オークション! 目玉商品(?)を取り戻せ
鈴樹 瑞穂
 寒風吹きすさぶ12月、それも、もうあと10日ほどで今年も終わろうかという季節。クリスマスとニューイヤーのホリデーシーズンを目前に控えて、街は賑やかだった。
 この時期になってようやく彼女のできた青年たちが分不相応な高価な贈り物を買いに行き、会社員は連夜の忘年会に追われ、主婦は特売のチラシ片手にスーパーをハシゴし、子供どころか師も走る。
 そんな慌しい雰囲気の中、Aチームのリーダー、ハンニバルはまだ日の高いうちからベッドの住人と化していた。実を言えば、朝からずっと。早く寝たのではなく、起きなかったのである。
 御大はご不快だった。氷嚢を額に乗せ、うんうんと大袈裟に唸っている辺りは、かなりの余力が垣間見えるのだが、とにかくご不快であられた。
「二日酔いだ!」
 妙にキッパリと、これで何度目になるかわからない宣言をするハンニバル。
「あーはいはい、二日酔いだね。……どう見ても風邪だと思うけど。」
 ギャルソン風のショートエプロンを腰に巻いたフェイスマンが最後の一言をこっそりと呟くと、ハンニバルが氷嚢を投げつけてきた。
「二日酔いだと言ってるだろーが!」
 かつてベトナムで鳴らしたハンニバルの自慢は、怪我をすることはあっても風邪は引かない、という点である。二日酔いはオッケーだけど風邪は恥ずかしいんだもんね、というワケなのだ。
 風邪と言っても、その実態は、喉が痛くて、だるくて、ちょっと鼻が詰まるかなといった程度。熱だってほとんどないに等しいし、大袈裟に寝込む必要なんて本当はないのだ。でも一応病人だし、一応老人だし、一応リーダーだし、労わらなきゃね。
 フェイスマンは受け止めた氷嚢をサイドテーブルに置き、詐欺師的笑顔でハンニバルに言った。
「リンゴ摩ったけど、どう?」
 ここで「いつも済まないねえ」などというベタな反応をしおらしく返すハンニバルではない。
「フン。」
 ゴミ捨て場のカラスのようなふてぶてしさで、フェイスマンを無視しきってテレビのリモコンに手を伸ばす。
「退屈だ!」
 チャンネルを次々と切り替えるも、どこも既に正月かと錯覚を起こしそうな特番や再放送ばかり。昼間だしね。
 と、切り替わったチャンネルから、それでも摩りリンゴを受け取ったハンニバルですらスプーンを取り落とすほどの笑撃映像が流れてきた。



 チャリティ仮装大会、らしい。
 赤いエビらしき仮装(ロブスターに似ているが、テロップによると伊勢エビというエビなんだそうだ)をした男(?)たちが横1列にわらわら動いていたかと思うと、音楽に合わせてまったりと縦1列に集合していく。そして、各々が前のエビの尻尾を掴み……合体して巨大ムカデ状になったまま歩き始める。
「これは素晴らしい。」
「何でも、伊勢エビには敵から身を守るため、このように合体して身体を大きく見せる擬態の習性があるそうなんです。」
 アナウンサーとアシスタント嬢がもっともらしく解説している。
 しかし、エビ男たちは縦1列のまま、頭をぐるんと回し、チューチュートレインの真似事まで始める始末。
 さすがにそりゃないだろ、どう見ても!
 フェイスマンは内心突っ込まずにはいられなかった。
 そうこうしているうちに、パフォーマンスも佳境に入り、最後尾のエビが列から遅れ、合体し損ねたところを、ウツボに扮した男にばくっと拉致られて終了した。



