62号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、冬にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。バスルームがカビてカビて目も当てられない状況なのに、モンキーが犬をバスルームに連れ込みました。……俺、もうどっか行っちゃおうかな。」
「おいモンキー! これからクロロックス(カビ取り剤)使おうってのに、何だその垂れ耳の細い犬はよ、早く連れ出せ!」
 コングが、サルーキの子犬と共に風呂場に駆け込んできたマードックに向かって叫んだ。
「預かったんだ! 狩猟犬だぜ? きっと役に立つから。」
「何でい、そのしばらく世話してりゃ情が湧いてなし崩しに飼うことになるだろう的な目論見はよ。とにかくカビ取りが済むまでここはダメだ。」
「そんなこと言わずにさあ。」
 子犬の両前脚を手に持って振って見せるマードック。それでフェイスマンは気づいてしまった。この子犬、脚が泥だらけである。
「モンキー、その犬の脚、洗って。コングはその間、カビ取り待機。」
 泥で汚れた床を拭こうと雑巾を手に、フェイスマンが指示を出した。床、カーペットじゃなくてよかった、と思いながら。
「あー、ちょっと待ってね。」
 と、マードックが片手で犬を押さえながらもう片手でシャワーの水栓を開け、犬の脚にザバアッと水をかけた。
「キャン!」
 子犬は悲鳴を上げると、グニグニと体を捩ってマードックの腕を擦り抜け、バスルームの中を暴れ回る。
「あっ、こら!」
 慌てて立ち上がったマードックの手から落ちたシャワーヘッドが暴れて、そこら中が水浸しに。
 慌ててクロロックスを持つ手を上に挙げるコング。駆け回る子犬。暴れ回るシャワーヘッド。子犬とシャワーヘッドのどちらから捕まえるか決めかねるマードック。これは自分が何とかするしか、と察したフェイスマンはズボンの裾を捲り始めた。
 と、その時。
「ただいま帰りましたよ。」
 呑気にハンニバルご帰還。開いたドアの隙間から、子犬がするっと外へ。
「あっ!」
 マードック、コング、フェイスマンの3人が揃って声を上げた。
「な、何だ今の。」
 背後を振り返るハンニバル。
「ゴメン退いて大佐!」
 ハンニバルとドアの間を平泳ぎのようにして走り抜けるマードック。その後を追う、ズボンの裾を捲ったフェイスマン。子犬ながら高貴な毛並みの尻尾と耳を目にし、「お値段張るヤツ?」と瞬時に判断したゆえ。「待機」と指示されたコングは室内で待機中。手を上に挙げたまま。頭にはほっかむりしているし、目には水泳用のゴーグルをしているし、口もバンダナで覆って、すっかりとカビ取りの装いで。
「コング、状況を説明しろ。」
「風呂がカビた。」
「そこは割愛でいい。」
「犬が逃げた。」
「端折りすぎだ。」
 コングは溜息をついた。
「風呂がカビたからカビ取りしようとしたら、モンキーの野郎が薄ッぺたい犬を連れて帰ってきて。」
「ふむ。」
「犬の脚が汚れてたんでフェイスがモンキーに洗うよう指示した。で、犬が逃げた。」
「フェイスまで行ったってことは、高い犬なんだな?」
「多分な。で、これからどうするハンニバル。」
「うむ。コングは、風呂を片づけて待機。犬を連れ戻したら洗ってからカビ取りになるだろうからな。」
「おう。」
 コングは頷いた。とりあえずシャワーヘッドを拾ってタイルを拭くところまではやっていいらしい。早速シャワーヘッドを足で確保し、水栓を止めるコングを残して、ハンニバルは居間に向かった。
 カメラ切り替わって、外。通行人の足元をすごいスピードで駆け抜けていく子犬。薄べったいのであまり気がつかれていない。その遥か後ろを並んで走るマードックとフェイスマン。通行人にぶつかって謝り続けながらも走る。走るスピードはどんどんと遅くなっていく。
「はあっ、はあっ、モンキー、あの犬、子犬のくせに足速くない?」
「狩猟犬だから! 父犬が競技会の優勝犬だし!」
 マードックが、そう答えた。
「えっ、じゃあ、マジで高い犬じゃん!」
「だから預かったんだって! 先週から何度か誘拐未遂に遭って、しばらく警護を兼ねて預かってほしいって言われてよ。」
「えっ、じゃあ、仕事の依頼じゃん!」
「そう、仕事依頼されたから説明しようと思ったのに、ヤツの脚洗うように言われたから先に脚洗った方がいいかなって、今に至るわけで。」
「先に説明しろよ!」
「そんなら先に説明しろって言えよ、俺っち自慢じゃねえけど頭おかしいんだぜ。」
「……わかった、俺がいけなかった。」
 と、2人は走ることに専念した。もう子犬がどっちに行ったかなどさっぱりわからないけれども。
 その頃、風呂掃除を中断したコングと、そもそも掃除に参加する気もないハンニバルは、アジトの居間でゆっくりとコーヒーを(コングは牛乳を)飲んでいた。と、そこに1本の電話が。
「……はい、ええ、マードックは出かけていますが。え? そうですか。それはそれは……依頼は、なし? ええ、そうでしょうね。お役に立てませんで。……ええ、また何かあれば。」
 ハンニバルは、そう言って静かに受話器を置いた。
「ハンニバル、誰からの電話だ?」
「あの犬の飼い主。犬が帰ってきたそうだ。1匹で。」
 犬を見失ってとぼとぼとアジトに戻るフェイスマンと、後に続くマードック。そこに、どこからかひらひらと1枚の紙が降ってくる。マードックがそれをキャッチしてフェイスマンに渡した。
「何々、次回のAチームは、『遂に! コング、カビ取りをする』、『どこへ消えた? フェイス秘蔵のコーヒー豆』、『優勝する気?! 全米ほっかむりコンテスト』の3本です、だってさ。」
「ふんがふっふ……。」
 黙りこくっていたマードックがそう呟いてばったりと倒れた。
「え、何? どうしたのモンキー?」
 見下ろすフェイスマン。
 喉が渇いただけでなく、喋りながら走ったせいで口の中がカラカラになっていたマードック、やっと溜まった唾を飲み込もうとしたものの運悪く気管に入り、しかし咳込む余力も残っていなかっただけである。だけではあるが、このまま放置したら命に係わる。だが、そんな深刻な事態であることにフェイスマンは気づいていない。
 マードックの運命やいかに!


それはさて置き、ここで質問です。ほっかむりが一番似合うのは誰?



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