MPの罠! 幻惑のミルク風呂!? ハーブを守れ、Aチーム!
伊達 梶乃
*1*


 退役軍人病院精神科の受付に、黒服+黒ソフト帽+黒サングラスの男が現れた。ただし、黒服はぴっちぴち、ワイシャツの第1ボタンを無理矢理嵌めてネクタイ締めているのが、誰の目から見ても窮屈そう。黒ソフト帽は微妙に持ち上がっており、サングラスのツルは頭部を明らかに挟みつけている。そして黒服の上には金色のアクセサリーをじゃらじゃらとつけ、指にはゴツい指輪、耳にはネイティヴ・アメリカン風のピアス。
 これが誰だか、皆さんにはもうおわかりのことと思うが、病院の受付嬢には誰なのかわからなかった。
「当局の者だ。」
 黒づくめの男は唸るように言うと、受付嬢に向かって身分証明書とバッヂを一瞬だけ見せた。続けて、整然とタイプ打ちされた書類をカウンターに広げる。
「H.M.マードックを連れてこいって上からの命令だ。」
「マードックさんを?」
 受付嬢はカウンター上の書類にざっと目を通した。難しい単語が並んでいたが、簡単に言えば、重要な事件に関係があるかもしれないので秘密裏に出頭されたし、ということだった。書類の下部には、上層部の面々の署名も並んでいる。(もちろん、全部でっち上げなのだが。)
「おう、早くしろい。早くしねえと凶悪犯が国外逃亡しちまうかもしんねえんだ。」
「は、はい! ではこちらに。」
 受付嬢は鍵束を持ってカウンターから出ると、黒づくめの男をエレベーターホールに導いた。



 それから5分ほど後、マードックとコングは紺色のバンに乗り込んだ。
「今日は何でまたフェイスじゃねえの?」
 いつもなら、病院からマードックを連れ出すのはフェイスマンの役目。
「奴ァ胃が痛いって言って寝てるぜ。ったくハンニバルの野郎、わけのわからねえもん食わせやがって。」
 ソフト帽とサングラスをかなぐり捨てネクタイを緩めたコングは、そう言いながら車のエンジンをかけ、空いた手で胃を摩った。
 因みに昨日の夕飯は、熊と水牛の大鍋煮込み(1人あたり肉2kg)である。鍋に入っていた肉と汁以外のものと言えば、ゴボウ、ズイキ、タケノコ、唐辛子、あと、変な草。どう考えても胃腸によろしくない食べ物である。だが、肉を食べたくて仕方なかったハンニバルは、この野趣溢れる一品が大層お気に入りのようで、ビールを飲みながら熊肉と水牛肉を300gずつぐらい食べた。リーダーが笑顔で(それも多分善意で)勧めてくれる料理を拒絶できない部下2名は、噛み切れるけど脂っぽくて臭い肉と、脂っぽくなくて臭くはないけど噛み切れない肉を、気が遠くなるまで食べ続けた。
 今朝、起きたら、胃が痛くて顎がだるかった。そこでフェイスマンは、偽造身分証と偽造書類と衣装(?)をコングに持たせ、依頼人とのランデブーはハンニバルに任せ、ベッドに戻った。フェイスマンと同じく、いやそれ以上に胃が痛いコングは、仕方がないので痛みを堪えつつマードック引き取りのためにここに来た。
「んで、これからお仕事?」
「ハンニバルがヘマしなきゃな。」
 というわけで、ハンニバルと合流すべくコングはハンドルを切った。



「ちょい待ち、コングちゃん。」
 今回の仕事の依頼人とハンニバルとが商談中のはずの喫茶店に向かっている途中で、急にマードックが身を乗り出してきた。
「な、何だ急に、危ねえな。」
「車停めて。」
 急ブレーキを踏んでしまいそうになったコングだったが、速度を落とすだけに留め、車を路肩に寄せ、停車させた。後続の車の運転手が、罵りの言葉を投げて追い越していく。
「どうしたってんだ?」
「MPがいるぜ。ほら、あのずっと先。」
 と言われても、サバンナ出身かアラスカ出身でもない限り、マードックに視力で勝てる者はそうそういない。
「俺にゃあ見えねえが、幻覚じゃねえだろうな?」
「プラタナスの木にミツユビナマケモノがぶら下がってんのと、道路の真ん中でアルマジロが平べったくなってんのは幻覚だと思っけど、MPはありゃ本物だぜ。飛んでねえもん。」
「色は?」
「深緑。」
「じゃ本物だな。」
 2人は、車を置いて、偵察に向かうことにした。



 1階にはテナントが入り、2階より上は事務所という、どこにでもあるような建物の周りに、ちらほらとMPの姿があった。それほど広くない通りを隔てた向こう側は公園の植え込みで、深緑色のMPが姿を隠すにはもって来いの場所だ。
 数ブロック先の建物の陰から、それを肉眼で確認するマードックと、双眼鏡で確認するコング。
「どうするよ?」
 双眼鏡を目に当てたまま、コングがマードックに問う。
「大佐がMPに気づいてんなら、このままここで待ってる方がいいと思っけど?」
「気づいてなかったら?」
「知らせなきゃねえ。」
 しばし無言でMPを見つめる2人。
「じゃ、俺ァ車を裏に回す。お前は何とかしてハンニバルを連れ出せ。あの路地んとこで合流だ。」
「ラジャー。」



*2*


「……というわけで、私と妻、それから息子5人と娘4人は、謂れのない借金を抱えたまま町を追い出され、親戚一同には縁を切られ、警察にも裁判所にも一向に取り合ってもらえず、路頭に迷っていたのですが……。」
 ハンニバルの正面の席で目に涙を浮かべて語っている四十男、それが今回の仕事の依頼人、ミーガン・コンラッド氏であった。いかにも路頭に迷っている風の擦り切れた服を身につけ、ちょっと臭い。
「しかし、だ、コンラッドさん。Aチームに仕事を依頼するとなると、それなりの報酬が必要なんだが、あんた、払えんのかい?」
 コーヒーをぐびりと飲むハンニバル。
「今は……お支払いできません。ですが! すべてが解決すれば、時間はかかるかもしれませんが、必ずや息子と娘が少しずつでもお支払いいたします! ですから、ぜひとも私どもに力を貸して下さい!」
 頭を下げるコンラッド氏。思い切りテーブルに頭を打ちつけ、ゴンッという音が静かな店内に響く。
「でもねえ、コンラッドさん。」
 全く乗り気でないハンニバル。コンラッド氏の置かれている状況は確かに同情の余地ありありだけど、この依頼を受けたとしても、楽しげな活躍は望めない。
 と、その時。
 ベチッ!
「あああ、申し訳ございません、お客様!」
 顔面に何か温かいものが当たって、それが腹に落ちてワンバウンドし、今や股間にある。瞬間的に目を閉じていたハンニバルは、ゆっくりと目を開き、腹の下を見た。ソーセージだ。これはいささか由々しき事態なのでは、と思った時、濡れタオルを手にしたウェイターが駆け寄ってきた。
「大変申し訳ございません! ホットドッグのソーセージが、まさかこんな所まで飛んでしまうとは……プッ。」
 タオルでハンニバルの顔面をわしゃわしゃと拭いていたウェイターは、ソーセージの着地点に目をやり、こっそりと笑った。
 笑うぐらいなら、このソーセージを退かしてくれ、と思うハンニバルであったが、思っているだけではどうにもならないので、自分でソーセージを摘んでテーブルの上に乗せた。
「これは大変、お洋服にもケチャップの染みが! ささ、こちらへ。ケチャップの染みは、ちょっとやそっとじゃ落ちませんので。」
 ウェイターに手を引かれ、ハンニバルは席を立った。服に染みをつけると、フェイスが怒るからなあ、と思いつつ。
 トイレに連れて行かれるのかと思いきや、くぐったドアは、小汚い廊下に続く従業員通用口だった。
「おや、トイレに行くんじゃないのか。」
「トイレは使用中。本物のウェイター3人がオネンネしてる真っ最中。」
 と言われて、タオルでハンニバルのシャツの染みを拭いているウェイターの姿を見ると、それはマードックだった。
「モンキーか。何でこんなとこで小芝居してんの、あたしにケチャップつけてまで。」
「大佐、気づいてなかったん? 周り、MPに取り巻かれてるぜ。」
 マードックはタオルをハンニバルに押しつけると、通用口のドアを開けて、店内をそっと窺った。依頼人が軍用トランシーバーを耳に当て、何事か喋っている。
「依頼人もMPみたいだしね。」
 ついでに、ドアの脇に置いておいた紙袋(普段着入り)を取る。
「あらホント。さてはフェイスの奴、依頼人の身辺調査しなかったな。帰ったらこってりとお灸を据えてやらんとな。」
「そんじゃ、さっさとトンズラすっぜ。」
 マードックとハンニバルは、小走りで廊下奥のドアに向かっていった。



