よくあるアレを回収せよ!(あとアレも)
フル川 四万
〜1〜

 深夜の商店街、人っ子一人歩いていない静かな通りに、目出し帽を被った小柄な男が2人、そっと現れた。1人は軍人のような迷彩服、1人はチェ・ゲバラのTシャツに穴の開いたジーンズ姿。明らかに挙動不審な様子でキョロキョロと辺りを見回し、1軒の宝石店のショーウィンドウの前で立ち止まった。古めかしい金のレタリングで『クラーク宝飾店』と書かれたショーウィンドウの中には、大粒のエメラルドのネックレスと、同じデザインの指輪が飾られている。
「すげえな、こんなデカいエメラルド、初めて見たぜ。」
「だろ? こんな高級品を無防備にウィンドウに飾ってるなんて、盗んでくれと言ってるようなもんじゃん。」
 もう1人がそう言って笑い、腰に差した金尺を取り出した。
「レニ、何だよ、その直角の。」
「これ? 金尺。父ちゃんの道具箱にあった。ほら、うちの父ちゃん大工じゃん。」
「それは知ってるけど、こういう時は、アレだ、バールのような物ってのが定番じゃない?」
「持ってねえよそんなもん。いや、バールはあったかも。」
「じゃあ、バールでいいじゃん。」
「ような物、ってのが肝心なんだろ?(小声で)犯罪に使う時ってさ。それに、金尺でも十分、用は足りるんだよ。いいか、行くぜ? 後悔しねえな?」
「うん。これで、俺たちコロンビアに渡ってゲリラになれるよな。」
「うん。俺たちの夢だからな、チェ・ゲバラみたいにカッコいいゲリラになるの。」
「ゲバラ、カッコいいよな。」
「うん、相当カッコいい。」
 頷き合う2人。ショーウィンドウの前には、防犯用の鉄格子が張られている。しかし、格子の間隔が10cmくらいあるので、大人の手が簡単に差し込め、全く防犯の役には立っていない。
「じゃ、行くぜ。」
「おう。」
 ガッシャーン!
 振り下ろされた金尺で、ひとたまりもなく砕け散るショーウィンドウ。途端に、鳴り出す防犯ベル。
「やべっ、こんな装備が!」
「くそっ、罠か!」
 罠って言うか、それ、普通の防犯対策だから。
「トニ、逃げるぞ!」
「おう!」
 2人は割れたガラスを手で払うと、ネックレスと指輪を引っ掴み、一目散に逃げ出した。


 20分後、走りすぎて息切れを起こしたレニとトニは、町外れの丘の上で地面に倒れ込んだ。
「こ、ここまで逃げれば奴らも追っては来るまい。」
 奴らって言うか、警察だよね?
「そうだな……。結構簡単だったな。あとは、この宝石を、どうやってお金にするかだ。」
「待て。今夜俺たちがこれを持ってるのはヤバくないか? 誰かに見られていないとも限らないし。しばらくどっかに隠しておこう。なあに、腐るもんじゃないし、ほんの数日の話だ。ほとぼりが冷めてから、できるだけ遠い質屋に売りに行こう。バスで2時間くらいかかるとこ。」
「そうだな。2時間あれば、知り合いはいねえもんな。」
「さて、どこに隠すか。て言うか、どこなんだここは。」
 やみくもに走ったせいで、自分たちの居場所を見失っていた2人は、改めて辺りを見回した。そこは、2人が3年前に卒業した小学校の体育館裏であった。


