Saru! Get You!
鈴樹 瑞穂
【註】このお話はプレステのゲーム『サルゲッチュ!』をプレイした後で読んでいただくと一層楽しめます。ゲームメーカーの回し者ではありませんが、大変イカしたお薦めゲームです。

 空は抜けるように青く、風はそよとも吹かず、じっとりと暑い。気怠い夏の昼下がりである。
 何をする気にもなれず、フェイスマンはぐったりとソファに沈んでいた。腹の上には開いたままのペーパーバックが伏せられている。このクソ暑い中、活字を追おうという努力は3分で潰え、うとうとと船を漕いでいる。
 その浅い眠りは、突然勢いよくドアの開いた音で儚く破られた。
「ヤッホー、フェイス!」
 ご機嫌で入ってきたのはH.M.マードック氏。暑さをものともしない彼は元気一杯で、赤いTシャツに膝丈のパンツというお気楽な格好だった。なぜか、右手に柄のついた大きな網を持っている。
「何だよ、モンキー。ここは教えてなかったのに、どうしてわかったんだ?」
 いきなりの乱入に思わずソファからずり落ちたフェイスマンは、キチンと座り直し、眉間に皺を寄せて問いただした。
「わかるさ。このレーダーがあれば。」
 マードックがずいっと差し出したのは、菜箸の先にお椀をつけたシロモノ。これがレーダーだって!? マードックは得意げにソレをぐりぐり回している。
 しかし、この程度のキテレツな言動で疲れるようでは、Aチームのメンバーは務まらない。マードックとのつき合いも長いことだし。
「ふーん。」
 フェイスマンはマードックご自慢の“レーダー”を否定するでもなく、肯定するでもなく、口の端に薄い笑みを貼りつけて、話を先に進めた。
「で、どうしたんだ。1人で病院抜け出してきたりして。」
 マードックはこれでなかなか病院ライフが気に入っている。Aチームの仕事が入った時こそ、あの手この手で抜け出すが――もちろんフェイスマンもその片棒を担いでいる――仕事が終われば、またちゃんと戻っていくくらいだ。
「それがよ、俺っち1人じゃ手に負えないこと頼まれちまって。みんなの手も借りようと思ってやって来たんだわ。」
「何だ、仕事か?」
 バスルームのドアが開いて、入ってきたハンニバルが言う。その口調は心なしか……いや、はっきりと嬉しそうだ。
 あちゃ〜。
 フェイスマンはこっそり後ろを向いて溜息をついた。できればハンニバルには聞かれたくなかったのだ。しばらく平和な日が続いていたのはいいが、御大はこの頃ご退屈であらせられる。それこそ、どんなにくだらない、金にならない仕事でも喜んで引き受けかねないくらい。
 大体、マードックの持ってきた仕事が金になった例はないのだ。ついでにマトモだった例もない。しかし、精神病院で拾ってくる仕事なのだから、仕方がないとも言えよう。
「何でい、みんな揃って。仕事か?」
 玄関から入ってきたコングの一言で、Aチームの今日の予定は決定した。



