69号 おわりの挨拶

The A'-Team


 お楽しみいただけましたでしょうか。
 それではまた、夏にお会いしましょう。


【おしまい】






次回予告

「こんにちは、フェイスです。さっき依頼人の家に行ったら、戸口の段階で“帰って”って言われました。しょんぼり。呼ばれたから行ったのに。」
「何か急用でもできたんじゃねえのか? もしくは、Aチームに依頼したことを旦那が奥さんに言ってなくて喧嘩になったとか。」
 と、コング。
「ふむ。急用なら次のアポについて言及するだろう。どちらかと言うと、後者だろうな。」
 と、ハンニバル。
「切迫した感じで“帰って”って言われたのも、奥さんと喧嘩の真っ最中だったんなら納得……いや、納得はできないよ、ガソリン代くらいくれてもいいはずじゃない?」
 腕を広げて訴えるフェイスマン。「帰って」って言ったの、旦那の方だったのか。
「で、何の依頼だったのさ、ハンニバル。」
 と、マードック。
「そうだよ、俺だって話の方向性も聞かないで、“ちょっと行って話聞いてやってくれ”って言われても。どういう心づもりで行ったらよかったのよ。その……“帰れ”って言われないようにするにはさ。」
 フェイスマンが不満げにハンニバルに詰め寄った。
「だがなあ、話を聞く前に言われたんだろう、“帰れ”って。」
 ハンニバルがフェイスマンを上から下まで眺めて重々しく頷く。
「やはり見た目か?」
「見た目! こんなに誠実そうなルックスなのに!?」
 フェイスマンは納得が行かない様子で眉を下げる。
 フェイスマンの言葉を聞いて、牛乳を飲んでいる最中だったコングがぐっと息を呑み、堪えきれず牛乳を噴き出した。
「げほっげほっ、済まん、噴いた。」
 台所に布巾を取りに行くコング。
「依頼人が奥さんと喧嘩してるのも、フェイスのルックスが誠実そうじゃないのも、コングちゃんが牛乳噴き出したのも、これ全部、呪いじゃん?」
 軽〜く言ってみるマードック。
「呪いねえ。あまり非科学的なことは言いたくないんだが、誰かがあたしたちに呪いをかけてるっていうのか?」
 ハンニバルが不満げにそう言った。
「いや、誰かが、じゃなくて。」
 と、マードック。
「多分、こいつの呪い。」
 と言ってポッケから取り出したのは、モヒカン頭のモヒカン部分が、いい感じに伸びた1体のパンチング人形。その顔は、コングに酷似している。
「なんだそいつぁ! どっから持ってきやがった、このスットコドッコイ。」
 布巾を手に戻ってきたコングがマードックの手にしている人形を見て嫌そうに言う。
「それが、誠実そうな俺を誠実そうじゃなく見せてる犯人か。」
 言い募るフェイスマンに、パンチング人形の表情は心なしか迷惑そうだ。
「病院の近くでフリーマーケットやっててよ、ちょろっと脱走して売ってるもん見てたら、そいつが10万ミョンだったんで買って、そんでヒゲがもっさもさだったからさっぱりいい感じに切ってやって、そん時、モヒカンも切り揃えたはずなんだけどなあ。そんで、見れば見るほどコングちゃんに似てるから、こんなのオイラが持ってたらコングちゃん怒るだろうから、捨てたんよ。でも、気づいたらポケットに入ってた。」
 マードックが話し終えた時、聞いていた3人の背筋がぶるっと震えた。
「と、とにかくよ、もう一度捨ててこい、その人形。ゴミ箱じゃなくて、穴掘って埋めてこい。」
 と、コング。
「やだよ。埋めて……戻ってきたら、倍怖いじゃん。」
「持ってたって怖いのに変わりはねえだろうが!」
 コングは懸命にマードックを説得しようとした。
「元の持ち主に返しちゃどうだ。フリーマーケットで買ったんだろう。」
 と、ハンニバル。
「連絡先なんて聞いてねえよ、フリーマーケットだもん。」
「フリーマーケットなら、出品者の連絡先を登録するだろ? 主催者に訊いてみりゃいいんじゃない? 場所は病院の斜め前の公園?」
「そそ。」
「あの公園を管理してるのって市かな? 市役所に電話してみるか。」
 早速フェイスマンは受話器を取って市役所に電話をかけ、公園を管理している部署に電話を回してもらい、事情を話した。フリーマーケットで買ったものについて売っていた人に話を聞きたいんだけど、と、やんわりとした表現で。だがしかし。その回答を聞いているフェイスマンの顔がさーっと蒼褪めた。
