59号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、ゴールデンウィーク(多分)にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。どういうわけだか、ここに日本のキモノが沢山あります。こういうのってオリエンタルなハンガーにかけるもんなんじゃないの、普通? 何でソファにどさっと置いてあるわけ?」
「知んねえ。さっきコングちゃんが両手いっぱいに抱えて帰ってきて、そこに投げ出して、そんでまた出かけてった。それ日本のキモノなん?」
 マードックがソファから着物を拾い上げて羽織ってみる。くるりと回るマードックににじり寄るフェイスマン。
「ちょっと待って、それ正絹じゃないか!?」
「ショー・ケン? 誰?」
 ショーケン、それは萩原健一。ではなくて。
「本物の絹ってことだよ。それも、すごく上等で、すごく値段の高いやつ。つまり、お前が触っていいようなもんじゃない。」
「シルクか。じゃあもう1枚着ようっと。」
 マードックが、もう1枚取り上げて羽織る。
「何でだよ!」
 フェイスマンが抗議の声を上げる。
「え? 高いんでしょ? 着てみたいじゃん。」
 マードック、女子か。
「触り心地もすべすべ。」
 とご満悦なマードックにフェイスマンが青褪める。
「ちょ、べたべた触っちゃ……。」
 マードックの手が清潔なことは、あまりない。そのことをフェイスマンは今までの経験から知っていた。十中八九、チョコがついている。あと、涎も。
 フェイスマンがマードックの手からキモノを取り上げようとしたその時、コングが全速力で駆け込んできて、マードックを殴り飛ばした。
「触んじゃねえ!」
 マードックの手からはらりと落ちたキモノを空中で掴み取ったコングは、キモノを真剣に検分し、チョコも汚れもついてないことを確認すると、
「二度と触んじゃねえぞ!」
 とマードックに凄んで見せた。その拍子に、コングの長い後ろ髪が、サラアッと揺れた。長い……後ろ髪?
「ちょっとコング、何だよその髪型。ヅラ?」
 フェイスマンが、コングの髪に手を伸ばす。
「これか、これはな、おすべらかしってんだ。日本の、貴族の髪型だそうだぜ。」
「お酢べら菓子?」
「ああ、キモノにゃこれだ。」
「ふーん。それより、どうしたんだよ、その(高級な)キモノ。」
「ああ、こりゃあな、ハンニバルが――
 とコングが説明を始めようとした瞬間、ドアがバーンと開いた。そこには白髪アフロのヅラと、頭髪に合わせた感じのつけヒゲをつけたハンニバルが、怒りの表情で立っていた。
「髪結いの途中で突然逃げ出すとは! コング、お主、十二単衣に恐れをなしたか!」
 コングは胸の前で両手を横に振った。
「そういうわけじゃねえ。単に、この馬鹿野郎が何か仕出かす気配がしたんでな。」
「ふむ、それなら仕方あるまい。モンキー、決して触るんじゃないぞ。決して。」
 ハンニバルはマードックに向かってびしりと言い、コングの後ろ髪(ヅラ)を結い始めた。
「え、ハンニバルどうしたのその頭。でもって、ヘアメイクなんてできたっけ?」
 フェイスマンの問いに、ハンニバルは渋い顔で答える。
「できるできないの問題じゃない。やるか、やらないかだ!」
「そんな差し迫った問題なの!?」
「ああ。そして時間もない。コングの髪結いと着付が終わったら、次はお前たちだ。」
「俺たちもキモノ着るの? その変なヅラ(アフロじゃない方)被って。」
「ヤッホーイ、シルクのキモノ着れる〜。ね、大佐、写真撮ってよ写真。一生の思い出にすっからさ。」
 嫌そうな顔のフェイスマンと喜びに満ちたマードック。
「何を言ってるんだ。キモノを着るのはコングだけだ。お前たちには、また別の衣装を着てもらう。」
「こんなに沢山キモノあるのに、俺っち着れないの?」
「キモノは全部で12枚ある。それは十二単衣と言って、重ね着用の着物、即ち、そこにある全部をコングが着るんだ。」
「12枚もあんなら半分俺っちが着てもよくねえ?」
 諦め切れないマードックの訴えに、ハンニバルが重々しく首を横に振る。
「そうはいかん。それでは六単衣になってしまう。」
「シンプルでいいじゃん。」
「雅(ゴージャス感)に欠けるだろう!?」
 喧々囂々とやり合うマードックとハンニバルの後ろで、コングがぼそりと呟いた。
「俺ァ何枚でも構わねえぜ。」
「それにな、この十二単衣は12枚着て初めて完成するデザインなんだ。だから、コング1人で12枚着ないといかん。」
「何、ハンニバル、キモノのデザインからやったの? これ、シルクを染めたんでしょ? お金も手間もかかってる。……これやって、いくら貰えるわけ?」
「契約では100万ドルだ。経費別でな。」
「100万ドル!」
「ただし、今日中にキモノ他諸々のサンプル写真が依頼主の手に渡って、依頼主がOKを出せば、だ。」
「そんなデカイ仕事なのに、何でコングをモデルにするわけ? もっとこう、綺麗どころとかあるでしょ?」
「それはな、依頼主のリクエストだからだ。モデルは是非コングにって言われてな。同様に、雷様の衣装はあたし、ニンジャの衣装はモンキー。ポロシャツとチノパンがフェイスだ。さ、急いで着替えてくれ。」
