職場ファシズム
1999.07.21作成

銀行という職場はつらい職場で、特にシステム部門はすさまじく、私が在籍した頃も、カットオーバー(開発したシステムを本番の実務で稼働させること)時期には、当日中にまずは帰宅できない(つまり夜の12時は確実にすぎるということ)という状況が永らく続いたものだ。もちろん職場(システムセンター)に泊まることも日常茶飯事だった。

上には上がいるもので、なんと3カ月間センターに泊まったまま家に帰宅できなかった人がいた。

3カ月間日曜日も休まずに泊まりっぱなしで働き続ける...という状況を、普通はどう評価するものだろう。
通常、一日の労働時間が10時間を越えれば十分「劣悪な」労働環境と呼ばれることになるが、職場に泊まり込みで仕事をしていれば一日の労働時間は12時間では済まない。
労働法違反であることはまず間違いないし、人間として許される状況ではない。
しかもここは世界でも豊かな国の一つ、日本なのだ。

ところが、ある日、ある部全体の会合の場でのこと、システム開発部長が総勢数百名のシステム開発部員を前にして...

「XXくんは3カ月間センターに泊まりっぱなしで、家に帰宅できなかったそうです。本当によく頑張ってくれました。皆さん拍手してください。」

つまりここでは「3カ月間センターに泊まりっぱなし」という人殺し同然の話が、美談として語られているわけだ。美談として褒めたたえる部長の頭もどうかしているし、その話に思わず拍手している自分に何の疑問も抱かない部下たちもクレイジーだ。職場全体がどうかしてしまっていて、まったく抑制がきかない状況になってしまっている。

もしこの狂気の職場の中で、かろうじて理性を保っている人がいて「劣悪な労働条件を改善せよ!」と至極もっともなことを主張しようものなら、たちまち「非国民」(日本)なり「反革命分子」(中国)というレッテルをはられてしまうのは必至だ。

こういうのをファシズムと呼ばずして何と呼ぼう。
ファシズムは遠い昔、あるいは知らない国の話ではなく、身近なところに息づいている。

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