47号 おわりの挨拶


The A'-Team



 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、夏にお会いしましょう。



【おしまい】









次回予告

「フェイスです。さっき路地裏で少年がカツアゲに遭ってたので、スルーした後、チンピラの財布を全部掏り取ってきました。もちろん、中身だけ抜き取って、カラは通りすがりの別のチンピラの尻ポケットに入れときました。中身は3割抜き取って、少年のポケットに返しときました。」
「何でスルーすんだ。カツアゲ遭ってんの見たら助けてやりゃいいじゃねえか。」
「やだよ、俺、揉め事嫌いだもん。」
「揉め事の方は、お前さんのことが大好きなようだけどな。」
 と、ハンニバル。
「それに女の子じゃなかったし。」
「それって不公平じゃないの?」
 と、マードック。
「不公平かもしんないけど、俺、ポリスマンじゃないし慈善活動してるわけじゃないんだから。俺は俺の助けたいものを助ける!」
「助けたいのって?」
「まず第一には俺だね! 俺は俺自身を助けたいの! だって大変なんだぜ? 毎日毎日資金とガールフレンドのやり繰りでさ。」
「そりゃ自業自得なんじゃねえか?」
「心外だね! こんなに真っ当に生きてるのに誰も助けてくれないなんてさ。」
「真っ当!」
 ハンニバルがブフーッと噴き出すや否や、ゲラゲラと笑い出した。こんなに笑うハンニバルも珍しい。と言うか、未だかつて見たことがない。声を上げ、腹(出っ張ってる)を抱え、体を2つに折って。その笑いは治まる気配がない。
 笑い続けるリーダーを見下ろす部下3名。笑い続けて既に5分が経過した。
「これ、ヤバいんじゃね?」
 マードックが呟いた。
「うん、何かちょっと苦しそうだね。」
 笑われている本人のフェイスマンも呟く。
「真っ当! ノー! 真っ当! ノーノー! うほほ、うほほほほほ。」
 ハンニバルは、笑いすぎて過呼吸になりつつ、玄関ドアの方を指差した。
 指に従ってそちらを見る部下3名。そこにあるのは宅配便の箱だ。フェイスマンが出かけている間に届いた荷物だった。
「お前さんが! 真っ当! うほっ、うほっ、ぐふっ、ぐっ、げっ、がっ(痰が絡んだ)……がはははは!(復活した。)」
 ひくひくと痙攣さえ始めているハンニバルを心配しつつ、3人は宅配便の箱に駆け寄った。既にガムテープが剥がされているその箱を、コングがガッと開ける。箱の中には、紙、と言うか、冊子の束。
「何だこれ?」
 マードックが、そのうちの1冊を取り上げようとした瞬間、「ぐわほっ!」とハンニバルが盛大に咳込んだ。仕方なく冊子を置いてリーダーの元に駆け戻る3名。
「大丈夫か、ハンニバル?」
 コングがハンニバルの肩に手をかけるも、ハンニバルは再び箱の方を指差すのみ。いや、のみ、ではなく笑い続けている。
「あの紙で笑い止まんの?」
 誰にともなくマードックが訊く。
「笑い止めの薬でも塗り込んであるとか?」
 玄関ドアの方に向かうフェイスマン。箱の中から冊子を取り上げ、表紙を一瞥。そして……眉毛が下がった。
「……やられた。」
「フェイス、早くそれを大佐に!」
 軽快に駆け寄ってきたマードックも、フェイスマンが手にした冊子を覗き込んで声を裏返した。
「うっひょ〜!」
「何だ何だ?」
 蹲るハンニバルの背を優しくさすっていたコングも、ハンニバルをぺいっと放り出して箱に駆け寄った。マードックに冊子を手渡され、眉間に皺を寄せる。
「こりゃあ結婚詐欺の告訴状じゃねえか。こっちはジェニファーから、こっちはティファニーから。リンダからは、踏み倒した“事業資金”の返還要求。チェビー・マクファーソン様ってのは、お前が最近使ってる偽名か?」
「マイクって奴からも結婚詐欺で訴状来てるぜ。マイク……男? その他にも、訴状やら請求書やら、何十冊もあるじゃん。これ、どっかの弁護士が一手に請け負ってんじゃね?」
「被害者の会まで結成されてるらしいぜ。」
 書類に目を通していたコングが次に手に取ったのは、ピンクの封筒。ベリリと封を開け、中の紙を取り出す。
「手紙だ。ええと何だって? 親愛なるチェビーへ。お久し振りです。あなたが私の前から姿を消して、もう1ヶ月ですね。その間、私にはお友達が増えました。みんないい子ばっかり。あなたのおかげです、ありがとう。これは、私と新しいお友達からのラブレターよ。それじゃ、よろしく。ベルキンス&コームズ法律事務所 副所長 アリサ・コームズ。追伸;同梱の訴状には入ってないけど、私が貸したランチ代20ドルも返してね。……だとよ。」
 青い顔をしているフェイスマンに、コングがニヤリと笑って見せた。
「オイラいいこと考えた! きっと大佐も、こうしてほしいって思ってる!」
 突然マードックはそう言うと、紙束を手に、ハンニバルの方にスキップで戻った。そして、紙束をハンニバルの顔面に当て、ぐっと押さえる。クロロホルムを嗅がせる時のように背後から。クロロホルムは嗅がせても気持ち悪くなるだけで意識なくならないけどな。
「もがっ、もがっ、ぐっ、ぐふっ!」
 息ができず、身を捩るハンニバル。
「コングちゃんも手伝って!」
