洗濯ばさみ工場を救え!「超強力ピンチくん」誕生秘話
鈴樹 瑞穂
 パッキーン。
 乾いた音が響き渡った。
 ここはロスにある、とあるアパートの一室。と言っても、今回はさほどゴージャスでも、かと言ってチープでもない、そこそこ平均的な部屋である。
 そのバルコニーに立ち尽くし、手の中のものを呆然と見つめているのは、デニムのエプロン姿の詐欺師だ。因みに、その下は冬用の部屋着。やや大きめのセーターに、コーデュロイのパンツという、気合いの抜けた格好である。
「あ〜あ、まただよ。」
 溜息をつく彼の掌には、ぱっきり壊れた洗濯ばさみが乗っている。ピンチ部分を摘んだ途端、老朽化したプラスチックがばきんと折れたの図である。
 因みに、手にしているものからもおわかりの通り、彼は今、洗濯物を干しているところ。
 家具電化製品完備のこのアパートには、洗濯機はあれど乾燥機はついていない。その理由が、やたらと広くて日当たり良好なルーフバルコニーであることは想像に難くない。何しろ、このバルコニー、シーツ4枚を含む大の男4人×1週間分の洗濯物を干しても、まだ余裕。その上、自動車整備工場でアルバイトをしているコングの作業服と、アクアドラゴンの衣装だって干せちゃうのだ。
 そういうわけで、フェイスマンはこのアパートに来てから、詐欺師稼業よりも優先させるくらい、洗濯に気合いを入れている。
 本人は、やっぱり日に当てた服は気持ちよく着られるしね、なんて言っているけれど、そして、その意見にはコングもマードックも、もちろんハンニバル氏も異論はないのだけれど。実のところは単なる洗濯好き、という線で、一同の意見は一致している。何にしても、便利な趣味には違いない。うちにも来てほしいくらいだ。
 しかし、そんなフェイスマンの洗濯活動を阻む最大の要因が、この洗濯ばさみだった。問題の洗濯ばさみは無造作にプラスティックの籠に入れられて、物干し台に下げられている。
 最初から備えつけられていた洗濯ばさみが老朽化しているのは仕方がないにしても。買ってきたばかりの洗濯ばさみまでも、こうどんどんあっと言う間に老朽化して、摘んだ途端にぱっきりいくのはいかがなものか。多少、保存方法がぞんざいであるのは否めないが、もっと、こう、洗濯ばさみ根性を見せてほしいものだ。
「やっぱり100円ショップで買ってきたのがいけなかったのかなぁ。でも、スーパーで買うと結構高いんだよなあ、洗濯ばさみ。」
 ぶつぶつ言いながらも、マシそうな洗濯ばさみを選んでは洗濯物を干していくフェイスマン。ぱっきりいった洗濯ばさみは、仕方ないので、エプロンのポケットに入れる。あとで燃えないゴミに出さなくてはならない。
 そんな時、ホイッスルの音が響き渡った。最近、ハンニバルが愛用している連絡手段だ。
 そして、この吹き方は……仕事だ!
