55号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、夏にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。今、背後には、コングを飛行機から落として反省中のモンキーと、落とされて気絶中のコングがいます。そしてこのテーブルには、ご覧の通り、ファンタとビールと黒い魔法瓶が。」
 カメラが引き、フェイスマンの前のテーブルが映る。その上には、瓶入りのファンタと瓶入りのビールが多数。それと、黒い魔法瓶1本。
「この魔法瓶の中、何? こんなの昨日までなかったよね?」
 と、マードック。魔法瓶の口をコキュコキュと緩め、カップに中身を注いでみる。黒っぽい色はコーヒーのようだが、香りはヨモギのような。
「お茶だな。」
 と、コング。
「お茶? 少なくともそれ、紅茶でも烏龍茶でも緑茶でもないよね。一体何の……ってコング、気がついたのか。」
 と、フェイスマン。
「ああ、てめェの声が耳障りで起きちまった。おう、それ寄越せ。喉渇いちまったぜ。」
 無謀にもマードックの手からカップを奪い、黒っぽいお茶のようなものを一気飲みするコング。まだ寝呆けているのかもしれない。
「うん、なかなかイケ……。」
 バタン、とコングが倒れた。
「あれ? このお茶、気つけ薬じゃないの?」
 フェイスマンが傍らにあったお茶の袋の裏をじっくり読み始めた。
「睡眠薬なのかもよ、ヨモギの香りでリラックスとかさ。」
 マードックが空になったカップに残りのお茶を注いで匂いを嗅ぐ。
 そこへ、「ただいま」と帰ってきたのはハンニバル。
「あ、お帰り、ハンニバル。これ、何なのか知ってる?」
 フェイスマンが黒い魔法瓶を指差した。
「それか? それは依頼人から預かってきた風呂の残り湯だ。」
「残り湯?!」
 フェイスマンとマードックが声を揃えた。
「じゃあ、このお茶の袋は……?」
「知らんな。どこかから落ちてきたんじゃないか?」
 落ちてくるものなのか、お茶の袋。
「何で風呂の残り湯がこんなドス黒いの? でもって、ヨモギ臭がして、コングが寝ちゃうの?」
「知らん。依頼人に、これ、風呂の残り湯ですけど、よろしかったら預かっていただけませんか? って渡されたんだ。」
「よろしいの?」
「今考えたらよろしくない。だが、自信満々に風呂の残り湯を持たせる奴に初めて会ったから、動揺して受け取ってしまった。」
「100歩譲って風呂の残り湯を受け取ってきたとして。」
 フェイスマンが沈痛な面持ちで告げる。
「どうして魔法瓶に入れたソレをファンタやビールと並べてテーブルに置いとくかな? 普通、飲み物だって思うでしょ。メモくらい貼っといてくれてもよかったんじゃない?」
 正論である。
「ファンタとビールも依頼人がくれたんだ。ガラス瓶入りだから重そうなんで断ろうかとも思ったんだが、ビールをくれるって言うのを無碍に断るのもな、と思ってだな。」
「それで、貰った物を全部ここに並べた、と。」
 フェイスマンは溜息をついた。
「風呂の残り湯で、何でコングちゃん寝てんの?」
 と、マードック。
「それもそうだな、味見してみるか。」
 と、ハンニバルが魔法瓶に手を伸ばした。
「ちょっと待って。依頼人、預かって、って言ったんだよね? 勝手に飲んでいいの? 何かの証拠品かもよ? ダメなんじゃないの?」
「ダメかもしれんが、いいかもしれん。何より、気になるじゃないか。」
 謎理論をきっぱりと言い切るハンニバル。
「そう言えばコングちゃんも、なかなかイケるって。」
 マードックも気になるご様子。
 と、その時、床に倒れていたコングが体をびくびくっと動かし、その末に気絶したままゲボッと吐いた。嘔吐物は、黒い液体。横を向いて吐いたので、生命の危険はなさそう。ゆえに、放っておく。意識を取り戻したら、自分で掃除するように言えばいい。
「そもそも、どんな依頼だったわけ?」
 コングに向けていた顔をハンニバルに向けて、フェイスマンが尋ねる。
「それがだな、依頼人の家に訪れた者が次々と入院し、あまつさえ人死にまで出たとか。」
 ファンタとビールは葬儀の時の残り物と見た。
「うーん、オイラの勘だと、原因はこのお茶、じゃない、お湯なんじゃねっかなあ。」
 呑気に重大なことを言うマードック。
「そんなもん、ポット1本分だけ預かって、残りはどうしたの?」
「風呂の栓、抜いた。」
「それこそ証拠隠滅じゃないの。」
 フェイスマンが溜息をつく。
「で、その依頼人は? 今どうしてるのさ?」
「家で元気にしてたんですけどねえ。」
 と、その時、電話が鳴った。電話の近くにいたハンニバルが受話器を取る。
「はい? ああ、そうだが。ああ……何? そりゃあまた……お大事に。」
 受話器を置いたハンニバルが振り返った。
「依頼人が入院して、依頼はなしになった。」
「病名は? 赤痢? コレラ?」
 眉間に皺を寄せて、フェイスマンが訊く。
「病名は聞いてないが、下痢と嘔吐を繰り返して、危うく死ぬところだったそうだ。」
「やっぱりそのお茶……もとい、残り湯が原因なんじゃないの? コング、放っておいて大丈夫かな。」
 と、その時、コングがむっくりと起き上がった。
「コングちゃん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫も大丈夫、何だか起きたら気分爽快だ。ちょっとランニング言ってくら!」
 そう言うとコングは、嘔吐物の始末もせずに、通りに飛び出していった。
「何だ、元気じゃん。」
「まあ問題なかろう。飛行機から落としても大丈夫だったしな。」
「でも、オイラたちは危ないよね。コングちゃんほど生命力に溢れてないし、お湯のニオイ嗅いじゃったし、コングちゃんが吐いたの、そこにあるんだし。」
「まだ吐き気も腹の違和感もないんだろう?」
 心配そうな顔をしているマードックに、ハンニバルが問う。
「うん、今んとこは。」
「じゃあ大丈夫だ。」
 きっぱりと言い張るハンニバル。
「嘔吐物の掃除するのも何だから、このアジト、引き払っちゃおうか。」
 さっぱりした顔でフェイスマン。
「となれば早速、トンズラの支度、っと。」
 と、コングの帰りも待たずにアジトを引き払う3人。Aチーム号に乗り込み、さっさとトンズラ。
「コングは?」
「そのうち追いつくだろう。」
 ハンニバルの言う通り、走る車の後方から、グングン追いついてくるコング。
「コングちゃん、速いな。」
「速すぎる。」
 走るコングがどんどん近づいてくる。と、マードックは気がついてしまった。コングの全身、服から出ているところが、うっすらと緑色に光っていることを……。
「スピード上げて!」
 マードックが叫んだ。

 というわけで次回は『ハンニバルと黒い魔法瓶』、『コング、星になる』、『フェイスマンの新しいアジト』の3本です。ではまたね! ふんがっふっふ。


さて、ここで問題です。最後の「ふんがっふっふ」は誰の台詞でしょうか?
 



上へ
The A'-Team, all rights reserved