 ドアを開けると、そこは建物の裏だった。そして、目の前にMPの下っ端2名。コングのバンは見当たらない。
 でも大丈夫、先頭に立っていたのはウェイターの服を着ているマードックだから。指名手配中のハンニバルは、半開きのドアの陰。
 とは言え、MPに銃を突きつけられるのは避けられない。マードックは紙袋をドアの陰にこそっと投げ入れると、両手を挙げつつ進み出て聞いた。
「一体何なの、あんたたち? 俺、何かやった?」
「いや、指名手配犯がこの建物の中の喫茶店に潜伏中なんだ。お前、見なかったか? 喫茶店のウェイターだろ、その制服。」
「ウェイターだけっどもさ。指名手配犯ってどんな人?」
「こいつだ。」
 MPは畳まれたWANTEDのチラシをポケットから出して、丁寧に開くと、マードックに見せた。間違いなく、ジョン・スミスの顔写真。
「ああ、その人なら、さっき俺がケチャップぶっかけちまったんで、怒って表に出てったぜ。で、俺は店長に反省を命じられて、ここにいるってわけ。」
「表からだと? わかった、ありがとう。おい、表に回るぞ。」
「おう!」
 表通りに向かうべく、路地を駆け出していくMP。そこに、コングのバンが滑り込んできた。ハンニバルもドアの陰から出てくる。
「悪ィ、表っ側にMP集結させちまった。」
 紙袋を手にバンに乗り込むなり、マードックがコングに言う。
「じゃ、表通りを行くとしましょうか。」
 未だにケチャップの染みを気にしながら、ハンニバルが助手席に着く。
「よし、表通りだな。……どうなったって知らねえぞ。」
 そう言いながらも、コングはニヤリと笑って見せ、アクセルを踏み込み、ハンドルを切った。



「ジョン・スミスは店を出たとのことであります!」
 先刻、裏通りを張っていたMP(軍曹)が、表通りにこっそりと隠れていたMP(大尉)に向かって報告した。
「何だって? 店を出たって?」
 と、斜め下を振り返る。彼の足元の茂み(高さ3フィート)の後ろには、Aチームに面が割れているデッカーがしゃがみ込んでいた。双眼鏡を手に。
「どうします、大佐?」
「どうもこうも、奴は店から出てきていない。ということは、まだ店の中にいるか、裏口から出ていったかだ。囮のコンラッド少尉は、奴はウェイターに連れられてトイレの方に行った、と言っていたがな。」
 デッカーはトランシーバーを操作すると、耳に当てた。
「コンラッド少尉、そちらの状況を報告しろ。スミスは戻ってきたか? ……戻ってきてないばかりか、ウェイター3人がトイレで気絶してただと? 1人は制服を奪われてる? 店内にスミスの姿はない、だと? 逃げられたんでしょうかって、貴様、そんなことも判断できんのか! 馬鹿者! 逃げられたに決まってるだろう!」
 デッカーは立ち上がり、植え込みを跨いで歩道に立つと、下っ端MPに詰め寄った。
「ジョン・スミスが店を出た、というのは、誰から聞いたんだ?」
「はっ、喫茶店のウェイターから聞いたのであります!」
「それは、正真正銘、喫茶店のウェイターだったか? Aチームの誰かかもしれない、という可能性は考えなかったのか?」
「バラカスでもペックでも、もちろんスミスでもありませんでしたし、喫茶店のウェイターの制服を着ておりましたから、ウェイターなのではないかと……。」
「ばっかもーん! Aチームは神出鬼没で、その上、スミスは変装の名人だとほざいとるんだぞ。顔や身長や服装が違ったとて、Aチームじゃないと決めつける理由にはならん! わかったか!」
「はいっ! わかりましたっ!」
「わかったならいい。今後は注意しろ。」
「ご助言、ありがとうございます!」
 軍曹の件は、これで終了。デッカーは顔をぐりっと副官(大尉)の方に向けた。
「よし、大尉。まずは緊急に増員を手配しろ。」
「はっ。」
 副官はMPカー(落ち葉と枯れ枝とでゴミ山に偽装済み)の無線に向かってその旨を伝え、続いての指示を受けるべく、すぐにデッカーの前に戻り、姿勢を正した。
「次に、だ。スミスが席を立ってまだ10分も経っとらん。表からは誰1人として出てきておらず、裏もあの馬鹿どもが張っていた、横の路地には出入口なし、となれば、スミスの奴は建物の内部に潜伏していると見るのがいいだろう。半数は持ち場に待機、残り半数は内部に突入――
「お話中、失礼ですが、大佐!」
 怒られたばかりの軍曹が口を挟んだ。
「何だ、言ってみろ。」
「ウェイターから情報を得て、裏を監視していた我々2人ともがこちらに来てしまい、現在、建物の裏側には誰もおりません。そしてまた、ウェイターの行方もわかっておりません。」
「何だと!」
 とその時。
 ブオッ、ブロロロロ!
 路地から猛スピードで紺色のバンが走り出てきた。
「奴らだ!」
 デッカーは叫んだが、他のMPたちはそれどころではなかった。と言うのも、表通りを何気なく走っていた、AチームやMPとは無関係のトラックが、急に横から出てきたバンを避けようとして急にハンドルを切り、横転したからだ。積み荷の砂利が、派手な音を立てて道路に振り撒かれる。
「うわーーーっ!」
 横転したまま滑ってくるトラックから逃げ惑うMPたち。枯れ葉の山(MPカー)は、既にトラックの下。
「Aチームのバンを追えーっ!」
 トラックを避けて横っ飛びに飛び、歩道で2、3度前転し、スチャッと体勢を整えたデッカーは、部下たちに向かってそう叫んだが、彼らは全員、トラックの車体の向こうに追いやられていた。何人かは車体の下かもしれない……(でもきっと無傷)。