「わかりました。ありがとうございます。こちらの勘違いだったかもしれません。」
「公園の人、何だって?」
 受話器を置いたフェイスマンにマードックが尋ねた。
「フリーマーケットなんてやってないって。」
「あぁん? やってないって、どういうことよ。俺っち確かに買ったんだぜ?」
「いくらで買ったんだっけ?」
「10万ミョン。」
「……それどこの通貨?」
「……そう言われてみれば、どこのお金だろう?」
 マードックはごそごそと財布を取り出し、中を確認する。
「あれ? お金、減ってない。その代わり……。」
 言い淀むマードックの財布を、3人は覗き込んだ。
「商店街のくじ引き券、1回分なくなってる。」
「くじ引き券が10万ミョンだとすると……。」
 ハンニバルが重々しく口を開いた。
「「「すると?」」」
 身を乗り出す3人。
「その人形をモンキーに売った者は絞られる。即ち、券を通貨と錯覚させる力を持ち、くじ引きをしたい誰かだ!」
「誰それ? キツネかタヌキ?」
 思わずツッコむフェイスマン。
「どっちかってえと、人形を渡す方が目的なんじゃねえか?」
 追撃するコング。
「こいつ(パンチング人形)がどこのどいつに押しつけられたかなんて、どうだっていい。どうせフリーマーケットはこいつ(マードック)の妄想だろうし、ミョン札だってオモチャの金だ。くじ引き券だって、よく見てみろ、手書きの偽造品だ。ほら、その人形を貸してみろ。」
 コングはマードックからパンチング人形を受け取ると、アジトを出てバンから小型のアセチレントーチを出した。コンクリートの上に人形を置き、トーチで燃やす。思わず目を閉じる3人。すぐに人形は金属の骨格だけになった。脆くなった骨格を金鋏で細かく切る。切り終えたものを集めて、ポリ袋に入れる。
「これをゴミに出しゃあ、おしめえだ。呪いも何もねえだろ、こんなになっちゃな。」
 コングが笑い、3人はほっと息をついた。
 安心して屋内に戻ったAチーム。と、そこに。
 ピーンポーン。
 ドアのチャイムが鳴った。
「はーい。」
 フェイスマンが玄関に走り寄る。ドアを開けた先には、白髪の上品な老婦人が1人。
「あっ!」
 マードックが叫んだ。
「あんたは! 俺に人形売りつけた人!」
 老婦人は、にこにこと微笑みながら、招かれてもいない居間に進み入る。そして、マクラメ織の可愛い手提げをテーブルに引っ繰り返した。出てきたのは、パンチング人形……の、色違いが沢山。どれも褐色の肌に、デタラメに伸びた髪と髭。お世辞にも可愛いとは思えない代物だ。
「これ、私が作ったパンチング人形。あなた、すごく気に入ってくれてたみたいだから、もっと沢山あげようと思って、あなたの風貌だけを頼りに尋ねてきたの!」
 老婦人は、そう言うと、嬉しそうに笑った。
「貰って! 私の可愛いお人形!」
 マードックが慌てて両手を横に振る。
「い、いや貰いすぎだから! 俺っち、10万ミョンしか払ってないし。」
「遠慮しなくていいのよ。この子たちもあなたを……あなたたちを気に入ったみたいだし。」
 微笑みながらマードック、ハンニバル、フェイスマン、コングを順番に見る老婦人。
「ほら、行くのよ、私の可愛いお人形さんたち!」
 老婦人が4人の方を指差すと、テーブルの上のパンチング人形が、次々と腕を伸ばして体を立たせた。そして、体を左右に振って、じりじりと4人の方に向かってくる。後ずさりする4人。色褪せたピンク地に花柄の布を纏った人形が、マードック目がけてシュピーンと飛んできた。
「ギャーッ!」
 ……気がつくと、マードックは椅子に括りつけられて頭に機械を被せられていた。精神科の処置室で電気ショック療法の真っ最中である。
「よかった、夢か……。」
 夢に安心したマードックの前に、フェイスマンがずずずいっと歩み出た。
「さて、次回は、『モンキー、おかんアートに目覚める』、『出でよ、くじ引き券』、『フェイスマン、マナー教室に通う』の3本です。ふんがっふっふ。」
 フェイスマンの肩越しにパンチング人形が2体現れ、猿轡を噛ますとフェイスマンを引き摺って退場。呆然とするマードック。


 さて、ここで問題です。マードックはまだ夢の続きを見ているのでしょうか? それとも……?

夢を見ている
パンチング人形の呪い
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