〜2〜

 蒸し暑い体育館に、子供たちの歓声が響いている。ここは、ロス郊外のとある小学校。現在8月、夏休みも終盤戦である。夏休みと言っても、みんなが南の島とかで優雅なバカンスを過ごせるわけもなく、海だのキャンプだのに行けるわけでもない。共働きで長期休暇の取れないパパママもいるし、おうちが裕福でない子や、そもそもパパママのいない子供もいる。ということで、サマースクールと称し、夏でも小学校は解放中。くそ暑い体育館で、子供たちは汗だくになってバスケットボールに興じている。暑いけど、ドアも窓も全開だから風は吹き抜けるし、何より友達もいるし、小学生にとっては楽しい夏休みなのだろう。そして、そんな1日が今日も終わり、夕方5時の鐘が鳴る。
 ピピーッ!
「みんな、終了だ!」
 白いポロシャツにジャージ、足元はナイキのAIRという爽やかルックのB.A.バラカスが、ホイッスルを吹いた。この夏は、ボランティアでサマースクールの臨時講師をやっているコングである。
「お疲れー! アイス持ってきたよー!」
 ブルーのTシャツ姿のフェイスマンが、でかい保冷ボックス一杯のアイスキャンディを抱えてやって来た。
 バスケに勤しんでいた子供たちが、わあっ! と声を上げて、アイスに群がる。
「どうしたんだ、フェイス。差し入れ持ってくるなんて、お前らしくないぜ。」
「だって余ってるから。」
「余ってるだと?」
「うん……こないだのさ、アイスキャンディ屋とアイスシェイブ屋の小競り合いの件、あったじゃん。」
「ああ。どっちが夏の風物詩に相応しいかの、低レベルなバトルな。」
「あれの報酬。勝ったアイスキャンデイ屋より、アイスキャンディ6000本いただきましたー。」
「……またそのパターンかよ。」
「そのパターンだよ。逃げた飼い犬が野生のコヨーテの群れを率いてた件では、ドッグフード1年分だったし、お洒落な喫茶店の間接照明と、隣のお婆ちゃんの美容院のパーマ温めるマシンがすり替えられていた件では、無料パーマ券1年分だった(ただしパンチに限る)。その前の、アーモンド畑の地上げの件は、アーモンド収穫マシン1台だったし。考えてごらん? 使い道ないよ〜、アーモンド収穫マシン。アーモンド農家にしか売れないし。でもって、一番最近の、偽エメラルド盗難の件は、犯人もエメラルドも見つからなかったから、目下報酬なし。」
「だからアイスか。」
「うん。真夏の運動少年少女にパンチパーマになれる券配るよりゃいいでしょ。何より、今さ、家の冷凍庫、アイスでぱんっぱんなんだよ。置いてあるとハンニバルもモンキーも際限なく食べちゃうから、糖尿のリスクも鑑み、早く消費したい。」
「あいつらアイス食いすぎだと思ったら、報酬だったのかよ。ハンニバルなんざ、今朝チューチューアイス吸いすぎて酸欠起こしてたぜ。モンキーの野郎は、先週あずきバーで前歯欠けたらしいからな。」
「びっくりしたよね、あずきバー。あんなに硬い食べ物見たことないよ。ほぼ凶器だよ。」
 フェイスマンは、棒が2本刺さってるソーダ味のアイスキャンディーを剥き、2つに割って片方をコングに渡した。彼女かよ。
 そして時刻は5時半を過ぎ、子供たちは最後の1人まで体育館から去っていった。今日は金曜日。土日は、さすがにサマースクールもやっていないので、にわか指導員のコングの仕事も、今週はこれでおしまいだ。
「さて、片づけて帰るか。」
 と、体育館に散らばったボールを集める2人。
「1、2、3……あれ? バスケットボール、3個しかなかったっけ?」
 と、フェイスマン。
「3個だと!? また挟まったのか!」
 コングが忌々しそうに言った。
「挟まった?」
「ああ、上、見てみろ。」
「え?」
 フェイスマンは天井を見上げた。
「梁の端っこの辺り。」
「え? あ、ああ〜、うわー、挟まってるな、ボール!」
 古い体育館の天井は、ドーム型の天井を維持するための木製の梁が張り巡らせてある。その梁の、重なった部分とかクロスした部分とかと天井板の間に、まるで陳列するようにバスケットボールやバレーボールが挟まっている。その数、二十数個。
「あれ、何なの?」
「見ての通りの、『体育館の天井に挟まったボール』だ。どこの学校でも1個や2個はあるだろ。」
「うん、ある。でも、あっても1個か2個だよね。」
「ところが、この体育館は、古い木造のせいか梁が多いんだ。でもって、絶妙な隙間や角度が、飛び込んできたボールを離さねえ。」
「そうか、じゃ。」
 と、フェイスマンはバスケットボールを手に取った。
「こういうのってほら、落とし方決まってるじゃん。」
「あん?」
「ほら、こうやって。別のボールを、挟まってるボールに当てれば……えいっ!」
「おい、よせって!」
 コングの制止も聞かず、天井の梁に向かってバスケットボールを投げ上げるフェイスマン。ボールは、見事、天井の梁に命中、そして、並んだ挟まりボールの間に食い込み、そこで止まった。
「……あ。」
「言わんこっちゃねえ。今、上にあるボールの半数が、後追いで投げつけたボールの成れの果てだ。ったく、またミイラ取りをミイラにしやがって……。」
「ああ〜、どうしよう。でもあれだよ、もっとバーンって当てれば!」
 フェイスマンは、そう言うと、次のバスケットボールを、今度は力一杯、梁に向かって投げつけた。
 ばい〜ん!
 ボールは先輩たちに掠りもせず、梁をすり抜けて天井にぶつかり、そして、梁で止まった。
「あや。」
「どうすんだフェイス、ボール、あと1個だぞ? 新しいの買う予算もねえのに。」
「いや、もう1個投げればさすがに……。」
 と、ボール入れの籠から、最後の1球を取り出すフェイスマン。そのボールは、さすが籠の底にあっただけある、ところどころがガムテで補強された歴戦の勇士だ。
「やめねえか、このアホンダラ!」
 コングは、フェイスマンから最後の1球を奪い取ろうと手を伸ばした。
「えいっ!」
 その手を掻い潜り、フェイスマンが最後の1球を投げ上げる。ボールは、天井に当たり、跳ね返って梁と壁の間に挟まった。
「……どうすんだ、1個もなくなったぞ。」
「はは、仕方ないね。ハンニバルとモンキーにも手伝ってもらって、何か道具を作ろう。余り鉄パイプとかで何か作れるでしょ、マジックハンドの長いのとか。」
 フェイスマンの言葉に、コングは溜息をついた。
「そりゃそうだが……ま、考えても仕方ねえ。週末のうちに回収すりゃいいんだ。今日のところは出直すか。」
 2人は体育館を後にした。