 うわぁ、自然って厳しい。
 と、思ったかどうかは定かではないが、ハンニバルはすっかり毒気を抜かれた様子で、ついでに具合の悪いのも忘れて呟いた。
「……あれが優勝か?」
「そうみたいだよ、ほら。」
 フェイスマンが指差した先、テレビ画面の中では、エビ代表が表彰台に乗って、やかんハゲおやじ(恐らくテレビ局の偉い人)からトロフィーを受け取っていた。
「なお、優勝・準優勝作品の仮装衣装は、チャリティ・オークションで販売されます。オークションは12月29日にBCGホールで行われ、売り上げは全米交通事故遺児協会に……。」
 アナウンサーはまだ滔々と喋っていたが、ハンニバルはぷっつりとテレビのスイッチを切った。
「あれで優勝できるなら、アクアドラゴンだって!」
 納得が行かない様子でライバル意識を燃やすハンニバル。アクアドラゴンは別に仮装ではないのだが、ソレは些事であるらしい。
 そこへ、コングとマードックが戻ってきた。
「寝込んでる場合じゃないぜ、大佐!」
 目を輝かせているマードックに、フェイスマンは嫌な予感がした。
 コングと、ホリデーのために病院から一時帰宅していたマードックは、今日、具合の悪いハンニバルの見張り役として家を空けられないフェイスマンに代わって、依頼人に会いに出かけていたのだ。
 そのマードックが嬉しそうに帰ってきたということは、依頼が彼の気に入るものであったのだろう。コングが拒否反応を示していないところを見ると、ヘリを操縦できるといった類の仕事ではなさそうだ。
 となると、あとは。依頼人または依頼内容が、マードックの感性をもって「素晴らしい」と判定された可能性が高い。そして、そのような仕事は大抵、フェイスマンのコスト意識、および美意識にそぐわないものなのだ。
 フェイスマンの問いかけの視線に、コングは重々しく首を横に振った。
「タダ働きの危険性だけはねぇ。今回は依頼人の他にちゃんとスポンサーまでついてるからな。」
「あ、そう。」
 何となく予想が外れて面白くないフェイスマン。
 ハンニバルがリーダーらしく泰然と確認する。
「で、どんな依頼なんだ、モンキー。」
「それがよ、年末にBCGホールでチャリティ・オークションってのがあるらしいんだけど、そいつに出品するはずだった目玉商品が盗まれちまった、ってんで、取り返してほしいって依頼なんだ。全く酷い奴がいるもんだねぇ。」
「目玉商品?」
 ハンニバルとフェイスマンは顔を見合わせた。
「まさかそれは、ロブスターの仮装衣装とか言うんじゃないだろうな。」
「伊勢エビだって。」
 フェイスマンがハンニバルの袖を引っ張って修正する。
「そう、それだ!」
 人差し指を立てるマードック。
「何で知ってるんだ?」
 不思議そうなコング。得意気にフェイスマンが説明する。
「今し方、テレビでやってたぜ。仮装大会で優勝したやつだろ。」
「それじゃ、依頼人はあの仮装をしていた男か!」
 無駄なライバル意識を取り戻すハンニバル。
「仮装大会は見てないからわからんが、そういう話だったぜ。ほら、こいつだ。」
 コングがポケットから取り出した名刺をハンニバルに渡した。
 一同は寄り集まる体勢で、その名刺を覗き込む。
 『闘うポエマー A.C.ジーン』
 何と写真つき。それに、闘うポエマーって?
 何気なく名刺を引っ繰り返したハンニバルは激しく納得した。
 そこには毛筆体で一篇のポエムが印刷されていたのだ。



   チワワ
 チワワには、足がある。
       by A.C.ジーン




 ……ポエム、なのだろうか。
 マードックだけはやたらと感動していたが、他のメンバーは顔を見合わせ、黙って名刺を元に戻した。
 一番いい対処法は、見なかったことにすることだ。
 咳払いを一つして、リーダーが確認する。
「で、この依頼はもう受けてきたのか?」
「一応、大佐の決断を仰ごうと思って、仮受けだがな。」
 頷くコングに、フェイスマンが畳みかけるように言った。
「あ、ほら、でも、スポンサーもいるって言ってたじゃないか。せっかくエンジェルが紹介してくれた仕事だし、彼女の顔を立てるためにも受けようよ、ね?」
 多少、依頼人に不安は残る上、仕事の内容も何だか気に入らないが、それでも、ハンニバルに家の中で退屈を持て余されているよりはマシ、そう判断したのだった。