 この事態に焦ったのはMPとトラックの運転手(無論、無傷)だけではなかった。バンのハンドルを握るコングと他2名も、そこそこ焦っていた。幸い、トラックに衝突はしなかったものの、急ブレーキを踏んだせいで、ロックされていなかったスライドドアが開き、その直後、コングがアクセルを踏み込みつつ左にハンドルを切ったために、遠心力でマードックが車外に放り出されるところだった。そしてまた、砂利の山に乗り上げてしまい、一瞬ハンドルが利かなくなったが、コングの巧みなギアチェンジとハンドル捌きと野生の勘で事なきを得た。
「いやあ、あのまま砂利の山の向こうに飛んでくところでしたなあ。お見事お見事。」
 どっすん、と車道に着地したバン。その窓から背後を振り返り、小さくなっていくデッカーの姿を見ながら、ハンニバルが楽しそうに言った。
「一難去ってまた一難だ、ハンニバル。前見ろよ。」
 コングに言われて前を見ると、道の向こうからMPカーがわんさと押し寄せてくる。
「どうする?」
「あれ、飛び越えられる?」
「無理言うんじゃねえ。」
「じゃ、左折。」
 ハンニバルがそう指示するのも当然。右側は公園が続いているので、右折はできない。公園の中は車両進入禁止だし。
 コングはキュキュッとハンドルを左に切った。いや、正しくはグイグイッと。だが、まるで氷の上を走っているかのように、車体が慣性の法則に従って横滑りしていく。
「ちっ、砂利噛んでやがった。」
 そう、砂利山に乗り上げた時に、タイヤの切れ込みに砂利が挟まっていたのだ。それも、盛大に。ジャストフィットという感じで。
「きゃーっ!」
 その声にハンニバルは、何とか曲がりつつある車の外を見た。罪もない歩行者にバンの横っ腹がぶち当たる寸前。
「モンキー!」
「はいよっ!」
 何とかフェイスマンの座席にしがみついて体勢を整えつつも、開きっ放しだったスライドドアを閉めようとしていたマードックが、そのドアをガラッと開け、歩行者の服を掴むと、全体重をかけて車の中に引っ張り込んだ。そして、シートとシートの間に引っ繰り返りながらも、体を捻ってドアを閉める。
 シートの上に正座して袋を抱え込み、目を閉じたままブルブルと震えている小柄な女性を見て、ハンニバルは、ふう、と安堵の息をつき、車の床でクモヒトデのようになっているマードックに親指を立てて見せると、マードックもその姿勢のまま親指を立てて返した。ビバ、無傷!
 次の瞬間、ドゴッ、ガリガリガリという嫌な音がバンの右側から聞こえた。それを聞いたコングが、ブツブツと呪いの言葉を呟いている。しかし、それはそれ、何とか左折はできたようだ。
 そしてAチーム他1名を乗せたバンは、ジャリジャリと音を立てながら、路地の奥へと消えていった。



*3*


 ババーン!
 アジト(今回は普通の家族向けマンション、ただし無断侵入)のドアを勢いよく開けるハンニバル。悪党の家ではないので、ドアを蹴破りはしない。
「フェーイス!」
 返事はない。リビングルームにもダイニングルームにもキッチンにも、フェイスマンの姿は見えない。
 ババーン!
 寝室のドアをノックもなしに開けるハンニバル。
「フェーイス!」
 やはり返事はない。寝乱れたベッドにも、フェイスマンの姿はない。
「あいつめ、また女の尻でも追っかけてるんじゃ……。」
「ハンニバル、風呂じゃねえか? 換気扇の音がしてるぜ。」
 寝室のドアの所で立ち尽くすハンニバルの後方で、コングが言った。
「風呂か。」
 ドスドスとバスルームに向かうハンニバル。そして、ドアをノックすると、わざとらしく優しい声でドアの中に尋ねた。
「フェイス? 風呂入ってんのか?」
「あ、ハンニバル? 鍵、開いてるよ。」
 入浴中は鍵を閉めなさい、と言いたいところを、ぐっと堪え、ドアを開ける。
「依頼人には会えた? どうだった?」
 乳白色の湯に胸まで浸かったフェイスマンが、のほほんと尋ねる。
「会えたことは会えたんだがね。」
 入浴中のフェイスマンに、なぜか強く出られないハンニバルであった。
「何? 納得行かない依頼だったとか?」
「ああ、まあ、それもある。」
「依頼人、お金払ってくれそうもなかったとか?」
「それもある。」
「はっきり言ってやれよ、ハンニバル。」
 バスルームの外で、腕組みをして待機していたコングが促す。コングとしては、フェイスマンに「てめえのせいでバンが凹んで削れちまった」と今すぐにでも言ってやりたいところなんだが、一応、リーダーが言いたいことを言い終えるのを待っているのである。
「じゃあ、はっきり言わせてもらうぞ。」
「何?」
 フェイスマンは浴槽の縁に両手を置いて、その上に顎を乗せると、ハンニバルを見上げるように小首を傾げた。
「お前、依頼人の身辺調査しなかっただろ。」
「え? したよ。ミーガン・コンラッド、43歳、今んとこ無職。子供9人、奥さん1人。従軍経験はそりゃああるけど、現在はMPとの関連なし。」
「でも、MPだったぞ?」
「ウソぉ!」
「ウソじゃねえぜ。」
 ずずいっとコングが進み出た。
「喫茶店の周りをMPが取り囲んでやがった。そのせいで俺の車が――
「ミーガン・コンラッドって言った?」
 コングの言葉を遮って、コングの肩の上から顔を覗かせたのはマードック。いつの間にか、普段着に着替え済み。因みにコングは、まだ黒づくめ。
「ああ、言ったぞ、ミーガン・コンラッド。依頼人にしてMPのあいつだ。モンキー、お前も見ただろ?」
「でも大佐、あいつはミーガンじゃねえよ。借金抱えたミーガン・コンラッド、43歳、子供9人奥さん1人は、こないだっから俺っちんとこで掃除係やってるぜ。やっと仕事が見つかったって、身の上話、全部話してくれたんだから間違いねって。俺の部屋、ピカピカに磨いてくれたしね、クレゾールで。」
「となると、あのMPは何者だ?」
「ちょい待ち。今思い出すから。」
 マードックは人差し指を立てると、片方の小鼻を押さえた。
「キュルキュルキュル……“マードックさん、ミントジェリーを残したら、明日の朝ご飯のおかずは抜きですよ”、ええと、これは昨日の夜のだから、もっと前だね。キュルキュルキュル……。」
 どうやら小鼻を押さえて、記憶のテープを巻き戻しているらしい。指を離すと再生。
「キュルキュルキュル……“スティーブ、水道使うって言ったろ? 何で隣のスタジオと交渉しとかないのよ。え? 交渉したって? で、断られたって? 壁叩いても水出ないって? じゃあどうすんの、水なかったら、この可愛い可愛いお魚ちゃん、洗えないじゃない。何? 洗ってある? 鱗取って内臓も鰓も出してある? あらホント”、何だこれ?」
「それ、きっと『世界の料理ショー』だよ。土曜の昼に再放送してるやつ。」
 フェイスマンが口を開いた。
「この間のは、ラトビア風ニジマスのムニエル、だったっけかな。ところで俺、いい加減上がりたいんだけど。」
「済まん済まん、すっかり忘れてたよ。」
 ハンニバルとコング、そして「土曜日ってことは巻き戻しすぎだね」と反対の小鼻を押さえるマードックは、バスルームを出てリビングルームへと入っていった。