 その夜。体育館に伸びる2筋の光。懐中電灯を手に忍び込んできたのは、宝石強盗のレニとトニ。今夜は目出し帽はなく、2人とも素顔だ。
「レニ、エメラルドどこに隠したんだっけ?」
 金髪もじゃもじゃ頭のトニが、懐中電灯で辺りを照らしながら訊いた。
「バスケットボールの中。ガムテ貼ってあるからわかると思う。」
 角刈り眼鏡で小太りのレニが、素っ気なくそう答える。
「だからバスケットボールどこよ。籠に入ってないけど。」
「えっ、ボールのしまい場所って、その籠しかないだろ。うちらの頃からずっと。」
「でも、1個もないよ。」
「え?」
 籠を覗き込むレニ。籠の中は、全くの空っぽである。だって数時間前に、最後の1球まで、フェイスマンが梁に食わせたから。
「……捨てた?」
「はは、まさかね。きっと、あれだ、うん。洗って干したりしてるんじゃない?」
「バスケットボールを? 洗ったの見たことある?」
「……ない。」
「とにかく探そう。」
 2人は、辺りを懐中電灯で照らしつつ、体育館内を徘徊し始めた。そして、探すこと数分、レニが、あ、と声を上げた。
「トニ、上。」
 トニが、天井に懐中電灯を当てた。
「ん? わあ、いつも以上に挟まってるな。」
「うん、でさ、あの壁際のやつ。あれだわ、エメラルド入ってるの。」
「えっ、誰かあれ使ったってこと?」
「みたいだ。多分、安易に後追いして引っかかったんじゃないかな。」
「もう、うちの小学校の伝統だよね、天井に引っかかるボールを取ろうとして天井に引っかかるボール。……そう言えば、お前の親父さん、アレ取るの上手くなかったっけ?」
「うん、上手い。金尺をブーメランみたいにしてボンボン落としてく。だけど、今回は父ちゃんには頼めないよ。俺たちが強盗して、さらにその金でコロンビアに渡ってゲリラになろうとしてること、バレちゃうじゃん。」
「そうだな、大事な計画がバレたらヤバいよな。じゃあ、自分たちで取るしかないか。今夜は無理だな。せめて、明るい時に出直そう。」


