53号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、夏にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。今日は何だかやたらと寒くて震えが止まんなくって……この部屋、暖房器具ないし。」
「寒くて震えが止まらねえって、熱でもあんじゃねえか? 今、室温27度だぜ?」
 と、温度計を見せるコング。
「確かに室温27度だが、ちと足元がスースーしないか?」
 と、床を見るハンニバル。
「ああ、それ、俺っちが冷蔵庫開けっ放しにしてるからかも。」
 と、マードックが挙手。
「開けっ放しぃ?」
 声を揃える3人。
「ほら、だって室温27度じゃ暑くてミドリムシふえないかもしんないし、かと言って冷蔵庫のドア閉めたら寒くてふえないかもしんないし。」
「開けっ放しってことはさ、冷蔵庫の裏から半端なく熱出てると思うよ? ズビーッ!(鼻かんだ。)」
 と、フェイスマン。
「軍曹、ミドリムシを冷蔵庫から出せ。あたしの記憶によると、奴さんは寒いのが苦手なはずだ。むしろ暑いくらいの方が好きだったと思う。」
 ソファに座ったまま、ハンニバルがそう言う。何でそんなことまで知っているのか、と部下3人は思ったのだが、ハンニバルの言うことなら大体において間違いはない。半分くらいは。
「えっ、そうなの? ヤバい、もう6時間くらい入れてるよ。」
「6時間も冷蔵庫開けっ放し?」
「いや、開けっ放しじゃ冷えないから、開けたり閉めたり。違う、閉めたり開けたり。」
「どっちでもいいよ! 道理で寒いと……いやそれより電気代……。」
 ソファに身を投げ出すフェイスマン。
「寒いんなら、長い靴下を穿いたらどうかと思うんだが。」
 エナメルの白い靴を素足に履いているフェイスマンの足元をちらりと見て、ハンニバルが意見する。
「ちゃんと足元対策はしてるって。」
 フェイスマンは靴を脱ぎ、ハンニバルの目の前で靴を振って見せた。靴から転げ出る赤い物体。
「何だ、それは。」
「唐辛子。温まるよ。指先だけ。」
「それ、いい! オイラのミドリムシにも、それ、分けてやってくれよ。暑いくらいの方が好きらしいからさ。」
 マードックが身を乗り出した。
「ミドリムシに唐辛子やったら確実に死ぬぜ。それに、フェイスの野郎が震えてるってこたぁ、唐辛子なんざ効いてねえってことだ。ほらよ。」
 と、コングがミドリムシ入りのビンをマードックに渡す。
「冷蔵庫のドア、ばっちり閉めてきたぜ。」
 親指をビッと立てるコング。それしきのことで。
「でかした、コング!」
 ハンニバルも笑顔でサムズアップ。それしきのことで。
「助かったよ!」
 コングに手を合わせるフェイスマン。それしきのことで。
 だが続けて彼は首を傾げた。
「まだ寒い。」
「室温、28度に上がってんのに? 俺は暑くて仕方ねえぞ。」
 コングが額の汗を拭う。
「何か背中がゾクゾクして……肩が冷えるって言うか。」
「肩? そりゃ風邪じゃないか? 熱は?」
 そう言ってハンニバルがフェイスマンの額に手を伸ばした。
「熱はないようだぞ。」
 と言うハンニバルに目を見開いたフェイスマンが立ち上がった。
「そっちの手の方が熱いよ!」
「何? あたしの手? 熱いって? ホントに? 熱いか?」
 ハンニバルが今度はコングの腕を掴む。
「いや、別に熱かねえぜ。」
「てことは、フェイスが『冷たい』ってことだな。何でだ? ……いや、原因はともかくとして、早いとこ温まった方がいい。」
「えええ?」
 ハンニバルに手を引かれて、バスルームに連れていかれるフェイスマン。
 そんな2人の後ろ姿を見送り、肩を竦めるコング。ふと足元を見ると、微かに煙がかっている。
「何だ? 何か燃えてんのか?」
 すわ、火事か、とコングが身構えるが、何かが燃えているニオイはしない。その上、床を這う煙ときたら、ほのかにひんやりとしてやがる。
「もしかして、フェイスが寒がってんの、ドライアイスのせいかも。ほら、ミドリムシちゃん、光合成するだろ? そん時に二酸化炭素が必要だから。」
 と、マードック。ビンに蓋がしてあるんだから部屋を二酸化炭素で充満させたって、ミドリムシは二酸化炭素を光合成に使えません。それどころか、光、ろくすっぽ当たってません。そんな屋内で二酸化炭素を放出しても、ツワモノどもが酸欠になるだけだ。
「ドライアイスだあ? どこにあんだ?」
「そこ。」
 マードックが指差す先は、フェイスマンがいた辺りの床の上、ローテーブルの下。全然気づかなかったね! 水に浸けてあるわけじゃなく、ただ置いてあるだけなので、ドライアイスは大層静かに冷気および二酸化炭素を放出するのみ。それをコングが素手で拾って、窓の外にポイと捨てる。
「ほらよ。これで大丈夫だ!」
 親指を立てるコング。
「ああ〜、まだ使えるのに〜。」
 マードックは少し残念そうだ。
 バスルームからはシャワーの音が聞こえる。
「ミドリムシちゃんもシャワー浴びて温まった方がふえるんかな?」
「流れるだろ。」
 至極もっともな返答をするコング。
「ビンごとなら流れないじゃん。」
「ならシャワーより、ビンごと鍋で煮ろ。」
「ナイスアイデア!」
 いそいそとガス台に向かい、給湯をONにして、熱湯を大鍋に注ぐマードック。
「待て、スットコドッコイ。そのビンは耐熱なんだろうな?」
「耐熱かどうかわかんねっけど、ザウアークラウト入ってたやつ。」
「なら耐熱だ。」
 ミドリムシ、ピーンチ!
 と、その時。ピンポーン。ドアチャイムが鳴った。
「誰だ?」
 コングが警戒しながらドアを開けた。そこには、大きな保冷バッグを下げたスーツ姿の男が。
「こんにちは、えっと、レーガンさんのお宅ですよね?」
 レーガンは、本来の家主の名前。
「ああ、そうだが、家主はちょっと出張で留守だ。」
「そうですか。定期購買いただいている健康ドリンクのお届けに上がったんですが。」
「健康食品?」
「ええ、ミドリムシドリンク。冷凍なんで、新鮮です! 生きたミドリムシの栄養そのまま入ってます! これ、1か月分。」
 ヤクルトのような7連ドリンクを4つ、コングの腕に押しつけると、男は「それじゃ!」と去っていった。
「1か月分は4人だと1週間分か?」
 指差し確認するコング。
「ミドリムシちゃん! こんなに冷たくなっちまって。風邪引いちまうよ。」
 ドリンクに取りすがるマードック。
「そういう問題じゃねえだろ!」
 コングがドリンクをマードックから取り上げると、7連ドリンクの底に折り畳んだ紙片が。
「何だ、こりゃ。」
 コングが紙片を引き抜いた。マードックはコングから奪った冷凍ミドリムシを、だいぶ冷めてしまった湯に浸けて温めてやっている。ビンに入っていたミドリムシは無事。
「おっ、こりゃあ次回予告だぜ。何々……次回のAチームは、『ふえないミドリムシとモンキーの涙』、『フェイス、低体温症との闘い』、『ドライアイス訴訟』の3本だとよ。」
「ふんがふっふ。」
 ミドリムシドリンクをうっかり飲んでしまったマードックが、十分に解凍されずに残っていた氷塊を喉に詰めて倒れた。


さて、ここで問題です。ミドリムシと言えば?  



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