 リビングルームでは、先刻マードックによって一本釣りされた小柄な女性が、TVを見ながらハーブティーを飲み、クッキーを食べていた。
「キッチン、使わせてもらったわ。」
 3人がどやどやと入ってきたのを振り返って言う。
「それと、冷蔵庫に牛乳とかヨーグルトとか入れとかせてもらったけど、いいかしら?」
「いいんじゃねえか。」
 すっごく無責任にコングが答える。
「はあ〜、そのお茶、いい匂いだね〜。何か、ほっこりする感じ〜。」
 マードックがくんかくんかと鼻を鳴らす。
「スイートマジョラムとヒソップとラベンダーのお茶よ。鎮静作用があるの。あれからずっとドキドキしてたんだけど、お茶のおかげでだいぶ落ち着いてきたわ。あなたも飲む?」
「飲む!」
「モンキー、お前はとりあえず思い出せ。お嬢さん、葉巻を吸っても構わないかな?」
「ええ、構わないわ、換気してさえくれれば。あなたには口臭防止と解毒作用のあるお茶がいいわね。」
「いや、あたしはコーヒーの方が……。」
「そっちの胃を摩ってるあなた。」
 と、コングの方に目を向ける。お忘れかもしれないが、コングとフェイスマンは未だ胃もたれ中。
「あなたには胃に効くお茶を差し上げるわ。ストレス発散の効果もあるのがいいわね。」
「それ、2杯頼むぜ。もう1人、胃もたれがいるんでな。」
「わかったわ、任せて。」
 彼女は背中にキルティングのリュックサックを背負ったまま、キッチンへと向かっていった。
「あの子を家に送り届けんとなあ。」
 窓を開けて葉巻に火を点け、ハンニバルが呟く。
「そうだな、人攫いと思われたかあねえからな。」
 ソファにどっかりと腰を下ろし、リモコンでTVを消しつつ、コングが同意した。
「キュルキュルキュル……“クレゾール臭くなってしまって、家のみんなには不評なんですがね、この仕事。何せ狭い所に11人が押し合いへし合いなもんで”、あ、この辺だ。キュルッ、“親戚縁者全員、私らとは縁を切りましたが、まあそれも仕方のないことで、借金の肩代わりなんかさせられたくないですもんねえ。ですけど、縁を切っても交流が全くなくなったわけじゃなくて、従姉が時々連絡くれるんですよ。私の両親のこととか兄弟姉妹のこととか、どうしているかを教えてくれて、本当にありがたいです。地獄に仏って言いますか。私がしっかりしていなかったせいで、厳しいことは言われましたが、やはりそれでも親兄弟のことは気になりますからね”って、もうちょいだ。」
「お前、それ全っ部、本当に覚えてんのか。」
 今まで空想ででっち上げていたのかと思っていたコングは、マードックが彼のではない口調で喋っているのを聞いて、目を点にした。因みにコングは『世界の料理ショー』を見たことがない。
「“従姉も話し相手がいなくて寂しいんでしょうかね、いろいろなことを私に話してくれて。誰々が結婚したとか離婚したとか別居したとか、私の知らない遠い親戚や彼女の友達のことまで。そこまで来ると正直な話、もういいよって感じなんですけどね。あ、でも1つだけ、彼女の友達のことで、ぜひ聞いていただきたいことがあるんです。私の苗字、コンラッドって、そう少ないわけじゃないにせよ、あちこちにあるもんでもないでしょう。従姉だって母方の親戚なもんで、旧姓はラッセルって言うんです。結婚してガーヴァイなんて苗字になりましたけどね。なのに、彼女の昔っからの親友が、これ、男性なんですけど、コンラッドって言うんですって。今じゃ親友だって言ってましたけど、元は後輩だとか。更に奇遇なことに、彼、私と同い年だそうですよ。マードックさん、会ったことあるかもしれませんね、そのコンラッドって人、軍に勤めてるって言ってましたから。何だったか、軍でも特別な仕事をしているとか。軍医じゃなくて、MP、だったっけかな、よくは覚えてないんですけど。その彼が、私の噂を耳にして、本当のところを知りたいらしくって、従姉に聞いてきたんだそうです。一時の失敗だけで切り捨てるのは酷い、真っ当な人物なら援助したい、少なくとも子供たちが幸せに暮らせるように、ってね。失敗は一時だけじゃないんですが、そう言ってもらえたと知って、本当に嬉しかったですよ。さすがは国を守る軍人なだけあります”……こんなもんでいい?」
「うむ、十分だ。」
 マードックの隠されていた能力に驚く様子もなく、ハンニバルはこっくりと頷いた。
「ミーガン・コンラッドの事情を熟知している別のコンラッドだったってわけか。これからは依頼人の名前だけじゃなくて人相も調査項目に加えにゃあならんな。」
 これでフェイスマンの任務怠慢疑惑は晴れたが、フェイスマンの今後の仕事は増えた。