〜3〜

〈Aチームのテーマ曲、始まる。〉
 鉄パイプを切断し、切れたパイプをフェイスマンに渡すコング。そのパイプに蝶番をつけるフェイスマン。繋がったパイプに、真っ赤なマジックハンドを取りつけるマードック。新聞を読みつつガリガリ君を食むハンニバル。
 アーモンド収穫マシンのスイッチを入れてみるフェイスマン。途端にガタガタ震え出すアーモンド収穫マシン。そのあまりの振動に、もんどりうって倒れるコング、マードック、フェイスマン。横揺れしながらハーゲンダッツの蓋を開けるハンニバル。それに気づいてアイスを取り上げに行くフェイスマン。アイスを持ってかれたハンニバルの「あっ」という顔のどアップ。
〈Aチームのテーマ曲、終わる。〉


 翌日。
 古びた体育館の横に颯爽と横づけされる、いつものバン。降りてきたのは、もちろんAチームの面々。手には、昨夜適当に作った長めのマジックハンド。
「おお、確かに挟まってる。いや見事ですな。」
 体育館に一歩足を踏み入れたハンニバルが、天井を見上げて言った。
「これ、今までどうしてたんだろ? 誰か壁よじ登って取ってたのかな?」
 マードックがごく自然な疑問を口にする。
「どうやら、数年前までは、父兄の中に、これ取るのがすげえ上手いおっさんがいたらしいぜ。子供が卒業してから、顔を見せなくなったようだが。確か大工とか言ってたな。」
 コングが、PTAから仕入れた情報を披露した。
「えっ、じゃあ、あのボール、何年分も溜まってるってこと?」
「だろうね、変色してるのも、萎んでるのもあるし。」
「いいから、とっとと回収しようよ。」
 フェイスマンの言葉を合図に、マードックが長いマジックハンドを取り出し、天井に向けて伸ばし始めた。
 ニョキニョキと天井に向かって伸びていくマジックハンド。もうすぐ最初のボールに届くか……というところで長さが尽きた。
「あれ? ちょっと長さ足りなかったかな?」
 マードックは、背伸びをしつつマジックハンドを伸ばすが、やはりギリで届かない。
「脚立あれば届きそう。」
「脚立か。ちょっと見てくるわ。おーい、そこの君たち!」
 フェイスマンが、今、体育館に入ってきたばかりの少年たちに声をかけた。
「ねえ、どっかに脚立ないかな? ボールが天井に挟まっちゃって、取りたいんだけど届かなくて。」
 声をかけられた少年たちは、なぜか飛び上がらんばかりに驚いて、尻餅をついた。
「いえ、あの、ここ確か……脚立は置いてなかったかと……。」
 金髪モジャ毛の少年がそう答えた。
「はい、それに……ここの天井の挟まりボールって、取れないことで有名で……。」
「知ってるぜ。でもこんなに挟まってちゃあ、サマースクールの運営に支障が出るから、今日全部回収しようと思ってよ。」
「えっ、全部ですか!?」
 角刈りの少年が大袈裟に驚いた。
「そんなに驚くこともあるまい。しかし、脚立がないならしょうがないな。次のアレを持ってくるか。コング、頼む。」
「おう。」
 コングがバンに戻り、いそいそと持ってきたのは、報酬代わりに貰ったアーモンド収穫マシン。それを体育館の壁に密着させ、スイッチを入れる。