 Aチームの面々がマードックの案内で着いた所は、ど派手なキャッスル風の建物だった。どんなって? 浦安にあるネズミの国(どうして千葉にあるのに東京と名乗るかね?)のシンデレラ城みたいな感じ。ご丁寧に周囲には堀が張り巡らされ、跳ね橋を渡ると正面ゲートにはこんな看板が。
ポーツマス・サルランド
 LA郊外にあるのにポーツマスとはこれいかに。
 しかし、その謎はすぐに解けた。一行を出迎えた白衣の男がこう名乗ったからだ。
「ようこそ、ポーツマス・サルランドへ。わしゃ、所長のポーツマスターじゃ。」
 ポーツマスター氏は推定年齢75、頭の天辺はハゲていて、両耳の上にわずかにもしゃっとした白髪が残っている。丸くて大きな鼻の下には、やっぱり白い口ヒゲ。絵に描いたような“マンガに出てくる博士”なのであった。因みに声は八奈見乗児ね。出身がポーツマスなのかは、定かではない。
 自己紹介によると、彼は発明家兼サル好きで、日本に旅行した時に見た日光猿軍団に感動し、サルと遊べるテーマパーク“ポーツマス・サルランド”を作った。その上、自ら所長(園長って言わないところが博士体質)までやってしまうツワモノである。
「助手のリンダでーす。」
 赤毛のお下げ娘が元気よく茶を運んできた。推定年齢15、6といったところか。フェイスマンの守備範囲にはちとお子様すぎる。
 すっかり勤労意欲をなくしているフェイスマンに代わって、ハンニバルがポーツマスター氏に尋ねた。
「で、我々に一体どんなことを頼もうっていうんですかね?」
「いや、それが困ったことになってしもうての。」
 ポーツマスター博士、顎ヒゲを撫で撫で、説明し始めた。
「こう見えてもわしゃまだ発明を続けておっての。遂に完成したんじゃ!」
 一瞬の間。
「何が?」
 目をキラキラさせながら聞いたのは、マードックである。
「サイコロジカル(中略)ヘルメット、通称ピポヘルじゃ。潜在能力を引き出すヘルメットなんじゃよ。」
「うっひょ〜すっげー!」
 感心しているのは、もちろんマードック唯1人。
「早くソレ、見せてくれよ!」
「いや、もうここにはない。サルランドの看板スター、グレースがふとした弾みでそれを被ってな。反乱を起こすのだとサルたちを引き連れて、出て行ってしまったのじゃ!」
「グレースって、コレ?」
 フェイスマンが壁にかかった案内プレートを指差す。“おサルの汽車”の先頭で、赤い帽子を被って運転席に収まっている白い小ザルの写真の上に、『運転手のグレース嬢』と書かれている。
「そうよ、元々賢い子ザルだったけど、ピポヘルのお蔭で余計頭がよくなっちゃったみたいなの。こんなとこで運転手なんてしてられるか、サルによる、サルのための世界征服を目指すんだって、今じゃピポヘルをどんどん作って、サルたちに被せてるわ。」
 リンダが深い溜息をつく。
「サルたちは手始めにこのサルランドを制圧し、今やサルランド中でサルの限りを尽くしておる。……そこでじゃ、諸君たちにはサルたちの捕獲、最終的にはグレースを捕まえてほしい。」
「サルを捕まえろだぁ〜?」
 フェイスマンは呆れた口調を隠さなかった。
「ここで奴らを阻止せねば、大変なことになるのじゃ。世界が征服されてしまうぞ。」
 ポーツマスター博士は真剣そのものである。
 フェイスマンが恐る恐る振り返ると、ハンニバルが苦笑しながら頷いた。
「ここまで来たことだし、お引き受けするしかないだろう。」
 えええっ。
「乗りかかった船ってやつだな。」
 フェイスマンの心の叫びをよそに、コングまでもが同意を示す。基本的に彼は小さい子供と動物に寛容である。ハンニバルはただ、面白がっているだけ。
 マードックと来たら、もう大乗り気だ。
「おお、引き受けてくれるか。」
 ポーツマスター博士は嬉しそうにハンニバルの手を取り、ぶんぶん振った。
「じゃ、これを持っていってね。」
 リンダが一同に渡したものは、マードックが持っているのと同じ、柄のついた網であった。
「サルをゲットするのに使ってくれ。ピポヘルの効力を無効にする特殊な材質でできておる。言っておくが、ピポヘルのお蔭でサルたちは相当高い知能を手に入れておる。くれぐれも気をつけて行くんじゃぞ。」
「任しといて! 俺っちそういうの得意だから。」
 マードックが勢いよく胸を叩いて請け負った。