「お待たせしましたー。」
 トレイの上にカップを4つ乗せて、小柄な女性がリビングルームに戻ってきた。
「お待たせー。」
 その後ろに着いて、ちゃんと服を着て髪もセットしたフェイスマンが姿を現した。
「はい、こちらは鎮静作用のあるお茶。」
 と、マードックにカップを渡す。
「あんがと。」
「こちらは、口臭予防と解毒作用のあるお茶。今晩から明日にかけて茶色い汗が出てびっくりするかもしれないけど、服やシーツについた汗は水で洗えば落ちるわ。」
「ほう、体内の毒が出るってことか。そりゃ面白そうだ。」
 ハーブティーなんぞ普段飲まないハンニバルだが、効果が確認できるのは興味深いと見える。笑顔でカップを受け取り、ずずっと飲む。
「こりゃあさっぱりするな。もっと薬臭いのかと思ってたぞ。」
「口臭予防ですもの、さっぱりしないと。薬臭いのがお好みなら、薬臭くもできるけど?」
「いやいや、これがいいですよ。このさっぱりすっきりが。」
「こちらとこちらには、胃もたれ解消のお茶。」
「おう、ありがてえ。」
「俺にも? ありがとう。君、お名前は? 僕はテンプルトン・ペック。フェイスって呼んで。」
「私はチェルシー・ホリングス。名前を聞いてくれてありがとう、フェイス。この人たち誰も、私の名前を尋ねてくれないし、名乗りもしないし、どうしようかと思っていたとこなの。」
「そりゃあ失礼な奴らだね。僕に免じて、彼らのこと、許してくれる?」
「ん、許してあげるわ。」
「ああ、あと、コング。俺のこと、許してくれる?」
「おう、許すぜ。」
 ミーガン・コンラッドの身辺調査の件だと思い、コングが即答する。
「牛乳、あったの全部、風呂に入れちゃったんだけど。」
「何だとォ?」
「許してくれるって、今、言ったよね。」
「牛乳なら、私が買ってきたのを飲むといいわ。実を言うと、家にまだ牛乳あるのに、特売だったんでつい買っちゃったのよ。賞味期限までにどうやって消費しようかと考えてボーッとしてたところに、あなたたちの車がぶつかってきたわけ。」
「ぶつかったの? 車に?」
 事態を知らないフェイスマンに、コングが説明する。バンの右側が建物にぶつかって凹み、削れたことも含め。タイヤ4本ともがガッチリと砂利を噛んで、交換の必要があることも含め。
「そうだったんだ、ゴメンね、チェルシー、恐い思いさせちゃって。何かお詫びをしないとね。それと、お茶のお礼も、だ。すごく胃が楽になったよ、ありがとう。」
「全くすげえぜ、こりゃあ。あんなに苦しかったのが、すっと楽になっちまった。下手な胃薬より効くんじゃねえか?」
 ふと見ると、マードックは静かにソファに座っていた。だが、寝ているとか夢見ているとか幻覚を見ているというわけではない。その瞳は完全に覚醒し、現実世界を見つめていた。それでもなお、彼は口を噤み、静かにしていたのだ。今までこんなことはまずあり得なかったのに。
「マジで効いてるぜ。」
 なぜだかマードックを見つめ続けることができず、目を逸らすコング。
「ハンニバルはどう? お茶、効いてる?」
 フェイスマンはカップをテーブルに置いてハンニバルに近寄り、手から葉巻を取り上げると、その葉巻を金属の窓枠に押しつけて消した。
「おい、フェイス……。」
 苦情を言おうとするハンニバルの口許に鼻を近づけ、クンと嗅ぐ。
「すごいよ、チェルシー! 全然、葉巻の匂いがしない! ……けど、何、ハンニバル、このケチャップの染み。って言うか、葉巻の匂いはしないけど、ケチャップ臭い……。」
「そ、それはだな、その、苦情は俺にホットドッグを投げつけたウェイターに言ってくれ。」
 不満気に頬を膨らませて上目遣いで睨むフェイスマンに、視線を宙に泳がせながらハンニバルはそう言った。そう言うしかなかった。神業的な記憶力を持つ偽ウェイターに、ソーセージのことまで説明されたくなかったので。



 ハーブティーの後、チェルシーの好意に甘えて、コングはチェルシーが買ってきた牛乳を飲んだ。無脂肪にしたり低脂肪にしたり、栄養素をあれこれ加えてみたり、加工された最早牛乳とも言えない牛乳モドキの多いアメリカにあって、成分無調整の牛乳はとても美味で、コングはフェイスマンに今後この牛乳を買うように言ったのだった。
「さて、それじゃお嬢さんをお家に送り届けなきゃな。コングのバンは危なっかしいんで、フェイス、お前の車で。」
「うん、わかった。」
 胃の調子も絶好調なフェイスマンは、快くその命令を受諾した。大人びて、ちょっと変わっているけど、チェルシーはそこそこ裕福な家庭のご令嬢のように見えるし。
「さっき言ったお礼とお詫びのことなんだけど、何か僕たちが力になれることってないかな?」
 帰り支度をしているチェルシーにフェイスマンが尋ねた。
「あるわ。」
 にっこりと即答するチェルシー。その間にも、コングとマードックが冷蔵庫から運んできた荷物を、さかさかと紙袋に詰め込んでいる。
「ハーブの温室が壊れて、どうしようかと思っていたところなの。寒くなる前に直してもらえるとありがたいわ。」
「おう、そんなことならお安いご用だ。」
 バンと胸を叩いて請け負うコング。
「俺っちも手伝うぜ。」
 病院に戻る気はさらさらないマードック。
「よろしくお願いね、ゴリラさんとハヌマンラングールさん。」
 ゴリラ? ハヌマンラングール? と顔を見合わせるコングとマードック。チェルシーにちゃんと名乗らないのがいけない。
「じゃ、俺、送りがてら下見してくるよ。」
 上着を羽織るフェイスマン。
「資材の調達も頼んだぞ。」
 窓を閉めつつ、ハンニバルが言う。
「オッケ。さ、行こうか、チェルシー。荷物、持つよ。」
「ありがとう、フェイス。」
 2人は仲よくマンションを出ていった。



*4*


 フェイスマンがマンションを出たのは午後3時すぎだったのだが、戻ってきたのは深夜。
「フェイス、今まで一体何してたのかな? チェルシーのお宅でもてなされていたのかな? それともチェルシーのお母君が美しい方だったとか?」
 1人掛けソファにどっかりと座ってアクアドラゴンの台本案を読んでいたハンニバルが、フェイスマンの方を振り向かずに尋ねる。
「日が暮れるまで壊れた温室の下見して、その後、図面引いて、資材調達してた。パイプとかガラスとかビニールとか足場とか、マンションの駐車場に置ける量じゃなかったんで、チェルシーんちに運び込んでおいた。クレーンも。」
 ハンニバルの厭味も気に留めず、疲れ切ったフェイスマンは、ばったりとソファに倒れ込んだ。
「何だと? たかだか人んちの温室だろ?」
 風呂掃除をしていたコングが、片手にスポンジを握って聞く。
「フェイス、夕飯食う?」
 キッチンからマードックが問うた。
「メニューは?」
「クラムチャウダー風ロールキャベツと南瓜のサラダだ。美味かったぜ。」
「食べる!」
「了解!」
「コング、これ、温室の図面。」
 フェイスマンは内ポケットから折り畳まれた紙を取り出して、それを開くと、コングに差し出した。
「どら。……何だァ、このでかさは。植物園か何かか、チェルシーんちは。」
「一般公開はしてないけど、ハーブの森だった。」
「どれどれ?」
 ハンニバルも腰を上げて図面を覗き込む。
「ああ、こりゃあ、あれか。あの喫茶店の向かいの公園の北側にある鬱蒼とした地帯。」
「そう、それそれ。元はチェルシーのご両親のハーブ園だったんだけど、今はチェルシー1人で管理してるんだって。」
「あんな小っちぇえ子1人でか?」
「それが、チェルシー、30代だった……。」
「あれ? みんな、わかんなかったん?」
 ほかほかと湯気を立てるクラムチャウダー風ロールキャベツと、ジャコ入り南瓜のサラダ、および外はパリパリ内側フカフカのカンパーニュをテーブルに並べ、マードックが周りを見る。
「ハーブのおかげか、お肌はピチピチだったけど、TVで『グリーン・ホーネット』の再放送見てたもんね、わざわざチャンネル合わせてまで。“この話は見覚えがあるわ”って言ってたし。多分、オイラと同じぐらいか、もうちょい上じゃん?」
「てめェ、脳足りんのくせして、よく見てやがんな。」
「ん、これ美味い。」
 ロールキャベツを口にし、フェイスマンが顔を綻ばせる。
「チェルシーにハーブやスパイス貰ったんで、使ってみた。」
「俺、ロールキャベツん中って肉かと思ってたんだけど、これ、魚?」
「そ、大佐の出っ張った腹にも安心、低カロリー高タンパクなフィッシーフィッシュよ。そこに、魚の臭みを消すタイムと、ミルクの風味を引き立てるナツメグ。」
「出っ張った腹っていうのは、このことかな?」
 見ると、ハンニバルの腹、息を止めて無理矢理引っ込めているというのは置いておいても、普段よりすらっとしている……ように見える。
「チェルシーが内臓脂肪を落とすハーブを置いていってくれてねえ。いやもう、ドバドバですよ。」
 すっかりご満悦なハンニバル。フェイスマンが食事中なので、何がドバドバなのかは詮索しないでおく。
「大佐、ずっとハーブティー飲んじゃトイレに通ってたもんねえ。オイラも、チェルシーに調合してもらったハーブを煮出したお湯でリンスしたら、頭皮の調子がいいの何のって。血行がよくなって、血液がじゅわじゅわーって流れてる感じ。」
「俺もだ。チェルシーに貰ったハーブの茶ァ飲んで腕立て伏せしたら、インターバル入れずに1000回行けたぜ。500が限度だったのによ。」
「そうだ、俺もチェルシーにティーバッグ貰ったんだった。疲労回復のお茶。」
 と、ポケットから小さな包みを取り出すフェイスマン。
「それじゃあ、この素晴らしいチェルシーのハーブを守るべく、明日、朝イチで温室を直しに行きますか。」
「おう!」
 すっかりハーブの虜になってしまったAチーム、無料奉仕だというのに、やる気満々なのであった。