 ブブブブブブブ……。
 結構な振動音と共に揺れ出す体育館。そして、天井の梁も揺れている。震度4くらいに揺れて、梁の継ぎ目がミシミシと音を立てる。
 そして、数分後。ぽとん、と、バスケットボールが1球、床へと落下してきた。ポン、と床を跳ね、転がるバスケットボール。
「やった!」
 マードックが叫ぶ。
 それを切っ掛けに、次から次へと落ち始めるボール。そして、ギシギシとヤバそうな音を立てる体育館。
 そして、粗方のボールが落ち終わった瞬間に、ガン! と音を立てて、割と大事そうな場所の梁が1本落ちた。
「いや、ストップストップ! これ続けたら、体育館、壊れる! 梁って、何か大事だろ、落ちたらヤバいだろ!」
 フェイスマンがそう叫んで、アーモンド収穫マシンを止めた。
「も、もういいじゃないですか。ほぼ落ちたし!」
 フェイスマンとほぼ同時に、角刈りの少年が叫んだ。
「ああ、でも、あの端っこのがまだだ。あれ、目障りだから、是非取っておきたい。」
 と、ハンニバルが指差したボールには、ガムテープがベタベタと。そう、少年たち(レニとトニ)のお目当ての、エメラルド入りのバスケットボールだ。ごくり、と唾を飲み込むレニとトニの顔は青褪めている。
「フェイス、もうちょっとなら揺すっても平気だろう。もう一度マシンを動かせ。」
「え? ヤバいよハンニバル。これ以上梁が落ちたら、体育館、倒壊しそうだよ。落ちてきた梁見たら、白アリとかに食われてるし。」
「や、こういう建物は、ちょっとやそっとじゃ崩れんて。ほれ。」
 根拠ない自信と共にマシンのスイッチを入れるハンニバル。また揺れ始める体育館。梁がミシミシと音を立て、横の方で、ガタン! と何かが落ちた音がした。
「痛っ!」
 壁際にいたトニの頭に、外れた蛍光灯が直撃した。額に垂れる一筋の血……。それがなぜか、トニには、自分に当たった天罰のように思えて。
「うわわ、おじさんたち、やめて下さい! ボールなら俺が取りますから!」
 トニの額血を見て動揺したレニが叫ぶ。そして、茫然とするトニと目が合い、しまった、と首を竦めた。しかし、言ってしまったものは仕方ない。上手く落とせば中身はわからないかもしれない。で、「割れてるボールは使い物にならないから、俺が始末します」とか何とか言って、持ち出してしまえばいい……。
「何だって? 君、あれを落とせるのか?」
「多分、です。親父に教えてもらったやり方なら。」
 そう言って、腰のベルトから1本の金尺を取り出すレニ。そして、ブーメランのようにそれを持ち、2、3回素振りした後、ヒュンっとボールに向かって投げた。
『これで、うまく弾いてくれれば……!』
 祈るようなレニの視線とは裏腹に、金尺はサクッとバスケットボールの腹にぶっ刺さり、そして、ゆっくりと落下してくる。中に秘めていたエメラルドのネックレスと指輪を撒き散らしながら……。
『あちゃ〜。』
 レニは頭を抱えた。
「あ、何か落ちた。」
 着地点に走るマードック。
「ハンニバル! これ! あれじゃん? こないだ盗まれた偽のエメラルド!」
 ネックレスを掲げてマードックが叫ぶ。
「「「何だって!?」」」
 駆け寄る3人。
「ああ、これだ、間違いねえ。クラークさんが言ってた偽のエメラルドだ。」
「え、に、偽……?」
 マードックの言葉に、レニはへなへなと座り込んだ。頭から血を流したトニも、その横にへたり込む。
「ああ、商店街のクラークさんの宝石店のウィンドウに長年飾ってあった偽物だ。偽物ではあるが、40年前に店を開いた時に、今は亡きクラークさんのお母さんから開店祝いに贈られた物ってことだ。」
「ただの着色ガラスだから20ドルもしないだろうけど、クラークさんの大事な思い出だからね。犯人逮捕は二の次で、とにかくモノを取り戻してほしいっていう依頼だったんだ。」
 フェイスマンが、ざっと状況を説明する。
「依頼?」
「ああ、おじさんたち、便利屋さんやってるから。」
 フェイスマンが、しれっと答える。
「便利屋さん、ですか……。」
 レニとトニは顔を見合わせた。便利屋さん、ってこんなことしてお金貰えるなら、カッコいいんじゃないだろうか。もしかして、ゲバラより。やっぱりゲリラって、何か痛そうだし……。
「いや、助かったよ、ありがとう。お礼にアイスあげるから、月曜にもう1回ここに来なさい。」
 ハンニバルが、そう言ってレニの頭を撫でた。レニとトニは、うん、と素直に頷いた。


 月曜の朝、体育館には、元気にバスケットボールに興じる子供たちの歓声が響いている。
 ホイッスル片手に檄を飛ばすコングを隅のベンチで見守るハンニバル、フェイスマン、マードック、そして、レニとトニの5人は、冷房はないけど風は通ってるという絶好の環境で、アイスキャンディの消費に勤しむのであった。
【おしまい】
上へ
The A'-Team, all rights reserved