 サルランドの中はパンフレットの地図とはだいぶ様相が違っていた。グレースがサルたちを指図して、いろいろ手を入れたようだ。
「何が楽しくてサルなんて追いかけなきゃ……。」
 ぶつぶつ言いながら歩くフェイスマンの頭を、ハンニバルが押さえて伏せさせる。
「ぶっ……何すん……。」
「しっ、いたぞ。」
 木陰から前方を伺うマードック。ハンニバルとコングも姿勢を低くしている。この辺りの動作は軍隊時代に散々経験しているから、慣れたものだ。
 みんなに倣ってフェイスマンが覗いてみると、岩の上に1匹のサルが座っているのが見えた。サイレンのようなものがついたヘルメットを被り、水色のパンツなどはいている。サルは辺りを警戒するように、時折きょろりと視線を走らせていた。その度に、ヘルメットのランプが青から黄色に変わる。
「変なモン被ってやがるぜ。あれがピポヘルか。」
 コングが囁く。フェイスマンがリンダに渡されたファイルを捲って答える。
「そうみたいだね。資料によると、あのランプの色はサルの心理状態に対応してるらしい。青い時は油断、黄色は警戒、こっちを見つけると赤くなるんだってさ。ホントかな?」
「博士、いたぜ。」
 マードックがトランシーバーに向かって言った。
「おお、早速見つけたか。」
 ポーツマスター博士の声が返ってくる。トランシーバーをマードックから受け取って、ハンニバルが言う。
「ああ、水色のパンツをはいた気の弱そうなヤツだ。この網で捕まえればいいんだな?」
「その通りじゃ。しかし、ピポサルの捕まえ方にもいろいろある。追いかけて捕まえる“追いかけゲッチュ”、ジャンプして網を被せる“飛びつきゲッチュ”、こっそり近づいて油断してるところを捕まえる“忍び寄りゲッチュ”、道具を使ってピポサルを転ばせておいて捕まえる“転ばせゲッチュ”などじゃ。やりやすい方法で捕まえてくれ。」
「道具?」
「あ、俺が持ってる。博士に作ってもらったんだ。」
 マードックが得意げに取り出して見せたのは、パチンコである。
「それから、サルの居場所はサルレーダーで調べてくれ。」
「レーダーって、それか。」
 先ほどの、菜箸の先にお椀をつけた怪しげなレーダーを再びマードックが取り出すのを見て、フェイスマンは大袈裟に肩を竦める。
「そう捨てたもんじゃないぜ。近くにサルがいれば、ちゃんと反応するんだから。」
 マードックが岩の上のピポサルにお椀を向けてスイッチを入れると、確かにレーダーがぶるぶる震えて反応している。
「どういう仕組みだよ!?」
 思わず身を乗り出すフェイスマン。
「そんなこと俺に言われても……ああっ!」
 フェイスマンに胸倉を掴まれて、マードックの手にしていたレーダーがぐりんと回った途端。
 ヒポポポポポ……。四方八方に反応ありまくり。
 この辺はサルの泉だったのか!?
「よし、サルを捕まえるぞ。」
 ハンニバルがリーダーらしくきっぱりと言った。
「各自、自分に適したやり方で作戦を進めること。」
「おう。」
 腕捲くりをするコング。
「任しといて!」
 勇み立つマードック。
「はいはい……トホホ。」
 自棄気味のフェイスマン。
 Aチームは素早く散開し、サル捕獲作戦を開始した。



