子猫はなぜ可愛いか?
1999.08.21作成
八ケ岳原村の「樅の木荘」のロビーに、おそらく生後何週間も経っていない、手のひらにのるほど小さく、可愛らしい子猫がいた。
可愛い、可愛い。なんて可愛いのだろう!
人の足に爪をたてて引っ掻くのだけど、爪が柔らかいし、力が弱いので決して痛くはない。それどころか、「小さいから踏み潰されないかな...」とか「自動ドアに挟まれないかな...」とかついつい心配になるし、守ってあげたくなる。
人間も当然そうだが、犬や猫など、特に哺乳類の赤ん坊は本当に可愛い。異常な可愛さといってもいい。
これはたぶん、子を守る、親から守られる、という必要上、赤ん坊や大人に本能的に与えられた資質なのだろうと思う。赤ん坊は可愛く見えるように、あるいは可愛く振る舞うようにプログラムされているし、大人(大人でなくても)も赤ん坊を可愛いと感じるようにプログラムされている、というわけだ。
人間の赤ん坊を狼が育てたという実際の話「狼少年」の例を考えてみよう。
虎やライオンや熊など、本来恐れるべき猛獣の赤ん坊であっても我々人間が「可愛い」、と思ってしまうのと同様、「狼少年」を育てた狼も、無邪気で無抵抗な人間の赤ん坊を「可愛い」と思ってしまって、食い殺すに偲びなくなってしまったのだろう、と私は想像する。
もうひとつ有名な話に、こういうのがある。
鳥の巣の中のひながやたら餌を欲しがってピーピーと騒ぐ理由について話。
ひながあまりに騒ぐと当然蛇やカラスや狐などの外敵に見つかりやすいし、当然狙われやすくなる。親鳥は、ひなに騒がれると困るのでせっせと餌を運んで、とりあえず口を塞いでひなたちが鳴かないように努力する。
つまり、ひなたちは「餌をもってこないと大きな声で騒ぐぞ!僕らが食べられてもいいのか?嫌ならはやく餌をもってこい!」...と騒ぐことで、自分の身を危険にさらしながら親を脅迫しているのだ、という説。
なにぶんこんなことを証明のしようが無いので推定の域をでないのだけれど、困惑したような親鳥の様子を見るにつけ、真実であるような気がする。だいいち、親にやたらと迷惑をかけたり、気を引こうとするのは鳥だけではないのだし...
もちろん、親子の深い愛情を疑うわけではない。が、ヒト同士の「もっとも純粋なかたちの愛=見返りを要求しない無償の愛」といわれる親から子に対する愛情についても、可愛らしく振る舞ったり、親を脅迫したり、という遺伝子レベルでの駆け引きが、確かになされているのである。
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