「おう!」
 ハンニバルの体をがしっとホールドするコング。
「え、2人とも、それ、ハンニバル、死なない?」
 フェイスマンの心配をよそに、コングとマードックはハンニバルの笑いを止めるのに成功した。
「ひい、ひい、済まん、ちょっとツボに入ってな。ざっと計算してみたら、アフリカかどっかの国の国家予算くらい請求されてたもんだから……自称“真っ当”な男が。で、フェイス、いや、チェビー・マクファーソン君。」
 と、真顔に戻ったハンニバルが、フェイスマンに向き直った。
「この数ヶ月で女性たちから騙し取った、ざっと70万ドル、一体、何に使ったんだ?」
「70万ドル!? いくら何でもそんなに取ってないよ、過剰請求でしょ、どう見ても!」
 両手を横に振るフェイスマンに、コングが溜息をつく。
「それこそ自業自得だぜ。で、何に使ったんでい?」
「ええっと、別のターゲットにお近づきになる資金にしたり、新規に企業を興してみたり、自分を磨いてみたり。でも、ほとんどはAチームのここ数ヶ月の活動資金だね。具体的には、コロンビアで麻薬組織をぶっ潰した時、ロケットランチャー、派手に撃ったよね?」
「ああ、確かに撃ちまくった。」
「あれで5万ドル。それと、現地で借りてたヘリ1機、大破したやつ、あれ保険に入ってなかったから10万ドルした。報酬が3万ドルだったから、マイナス12万ドル。」
「……そんなこともあったな。」
「その後、アマゾンで人身売買組織をぶっ潰した時に、手榴弾30個ほど使ったよね、一瞬で。」
「あれ、どっかからかっぱらってきたんじゃなかったっけ?」
 ヘリから手榴弾を湯水のように撒いたマードックが問う。
「かっぱらおうにも、ろくな手榴弾がなかったから、ほら、使う前に爆発しちゃうやつなんてあったら、こっちの身が危険じゃん? だから信頼できる筋から買った。ってわけで、俺、みんなのために資金調達してるんだぜ?」
 両手を広げてフェイスマンが説得。
「ごめん、今度から大切に使うよ、手榴弾。」
 そう言えばピン抜かなかったなあ、とマードックも反省。
「うん、考えて使ってね。それから、ソマリア海峡で海賊と戦った時に、潜水艦借りたでしょ。あれ1週間6万ドル。1ヶ月借りたから24万ドル。でもって、あの仕事、結局、報酬は貰えなかったんだよね? 海峡が安全を取り戻したんだ、よしとしようじゃないか、とか言って。丸々赤字だよ、24万ドル。どうしてくれんだよ、ハンニバル、ああん?」
 フェイスマンがグレ始めた。
「そりゃ悪かった。でももう使ってしまったものは仕方がないだろう。」
 なぜか胸を張るハンニバル。
「終わったことはいいけどさ、俺のこと責めないでほしいわけ。それと、あんまり無駄な注文はしないでほしいんだよね。それから、無謀な作戦も控えて。俺からのお願い、以上。」
「ふむ、あたしたちも悪かった。考えなしに武器弾薬を大盤振る舞いしてたからな。」
「わかれば結構! さ、この話はこの辺で……。」
「だが、結婚詐欺と作戦は何の関係もないな。そして、今の説明からしても、あと半分くらい余っているはずだ。」
 ハンニバルの追及に、うっ、とひるむフェイスマン。
「……モンキーが……珍しいマンドリンを……。」
「あれ? あのマンドリンなら、400ドルだったぜ。」
 マンドリン400ドルって安いな!
「……コングが……高級特濃牛乳を毎日……。」
「ありゃあ俺が自腹で買ってるじゃねえか。」
「それじゃあ、ええっと……ハンニバルのアンゴラの股引が……。」
「変な封筒、見っけ!」
 しどろもどろなフェイスマンに注目するのに厭きて箱を漁っていたマードックが、箱の底から怪しいほどに煌びやかな封筒を取り上げ、その中から紙片を引き出した。
「貸してみろ。」
 マードックから紙片を奪ったコングの表情が緩んだ。
「ああ、こりゃあ例の予告だ。来週のAチームは、『フェイス、30億ドルの負債を背負う』、『モンキー、マンドリルは弾くもんじゃない』、『ぬくぬくあったかアンゴラの股引』の3本だ。」
「まあまあな3本だな。」
 と、ハンニバル。
「フェイス、借金30億ドルなんてどうするんよ?」
 そう尋ねるマードックは、30億ドルがどれほどの額か、多分わかってない。恐らく、マンドリンとマンダリンの違いもわかってない。
「決まってるじゃん、トンズラですよ。」
 フェイスマンは最もハンサムに見える角度でキメ顔を作った。
 かくしてAチーム一行はアジトを引き払う準備を始め、脱兎のごとく姿を消したその後には、プチプチで厳重に梱包されたマードックしか残っていなかったのであった。
「ふんがっふっふ……。」



問.なぜプチプチで包まれたマードックだけが取り残される事態になったのか、最も適切な理由を次から選べ。
 1.引っ越しの際、すぐに使うものは最後に持ち出すべきだから。
 2.割れ物や危険物はエアクッションで巻いておくといいから。
 3.マードックだから。
 4.他のみんなが忙しくしていたから。
 5.量子もつれ状態が局所性を(ある意味)破ることが相対性理論に矛盾するから。


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