 フェイスマンの心配をよそに、実際に会ってみると、闘うポエマー、ジーン氏は意外や落ち着いた雰囲気の初老男性だった。痩せ気味だが背筋はぴんと張っており、そこはかとなく哲学的な雰囲気すら漂っている。
「3年前まで大学で教鞭を取っておりましてな。後進に道を譲って仕事を退いてからは、詩集を発行したり、ボランティア活動をしたりしております。」
「あの……仮装もボランティア活動の一環なんですか?」
 好奇心を抑えきれずに、尋ねるフェイスマン。が、にこりともせずに、ジーン氏はこう返した。
「いや、趣味です。まあ、使い終わった衣装はチャリティ・オークションに出したりもしますがね。」
「それじゃ、何も我々に高い金を払ってまで取り戻すこともないだろうに。」
 アクアドラゴンの敵ではないと判断したのか、ハンニバルはすっかり尊大さを取り戻している。
「そういうわけには行きません。」
 横から口を出したのは、テレビ局のADだと言う若者だった。ジーン氏について来た青年は、マークと名乗った。
「仮装大会の優勝作品は、毎年、チャリティ・オークションの目玉商品なんです。そうでなくても、ジーンさんの作品は、詩も、仮装衣装も、評価が高いんですよ!」
 本当ですか?
 フェイスマンの頭の中にそんな台詞が浮かび上がったが、彼もプロである。依頼人の機嫌を損ねるような真似はしなかった。
「そうだったんですか、いやー浅学にして存じませんでしたよ、ハハ、ハハハハ。」
「そうなんです。だから、『伊勢エビの舞い』はオークションまでに何としても取り戻さなくてはなりません。無事取り戻すことができた暁には、謝礼としてうちの局から1000ドルお支払いする用意があります。更に、ジーン氏の方からは、本来、出品者の取り分である、オークションでの売り上げの3割を、皆さんに謝礼としてお渡しするそうです。」
 マーク青年の言葉に、ジーン氏も頷く。
「どうせ手放すなら、世のため人のために役立てた方がいいでしょう。どうか一つ、よろしくお願いします。」
 頭の中で損得勘定のソロバンを弾いた後、フェイスマンはにっこりと頷いた。
「もちろんですとも。どうか大船に乗った気持ちでお任せ下さい。」



「で、どうすんだ、あんな大見得切っといてよ。」
 仮装衣装が盗まれたという現場――テレビ局の倉庫に向かいながら、コングが言った。
「いつものようにやって来る相手を撃退すりゃいいってわけじゃない。犯人を探し出して、しかも、そいつらが衣装を持ち去った先から取り戻さなきゃなんねえんだぞ。」
「わかってるよ。でも、久し振りにいい条件だったし……。」
 だんだん声が小さくなるフェイスマン。まあまあ、と宥めるようにハンニバルが割って入った。
「確かに難しいが、全く手が出ないってわけでもない。そうだな、モンキー。」
「そーだよ。大きくて嵩張る上に、手に入れたって簡単に捌けるわけじゃない。そんな特殊な品物を盗み出すってんだから、犯人は限られてるね。」
 得意気に胸を張って、マードックが説明する。
 フェイスマンとコングは顔を見合わせ、それからリーダーの方を振り返る。
「マニアだ!」
「よくできました。」
 ハンニバルは満足気に頷いた。
「そうなると、行動が読めるかもしんねえな。」
 ニヤリと笑って、コングがパキリと拳を鳴らす。
「そういうこと。それじゃ早速、作戦開始と行きますかね。」



〈Aチームのテーマ曲、流れる。〉
 ホームセンターに買い出しに行くコングとマードック。設計図を引くハンニバル。楽しげに受付嬢と話すフェイスマン。
 何やら仮装衣装を作るコング。それを手伝うフェイスマンとマードック。少し後ろに下がったハンニバルが設計図を片手に全体のバランスを見ながら指示を出す。顔を出したジーン氏と熱い議論を交わす。
 出来上がってくる仮装衣装。何だか地味な色合いだ。形はエビに似ているようだが……?
 ハンニバルが衣装を身に着けて立つ。マードックが照明を当て、コングがカメラを向けてシャッターを切る。
 と、その写真がポスターに仕上がってくる。
 ポスターをテレビ局のエントランスや廊下に貼って回るフェイスマンとコングとマードック。
〈Aチームのテーマ曲、終わる。〉