*5*


〈Aチームの作業テーマ曲、かかる。〉
 煌めく朝日の中、傷だらけのバンから颯爽と降り立つ男4人。お肌ツヤツヤ、髪しっとりサラサラ、背筋もピシッと伸びている。
 クレーンを操作するマードック。ヘリじゃないけど上手いものだ。トラックの上の資材をどんどんと温室脇に積み上げていく。
 猛スピードで足場を組んでいくコング。あっと言う間に足場が出来上がり、その上に乗って温室の骨組みを直していく。必要な部分はアセチレントーチで溶接。下の植物に火の粉が落ちないように注意しながら。
 軍手を嵌めて硬質ガラスを運び込むフェイスマン。普段なら持ち上がらない重さなのに、すいっと持ち上げることができ、気分がよい。単調な力仕事にも、やる気が出る。
 パテを削って、割れたガラスを外すハンニバル。すぐに厭きるような作業なのに、今日は根気が続く。
 4人が黙々と働いているのを見ながら、ハーブの世話をするチェルシー。
 1つの温室を直し終え、次の温室に取りかかるAチーム。温室は全部で大きいのが2つと、小さいのが4つ。加えて、赤外線を通さない特殊フィルムで覆われた“冷室”が2つ。それとハーブ乾燥室が1つ。
 ハーブ園を臨むテラスでハーブ教室を開いているチェルシー。
 差し入れのサンドイッチを食べ、ハーブティーを飲むAチーム。もちろんコング用に牛乳もたっぷり用意されている。
 食後も延々と温室修復に勤しむAチーム。タオルで汗を拭ったハンニバル、茶色い汗を見て満足そうに頷く。
〈Aチームの作業テーマ曲、終わる。〉



「ふわーっ、終わったーっ!」
 直すべきものをすべて直し終え、フェイスマンはテラスの板張りの上に引っ繰り返った。手足を大きく伸ばして。
「今日は1日、よく働いたな。」
 ハンニバルも、床に腰を下ろす。
「いい感じに疲れたぜ。心地好い疲れってやつだ。」
 コングは地面の上に仰向けになった。そよ風に吹かれて、ハーブの香りが漂ってくる。
「まだこれから片づけしなきゃよ。」
 あまり力仕事をしていないマードックは、余力たっぷり。
「そう言や、フェンスが壊れてたぜ。」
 と、コングが遠くを指差す。
「公園との境の“私有地につき立入禁止”の札も壊れまくってた。」
 そう報告するのはマードック。
「生け垣の支柱も、いくつか折れてたな。ありゃ直した方がいいのか?」
 誰へともなく尋ねるハンニバル。
「蒸留装置の調子が悪いってチェルシー言ってたっけ。」
 誰へともなく呟くフェイスマン。
 と、その時、誰もいないはずのハーブ園から話し声がした。
「チェルシー。」
 フェイスマンはキッチンでいい匂いをさせているチェルシーの方に呼びかけた。
「俺たちの他に、誰かいるの?」
「いないわよー。私とあなたたちだけ。」
 それを聞いて、4人は立ち上がり、ニヤリと顔を見合わせた。



〈Aチームのテーマ曲、かかる。〉
 薄闇に包まれたハーブ園の中に駆け出していく4人。
 片手に鋏、もう片手にはザルを持ち、背中にデイパックを背負った迷彩服の侵入者を発見し、飛びかかるフェイスマン。しかし、ザルでなぎ払われる。ハーブを踏まないように何とか持ち堪え、振り返りざまに回し蹴りを食らわす。モロに頭部に蹴りを食らった侵入者は、あっさりと倒れた。
 同様な服装の侵入者の後ろから忍び寄り、デイパックを引っ張って引き倒すハンニバル。鋏による一撃を、すんでのところで避ける。体勢を立て直した侵入者は、鋏を持った手で素早い突きを繰り出してきたが、それをかわしつつパンチを放つハンニバル。突きのスピードが緩んだ隙に、相手の懐に潜り込み、顔面に強烈なストレート。侵入者はスローモーションで後ろに倒れていった。
 フェンスによじ登ったマードックが、フェンスの穴の向こうで待機していたコンパクトカーのルーフの上に飛び下りる。
 マードックを乗せたまま発進した車だったが、マードックを振り落とそうと蛇行するうち、肩周りにフェンスをくっつけたままのコング(フェンスの穴から出られなかった)が仁王立ちする場所に戻ってきてしまった。突っ込んでくるコンパクトカーの丸い鼻づらをガシッと押さえ込むコング。その衝撃で、コングの後方にすっ飛んでいくマードック。後ろを見やってククッと笑った後、運転手の首根っこを掴んで引きずり出すコング。
〈Aチームのテーマ曲、終わる。〉