「みんな揃ったかー? 何してる、フェイス。」
 御大はこの頃、年のせいか気が短い。
 フェイスマンはリビングに向かって怒鳴った。
「すぐ行くよ、この洗濯物干したらね!」



 一番最後にリビングに集合したフェイスマンは、着替えどころかエプロンを外す暇も与えられず、バンに押し込まれた。
「何、そんなに急ぎの仕事なわけ?」
 狭いバンの中でもそもそとエプロンを外しながら、フェイスマンが尋ねる。
「ああ、えらく困ってるって言うからよ。早く何とかしてやりてえんだ。」
 今回、依頼人とコンタクトを取ったのはコングである。と言うより、コングが働いている自動車整備工場の客が困っているのを見かねて、Aチームが乗り出したと言う方が正しい。
 その点で、フェイスマンとしては事前に謝礼の交渉が成立したのかどうか、非常に気になっていたが、先方に着いたらまず自分が交渉しようと思い直して追及するのをやめた。
 代わりに仕事の内容について聞くことにする。難易度によって、行くまでに簡単な見積もりは出しておかないとね。
「で、どんな仕事?」
「わぁーお。お宝がざっくざく! さっすがフェイス。いいもん溜め込んでるね。」
 ハンニバルが答える前に、マードックが歓声を上げた。
 マードックはいつの間にかフェイスマンが脱ぎ捨てたエプロンを身につけ、ポケットの中を検分していたのである。革ジャンの上からデニムのエプロンをつけた姿は、正にDIYセンターのお兄ちゃん。そして、摘み出した壊れた洗濯ばさみを、無理矢理ピンチをこじ開けてはあちこちにつけている。
「それ、ゴミだぞ。」
 フェイスマンは顔を顰めたが、どうやらマードックにとってはお宝アクセサリーらしい。まあ、マードックの思い込みにしては、害のない方か。
 ところが、珍しくハンニバルが、笑いながらもきっぱりと言った。
「そりゃカッコいいな。だが、今回は外しとけ、モンキー。」
「何で?」
 思わずマードックより先に尋ねてしまうフェイスマン。マードックの奇行にコングやフェイスマンが物申すことはあっても、この鷹揚なリーダーが文句をつけることなど滅多にない。
「今回の依頼人ってのが、洗濯ばさみ工場のオーナーなんでい。」
 ハンドルを握るコングの端的な答えに、フェイスマンは納得した。
「ああ、そりゃマズイわ。外しとけ、モンキー。ソレ、お前にやるからさ。」
 どうせ捨てる物でさり気なく恩を売る辺りが詐欺師である。
「で、洗濯ばさみ工場のオーナーが困ってるって、どんなことさ?」
「それなんだが、タチの悪い同業者に妨害されてるらしい。」
「ふーん。よくある話だねぇ。」
 ハンニバルの説明に、いかにも気乗りしない風情で腕を組むフェイスマン。だが、その後にコングが言った。
「何でも、機械を壊されたり、原料を奪われたりしてるって話だ。何とか操業は続けてるが、これじゃすぐ壊れるような洗濯ばさみしか作れねえって泣いてたぜ。」
「何だって?」
 ピカーン!
 フェイスマンの目が光る。自分の利害に絡む事態が発覚すると光る、その名も詐欺師センサーである。
「そんなだから100円ショップにすぐ壊れる洗濯ばさみしか並ばないんだ! そんな横暴、許しておけるか!」
 義憤(?)に駆られ、急速にやる気を見せるフェイスマン。素よりやる気のコングは満足げに頷き、ハンニバルは肩を竦め、マードックと言えば、壊れた洗濯ばさみを外すのに悪戦苦闘していた。だって摘みが折れてるから。



 バンを走らせること30分、小さな町工場に着いたAチーム。この傾きかけたトタン屋根の平屋が、依頼人、ハッシュビルの洗濯ばさみ工場である。出迎えたハッシュビル氏は中肉中背、推定35歳といったところ。頬はつやつやしているが、ブロンドの額が後退しかかっている辺りがいまいち年齢不詳な雰囲気を醸し出している。しかし、顔の造作は悪くないし、深緑の瞳も女心を擽るだろう。
(キャラ被ってんじゃん。)
 ちょっと面白くないフェイスマン。しかし、
(総合的に見れば、俺の方がポイント高いよな。)
 と、秘かに胸を撫で下ろす。なぜなら、このハッシュビル氏、前述の通り素材は悪くないのだが、どうにも元気がないと言うか、覇気のない表情をしていたからである。
「よく来て下さいました、コングさん、それに皆さん。」
「いや、困ってるのを放っとけねぇからな。」
 コングが力強くハッシュビルの手を握り返す。
「こんなところで立ち話も何ですから、中へどうぞ。」
 ハッシュビルが一同を案内したのは、工場内の一角に設えてあるテーブルだった。休憩場所なのだろう、小さな流しに、コーヒーメーカーが備えつけてある。ハッシュビルは一同にコーヒーを勧め、自分もカップを手に座った。
「こう言っちゃ何だが、この工場、中はスゴイじゃないか。」
 ぐるりと辺りを見回して、ハンニバルが言った。ハッシュビルは苦笑し、頷く。
「この通り、建物は古くてボロいですが、設備だけは最新のものを揃えてます。何しろ、うちの現場主任はうるさいですからね。ああ、ちょうど来たようです、ご紹介しましょう。」
 ハッシュビルはスタスタと歩いてきた「現場主任」を手招きし、Aチームに引き合わせた。
「妹のチェルシーです。女だてらに整備工をやっていまして……この工場の現場主任でもあります。チェルシー、こちらが……。」
「Aチーム! 本当に来てくれたのね。」
 きらきらと瞳を輝かせて一同を見上げる妙齢の美女。兄と同じブロンドに緑の瞳、メリハリの利いたボディを油汚れのついたツナギに包み、白い頬にも機械油がついているのが妙に色っぽい。多分、本人は気づいていないだろうが。
 ピカーン!