 ハンニバルはそう言うと、それぞれに衣装を手渡した。
「十二単衣、雷様、ニンジャ、ポロシャツとチノパン……ポロシャツとチノパン?」
 渡された衣装を手に、呆然と呟くフェイスマン。
「わお! ニンジャ! やったー!」
 ご機嫌が垂直上昇するマードック。
「ちょっと待って、俺だけおかしくない?」
 フェイスマンがハンカチを噛み締めながらハンニバルを見る。落ち着いて考えてほしい、君だけおかしくないことに安堵するとこやぞ。
 しかし、割り当ての服を嘆いている場合ではない。今日が締切なのだから。今日、と言っても、日付が変わる瞬間まで大丈夫、というのではなく、常識からすれば、依頼主が寝る前に風呂に入ろうとバスルームに向かうべく立ち上がる直前がタイムリミットだろう。
 急いで着替えるAチームの面々。コングはアジトのリビングルームを撮影モードに変えつつも十二単衣を着せられメイクもされ、ハンニバルは着付と化粧をしながら自分も着替え、忍者はイカしたポーズをばっちり決めるためにストレッチを始め(特に股関節)、フェイスマンは着替えたのか着替えてないのかわからない状態でカメラのセッティング。
「よし! 撮影だ!」
 ハンニバルの号令で、カメラの前でポーズを取る3人。コングを中心に、所在なげに立つポロシャツ男と、手裏剣を投げるポーズの忍者(手裏剣は存在していない)。そこにハンニバルがタイマーモードで滑り込み、Vサインでパシャリとシャッターが下りる。
「ちょっと待って、集合写真でいいの?」
 そこに気がついたかフェイスマン。
「やっぱりダメか。」
 と、ハンニバル。
「そりゃあダメでしょう! こういう時はソロ写真だよ普通!」
 普通の格好のフェイスマン、意見も普通だ。
 そこでハンニバルのポーズ指導の下、ソロ写真の撮影が始まった。コーヒーカップを片手にニヤリとする十二単衣のコング(カップを持つ手の小指を立てるよう指導が入った)、家具の陰から半分だけ顔を出す忍者(だが体は全部出ており、思い切り足を伸ばしている)、キッチンでオリーブのビン詰めを開けようとする雷様、そして大画面TVの前で鉢巻をしサイリウムを振るポロシャツ男。
 集合写真では仮装大会でしかなかったのが、単独写真ではそれぞれが大層サマになっていた。そして、1人を除き、Aチームの日常スナップ写真と言っても過言ではない。
「で、ハンニバル、12枚着て初めて完成する柄ってのは何なんだ?」
 コーヒーカップをテーブルに置いて、コングが尋ねる。無論、まだ十二単衣を着たまま、メイクもされたまま。
「見てわからんか?」
 ポラロイド写真をピッとコングに渡す。
「こ、こりゃあ……。」
 コングが言葉を失った。キモノの袷(あわせ)の部分に、熊が立ち上がっている。コングの顎の下に熊の顔。
「それに……写真に上手く写るかわからんが……。」
 と、ハンニバルが「この辺かな、おお、ここだここ」とカメラを移動させて写真をパチリと撮る。べろーっと出てきた写真を見つめる4人。
「何これ、すごい。」
「うっひょー、熊が浮き出してきたぜ!」
「騙し絵か!」
 熊が立体的に見えて興奮する3人。ハンニバルは「むふふふふ」と満足そうに笑っている。
「何せ、熊柄をさりげなく、っていう難しい注文だったんだ。どうだ、このさりげなさ、それでいて熊のグリズリー感。あたしの持てるデザイン力を余すところなく発揮した結果ですよ。じゃ、これ、依頼主の元へお届けしますかね。」
 ハンニバルは写真を豪華に額装すると、意気揚々と出かけていった。雷様の虎のパンツの上にいつものスラックスを穿いて。無論、上半身にはいつものシャツを着て。
 残された3人は何となくすぐに衣装を脱ぐのが惜しくなり、そのまま寛ぎ始めていた。
「そう言えば、何に使う衣装なんだろう? 何かのイベントかな? コング、その辺のことハンニバルから聞いてる?」
 フェイスマンの問いにコングが首を横に振る。
「いんや、聞いてねえ。」
「そっかー。ま、いいよね、100万ドルだし。」
「100万ドルかあ。お金入ったらシュリケンとかクナイとか買おうっと。」
「買っちゃダメ。」
 マードックの発言を秒で却下するフェイスマン。
「こんだけ手のかかった衣装揃えたんなら、シュリケンくらい準備しといてくれてもよさそうなもんなのによ。詰めが甘えな、ハンニバル。」
 それは、十二単衣に時間と費用をかけすぎたからだろう。忍者のコスチュームなんて、パーティーグッズショップで買ったんとちゃう?
「箱に入ってたのに、オイラが気づかなかっただけかも。」
 マードックは忍者の衣装が入っていた箱を再度開けた。
「ん? 何、この封筒。」
 箱の中には手裏剣も苦無も入っていなかったが、蓋の裏に封筒がテープで留めてあった。それを取って、封を開けるマードック。
「次回予告だぜ、これ。何々……次回のAチームは、『コング、モデル業界に進出!?』、『100万ドルはミョン札で何枚?』、『更新された手配写真』の3本だってよ。」
「え、手配写真が……アレになるの? 俺だけ捕まっちゃうじゃん。」
 思いも寄らぬ事態に戦慄するフェイスマンであった。


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