 テラスの前には、ロープでぐるぐる巻きにされたハーブ泥棒3名が座り込んでいた。うち2名は未だ気絶中。
 テラスのテーブルの周りには、頬に一筋の切り傷をつけたハンニバル、頬にザルの跡がついたフェイスマン、フェンスは外したものの手首を捻挫したコング、着地の際に両手を擦り剥いたマードック。それと、ハーブを擂り潰している最中のチェルシー。
 テーブルの上には、すっかり冷めてしまった夕食。
 チェルシーはガーゼの上に擂り潰した生ハーブを塗りつけ、ハンニバルの頬にそれを当てると、紙テープでガーゼを固定した。続いて、同じものをマードックの両掌に貼りつける。
「フェイスのは、冷やすだけで大丈夫よ。」
 と、濡れタオルを渡す。フェイスマンは素直に、冷たいタオルを頬に当てた。
 それからチェルシーはハーブ園の方に小走りで駆け出していくと、いくつかの葉を千切ってすぐに戻ってきた。その葉を乳鉢に入れて、ゴリゴリと擂る。
「手が無事なお2人、ローストポークを切り分けてくれないかしら? サラダも取り分けておいてくれると嬉しいんだけど。」
「はいはい、ドクター。」
「俺、タオル押さえてるから、切り分けるのはハンニバルやってよ。」
「オイラ、指先だけなら使えるぜ。」
「モンキー、お前は何もせんでいい。こんな美味そうな肉、摘み食いされちゃ堪らんからな。フェイス、サラダを取り分けるのは片手でもできるな?」
 肉を前にして、活気づく怪我人たち。
「……済まねえな、チェルシー。フェンス壊しちまった。」
 そんな中で1人だけ依然としてしゅんとしたコングが謝る。
「いいのよ、どうせ穴開いてたんだし。」
「明日、絶対直すからよ。」
「じゃあ明日もよろしくね、ゴリラさん。」
 そう言えば、フェイス以外、まだ誰も名乗っていないのだった。
「でも、手首は大丈夫なの?」
「ああ、あんたのハーブがありゃあ、すぐにでも治るぜ。盗みに入るあいつらの気持ちも、わからねえでもねえな。」
「そうね、ハーブは店で買うと高いから。まあ、ハーブに高値がついているおかげで、私が生活できて、このハーブ園が維持できているとも言えるわ。」
 チェルシーは擂り終えたハーブをガーゼに塗って、コングの両手首に巻いた。
「ただね。」
 空になった乳鉢を2つ重ね、チェルシーがふっと息をつく。
「ハーブだけじゃどうにもならない病気もあるし、使い方を間違えると命に関わることもあるから、ハーブに詳しくない人が盗みに入っても……(長い沈黙)……それは自業自得かなあって思うのよ。」
 チェルシーはハーブ泥棒の方を見て、ニマァッと笑った。まるで悪魔のような笑み。
「ごっ、ごめんなさい! お、俺たち、ハーブに全然詳しくないです! でも、何度かハーブを盗んで、レストランや八百屋に売って、金を稼いでました。あの、俺たち、何か危ないやつ盗んでましたか?」
 ハーブ泥棒が慌てて口を開く。
「よくはわからないけど、妊婦さんが口にすると流産しちゃうのがだいぶ減ってた気がするの。あと、外用に使うならいいんだけど、内服するとものすごくお腹を下して、更に吐き気が止まらないのも減ってたんじゃないかしら。ああ、それと、幻覚作用のある植物も許可を得て栽培しているけど、これを売買したんだったら大変ね。いわゆるヤクの売人ってことになるわ。」
 すらすらとチェルシーが言う。
「本当か?」
 小声で尋ねるコングに、チェルシーも小声で返す。
「初めの2つは本当。最後のはウソ。」
 そしてチェルシーは、アワアワしているハーブ泥棒に向かって言い放った。
「ねえ、泥棒さん。ハーブについて詳しくなりたいんだったら、ハーブ教室もやってるわよ。1回20ドル。どう?」
「やっぱり30代だけあるね、あの強かさ。」
 サラダを取り分け終えたフェイスマンが、豚肉とベイクドポテトを取り分けているハンニバルの耳元に囁いた。
「フェイス、聞こえたわよ。」
 チェルシーがギロリと睨む。
「ごーはーん! 早くごーはーん!」
 取り分けられた肉を前に、我慢しきれなくなったマードックが叫ぶ。
「あいつら放っといて、早くメシにしようぜ。ハーブのおかげで腹ペコでよお。」
 いいタイミングで、コングの腹がグーと鳴る。
「そうね。長らくお待たせいたしました、どうぞ皆さん、召し上がって下さい。」
「いただきまーす!」(×4)
 空腹野郎どもは冷えても香り高い夕飯に突撃した。両手ガーゼのマードックも、指先だけでフォークとナイフを駆使して。フェイスマンはタオルをベルトで固定して。
 ハーブ教室だけでなくハーブ料理教室まで開いているだけあって(表の看板にはそう書いてあった)、チェルシーの料理はどれも皆、いい香りがしていた。ハーブを使った料理は、往々にしてそのハーブの匂いばかりがきつく、食材の香りを消してしまっていたり、匂いに焦点を置くあまり、味を疎かにしてしまいがちなのだが、さすがにチェルシーの料理はそんなことはなかった。ハーブの味も香りも、食材の味も香りも、すべてが一体になって、それで1つの料理になっていた。ハーブそのものの味や香りが前面に押し出されているのではなく、ハーブが食材の味や香りを、強めたいところは強め、抑えたいところは抑え、と指揮を執っているかのような。更にハーブは、単一な歯応えの食材に変化を与えてさえいる。
 そんなチェルシーの料理を言葉で表現できる者は、ここにはいなかった。ただ「美味い」としか言えない。いや、むしろ、何も言えなかった。言葉を発する暇さえ惜しかった。食べている間、怪我の痛みすらも忘れていた。
 全員が心地好い満腹感を感じ始めたちょうどその時、皿の上からすべての食べ物が消えた。多くもなく足りなくもなく、絶妙な量だった。
「ご馳走さまでした!」(×4)
「はい、お粗末さまでした。」
 食後のハーブティーがカップに注がれる。
「美味かった、と一言で済ませられるもんじゃないが、いや、実に美味かったよ。」
 一同を代表して、ハンニバルが思いを伝える。その言葉に頷く部下たち。
「私は大したことしてないのよ、みんなハーブのおかげ。それと、皆さん、お腹を空かせていたのも、よかったんじゃないかしら。空腹は最高のスパイスだって言うじゃない。」
「そうだ、チェルシー、オイラんとこのコックにハーブ料理教えてくんないかな。」
 いきなり言い出すマードック。
「お抱えのコックさんがいるの?」
 事情を知らないチェルシーが目を丸くする。
「奴ァ病院住まいなんだ、頭のな。」
 と、指でマードックの頭をトントンと叩くコング。それを払い除けるマードック。
「まあ、そうなの……。でも、そうは見えないわ。」
「それもこれも、ハーブのおかげ。もー俺っち、昨日今日とハーブティー飲んで、頭冴えまくりだもんね。頭ん中で歌ってる奴もいないし、リトルグレイからの電波も来ないし、すっきり爽やかよん。」
「ほう、ハーブティーは頭にも効くのか。健全な肉体に健全な精神が宿る、ってやつかな。いいじゃないか、チェルシー、ぜひ行ってやりなさいな。」
「ええ、お話さえ通してくれれば、お茶の処方と料理を教えに行ってもいいわよ。ギャラは取るけど。」
「その辺は俺に任せて!」
 挙手するフェイスマン。しかし、病院に面が割れるとまずいんじゃないか?
「どうせなら精神安定のハーブティーをデッカーの奴にも飲ませてやりたいねえ。」
「いいな、それ。」
 ハンニバルの提案に、コングも同意する。
「デッカーさんって、MPのデッカーさん?」
 チェルシーの口からデッカーの名が出て、一同は瞬時にして表情を険しくした。
「知ってるの?」
「奥さんがここのところずっとハーブ教室に来てるわ。旦那さんに送り迎えしてもらって。あなたたちが言ってるのは、あの血色の悪い顔した旦那さんでしょ?」
 と言われても、デッカーの顔の血色なんぞ思い出せないAチーム。
「もうとっくに精神安定とストレス解消のハーブティーを奥さんに飲まされてると思うわ。」