 フェイスマンの詐欺師センサーが光り、コングは彼女が整備工であるというだけで親近感を抱き、ハンニバルも毛色の違った美女に興味を持ったようで、そしてマードックはと言えば、彼女が手にしている洗濯ばさみに目が釘づけになっていた。
「チェルシー、それは?」
 マードックの視線を追ったハッシュビルが、妹の持っている洗濯ばさみを指差して尋ねる。すると、チェルシーは長い睫を伏せて悲しげに答えた。
「壊された機械を何とか直して動かしてみたんだけど……やっぱりダメだわ。強度が出ないの。」
 受け取った洗濯ばさみをハッシュビルが摘むと、呆気なくパキンと折れる。
「これじゃあ使えないな。」
 ハッシュビルも表情を曇らせる。
「あのー、それ、見せてもらえない?」
 マードックが手を出してその洗濯ばさみを受け取る。それを横からひょいとハンニバルが取り上げ、素早く検分する。
「なるほど、プラスチックがモロモロだな。」
「そうなんです。3日前に、マッシュベルに加工機を壊されてしまって。」
「マッシュベル?」
「はい。ご覧の通り、この辺りは小さな町工場が多いんですが、扱っているものは様々でして……その中でも、うちとマッシュベルの工場だけが、洗濯ばさみを作っているんです。」
 ハッシュビルの説明に、フェイスマンが納得して頷いた。
「ふーん。つまり、商売敵っていうわけね。」
「まあ、そうとも言えるんですが……実は販路は全く違うんです。どちらかと言うと、あちらはデパートや雑貨店に置くようなものを作っていますし、うちは100円ショップ向けが専門ですし。」
「100円ショップ向け?」
 思いっきりお世話になっている上、品質に不満があるフェイスマンである。
「ですが、最近は消費者の財布の紐も固くなってきているようで、洗濯ばさみをデパートや雑貨店で買う人は少ないようなんです。」
「なるほど。100円ショップの方が洗濯ばさみが売れるんだな。」
 ハンニバルの言葉に、ハッシュビルが頷く。
「100円ショップ向けと言っても、品質に妥協したつもりはありません。機械こそ最新鋭のものを導入していますが、操業はすべて僕とチェルシーの兄妹2人で賄ってきましたし、チェルシーの提案で材料も見直したり、できる限りのコストダウンを行って、利益を確保していたんです。お蔭で注文も増えてきて、うちの工場もフル稼働で生産していました。それが、マッシュベルには目障りだったようで……。」 
「兄さん。」
 がっくりと肩を落としたハッシュビルの手を、チェルシーが気遣うように取る。彼女は気丈にも涙を堪えた表情でAチームの方に向き直り、切々と訴えた。
「お願いです。マッシュベルの横暴を止めて下さい。奴ら、うちの機械を壊したり、材料を入れてある倉庫に火をつけたり……おまけに、この工場を乗っ取ろうと私に結婚まで迫ってきて……。」
「お任せください!」
 ハンニバルより早く、進み出てチェルシーの手を取るフェイスマン。もちろん、あとの3人も異論はなかった。
「まずは操業を再開できるようにすることだな。」
 リーダーの言葉に、一同は一斉に頷いた。