 ガラスのドアを押し開けて、1人の青年がテレビ局に入ってきた。背が高く、爽やかな二枚目だが、俳優やモデルと言うには少し地味な雰囲気だ。
 彼は慣れた様子で受付嬢に挨拶し、二言、三言、世間話を交わす。
 その時、ちょうど目に入ったのか、壁に貼られたポスターを見て、受付嬢に尋ねた。
「それは何だい? エビ……にしちゃ地味な色だけど。」
「ああ、このポスター? ほら、来週、チャリティ・オークションがあるでしょう? そこで出品する仮装衣装なの。この前の仮装大会で優勝した人の作品なんですって。」
「へえ……優勝作品を出品するって聞いてたけどな。」
「ええ。でも、それ以外に急遽もう1点、出すことになったそうよ。本当はこっちを仮装大会に出したかったけど、間に合わなかったからって。」
「そりゃすごい。見てみたいな。これ、もう、倉庫に来てるのかい?」
「マークはそう言ってたわ。彼に言えば、見せてもらえるんじゃないかしら。」
「機会があったらそうするよ。おっと、そろそろスタジオに入る時間だ。」
「遅刻すると叱られるわよぉ。」
「それじゃ急がないと。またな。」
「ええ、頑張ってね。」



 青年が廊下を曲がって姿を消すと、少し離れた喫茶室から様子を見ていたフェイスマンがやって来て、受付嬢に話しかける。
「やあ。」
「あら、ペックさん。」
「今の人は?」
「カメラマンのポールよ。彼がどうかした?」
「いや、大したことじゃないんだ。この前、彼が落としたペンを拾ってね。後ろ姿しか見えなかったけど、多分そうじゃないかと思ったんだ。」
 そう言って、フェイスマンはにっこりと笑い、それから当たり障りのない会話を少しして、受付を後にした。



 深夜、人気もなくなった頃、暗い倉庫の中に、懐中電灯の明かりが浮かび上がった。
 雑然と置かれた物の間を、足音を忍ばせるようにして、入ってきたのはポールであった。
 彼は懐中電灯の弱々しい光を頼りに左右を見回し、そして、壁に立てかけられていた、エビに似ている、しかし地味な色合いの仮装衣装を見つけて近寄った。
「これだ……!」
 もっとよく見ようと、ポールが明かりを近づけた途端。
 パッと天井の蛍光灯が点いて、倉庫全体が明るくなった。
「!」
 暗闇に慣れた目に、急に飛び込んできた光が眩しいのか、ポールが腕で顔を覆う。
「そこまでだ。」
 ハンニバルの声に、ポールは反射的に振り向いた。
 そこに立っていたのは、Aチームの面々、ADのマーク、そして、ジーン氏。
 侵入者の顔を見て、マーク青年が驚いたように叫んだ。
「ポール! 何で君が……まさか、『伊勢エビの舞い』も?」
 ポールは一瞬バツの悪そうな顔をしたが、すぐに開き直った表情になった。
「伊勢エビか。あれは素晴らしい作品だ。カメラを通して、俺にはすぐわかった。だから、チャリティと称して価値もわからない奴らの手に渡すよりは、俺が持っていた方がいいと思ったんだ。」
「じゃあ、この『シャコの煌き』も……?」
 マーク青年が打ちひしがれたように呟いたが、それを聞いて、ポールはもっと打ちひしがれたような声を上げた。
「シャコだって? それは……シャコ、なのか……?」
「失礼な! 他に何に見えると言うんだ。」
 進み出たハンニバル(『シャコの煌き』設計者)が、ポールに詰め寄る。
「いや、何なのか気になって……別にコレは欲しくもなかったけど、それだけが気になって確かめに来たんだ。」
「何だと?」
 ハンニバルはもう、血管が切れる寸前である。
 その後ろで、コングとマードックとフェイスマンがひそひそと囁き交わした。
「だから言ったろ、カニにしときゃよかったんだ。」
「やっぱりシャコなんて地味すぎて絶対わかんないって。大体、シャコって甲殻類?」
「2人とも、マニアを狙うならソレくらいした方がいいって、最後は同意してたじゃないか。」
 しかし、彼らの会話も、ポールの漏らした台詞にピタリと止まった。
「酷い……酷すぎる。テーマ選定、作品自体の出来にも、もちろん問題はあるけど、あのポスターときたら。カメラワークと言い、照明の加減と言い、全く酷い。一目見た時にもそう思ったが、こうして実物を見て、改めてそう実感した。敢えて言わせてもらえば、ミューズに見放されてる。」
 遠い目をして呟くポール。この一言でどれだけ喧嘩を売ったかということには気づいていない。
 雉も鳴かずば打たれまいに。
 ピキーンと空気が凍った。
 ゆっくりと殺気を漲らせるAチームと、何も気づいていないその獲物の間に、ゆったりと割って入ったのはジーン氏だった。
「屁理屈だな。」
 そう、ジーン氏はポールに言った。
「落ち着いて考えてみなさい。なるほど君は芸術と甲殻類をこよなく愛しているかもしれないが、だからと言って他人が精魂込めて作った作品を貶めていいことにはならないだろう。ましてや、気に入ったからと言って、他人の作品をこっそり盗み出していい理由もない。」
 諭すように話すジーン氏、さすが元大学教授。そしてジーン氏は、項垂れるポールの肩に手を置いた。
「さあ、顔を上げなさい。若い頃の過ちは誰にでもあるものだ。だが、君はもうわかってくれただろう? そんな君に、私はこの詩を贈ろう――。」
 ゴクリ。
 闘うポエマーの新作に、一同が固唾を飲む中、ジーン氏は重々しく声を張り上げた。



