68号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、冬にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。今、ローカルニュース番組で『続報です。西海岸のビーチは閉鎖となる見込みです』って言ってて、閉鎖って何で? って思ってるとこです。」
「そう言えば、さっき浜で号外を配ってたぜ。第2報だけど。」
 マードックがうっすい新聞紙をフェイスマンに手渡した。
「何だ、えーと……『閉鎖はこの後すぐ。解除の見込みは現状不明』。これじゃ何もわからないんだけど。第1報はないの?」
「これしか配ってなかったぜ。前のやつは配り終わって、ゴミ収集日になんねえとゲットできねんじゃねえの?」
「そんなに待たなくても、その辺に落ちてたりしなかった?」
「第1報かどうかわかんねえけど、それ(第2報)みたいなのはかなり散らばってた。」
「ビーチが閉鎖ってことは、津波が来るとかサメが出たとか不審船の目撃情報があったとか、そんなとこだろ? そもそも2回に分けてお知らせする必要ってある?」
 フェイスマンは、そう言って首を傾げた。
「それ、サメ以外、ビーチで第2報配ってる場合じゃないやつじゃん。ちょっくら様子見てくるぜ。」
 興味津々に飛び出しかけたマードックの目の前でドアが開いた。
「いやあ暑いねえ。ほら、これ、浜で号外を貰ったぞ。見るか?」
 ハンニバルが、手にしていたうっすい新聞紙2枚をフェイスマンに手渡した。
「第4報と第5報だって?! 第3報、いつ出たの?」
 受け取ったものを見たフェイスマンが、ハの字眉でハンニバルに問う。
「知りませんよ。何てったってあたしは第1報から第3報までずっと知らないんですからね。」
 自信満々にそう言うハンニバルを放っておいて、フェイスマンは紙面に目を落とした。
「何々、第4報は『ビーチの閉鎖は夕方には解除の見込みです』、第5報が『閉鎖は、やっぱり夜半まで続く見込み』。お知らせが細かすぎない?」
 細かすぎるゆえか、文字はだんだん大きくなり、情報量はますます減っている。フェイスマンとハンニバルは顔を見合わせた。
「やっぱ様子を見に行くしかねえな。配ってる奴に聞けば何かわかるかもしんねえし。」
 マードックがそう言って扉を開けた。


 所変わって、ここは近隣のビーチ。閉鎖となる見込みではあるけれどまだ閉鎖はされていないので、かなり普通の状態。不安そうに号外を読んでいる人もちらほらといる、という程度。
「さっき号外配ってた奴、どこ行った?」
 と、辺りを見回すマードック。
 号外を配っている人は、そこここにいた。とりあえず身近な人に声をかけて、号外を貰ってみる。
「第6報か。『閉鎖は朝までの見込み』?」
 マードックが、貰った号外をフェイスマンに見せた。
「こっちも貰ったよ。あれ? こっちは第2報だって。『閉鎖になる見込み』って、それは知ってるよ。何で配ってる人によって版が違うの?」
「さあ? 要領よくノルマ分を配り終わった奴から新しい続報を配れる仕組みなんじゃねえの?」
 マードックはどうでもよさそうに言ったが、フェイスマンが飛びついた。
「ということは、この中で一番要領の悪い奴を探せば第1報が手に入るかも。要領悪そうなのは……。」
 要領悪そうな人を捜すフェイスマン。どこをどう見て判断しているのか不明だが。
「少なくとも、要領よさそうな奴は見つけたぞ。あそこだ。」
 遠くを指差すハンニバル。そこには、ラジオのイヤホン(モノラル)を耳に、レポートパッドを左手に、ペンを右手に持ち、多段式の号外入れを肩にかけた男が。
「あの男なら、全部の情報を知っているはずだ。」
 ずんずんとその男に向かって歩いていくハンニバル。
「おい君、号外の第1報を持ってないか?」
 男は、ハンニバルの言葉に顔を上げた。
「第1報? うん、あるよ。最後の1枚。」
「それをくれ!」
 手を伸ばすハンニバル。
「その前にまず最新報をどうぞー。」
 第1報の最後の1枚をすっと引いて、要領よく最新報を押しつける男。最新報(第7報)には、閉鎖がビーチだけではなく近隣の店舗にも及ぶ可能性が、と載っていた。
「いや、こんなことじゃなくて、あたしが知りたいのは、原因! 閉鎖の原因!」
「ああ、原因ね。閉鎖の原因は、そういう通報が出たからさ。」
 この男、情報を最初から知っているはずなのに、何もわかっちゃいない。
 と、そこに。
「おーいハンニバル、モンキー、フェイス!」
 大声で彼らを呼ぶ声。見ると、コングが大量の紙の束を抱えて走ってくる。号外を集められるだけ集めたようだ。
「この騒ぎの原因がわかったぜ!」
 抱えた紙の束を3人に向けて掲げたところで、コングが砂に足を取られて派手に転び、一面に散った紙の1枚がふわふわとハンニバルの前に飛んできた。それを真剣白刃取りのようにパシッと取るハンニバル。
「何々……『コングvs.人食いザメ 真夏の決闘』、『地震の恐怖! 復興に尽力せよAチーム』、『悪魔の毒々モンスターはゴメンです』の3本だと? 何だ、こりゃ次回予告じゃないか。あたしが欲しいのはビーチ等の閉鎖の原因ですって。」
 ハンニバルはその紙をコングの手にペシッと返した。
「そもそも閉鎖なんかしねえぜ、ハンニバル。バカどもが『閉鎖する』って言い張る変なビラを撒いてただけだ。俺が捕まえてノしておいたんで、号外は回収してくれ!」
 コングは、そう言うと胸を張った。
 見渡せばビーチにはノされた人々と各版の号外が一面に広がっており、穏やかな海は夕日に輝いていたのだった。


 ビーチに散らばったうっすい新聞紙を、波に攫われたもの以外は全部集めたAチーム……いや、コングとマードック。ハンニバルとフェイスマンは、いつの間にか姿を消していた。
「よし、これを明日、新聞の回収に出すぜ。」
 コングが、抱えていた新聞紙(厚さ約50cm)を砂浜にドスンと置く。
「あ、コングちゃん、置くだけだと、ああああああ……。」
 当然ながら、集めた紙は風に飛ばされていった。集めては飛ばされ、集めては飛ばされ、これで3度目である。
「……そうだったぜ……済まねえ。」
 屈んでビラを拾うのに疲れ果てたマードックは、がくりと膝をつき、ばたりと砂浜に俯した。
「ふんがっふっふ……。」


 さて、ここで問題です。バカどもが「ビーチが閉鎖される」との旨の号外を配っていたのはなぜでしょうか。

本当に「ビーチを閉鎖する」という通報が、とある方面から出されたので、それを人々にお知らせするため。
ビーチを独占したかったから。
騒ぎになると面白いから。
でっち上げた情報を人々が鵜呑みにすると面白いから。
この界隈でのサメによる被害を記録しているマニアが、近々サメが人を襲うと予測したから。
太平洋沿岸部および諸島部の地震を日々チェックし、過去のデータも把握している専門家が、そろそろどこかで地震が起きそうだと呟いたから。
近隣の海軍基地から危険物もしくは毒薬物が海に流れたかもしれないという噂を耳にしたから。
宇宙からの電波がビーチを閉鎖するように命令してきたから。
輪転機の試し刷りをただ捨てるのがもったいなかったから。
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