61号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、春だか夏だかにお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。今、ピザハウスに来ています。いやあ、どのピザ頼もうか、迷っちゃうなあ。」
「俺はペパロニとハラペーニョのピザにするぜ。チーズはダブルでな。」
 コングがピシッとメニューを指差した。
「おいらはチーズとチーズとチーズとチーズのピザにするぜ。」
 マードックが人差し指でぐりぐりとメニューのクアトロフォルマッジに丸をつける。
「あたしはビールと、この、肉ピザってのにしよう。」
 ハンニバルがメニューを指先でトンと叩いた。
「肉? 何の肉?」
 自分のオーダーもまだ決まってないフェイスマンだが、ついメニューの「肉ピザ」に目をやってしまう。何の肉かは、小さな文字で書いてある。文字は下の方ほど小さく、平面なのに遠近感がある。
「えーと……。」
 フェイスマンはメニューに顔を近づけた。
「肉の種類は、下記から日替わりです。牛、豚、鳥、羊、鹿、兎、鰐、狐、人……人!?」
「そんなワケあるか! 貸してみろ。」
 コングがメニューを取り上げて顔を近づける。
「小せえ字だな。……牛、豚、鳥、鹿、兎、鰐? うーむ、わかりません。」
 視力検査よろしく首を振る。問題の箇所まで辿り着けなかった。
「おいら、遠くは見えるけど、近くのちっちゃい字は苦手だかんなあ。」
 マードックは早々に読むのを諦めている。鰐や狐や人はあるのに山羊や馬や猪や熊や狸がないのを疑問に感じてはいるものの。
「ハンニバル、これ読めたの?」
 フェイスマンが怪訝な顔で尋ねた。だってハンニバル、老眼だし。
「いんや、読めませんよ。大きく書いてある“肉”ってのがせいぜい。それで何だ、人肉が入ってる可能性があるのか?」
「はは、まさか。さすがにそれはないでしょ。店の人に聞いてみようか。」
 と、そこにウェイトレスが注文を取りにやって来た。
「ねえ、この肉ピザの日替わり肉って、今日は何かな?」
「えっ、肉ピザ? 肉ピザ注文するの? ……お客さんたち、もしかして、この店初めて?」
「そう、初めてなんだ。それで、日替わりメニューを訊いてみようかと。」
 フェイスマンがにこやかに言うと、ウェイトレスは猛然と話し始めた。
「今日のお薦めはペパロニとハラペーニョ。うちの看板メニューよ。」
「肉ピ……。」
「じゃなかったらマルゲリータ。トッピングにフライドオニオンとチーズを追加するのが人気なの。」
「よしわかった、お嬢さん。注文するぞ、準備はいいか。ペパロニとハラペーニョのピザ、チーズはダブルで、サイズはL。次、クアトロフォルマッジ、サイズはM、蜂蜜かメープルシロップをたっぷりかけてくれ。それから、この優男にマルゲリータのM、チーズ追加でフライドオニオンをトッピングな。それからあたしに、ビールと肉ピザ。以上!」
 ハンニバルがウェイトレスに口を挟む隙も与えずに言い切った。
 ウェイトレスは一瞬怯み、それから諦めたように溜息をついた。
「わかったわ。そこまで言うなら肉ピザのオーダー、通しましょう。その代わり、気に入らなくても返金はしないわよ。ビールのサイズは?」
「L! 肉ピザもLで。」
 ウェイトレスはハンニバルのオーダーに小さく頷くと、厨房へと戻っていった。
「大丈夫なの? 結局、今日の日替わり肉が何なのか、聞いてないじゃん。」
 顔を顰めるフェイスマンに、ハンニバルが胸を張る。
「細かいことは気にするな! 来ればわかる。」
 そして、ややあって、ピザが次々と運ばれてきた。ハラペーニョ満載でペパロニが見えないピザとか、メープルシロップでびったびたになってシロップが皿からだらだら垂れているクアトロフォルマッジとか、フライドオニオンは乗っているけどバジルは乗っていないマルゲリータとか。肉ピザだけが、また来ない。
「冷めないうちに食ってくれ。あたしはビールを飲みながら待つ。」
 そうリーダーに言われて、部下一同はピザに取りかかった。
 まず勢いよくピザにかぶりついたのは、コングだった。口一杯にハラペーニョピザを頬張り、ボリボリと噛み砕いていく。相当長い時間噛んだ後、ゴクリと飲み込んで、コングはブハアッと熱い息を吐いた。
「ぐっ、辛ぇ。このハラペーニョ、酢漬けじゃねえ、生だ。ごほっゴホッ。」
 辛い物は好物のはずのコングが、涙目で鼻水も垂らしている。
「不味いとまでは言えねえが、すげえ破壊力だぜ。」
 その横でマードックがピザを摘まみ上げて口に運ぶ。
「うっ、甘塩っぱいってより甘い。歯に沁みる。」
