58号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、冬(多分)にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェ、ひゃあっ! フェイスです。今の何? 虫? コンニャク?」
「何だフェイス、今のはモモンガだ。ビビるようなもんじゃねえ。」
 と、コング。ここは室内。なぜモモンガが飛ぶ?
「モモンガ!? いや十分ビビるでしょ。どうしてそんなもんがいるの。」
 フェイスマンはきょろきょろと左右を見回した。少なくとも窓は開いていない。
「それに、虫もやたらといるんだけど? ギャッッ、何か跳ねた!」
「そりゃバッタだ。」
「ただいまー。」
 と、そこに、買い出しから帰宅したハンニバル。
「うわ、何だ、何か踏んだ!」
「何かって何? モモンガ? バッタ!?」
 どっちにしても惨事の予感に震えるフェイスマンに、足元を確認したハンニバルが首を傾げる。
「いや、これは紐……じゃない、ヘビか!」
「ヘビ? 噛まれてない? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ、踏んだの頭だ。」
「よかった〜。でも、何でこんなジャングルみたいになってるわけ?」
「いつものこったろ、あの馬鹿のせいだ。……そう言や、モンキーの野郎、さっきから姿が見えないが、どこ行きやがったんだ。」
 辺りを見回すコングの顔面に、大きめの甲虫がガッ! と当たって落ちた。
「こんにゃろうめ!」
 甲虫を踏み潰しかけたコングに、フェイスマンが「待って!」と声をかけた。
「これ……ヘラクレスだ。たっかいカブトムシだよ。」
 きょろきょろと左右を見回したフェイスマンはスーパーの袋を拾い上げ、コングに差し出した。
「とりあえず、それはこれに入れて。」
「入れてどうする。」
「後で然るべきとこに持ってって換金する。」
「そ、そうか。」
 迫力に負けたコングは、そそくさと手にした甲虫を袋に入れ、口を閉じてテーブルに置いた。
「ふ、ふん、ふぬぬぬ。」
 やけに高い位置からマードックの声が聞こえ、声のした方を見る3人。そして、発見。マードックは部屋の隅、即ち天井と壁と壁の間にへばりついて頑張っていた。
「そんなとこで何してんだ、てめえ。」
「モモンガみたいに飛ぼうと思ったんだけど、いざ飛ぼうとしたら恐くて。」
 天才パイロットでも素では飛べないばかりか、落ちるのが恐いようだ。
「馬鹿野郎。くだらねえことでびびってねえで、下りてきてこの有様を説明しろ。さっきからバッタだのヘビだの鬱陶しくて堪んねえぜ。」
 と、コングの後ろを、バッタの大群がザザア……と飛んでフェイスマンに襲いかかった。
「ぎゃあああ。バッタ? バッタ!」
「口を開けると飛び込んでくるぞ。」
 逃げるフェイスマンに向かって、悠々と見ているハンニバルが言う。
「ひえええ。何であっちには行かないんだよ!」
 両手で口を塞ぎつつ、フェイスマンがバッタに抗議する。
「それはな。」
 と、ハンニバル。
「俺は虫除けをつけているからな。」
「そう言や俺ァさっきまでガレージで蚊取り線香を焚いてたぜ。」
 と、コング。
 その隙にマードックは壁伝いに下りようとし、あえなく途中で落ちた。
 部屋の反対側に大移動を終えたバッタ。背を丸めてしゃがみ込んでいたフェイスマンは、バッタがぶち当たらなくなって恐る恐る立ち上がった。
「で、モンキー、説明してくれる?」
 落ちた時に足首グネったマードックに静かに問いかけるフェイスマン。
「預かってくれって言われたんよ。ほら、ここんち(アジト)広いだろ? 天井も高いしさ。だから、いいかなって思って。」
「いいわけないだろ!」
 怒るフェイスマンをニヤニヤと見ているハンニバル&コング。袋の中でガサゴソとしているヘラクレス。
「あ、因みに殺さないでね、全部返さなきゃいけないから。」
「返すって、こいつらを全部か!? 早く言え、このコンコンチキ!」
 さっきヘビ(希少なシロマダラ)を踏み殺したコングが叫んだ。フェイスマンの肩にさり気なくよじ登ったモモンガは、背中に止まっていたバッタを小さい手でわっしと掴んで貪り食っている。全部は返せないことが明白である。
「じゃあせめて、今生きてんのは返せるように協力してくんない?」
 マードックの訴えに、フェイスマンは無言でモモンガの両脇を掴んで持ち上げた。これ以上バッタを減らさない用心である。
「預かったってんなら、何かに入れて運んできたんだろ。そいつに突っ込んで片づけとけ。」
「バッタとか虫はこれ。」
 マードックは革ジャンのポケットから黒ビニール袋を引き出した。
「それからモモンガとヘビはこれ。」
 反対のポケットから紙袋をいくつか取り出す。
「こりゃあ網が必要ですな。」
 バッタを捕らえる算段の末に、ハンニバルが言った。算段するまでもないと思うが。
「おう、わかったぜ。」


