46号 おわりの挨拶


The A'-Team



 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、冬にお会いしましょう。



【おしまい】









次回予告

「フェイスです。今、ドラッグストアに行ってティッシュ買ってきたとこです。今日は、クリネックスが12箱で8ドルという破格値でした。こういう機会はなかなかありません。なので、36箱買っておきました。ただ、ローションティッシュは安売りしてなかったので、自分の部屋だけで使おうと思います。」
「済まんな、フェイス。」
 出てきたハンニバル、早速ティッシュを出して鼻をかむ。
「いいってことよ。安かったし、36箱もあるんだから、じゃんじゃん使って。」
 フェイスマンが余裕のよっちゃんでそう言った。
「ティッシュ、ティッシュ。」
 ととと、と駆けてきたマードックもティッシュを出して鼻をかむ。因みにハンニバルとは別の箱を開けての暴挙である。
「ティッシュだと? とっとと寄越せ。」
 どすどすとやって来たコングも、ハンニバルやマードックとは別の箱を開けて鼻をかむ。そうする間にも、ハンニバルとマードックは鼻をかみ続けている。当然、彼らの鼻は、赤い。コングの鼻は、赤黒い。
「ちょ、ちょっと待って! じゃんじゃん使ってもいいけど、一度に開けるのは1箱にしようよ! そんな、開いてるティシュボックスばっかり増やしたら、お洒落なインテリアに似合わないじゃないか!」
「だって自分のペースで取りたいもん。」
 と言い放つマードック。
「ゴミ箱も人数分頼むぜ。」
 とコング。
「ティッシュがなくなった後の箱に、鼻かんだティッシュ捨てればいいだろ。そんなゴミ箱なんて部屋の数だけしか盗ってきてないよ。」
 鼻かんだティッシュを空き箱に捨てるってのは、お洒落なインテリアに矛盾しないか、フェイスマン。
「それはそうと、何でみんなそんなに鼻かんでるの? 外になんか飛んでる?」
 今のところフェイスマンの鼻は無事だったが、仲間に入りたくはないので原因ははっきりさせておきたい。すると、ハンニバルがティッシュの箱を押しやって身を乗り出した。
「この鼻水の原因は、恐らく、お前さんのつけてる何かだと思う。」
 ティッシュを鼻に当てて、ハンニバルが言う。
「そうか、原因はフェイスのそのニオイか。」
 ニオイを嗅ぐ能力が失われているはずのコングが呟く。
「そう言や、フェイスのそばに行くと鼻水垂れるしくしゃみ出る気がする。」
 マードックの口調はいつも通りだったが、目でフェイスマンを責めている。
「俺のニオイだって!? デオドラント&フレグランスには、こう見えても人一倍気を使ってるつもりだよ? 香水はシャネルだし、ヘアトニックはパンテーンだ。一体俺にどんな悪臭がするっていうのさ。」
「香水とヘアトニックは変わってない。従って、それが原因ではない。」
 手にしたティッシュをゴミ箱に放りながらハンニバルが重々しく言う。
「でもよ、いつもと違うニオイがするぜ。」
 コングはそう断言した。皮膚でニオイを感知しているのかもしれない。
「悪臭ってわけじゃねえけど、鼻おかしくなる前、何かいつもとちょっと違うニオイするってオイラも思った。」
「ふむ。それじゃフェイス。ニオイの原因がお前さん自身ではないとして、お前さんの衣類や持ち物に原因の物質が付着している可能性がある。今朝起きて着替えてからの行動を辿ってみろ。」
「ドラッグストアに行ったけど?」
「それはさっきだろう。朝からだ。」
「朝からの行動か。」
 フェイスマンは考え込んだ。
「今朝は7時に起きて、シャワーを浴びて、それからコーヒーとクロワッサンで朝食を。」
「ちょっと待って! オイラ、朝、シリアルとミルクしか食ってない! 大事なことなので2回言います。シリアルとミルクしか! 朝食に出なかった!」
「朝メシはシリアルと牛乳で十分だろが。」
 コングの場合は、シリアル1箱と牛乳1/3ガロンだから、それで十分。
「モンキー、大事なことかもしれんが、今はその話じゃない。」
「ごめんごめん、今朝、ゴミ出しの時間に遅れそうだったんで、モンキーの朝ゴハン、適当だったわ。」
「ゴミ出しなら仕方ないな。で、それから?」
「昨日知り合ったインド人の女の子の家で、家電の配線をする約束してたから、そっち言って、彼女の買ってるフェレットと遊んで、昼くらいに別の女の子の誕生日プレゼントを買いにデパートに行って、香水をいくつか選んで……あ、でも変なニオイのはないよ? 全部ブランドものの高い奴だし。」
