猫と暮らした日々
1998.03.12作成
学生時代の頃、京都市伏見区は伏見稲荷大社そばのアパートに住んでいた。

冷房もなかったので春から秋にかけて、部屋にいるときには入り口をあけていることが多かった。

アパートの同じ棟に猫を飼っている家庭があったが、開けっ放しの玄関から猫が入り込んできても特に悪さをするわけではなし、全然気にしなかったし、たまには餌をあげたりもしていた。

そんなある初夏のこと、おなじみの猫たちがやたら私の部屋に出入りするようになった。

遊びに来るという程度ではなく、頻繁に出入りする。ちょっと変だと思いつつ、ベッドの横のちょっと開いていた押し入れの襖を閉めたのであった。

さて猫たちの行動はさらに異常になった。三毛猫と虎猫の二匹が私の部屋の中まで入ってきて、恨めしそうに私の顔を見たあげくに「にゃあ」と吠える。

餌を与えてみると確かにおいしそうに食べるのだが、食べたあともまったく恨めしそうな態度がまったくあらたまらない。

こいつら「何かをわたしに訴えたいのだな」と思いつつもあまりの図々しさ、うるささに気味が悪くなって二匹を追い出した末、玄関の入り口まで閉めて彼らを締め出すことにした。

 

さて数日後、机に向かっていると後ろのほうでか弱い猫の鳴き声のような音が聞こえる。

猫は追い出したし、部屋の中にいないはず。ベッドの下にもいないので「気のせいか?」と思ってしばらくするとまた「みゃあ」と聞こえてくる。

いや、確かになにかが部屋の中にいる。

「みゃあ」...この鳴き声は...押し入れの中だ!

と押し入れの中を除いてみると、なんと人間の指の大きさほどの猫のような生き物が三匹、段ボール箱の中で弱々しくもがいているではないか。

両親はあの二匹の夫婦猫に間違いない。面白いことに虎、三毛、白と三匹とも気の色が違っている。私が押し入れの襖を閉めてからの数日間、親と断絶されてで暗やみの中で飲まず食わずだったに違いない。しかし、幸いなことに三匹とも比較的元気だった。

さっそく玄関の扉を開けるとあいかわらず親猫が玄関の外にたむろしていて、開けたとたんに恨めしそうな表情で私の顔をじっと見つめる。

玄関まで招き入れて彼らの子供を一匹づつ母猫の前に置いてあげると口にくわえて連れていったのだった。

よかったよかった。子猫たちが押し入れの中で死んでいたら猫に祟られるところだった。

かくして、私はかろうじて三匹の子猫の命の恩人となった。

あの子猫たちはまだ健在だろうか?恩返しに来ないかな。

といっても彼らを危機に陥れたのも私だし。私の部屋の押し入れに勝手に子供を産んだ親猫たちの責任もある。


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