〈Aチームのテーマ曲、流れる。〉
 チェルシーを手伝って、加工機を修理するコング。壁が焦げた倉庫を補修するハンニバル。どこからか材料を調達してくるフェイスマン。喜々として加工機を操作するマードック。ベルトコンベアが流れ出し、加工されていく洗濯ばさみたち。それを手に取って強度を確かめるハンニバル。御大が頷き、手を打ち合わせてガッツポーズを取るチェルシーとコング。貰い泣きするハッシュビルとフェイスマン。相変わらずデニムのエプロンをつけたままのマードックは、コンベアを流れる洗濯ばさみを取り上げてはポケットに詰め込む。
〈Aチームのテーマ曲、終わる。〉



「すごいわ、コング。私が3日かかっても直せなかったとこがあっと言う間に直っちゃうんですもの!」
 頬を紅潮させて機械を見つめるチェルシー。その横で、コングがぼそりと言う。
「キャリアの差だ。だが、あんたもなかなかの腕だぜ。」
「本当? 私、何とか兄さんの役に立ちたくて……でも他にできることもないし。」
 そこへ、外で見張りをしていたマードックが駆け込んできた。
「来たぜ、オレンジのトラックが。」
「マッシュベルだわ!」
 一瞬にして緊張した面持ちになったハッシュビルとチェルシー。そんな2人を後目に、コーヒーを飲んでいたハンニバルがのんびりと立ち上がる。
「それじゃ、お出迎えに行きますかね。」
「ああ。」
「了解。」
 コングとマードックが後に続き、最後にフェイスマンがチェルシーにウィンクしながら言った。
「君たちはここにいて。すぐに済むから。」



 出迎えたAチームの面々の見守る中、オレンジのトラックから降り立ったマッシュベルは、これまた30代前半の苦み走ったいい男だった。黒髪の量で言えば、ハッシュビルに負けていない。鼻筋も整っているし、薄い唇だって女性にとってはセクシーと言えそうだ。着ているものは白いスーツと、町工場のオーナーにはそぐわないが、まあ似合っていないこともない。取り巻きは屈強な体格の男が5人。
(か、被ってないけど……ちょっと張るかな?)
 フェイスマンの一瞬の杞憂は、けれど、相手がサングラスを取った途端、無駄だったことがわかった。
 なぜなら、マッシュベル青年は、子鹿のバンビ顔負けのぱっちりとつぶらな瞳をしていたからだ。睫だってバシバシ。ストレッチあーんどセパレートって感じで、マスカラつけまくりの女子高生も真っ青。
「何だ、てめえらは。」
 その瞳で凄まれたって怖くないってば。サングラスさえつけてれば、それなりの雰囲気だったのにねえ。
 しかし、そのミスマッチを堂々と無視して切り返せる辺りが、ハンニバルのすごいところ。
「この工場のガードマンといったところだ。悪さをしに来るやんちゃ坊主がいるって言うんでね。」
「うるせえっ。誰がやんちゃ坊主だっ!」
 坊主呼ばわりされたマッシュベル青年は割と可愛らしく癇癪を起こした。
「何だと、てめえ。」
「坊ちゃんに失礼なことを言うな!」
「俺たちが承知しねえぞ。」
 口々にドスの利いた声で脅しをかける屈強な取り巻きたち。その実態は、マッシュベル青年の親衛隊?