 欲しければ、堂々と金を出して買え
       by A.C.ジーン




 思わず顎が外れそうになったAチームの面々。
 オークションで競り落とす金がないから盗んだんじゃないのか?
 しかし、ポールの心には響くものがあったようで、彼は男泣きに泣きながら頷いた。
「はい。肝に銘じます。」
 その後ろではマーク青年も感動したようにうるうると瞳を輝かせ、頷いていた。



 12月29日。
 Aチーム一同は、エンジェルに誘われて、オークション会場に来ていた。
 彼らの姿を目敏く見つけたマーク青年が駆け寄ってくる。
「本当にありがとうございました。皆さんのおかげで無事、目玉商品も返ってきて、こうしてオークションを開催することができました。」
「なかなか盛況だな。」
 既にお祭りの様相を呈している会場を見回して、ハンニバルが言う。
「ええ、売れ行きの方も順調です。」
「やっぱり俺たちの作った『シャコの煌き』も出品した方がよかったんじゃないの?」
 マードックの言葉に、マーク青年が苦笑しながら両手を振る。
「それはお気持ちだけで……。あ、そろそろ、『伊勢エビの舞い』の番が回ってきますよ。」
「おおっ。いくらで落札されるかな。」
 フェイスマンが身を乗り出す。
 何しろ、落札価格の3割は謝礼としてAチームに支払われることになっているのだ。価格が気になるのは当然だろう。
 100ドルから始まった入札は、数名の競り合いにより、どんどん上がっていっている。
 一体どこまで値が上がるのか……とAチームの全員が目を奪われていると――
 耳慣れたサイレンの音が近づいてきて、会場の扉が派手に押し開かれた。
「お客様、困ります。」
「せめてオークションが終わるまで待って下さい。」
「ええい、うるさい。ここに指名手配の奴らがいるはずだ! そんな悠長なことを言ってられるか!」
 制止するガードマンや主催者を振り切って飛び込んできたのは、デッカーだった。
「おやおや、相変わらず無粋なことで。」
「ちぇっ。落札価格を見たかったのになぁ。」
「ま、ここは一つ。」
「逃げるとしますか。」
 フェイスマンは駆け抜けざま、マーク青年にこう囁くのも忘れなかった。
「謝礼は口座に振り込んでおいて!」
 呆気に取られているマーク青年の横では、エンジェルがにこやかに手を振って見送っていた。
【おしまい】
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