 Aチームのテーマ曲、流れる。
 水色パンツのサルに後ろから駆け寄るフェイスマン。ピポサルのヘルメットのランプが青から赤に変わる。跳び上がったピポサルが逃げ出す。追うフェイスマン。サル逃げる。フェイスマン追う。サル逃げる、逃げる。サルだけあって速い。フェイスマンも懸命に追う。あ、崖だ。行き止まりだ! 追い詰められたサルに、フェイスマンがニンマリしながら網を振り下ろす。
 広場を歩き回る黒パンツのサルに、コングが匍匐前進でじりじりと近寄っていく。振り返ったサルはサングラスなどかけて、いかにもガラが悪そうだ。手にはマシンガンを持っている。ピポヘルのランプは黄色だ。油断なくサルは辺りを見回している。サルがこっちを向く度、コングは動きを止め、じっといない振りをする。そうして慎重に、少しずつ、少しずつ近づいていく。「キッ!」サルがコングに気づき、鋭い声を上げる。間髪を入れずに、マシンガンを撃ってくる。何て凶暴なサルだ! コングは転がってそれを躱し、サルに向かって飛び込みながら、網を振り回す。
 プールの縁に立つ赤パンツと緑パンツ、2匹のピポサルがいる。木の陰からマードックがパチンコで狙い、赤パンツのサルが転ぶ。すかさず走り寄ったハンニバルが、起き上がりかけたサルに網を被せる。この騒ぎに、緑パンツのサルがプールに飛び込む。「うっひょ〜い!」マードックが奇声を上げながらそれに続く。大きな水飛沫が上がり、画面は水中へ。素晴らしい速さで泳ぐ緑パンツのピポサル。マードックが追い、網を振る。もう少しで捕まえられそうなのに、サルはひょいひょいと、すんでのところで身を躱す。と、思うと、あっと言う間にプールの端まで泳ぎ、ぴょんと水から飛び出す。そうして、水中のマードックに向かって小癪にもロケットランチャーなど撃ってくる。が、得意満面で飛び跳ねているサルに、横から飛んできたものが当たった。ハンニバルが投げたトランシーバーだ。水に落ちたサルを、マードッグが網で掬う。「イェ〜イ!」ハンニバルが挙げた右手を、左手でバチンと弾くマードック。
 Aチームのテーマ曲、終わる。



 マードックがサルレーダーを回しても、お椀は沈黙を守っていた。この辺りのサルは既に取り尽くしてしまったのだ。
「大漁だな。」
 コングが檻に入れたサルの群を親指で指す。
「いい調子だ。」
 ニンマリと満足そうな笑みを浮かべるハンニバル。彼はこの仕事が気に入ったようで、最早すっかり楽しんでいる。
「でも、まだボスのグレースが残ってるぜ。」
 マードックの言葉に、フェイスマンがハハン、と両手を上に挙げる。ここまでが割と順調だったので、彼も気が大きくなっているのだ。
「大したことないね。さっさと片づけよう。」
 フェイスマン的には大きな落ち度だったが、この仕事の報酬についてまだ聞いていないことに、彼は気づいていない。
「で、肝心のそいつはどこにいるんでい。」
 コングが腕組みをして辺りを見回す。
「こいつには反応ないぜ。」
 くりくりとレーダーを回すマードックの肩に、ハンニバルがポン、と手を置いた。
「そいつはもうわかってる。あそこだ!」
 ハンニバルが指差したのは、サルランドで最も高い建物――中央にある塔であった。
「あっ、そーか。高いとこはボスの証だもんな。」
 とマードック。
「そう言や、あの塔はまだ探してなかったな。」
 コングも納得したように頷く。
「えーっ。もう足が疲れちゃったよ。」
 フェイスマンが塔の高さを見上げるようにしてぼやいたが、そう言っても行くしかないのだった。
 そこで、一同はぞろぞろとその塔に向かって歩き出した。



「ひーっ。」
 フェイスマンの悲鳴が響き渡る。続いて何か重いものが落ちる鈍い音。
 落とし穴、壁から飛び出す槍、振り子のように揺れるトゲつき砲丸。更に、乗ると動き出す床。グレースの立て籠もる塔は怪しい仕掛けが一杯だ。
 しかし、Aチームだって伊達に百戦錬磨のツワモノを名乗ってるワケではない。
 ひょいひょいと躱すハンニバル、無言で黙々と躱すコング、喜々として飛び跳ねるマードック。
「こんなとこ、もー嫌っ。」
 フェイスマン1人が嘆きつつ紙一重の差で危機として躱している。(これで今回のお題はクリア? まだ甘いかね?)



