56号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、冬にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。今回はステーキハウスに来ています。今流行りの、熟成肉とやらのお店です。では、入ってみましょう。……扉を開けると、香ばしく食欲をそそる香りが……って、あれ? 匂いしない。」
「店の外にはプンプンと肉の焼けるいい匂いがしてたってのによ。……あれか、あれのせいか!」
 コングが天井を指差した。天井にやけに沢山並んでいるのは換気扇。ここからは見えないが、キッチンにも異常な数の換気扇が設置されている。
「何で? ステーキ屋って、匂いもご馳走のうちじゃないの? 何で匂いを総消し?」
 換気扇を見上げるマードック。
「外にやたらとダクトがあったのはそのせいか。煙と匂いを徹底的に店の外に排除してるようだ。」
 と、ハンニバル。
「何だか味気ねえなあ。外で匂いを嗅いでる方が美味そうだぜ。」
 と、コング。
「そりゃそうだけど、服に匂いがつくのが嫌だっていう女性客も多いんじゃないかな。」
 フェイスマンが店内を見回した。
「実は俺っちも服にステーキの匂いつくのやなんだよね。おうち帰った時にステーキと間違えられちまってさあ。」
 と、マードック。
「それはそうと、肉を食おうじゃないか。」
 ずんずんと進んでいくハンニバル。
「いらっしゃいませ。」
 黒服のウェイターが恭しく近づいてきた。
「4人で予約してるペックだけど。」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
 にこやかに4人を先導するウェイター。
 テーブルの間を通り抜け、忙しく働く厨房を横切り、着いたところは大きな金属の扉の前。
「こんなとこに席があんの?」
 フェイスマンの後ろから顔を出したマードックがウェイターに尋ねる。
「ご予約のお客様専用の特別席でございます。」
「肉の冷蔵庫じゃなかったのか。」
 少しがっかりとした様子のハンニバル。
 ウェイターが金属の扉をガッゴン、ギギギギと開けると、その向こうには4人席が。窓も換気扇もない個室である。
「どうぞ、おかけになってください。」
 ウェイターが誘う先には、赤いクロスがかかり、ミリの狂いもなく銀のカトラリーが置かれた真四角のテーブル。Aチームがテーブルに着席したのを確認したウェイターは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、こう言った。
「当店は注文の多いステーキハウスでございます。」
「メニューが豊富ってことか。それはいいねえ。ま、あたしはステーキはサーロインって決まってるんだけど。」
「まずはお召し物をお脱ぎください。」
 サーロインステーキ食べる気満々のハンニバルだけでなく、4人全員に向けてウェイターが言った。
「この通り、この個室はステーキの香りを楽しんでいただくための密室ですので、このままですと皆様のお召し物に匂いがついてしまいます。」
「そ、それもそうかも。」
「まあ、仕方ねえな。」
「ステーキと間違えられないようにね。」
「……何だか腑に落ちないが、まあいいだろう。」
 4人は服を脱いでウェイターに渡した。アンダーウェアと靴と靴下は着用しているため、そうひどく見苦しい事態ではない。
「それでは、しばらくお待ちください。」
 4人の服を大きな袋に詰め込んだウェイターは、それを抱えてドアを潜ると、バタンとドアを閉めた。そして程なく、ガチャリと鍵のかかる音が。
「えっ、何で鍵?」
 慌ててドアに駆け寄るフェイスマン。
「そうだぞ、まだメニューを見ていない。」
 憤慨するハンニバル。
 ドアを押して首を横に振るフェイスマンの横で、コングがどこからか取り出したものをマードックに投げ渡す。それは、スイスアーミー製の十徳ナイフだった。
「こんなこともあろうかと、靴ん中に隠しといたんだ。」
 右のスニーカーに1つ、左のスニーカーに1つ、計2つ。十徳ナイフからちょうどよさげなドライバーをパチンと立てたコングとマードックは、ドアの蝶番のネジを外し始めた。Aチーム相手に、蝶番を内側につけておくなんて、何たる失態。
 ガタン、とドアが外れた。その物音に、駆け寄ってくるウェイター。
「おやおや、どうなさいました、まだ前菜もお出ししていないのに。」
「どうしたもこうしたもなかろう、俺たちを閉じ込めようとは、どういう了見だ。……とりあえず、服を返せ。」
