肖像画
1999.04.22作成
実は私はイラストも書く。
本当に難しいと思うのは人の顔を描くときで、自分で満足したい、あるいは芸術として描くのであれば本人の顔に似ている必要はない。ただ悲しいのはモデルになってくれた人や周りの人に見せなければならないと言うことで、そういう人たちは描いた人の満足度などは知ったことじゃない。しかもほとんどの人はいい絵かどうかを判断する能力が無い、というか、こと人の顔の絵についてはそういう判断をするつもりがそもそもなくて、ただ「似ている、似ていない」という非芸術的な理由だけで描いた絵を判断されてしまう。
私は似顔絵を描いているわけじゃないんだし、似てようが似ていまいがそんなことは関係ないのだ、と思っても描く限りは「絵が上手」と認めてもらいたいのでついつい本人に似た絵を描こうと一生懸命努力してしまう。
描いた人なら解ることだが、特にリアルな人の顔を描いて、しかもモデルの顔に似せて描くことは至難の技だ。
試しに写真をスキャンしたものをなぞって絵を描いてみるとよい。
そこまでやっても、まずモデルに似た顔にはならないのだ。
この原因は「人の顔が難しい」のではなく、我々の脳が人の顔を区別するための特別な仕組みを持っているためだ。
そもそも「似ている、似ていない」はこの脳の仕組みによるもの。それが証拠に手のデッサンを見て「うまい、下手」と言う人はいるが「似ている、似ていない」という人はいない。これは我々が脳の中で使用しているシステムが「手」の場合と「顔」の場合では異なるからだ。
最近わかってきたことは、脳の仕組みは我々が想像する以上に複雑だということだ。「似ている」とか「動いている」とか言う現象をとらえるシステムは、全部目ではなく、脳の機能で、しかもすべて別々のものらしい。
とすると、我々の脳の中に、システム的にそういう仕組みがないと我々の脳では認識できない現象があるのかも知れない。
「遺伝子工学」「脳生理学」「動物行動学」とかこういう最近の科学の成果からは文系の人間であれ誰であれ、本当に目が離せない。哲学、社会、芸術、あらゆる分野のわからなかったことが、今、これらの科学によって明らかにされつつあるのだから...
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