「ちょっと待て。彼女は何を飼ってるって?」
「フェレットだよ、ほら、あの黒と白の縦縞で尻尾がふさふさした。」
「フェレットって白黒で尻尾ふさふさじゃねえだろ? それ、スカンクの子供なんじゃねえの?」
「スカンクだと? 極めつけの悪臭じゃねえか。いくら何でも、そこまで臭かねえだろ、フェイスは。」
「で、その後はどうしたんだ?」
「うん、で、香水買って、彼女の家に迎えに行って、彼女の飼ってるミンクと遊んで、それからお好み焼きを食べに行った。」
「ちょっと待て。彼女は何を飼ってるって?」
「ミンク。」
「ミンクだと? まさかジャコウネズミじゃねえだろうな?」
「ジャコウネズミ? それはミンクと見間違えるようなものなの?」
「うんにゃ、見間違えねえよ。ジャコウネズミは鼻尖ってるし、可愛くねえもん。」
「……鼻、尖ってた。可愛くなかった。でも、彼女、ミンクだって言ってたし! 可愛いでしょって言ってたし! 可愛くなかったけど。」
「その後に、お好み焼き? てことはお前さん、インド系スパイス→スカンク→各種香水→ジャコウネズミ→お好み焼きとな? そりゃ臭うだろ。臭わない方がおかしい。」
「あっ、そう言えば、お好み焼き屋で隣のテーブルにいた客もくしゃみ連発してた。てっきり舞い散る鰹節のせいかと思ってた。」
「原因はもうわかったようなもんだが、それしきのことで我々が鼻水を垂らすとは思えん。続きを話してみろ。」
「うん、その後、ここに戻ってきて『ティッシュ買ってこい、大量に』っていうメモ見てドラッグストア行って、リビングが葉巻臭かったなって思い出して消臭殺菌剤のテスターをいろいろ使ってみたけど、これってのがなかったから、ティッシュだけ買って帰ってきた。」
「何も問題はないようだな。」
「でしょ? て言うか、それしきのことで鼻水垂らさないって言い切るんならさ、原因はそっちにあるんじゃないの?」
「俺は朝メシ食ってから部屋でフットボールの試合を見てた。外には出てねえ。」
「オイラも一緒に見てた。鼻水啜りながら。」
「あたしもですわ。」
「ん? ちょっと待て、これじゃねえか?」
 コングがお洒落なリビングルームのお洒落なカーテンの方に向かった。
「おい、フェイス。これ、どっから盗ってきた?」
「それ? ええとね、どっかのクリーニング屋。何か胡散臭い感じの。」
「どれどれ?」
 カーテンに近寄ったマードックがくしゃみを連発し出した。
「どら?」
 同様にカーテンに近寄ったハンニバルが、鼻を押さえてティッシュボックスの方に駆け戻る。
「何かヤバいもん使って洗ったんじゃねえか、これ。」
 コングの鼻からは怒涛の鼻水が流れ落ちる。
「え、そんな臭う? ……ヘックシュ。ああ確かにこれだね、ヘックシュ。」
「だろ? ヘックシュン。」
「うん、これこれ。何か、粉みたいのついてるし。」
 そう言いながら、次々とティッシュに手を伸ばす4人。嗅がなきゃいいのに、つい嗅いでしまうのは何の習性だろう。
 というわけで、瞬く間に減っている安売りティッシュ。既に3箱が終了している。
「このままではティッシュがなくなるか、我々の体の水分が鼻から出切ってしまう。その前にフェイス、新しいカーテンを調達してこい。」
「オッケ。」
「その前に、これ外して何とかしようぜ。」
 コングが建設的に、カーテンを力任せに剥ぎ取った。
「うわ、目にも来た。痒い!」
 マードックが目を擦りつつくしゃみをする。
「何だ、こりゃ?」
 カーテンの裏に留められたメモを見て、涙と鼻水を垂らしながらコングが首を捻る。
「何々……次回、特攻野郎Aチーム、『コング、カーテンを洗う』、『モンキー、ミイラになる』、『ハンニバル、寝込む』の3本です。だと?」
「うひょう、2本目が面白そう♪ じゃ、そゆことで、よろしく〜。……ふんがっふっふ。」
 鼻をかもうとティッシュを鼻に当て、大きく息を吸い込んだマードックの口に、ティッシュペーパーがしゅぼんと吸い込まれた。



「鼻をかもうとする時、ちり紙で口を完全に覆ってはならない。鼻をかむ前に、喉にちり紙を詰めることになるからだ。ちり紙を半分に折って使えば、この痛ましい事故を防ぐことができる上、手に鼻水がつくこともない。」
(I.アシモフ著『アシモフのもっと雑学コレクション』より)

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