65号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、夏にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。生え際がちょっとアレな奴が、今、鏡に向かって無駄な努力をしてるんで、俺はこのふっさふさの髪のセットもできない状況です。」
「誰が生え際がちょっとアレでい。この剃り込みはオシャレを追求した結果だ。」
 櫛を手にしたコングが遺憾の意を表明したところに、ドアがばーんと開く。
「生え際がどうかしたか?」
 ハンニバルが幾分ムッとした表情で登場。
「まさか俺の生え際のことを、後退しているとか抜けているとか思っている不届き者がいるんじゃないだろうな?」
 ツワモノのリーダーも生え際を気にしているご様子。
「まあまあ、2人とも、そんな気にするほどじゃないから安心しなよ。」
 と、生え際のちょっとアレ度なら誰にも負けないマードックがしゃしゃり出る。
「「てめえ/お前さんには言われたくねえ/ない。」」
 コングとハンニバル、渾身の叫びがキレイにハモった。
「へえ、そんなこと言っていいの? オイラ、これでも生え際にはちっとうるさいんだぜ。その耳寄り情報を聞きたくない、と。」
「お前さん、耳寄り情報を持ってるんなら、なぜそれを活用しない?」
 ハンニバルが痛いところを突いてきた。
「そうだぜ、てめえの耳寄り情報なんてアテになんねえってことが、てめえのその生え際でわからあ。」
 コングがビシッとマードックの生え際を指差す。しかし、その生え際は帽子に隠れて見えない。コングの知っている生え際は、最早、生え際ではなく額と化しているかもしれない。
 マードックは、ビシッ! と突きつけられたコングの人差し指を華麗にスウェイして、フェイスマンの隣にピタリと立った。
「じゃあ、フェイスにだけ特別に耳寄りな情報を教えてあげよう。ハンニバルとコングちゃんには教えないもんね。あとから教えてくださいって土下座してもダメだかんね。」
「え、俺は生え際についての耳寄り情報には不自由してな……え、えええっ!」
 ごにょごにょと耳打ちされたフェイスマンの目がカッと開く。
「それ本当なんだろうな?」
 急に身を乗り出し、マードックの肩を掴んだフェイスマンに、コングとハンニバルは顔を見合わせた。マードックは余裕の微笑みを浮かべている。
「ありがとう、モンキー。有益な情報をタダで教えてくれて。本当に感謝してる。お前こそ、心の友だよ。」
 感極まった風に、フェイスマンはマードックを抱き締めた。そんなフェイスマンの二の腕を、マードックが優しくポンポンと叩く。
「よかったな、フェイス。これでお前の生え際は生涯安泰だろうよ。だが、忘れるんじゃないぞ、その健康な生え際の陰に、お前の犠牲となって散っていった男たちがいることを。」
「ああ、もちろん、よくわかっているとも。俺は俺の生え際の健康を一生守る。みんなの屍を超えていくんだ。」
 両の拳を握り締めて力説するフェイスマンにコングが突っ込んだ。
「勝手に俺の生え際を屍にするんじゃねえ。こちとら現役なんでい。」
「あたしの生え際だって、生涯現役ですともさ。」
 まあ、生え際は後退したって生え際だからな。生えてなければ、生え際って概念からしてないわけだし。
「みんな気がついてないだろうけど、問題はさ、どこからを生えるべき土地と定めるかによって変わってくるっていうことなんよ。生えるべきか、生えざるべきか、それが問題なんじゃなくて、むしろ、生えざるべきはどこまでなのかっていう、それをはっきりさせるのが肝心だってこと。」
 マードックが、わかったようなわからないような説を得意げに披露する。
「何言ってやがる、スットコドッコイ。それじゃ何か? マジックで境界をハッキリさせりゃいいのか?」
 やんのかステップ体勢に入ったコングがやおら油性マジックを取り出し、マードックの腕を掴んだ。
 コングに腕を掴まれたマードックは、観念したというわけでもなく、冷静な表情で背を伸ばした。
「さあ、境界を。汝の意見を受け入れようぞ。」
 帽子を取り、コングに頭部を曝す。
「ホンット、荒れ果ててんな……。」
 コングは率直な感想を述べた。
「よく見てよ、荒れ果ててるんじゃなくて、俺っちの髪の毛は、自由に生えてるだけ。」
 マードックの言葉に、コングは覚悟を決めてマジックのキャップを取った。そして、右側から生え際を辿り、くっきりと線を引き始めた。が、3cm進んだところで手が止まった。
「ちょっと待て、この髪の毛の根元はどこなんでい? こっちは、こう来て、こっちに進んで……で、ここにいるわけか。で、こっちの毛は? ……ええい、わかりにくい頭だな!」
「そんなことないぜ、心の目で見るんだ。そうすりゃおのずと境界が見えてくる。」
「いや、こう辿っていくとだな……何でか最初に戻っちまうんだ。」
 コングが描くマードックの生え際はもはや無限ループに突入している。
「コング、髪の毛に惑わせられるな。毛を無視して、根元だけを見ればいいんだ。」
 ハンニバルがリーダー然としてアドバイスを送った。
「俺だって根元見ようとしてるぜ。でもよ、畜生、毛が細っこくて見えねえんだ。頭皮がテカってるしよ。」
 生え際が後退して納得の環境である。
 そうこうしているうちに、マードックの頭皮は黒マジックで塗り潰され、さらに、一部眉毛と繋がってしまい……。
「ぷっ。」
 フェイスマンが噴き出した。
「モンキー、何の作用かわかんないけど、その髪型、メキシコのおじさんに見えるよ。あははは、ねえハンニバル。」
「そう言われるとメキシコのおじさんだな。いや、インドのおじさんに見えなくもないか。わはは。」
 ハンニバルも豪快に笑い出した。その笑いはマジックを手にして途方に暮れていたコングにも伝染した。しばらくは無言で肩を震わせて笑いを堪えていたコングだったが、遂に「ブッ!」と噴き出した。それからはもう笑いが止まらない。腹を抱えて大爆笑。
「そりゃメキシコのおじさんってえか、カンボジアのおじさんだろ。」
 床に倒れて転げ回る、コング、ハンニバル、フェイスマン。取り残されたマードックは、仲間外れが寂しくて、バスルームに向かい、鏡を見た。
「ぶふぅぅぅー!」
 マードックさえも噴き出した。


 マードックは、洗面台でおデコを洗った。しかし、相手は油性マジック。一度や二度の洗顔(?)で取れるはずもない。黒々と残るマジック跡を眺めた後、「ま、いっか」とマードックは、そのままキャップを被り、バスルームを出た。
 キャップを被ったマードックに、肩を震わせながらフェイスマンがフリップを掲げる。マードックは真面目な顔でそれを読み上げた。
「さて次回は――『生えるべきか、生えざるべきか?』、『頂上対決! メキシコのおじさんvs.インドのおじさんvs.カンボジアのおじさん』、『額と生え際の狭間で』の3本だってよ。」
「ふんがふっふ…………………………………………………………………………ガハッ、ハアハア……はー……。」
 すべきことをしたマードックとフェイスマンの足元では、未だに笑い続けていたハンニバルが、息を吸った途端に唾液を気管に入れてしまい、一瞬、呼吸困難に陥ったが、自力で咳をして最悪の事態を免れた。


さて、ここで質問です。どの範囲を額と言いますか?

眉毛と頭髪の生え際の間
眉毛とかつての生え際の間
眉毛と理想的生え際の間
眉毛から上の髪がない垂直部分
眉毛から頭頂部の手前まで
眼窩の上の垂直部分
目と耳の間


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