電話を取り出した。
「私専用携帯よ(はぁと)」と、リョウの手にそれを握らせる朋美。
「私以外の女のメモリーはしない事!」
「いつも話せるように 電源は必ず入れておく事!」
リョウは、頭の後ろに汗を浮かべた。
「GPS機能付きだから 離れてても お互いの居場所がわかり合えるの! ステキでしょ!」朋美は、付け加えて言った。
あ…… それいい!
私も利用させてもらお〜っと!
「その手があったか!」と、密かにほくそ笑むのは香瑩である。
リョウは目を点にしたまま、すっかり何も言えなくなっていた。
「それで あなたの本当の仕事は何?」朋美は、手帳を広げてリョウに質問を始めた。
「へ……?」
「いつも 質問しても はぐらかしてばかりだったけど 私の恋人になった以上 全てを知りたいの! 教えて!」
「え…… え〜〜〜と そのォ〜〜」と、返答に詰まるリョウ。
「ふ……風俗ライター………(‥‥かな?)」
う〜〜ん 半分 本当かも……
リョウの言葉を聞き、苦笑いしつつ思う香瑩。
「ダメよぉ もっとまともな職につかなきゃ! そうか 携帯の女の子のメモリーは取材ネタの子たち?」朋美は、言った。
「そうそう だから あれは 俺にとって必要な……」
「もう必要ないわ 私が もっといい仕事 紹介してあげるから」と、朋美は手帳に何やら書き込む。
「へ……」顔色を失くすリョウ。
「やっぱりジャーナル関係がいいよね?」
「はぁ…ι」
「今の年収は? それ以上の仕事 探すから」
「そうそう 住んでる所はどこ? ちゃんとしたとこに住んでる? 環境は悪くない?」
「料理や掃除してる? 私がやってあげようか?」
「あ……」
質問攻めに合うリョウは、言葉を失っていた。
香瑩はカウンターの下でお腹をかかえ、「くっくくっ」と笑いをこらえるのに必死だった。
「あ… あ〜〜その ちょっとトイレ」リョウはたまらず、席をガタと立ち上がった。
そして、そのままよろよろ・・・と奥に歩いていく。
リョウがトイレのドアの向こうにパタンと消えると、朋美は香瑩に声をかけた。
「……ねぇ ちょっといいかしら?」
「はい… 何か?」
「あなた 彼の事 詳しい? ぶっちゃけ 他につきあってる女とか いない?」
「そ そうですね〜 見た目いい加減そうですし 女友達も多い様ですけど……… つきあってる女はいないみたいですよ」
「でも あの人 糸の切れた凧みたいな人だから ちゃんと手綱を引く人が必要じゃないかな……と」香瑩は、答えて言った。
「じゃあ 私みたいなタイプ ピッタリじゃない?」と、朋美。
「はぁ……」
「でも… 彼のどこが気に入ったんです? 有名人のあなたが……」逆に質問する香瑩。
「さぁ… どこだろ でも興味があるの 彼の事が知りたくて知りたくて仕方がない ……これって恋でしょ?」
「……ι」
トイレの中で聞き耳を立てるリョウは、汗を滲ませて絶句していた。
「何 焚きつける様な事 言ってんだぁ アシャンのヤツ〜 何か狙いでもあんのかよぉ〜」
やがて店を出た朋美とリョウは、路上で挨拶を交わした。
「じゃっ また電話してね!」
人さし指と中指を揃え、それを敬礼のようにピッと額にあてる朋美。
「ああ…… 必ず……」引き攣らせた笑みを浮かべるリョウは、軽く手を上げ、彼女に応えた。
「だめよ ホラ あなたも "コレ"するのよ!」と、朋美は、額にあてた手を強調する。
「?……??」訳がわからず、背を丸めるリョウ。
「これ 私たち二人だけの 秘密の合図よ!」朋美は、説明した。
「私たち つきあい始めたばかりだし まだキスはなし! だから今は二人だけの合図の共有」そう言って、朋美は笑った。
「ねっ(はぁと)」
「(ねっ…て‥…)そんなキャラだったの…」リョウは、呆然とした。
「………」そんな二人のやり取りを、香瑩は物陰から黙って窺った。
香瑩はバーテンダー姿のまま、上にコートを着て外に出てきていたのだ。
「ほら やってよ〜」と、笑ってリョウの手を掴む朋美。
「や… やれったって……(そんな この年でι)」リョウは、戸惑いを見せる。
「じゃ お休み(はぁと)」「リョウ(はぁと)」朋美はウインクをしながらポーズを決めると、満足そうな笑顔で去っていくのだった。
「お休み〜……」と、リョウ。
「♪」
「ちゃんとした恋人がいないから リョウ フラフラしてるのかな…… ああいう人が ちゃんと側にいた方が をコントロールしてくれるのかな…」と、朋美の去っていくのを見ながら、香瑩は考えた。
「娘としては 彼女に積極的に協力すべきなのかなぁ……でも…」呟く香瑩。
「は……ははは… (何やってんだろ‥‥オレ‥‥)」
リョウは朋美とお揃いのポーズをしながら、苦笑して立ち尽くしている。
そんな彼の姿に、香瑩は頭に汗を浮かべ、腕組みをして考え込んだ。
「う〜〜ん… でも‥‥ あのポーズはビミョ〜〜にムカツク!」
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| 週刊コミックバンチ第8号(2月4日号)p.7-p.23 掲載分 Total:17p |
| 2005.01.21 |
リョウもたじろぐ朋美の恋はまだまだ始まったばかり…!?
☆予告☆ 次号、気分はもう恋人!?朋美がリョウの元に連れてきた人物とは!? (欄外予告)気分はもう恋人…!?朋美がリョウに連れてきた人物とは!! |