 ハンニバルが憮然としてそう言った。
「閉じ込めたわけではございません。お客様のご安全のためですよ。案内なしに歩かれると厨房は危ないので。」
「いいから服を返してもらおう。」
 腕を組むハンニバルの後ろを見て、ウェイターが目を見開いた。そこそこの厚さがある金属の扉が、ばったりと個室内に倒れている。
「お客様、こういったドアの開け方をされては困るのですが……。」
「開けたんじゃねえ。外しただけだ、ネジをな。」
 ドライバーをパチンと畳んでコングがカメラ目線で言う。その斜め後ろでは、マードックがドライバーを畳もうとして指を挟んでいた(十徳ナイフあるある)。
「ってわけで、服かメニューか、くれる? じゃないと俺たち何するかわかんないよ?」
 フェイスマンがにこやかにウェイターに言った。
「かしこまりました。こちらがメニューです。」
 ウェイターは、赤表紙の冊子を取り出した。
「まず服じゃねえのかよ。」
 コングが唸った。
 ウェイターからメニューを受け取ったハンニバルが、最初のページを開いて目を丸くした。
「これは……どういうことだ? 前菜の前に、おしぼりで体を拭いてください。特に耳の後ろと首の後ろ、腕と足のつけ根は念入りに?」
「俺、さっきシャワー浴びてきたばっかりなんだけど?」
「オイラ、ここんとこ風呂もシャワーもご無沙汰だったからありがてえわ。」
 釈然としない者もいるけれど、差し出されたおしぼりで体を拭く4人。そして、さっぱりとする。
「次のページは……体に油を塗ってください、だと?」
 眉間に皺を寄せるハンニバル。普段なら眉間に皺を寄せるコングは、体に油を塗るのはお手のもの。
「このオイルはいいな、さらっとしているのにツヤが出るぜ。」
 油を塗っててらってらになりながらも筋肉を披露している。
「油を塗った次は……壺の中のクリームを体に塗りたくってください、だと? クリーム……はどこだ?」
「こいつぁクリームだったのか! サービスの牛乳かと思って飲んじまったぜ。濃厚で美味かったぞ。」
 空になった壺を持ち上げるコング。
「仕方ないな、クリームは省略だ。次は……さらさらになるまでパウダーをお使いください、か。」
「パウダーってこれ? ごめん、俺っちが全部使っちまった。」
 全身粉だらけになったマードックが、空になった容器を逆様にして見せた。
「MPはまだ来ないのか?」(小声)
「渋滞のせいで少し遅れると先ほど連絡がありました。」(小声)
 ウェイターが別のウェイターと話しているのがフェイスマンの耳に聞こえた。口の周りをクリームで白くしたコングは熱心にポージングしている最中だし、粉まみれのマードックは前衛舞踏に興じ始めた。そしてハンニバルはメニュー熟読中。
「ねえみんな! これ、罠だよ!」
 フェイスマンは八の字眉で呼びかけた。
「わかってますって。これが罠以外の何だと言うんだ。ただ、何で換気扇がこんなについてるのか、その答えがわかるんじゃないかと思ってつき合ってみたんだが……。」
 と、ハンニバル。
「まあそこは気になるよね。で、答えはわかったわけ?」
 フェイスマンが少し安心したようにハハッと笑って肩を竦めていると、サイレンが聞こえてきた。
「ヤバっ。もうMP来た。早く逃げなきゃ。」
「そう慌てなさんな。」
 ハンニバルがゆっくりとメニューの最後のページを開いた。
「何々、次回の特攻野郎Aチームは、『換気扇の謎を追え、Aチーム!』、『有害? 無害? 粉を見分けろ、Aチーム!』の2本だそうだ。いつもより1本少ないが、まあいいでしょう。」
 満足そうにパタンとメニューを閉じるハンニバル。
 そして、今日も間一髪で逃げおおせたAチームであった(服を小脇に抱えて)。
「ふんがふっふ。」
 1人、パウダーが喉に張りついてはいるが。



さて、ここで問題です。ステーキハウスにあり余るほどの換気扇が設置されていた理由は、次のうちのどれでしょう?
  換気するため。
  沢山の換気扇が天井にびっしり並んでいるのがサイバーパンクっぽくてカッコいいから。
  業者に注文する時に換気扇の数を1桁間違えたから。
  店のオーナーの父親が換気扇製造業者だから。
  商店街のくじで6等の賞品が換気扇かポケットティッシュだったから。
  ビール6缶で換気扇が漏れなく1つ貰えるキャンペーン中だったから。



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