《Aチームのテーマ曲、始まる。》
 生き物を外に出さないように、かつ、踏まないように、部屋の外に出る面々。走るコングのバン。ホームセンターで手に手に網を持つツワモノたち。
《Aチームのテーマ曲、終わる。》


「ふう、これで一通りか……。」
 目の前に積まれた段ボール箱の最後の1個にガムテで封をして、フェイスマンは溜息をついた。『バッタ』と書かれた箱が4つ、『カブト&クワガタ』が2つ、『哺乳と爬虫』は1つ。取り急ぎ、これで全部だろうか。
「あっ、足んない!」
 と、ここでマードックの爆弾発言が。
「何が足りねえんでえ。悪いが、バッタの数は数えちゃいねえぜ。」
「ナナフシとコノハチョウとカメレオンとハダカデバネズミ。部屋に撒いたけど、いること忘れてた。」
「そりゃあ探しにくいな、ハダカデバネズミ以外は。」
 ハンニバルも困惑の表情。
「ハダカデバネズミって何?」
 フェイスマンの疑問はそこから。
「アフリカとかにいるネズミだって。」
「ハダカなの?」
「うん。」
「出っ歯なの?」
「うん。」
 少し考え込むフェイスマン。
「……さっき、そんな感じのを、ヘビが飲んでたように思う。」
「そっか。」
 乾いた笑いを漏らすマードック。
 すると、コングが恐る恐る手を挙げた。
「コノハチョウって、あれだよな、枯れ葉みてえな。」
「うん。」
「大きさは2インチくれえの。」
「うん。」
「……さっき、そこの壁についてた枯れ葉を、ゴミ箱に捨てたんだが。」
 ゴミ箱に駆け寄るコングとマードック。だが、ゴミ箱の中にはティッシュペーパーやらレシートやらが盛大に捨てられており、さらにはギュウギュウに踏み固められていた。
「……無理そうだな。」
「んだね。」
「よし。」
 と、リーダーが声を上げた。
「見つからなかったものは、最初からいなかったものとする!」
 フェイスマンが小さく拍手。
「して、モンキー、こりゃ誰に返せばいいのかな?」
 袋を詰め込んだ段ボール箱の山(体積的に増えてる)を指差すハンニバル。
「国立動物園の園長。」
「何だと? そんな大層な奴に頼まれたのか?」
「うーん、何てったらいいんだろ。園長、派閥争いに負けちまってさ、子飼いの生き物だけ連れて夜逃げする途中なんよ。ここで追っ手を上手く撒いて、落ち着いたら他所の動物園に移るってプランなわけ。あと、外にもいるんだよね、少し。」
「少しって、どのくらいだ?」
「4頭……かな。ほら、ハァイみんな。」
 マードックが窓の方に手を振った。窓からこちらをそっと窺うシルエットは……アルパカ3頭とマレーバク。
「む、おとなしいな。」
「でしょ?」
 感心したようなコングに、なぜかマードックは得意気であった。
「何でそんな壮大な争いに巻き込まれてるの? 追手は? 謝礼は!?」
 マードックに詰め寄るフェイスマンを、ハンニバルが止めた。
「まあ落ち着け。で、モンキー、その園長は今どこにいるんだ?」
「わかんねえ。落ち着いたら取りに来るって言ってたけど。」
 と、その時。
「見つけた! カメレオン!」
 フェイスマンが壁に向かって虫捕り網を叩きつけた。
「……あれ? 何か動いたから、壁の色になったカメレオンだと思ったんだけど、何だこれ、紙だ。」
 その紙を手に取り、開いて読み上げる。
「何々、来週のAチームは、『ポケットからハダカデバネズミ』、『そんなとこにいたのかカメレオン』、『アルパカ大脱走!』の3本だって。」
「ふんがふっふ。」
 ヨナグニサンがぶゎさっと飛んできて、マードックの顔面に張りついた。


さて、ここで問題です。ヨナグニサンはどこに隠れていたでしょう?
  ハンニバルの腹部
  フェイスマンの頭頂部
  コングの後頭部
  マードックの革ジャンの背中
  冷蔵庫の背面
  カーテンの裏の襞の間



上へ
The A'-Team, all rights reserved