 マッシュベル青年がそんな部下たちに命令する。
「おいっ、さっさとこいつら畳んじまえっ!」
「やれやれ……仕方ない。」
 実に楽しげにそう答えるハンニバル。
 そして、乱闘が始まった。



 屈強な部下1をアッパーで沈めるコング。
 屈強な部下2に襟首を掴まれて持ち上げられるも、相手を蹴り上げるフェイスマン。
 屈強な部下3に足払いをかけ、倒れたところに頭突きをかますマードック。
 屈強な部下4と5が左右からコングに襲いかかるが、ひょいと摘み上げられ、火花が出そうな勢いでぶつけ合わされる。
 そして、ハンニバルは、闇雲に突っ込んできたマッシュベル青年をひょいと避け、相手の勢いを利用して投げ飛ばした。



 一度は気絶したマッシュベル青年だが、ハンニバルに襟首を摘み上げられ、いささか乱暴に振り回されて目を開けた。
「さて。状況は把握できたか?」
「……。」
「把握できたら、この証書にサインしてもらおうか。今後一切、このハッシュビル工場に手出しはしませんってな。」
「ついでにこれまでの被害額の補償もね。」
 フェイスマンがにこやかに電卓を叩き、マッシュベル青年の前に突きつける。
「何だと?」
 まだ強がろうとするマッシュベル。
 その鼻を、マードックがエプロンのポケットから取り出した洗濯ばさみで摘み上げる。因みに、これはコングとチェルシーの調整による新作「超強力ピンチくん」である。これなら風の強い日も、厚手のバスタオルだって大丈夫。
「ぶむむむむ。」
 足をばたつかせて暴れるマッシュベル。しかし、頼みの綱の取り巻きたちも、いつの間にかひとまとめにして縄で縛り上げられていた上、ボスと同じ目に遭っている。
 ハンニバルがにこやかに言い放った。
「サインしてくれないと、口もこいつで挟むことになるぞ。」
 外科医のようにハンニバルが出した手に、助手よろしく洗濯ばさみを乗せるマードック。
「!」
 そんなことをされたら、本当に息ができなくなってしまう。
 がっくりと肩を落としたマッシュベルは頷いた。
「ばがっだ……ざびぶじびょぶ……。」(訳・わかった……サインしよう……。)



「本当に、あなた方は僕たち兄妹の命の恩人です。あのままでは、路頭に迷っていました。」
「マッシュベルの横暴を止めていただいたばかりか、機械の整備まで手伝っていただいて。」
「お蔭で、前以上に質のよい洗濯ばさみを出荷できます。」
 口々にお礼を言うハッシュビルとチェルシー。
「なあに、いいってことよ。困った時はお互い様だ。」
 機械の整備を手伝ったコングが言う。コング的には、今回の仕事は楽しいものであったらしい。
 ハンニバルも久々に暴れられて満足そうだし、マードックはどんな仕事でもいつも楽しんでいるので問題なし。
 もちろん、フェイスマンも美女の窮地を救えて大満足である。感謝の眼差しを向けてくる彼女の手を、食事くらいは誘っていいかな、と取ろうとした時。
「これで僕たちも晴れて一緒になれます。」
 のほほんとハッシュビルの爆弾発言が。
「まあ、兄さん……!」
 頬を染めつつも嬉しさを隠さないチェルシー。
「あの……一緒にって……兄妹じゃなかったっけ……?」
 尋ねずにはいられないフェイスマン。
「兄妹ですが、血はつながっていないんです。チェルシーは父の後妻の連れ子ですから。」
 あっさり答えるハッシュビル。ショックを隠せないフェイスマンに全く気づいていない辺り、大物かもしれない。
「それで、あの、謝礼なんですけど。」
 ハッシュビルがハンニバルに言い難そうに切り出す。
「ああ、それはいつでも構わんよ。今は工場の設備投資にも費用がかかるだろう。そのうち、利益が回収できるようになったら、少しずつでも払ってくれればいい。」
 フェイスマンが呆けているのをいいことに、ハンニバルはそんな鷹揚なことを言っている。
「ありがとうございます!」
「せめて、これを持っていって下さい。」
 チェルシーの差し出したお礼は、「超強力ピンチくん」1年分である。
「ハハッ、これは助かるな〜。さー、帰って洗濯の続き続き。」
 フェイスマンは破れかぶれでそれを受け取り、よく晴れた空を見上げて呟いたのだった。
【おしまい】
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