 そして、ようやく辿り着いた最上階では、ピポヘルを被った白い子ザルが彼らを待ち受けていたのだった。
「ホーホホホ。ここまで来るとは驚きね、Aチーム!」
 驚いたことに、ピポヘルのお蔭でグレースは一人前に喋れるようになったらしい。しかもその口調は、なぜか一同にエンジェルを思い起こさせた。
「おう、ここまで来てやったぞ。」
 胸を張って進み出るリーダー、ハンニバル。
「かくなる上は、大人しくそのピポヘルを返し、一緒に帰るんだ!」
「嫌よ! 大体あなたたち、何の権利があってわたくしの邪魔をするの!?」
 つんと横を向くグレース。態度だけは一人前だ。
「そうは言ってもなあ、こっちもこれ以上サルの限りを尽くされるわけにも行かないし。」
 腕組みをするマードック。
「ポーツマスター博士も心配してるぞ。」
 人情、いや、サル情に訴えるコング。
「えっ……博士が……。」
 ちょっとうろたえるグレース。何だ、結局帰りたいんじゃん。引っ込みがつかなくなってるだけなのだ。
 そういう時は詐欺師の出番。サルとは言え、一応若いレディだし。
 というわけで、前に押し出されたフェイスマンは、気が進まないながらも説得に乗り出した。
「えーっと、グレース……ちゃん?」
「子供扱いしないで!」
 敵もサルもの、フェイスマンは汗を拭き拭き、口を開く。
「じゃ、グレースさん。君も子供じゃないんなら、わかるだろ。世界征服なんてできっこないよ。せいぜいこのサルランド征服がいいとこだ。それに……。」
 段々調子が出てきたフェイスマン、詐欺師的呼吸で一拍置いて、言葉を続ける。
「征服なんかしてもいいことないだろ? 楽しかったかい? それより、君を待ってる人の所に帰る方が(以下略)。」
 延々と続くフェイスマンの説得。こうなると長い。ハンニバルは葉巻に火を点け、コングは手頃な場所を探して座り込み、マードックに至っては居眠りを始めた。



 3時間23分後。
「わかったわ。そんなに言うなら帰って差し上げてもよろしくってよ。」
 遂に折れたグレース嬢に、フェイスマンがホッとした時。徐ろに後ろからハンニバルが網を被せたのであった。グレース嬢と、すぐ前にいたフェイスマン、一緒くた、に。



 夏の空は相変わらず抜けるように青く、雲1つない。
“ポーツマス・サルランド”は今日も夏休みのチビっ子たちで賑わっている。ホスト役を務めるのは色取り取りのパンツをはいたサルたちだが、もちろんヘルメットは被っていない。
 一番人気は“おサルの汽車”の運転手を務める、白い子ザルのグレース嬢。そして、なぜか、その横で紺色のお仕着せを着て車掌を務めるフェイスマン。
「いやあ、なかなか似合っているじゃないか。」
 今日は客としてやって来たAチームの残りの3人が、汽車に乗り込みながら、にやにやと声をかける。
「ホント、帰ってくれるなら夏中一緒に汽車の仕事をしてもいいからなんて、まあよくも言ったもんだよ。俺っち、感動しちゃったぜ。」
「男に二言はねえよな。」
 そう、説得しているうちに、調子に乗ってそんなことまで口走っていたフェイスマンなのである。そしてその殺し文句が、彼女のハートをがっしりと掴んだことは言うまでもない。
 からかい口調の3人に抗議してか、グレース嬢がフェイスマンの肩に飛び乗って、威嚇の表情をする。
「おお怖い、怖い。それじゃ邪魔者は早々に退散することにしようかね。仲よきことは美しき哉。」
 仰々しく肩を竦めて立ち去るハンニバル他2名。
「あ、ちょっと、待ってよ。」
 フェイスマンが伸ばした手は虚しく宙を掴む。グレース嬢がいきなり汽車を緊急発進させたからだ。
「トホホ……俺の夏休み……美女を揃えてプールサイドでのんびりするっていうバカンスの夢が……。」
 フェイスマンの嘆きが青い空に消えていく。それを遮るように汽笛が響き渡った。
【おしまい】
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