 甘い物は嫌いではないはずのマードックが、慌てて水を飲んでいる。
「ピザの口だったのに、こりゃちょっと違うな。」
 フェイスマンは自分の意見が全く入っていないピザを渋々と口にした。
「んんっ、これ、マルゲリータじゃないけど、全然マルゲリータの味しないけど、チーズが水牛のモッツァレラじゃないけど、美味い。フライドオニオンのさくさくした歯応えもいいし、香ばしさとコクが単調になりがちなチーズに加わって、お薦めされるだけある!」
 むぐむぐとハイペースでピザを飲み込んでいく。
「おう、牛乳のLを頼むぜ。辛くてしょうがねえ。」
 牛乳を頼み忘れていたコングがウェイトレスに手を挙げる。
「おいらには水のお代わり。」
 変な甘い炭酸飲料を好むマードックも、今は甘くない飲み物が欲しい。
「ビールお代わり!」
 ハンニバルが、飲み終えたジョッキを掲げてお代わりをオーダーしたその時。
「お待たせしました〜、肉ピザよ。考えちゃダメ、楽しんで!」
 そう言ってウェイトレスが肉ピザを運んできた。ドン、とテーブルに置かれたそれを四方から一斉に覗き込むAチーム。ふつふつと沸騰するチーズの上に、3〜5ミリにチョップされた何かの肉が、これでもかと山盛りになっている。色は、火を通したとは思えないような見事な赤。匂いは、セージとローズマリーの香りに負けて何だかわからないが、とりあえず、すごく美味しそうな匂いがする。そして大きい。
「当たりだな。」
 ハンニバルがニヤリと笑い、ピザに手を伸ばした。ごくり、とコングとマードックが喉を鳴らす。糸を引くチーズを切って、あーんと口を開けた時、お代わりのビールを運んできたウェイトレスにフェイスマンが尋ねた。
「で、この美味しそうな肉は何の肉?」
「ああ、それは……。」
 その時、キッチンから厨房服姿の男が走ってきて、ウェイトレスの口を背後から手で塞ぐと、じたばたもがもがするウェイトレスを引き摺ってキッチンに戻っていった。あまりに素早く、Aチームの面々も反応できなかった。
「……今の何? 助けに行った方がいいのかな?」
 心配そうにキッチンの方をちらちらと見るフェイスマン。
「それより肉だ。」
 ハンニバルにとって、最早これは肉であってピザではない。あむっと口に入れ、もぐもぐし、飲み込む。
「うむ、肉だ。美味い。」
 満足そうなハンニバルが、ピザを食べ進んでいく。とその時。
「大佐、ピザの下に何かあるぜ。紙?」
 マードックが手を伸ばして、角がちらりと見えている紙を引っ張る。木製の皿とピザの台の間から現れたのは、A4判の紙。
「来たぜ、予告だ。」
 ハラペーニョのせいで腫れた唇を牛乳で潤してコングが言う。
「何々? “次回は、『ハンニバル、若返る』、『モンキー、毛が生える』、『コング、スリムになる』の3本です”だってよ。」
 マードックが紙にタイピングされた文字を読み上げる。次回のAチームはファンタジーかSFかもしれない。
「それはいいんだけどさ、これ本当に何の肉?」
 執拗に疑問を解消したがるフェイスマン。しつこい男は嫌われるぞ。
「皆の者、気になるんなら味見しても構わないぞ。」
 肉ピザが思っていた以上に大きく、ハンニバルは部下たちに肉ピザを食べる許可を与えた。注文したものを食べきれずに残すのは、百戦錬磨のツワモノのリーダーとしてあるまじき行為であるために。端的に言って、残すのカッコ悪い。
「一切れ貰うぜ。」
「おいらも。」
 早速、コングとマードックが肉ピザに手を伸ばした。
「辛くなくて美味えな。肉が“肉!”って味するしな。」
「甘くなくて美味い。喉がケッケッてならないし、歯に沁みない。ピザとして申し分ないね。」
 ハズレのピザを食べていた2人には好評である。と、その時。
「ふんがふっふ。」
 肉ピザを気にしながら偽マルゲリータを食べていたフェイスマンが、チーズ(増量)を喉に詰め、喉を掻き毟りながらテーブルの上に前のめりに倒れた。
「飲み物、飲まないからですよ。」
 呆れ顔のハンニバルが、そう言ってビールを呷った。


さて、ここで問題です。肉ピザの肉は何の肉だったんでしょう?



ご注意ください!
1.チーズを沢山食べる時に水を飲むと、胃の中でチーズが固まって、胃が痛くなります。ワインを飲めば、胃の中でチーズが固まらず、胃が痛くなることもありません。(スイスの言い伝えより。)
2.大人が喉に食べ物を詰めて窒息した場合は、救急車を呼ぶと共に、近くにAEDがあれば用意し、食べ物を吐き出すまで背部叩打法やハイムリッヒ法を試みてください。決して、掃除機で吸い出そうとしてはいけません。

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