*6*


 ちょうどその頃。
「あなた、ハーブティーよ。」
 デッカー家では、ここのところ毎晩恒例の、奥方お手製ハーブティーが振舞われようとしていた。
「ああ、ありがとう。今日はどんな効能のやつなんだい?」
 デッカー自身はハーブティーを美味いとは思っていないのだが、妻が凝っているので仕方なくつき合っているのである。
「今日のは、神経を落ち着かせて、ストレスをなくすお茶なんですって。」
「ほう?」
 半信半疑どころか100%疑って、しかし、デッカーはそのハーブティーを啜った。茶の1杯ぐらいで体調がどうにかなるもんじゃない、ましてや精神状態が茶なんぞに左右されるわけがないだろうが、と思っているのだが、それを口にしたら寝る場所と食うものを失ってしまうことが明らかなため、未だ奥方にその思いを伝えたことはない。
「うん、こりゃ美味いな。」
 味は、悪くなかった。紅茶を飲むより、ずっといい。もしかしたら、煮詰まったコーヒーよりもいいかもしれない。
「でしょう? 今日教わってきたお茶なの。……ねえ、あなたも一緒に行ってみない? ほら、あなた最近、プランタで野菜の栽培を始めたでしょう? 鉢植えのハーブもいいと思うのよね。お料理にちょっと生のハーブが添えてあるってステキじゃない? そうだ、あなた、明日非番だって言ってたでしょ? 行きましょうよ、チェルシー先生のハーブ園。苗も分けて下さるのよ。」
「あ、ああ……うん……そうだな、急な用事が入らなかったら、行こうかな……。」
 いい加減な返事をしながら、デッカーは明日、急にAチームが現れて家に電話連絡が入ることを祈っていた。



 だがしかし、翌日、ハーブ園のフェンスと立て札と生け垣の支柱と蒸留装置の修理および昨日の片づけに忙しいAチームは、MPに発見されるような目立つ行動は行わなかった。そのため、デッカーは奥方に連れられ(と言っても車を運転するのはデッカー本人だが)、ハーブ園を訪れた。
 ハーブティーの講義を受けている奥方をテラスに置いて、デッカー大佐はハーブ園を見て回っていた。観賞用の植物は好かないが、このハーブ園にあるどの植物も食用もしくは薬用だというのが、デッカーには興味深かった。
「やはり、役に立つのはいいな。」
 そんな独り言を呟き、これはと思うハーブの匂いを嗅いで回る。
 到着した時に、クレーンを乗せたトラックと廃材を乗せたトラックとが出ていくのを目にし、「何だ?」と思ったのだが、透き通ったガラスの温室を見て、温室の修理をしたのだということがわかった。今もなお、フェンスを直している職人や生け垣を直している職人がいる。
 鉢植え野菜初心者は、これだけのハーブ園が維持され続けていることに、感動さえ覚えた。自分は二十日大根の葉を鳥から守るのが精一杯だというのに。
「あー、君、ここは素晴らしいハーブ園だね。」
 デッカーはフェンスを直している逞しい男に声をかけた。
「おう、そうだな。」
 ほっかむりをした男は、デッカーに背を向け、フェンスを直す手を止めぬまま、そう答えた。
「初めて来たんだが、気に入ったよ。君もこのハーブ園のために、頑張って働いてくれたまえ。」
「おう。」
 職人の働きっぷりに満足し、うむ、と頷いたデッカーが、踵を返して歩を進める。微かに振り返った職人は、ぶっとい腕で額の汗を拭い、ふう、と溜息をついた。
 ハーブ園のフェンスとは反対側の端で、これまたほっかむりをして生け垣の支柱を直している男に、デッカーは声をかけた。
「こんにちは。」
「あー、こんにちは。」
 背を向けているので顔はわからないが、しわがれた老人の声だった。
「このハーブ園の方ですか?」
「いんや、わしゃ生け垣を直してるだけだがに。」
「その生け垣もハーブなんですかな?」
「さあて、よく知らんもんでな。ほれ、何てったか、ここのお嬢さん、あれに聞いてみるといいんでないかい?」
「チェルシーさんですね。妻がよく話してくれるんですよ。いや、それにしても、ここはいい所だ。静かで、空気が澄んでいて、落ち着きますよ。」
「ハーブのエナジーっちゅーわけだ。」
「まさに、それです、ハーブのエネルギー。いいこと言いますな、はっはっは。」
「カッカッカ。」(←笑い声)
「ま、爺さんも頑張って下さい。」
「わしゃ、いっつも頑張っちょるがの、お若いの。」
「若いなんて、そんな。はっはっは。」
「カッカッカ。」
 笑いながら、デッカーはテラスの方に戻っていった。緊迫した表情で微かに振り返った爺さんは、水色の瞳をキラリと光らせ、ふう、と溜息をついた。



 と、そこへチェルシーが小走りにやって来た。
「デッカーさんの旦那さんが来てるわ。」
 彼女は、昨夜のうちにAチームの事情を聞いていたのである。
「知ってる。今会ったからな。」
「大丈夫だったの?」
「大丈夫。俺たちがいるって予測し得ない場所で会ったんだ、そう簡単に気づけるもんじゃない。それに、奴さん、神経質な割に間抜けだからな。」
 コングもドスドスっと駆け寄ってきた。
「ハンニバル、デッカーが来てるぜ。全っ然、俺に気づかなかったけどよ。」
「ああ、こっちにも来た。で、チェルシー、君はここにいていいのか? ハーブ教室は?」
「今は休憩中。キッチンに引っ込む振りをして、裏口から出てきたの。」
「いい判断だ。コング、そっちは終わったのか?」
「フェンスの修理、全っ部終わったぜ。」
「こっちも生け垣の支柱、全部直し終えた。というわけでチェルシー、これで終了だ。デッカーに気づかれないうちに引き上げるとするよ。」
「どうもありがとう。また会えるわよね?」
「ちょくちょくハーブ貰いに来るよ。」
「また美味いメシ食わせてくれよな。」
「うん、いつでも来て。フェイスとハヌマンラングールさんも一緒に。あ、でも、この2人とは、その“頭の病院”でまた会うのかしら?」
「多分な。さ、それじゃデッカーに気づかれないうちに行くぞ。」
「おうっ。」
「気をつけてね。」
 ハンニバルはチェルシーに笑顔で頷いて見せると、コングと共に駆け出していった。



 それから数十分後。
「スミスとバラカスか! おのれ、よくも謀りやがったな! 今に見てろ〜!」
 やっと気がついたデッカーが、ハーブ園の中ほどで叫んだのだった。
【おしまい】
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