サーキットの女将
フル川 四万
~1~
俺は地上げのプロだ。ポーク・ジンジャー(以下ポーク)はそう思っていた。プロたるもの、ちゃんと段取りと準備をした上で、不測の事態も予測する。そうすれば、失敗なんか滅多にするもんじゃない、と。
深夜1時過ぎ。月明かりだけが照らす地方サーキットの観客席には誰もいない。静まり返ったピットロードを、2つの黒い影が音もなく横切った。
「そっちの窓だ。」
ポーク・ジンジャーが、同行の後輩、バッファロー・チキン(以下チキン)に囁く。チキンがモンキーレンチを咥えたまま頷くと、ピットに併設するダイナー兼母屋の裏口の小窓を覗いた。窓から見えるのは、ダイナーの事務所のようだ。人影はない。
「もう家人は寝てそうですぜ、兄貴。」
チキンがそう言って、モンキーレンチを振って見せる。
「よし、潜入だ。今夜どうしても、このサーキットの権利書を手に入れるぜ。社長から、権利書だけは今週中に手に入れろって言われてんだ。」
チキンは頷くと、慣れた手つきでモンキーレンチを使い、窓ガラスを割って事務所へ侵入した。室内は暗く、ポークは持っていたアタッシェケースを開くと、懐中電灯を取り出した。室内をざっと照らしてみる。
――机、書架、ソファ、壁一面に歴代チャンピオンの写真、帽子掛け、金庫。――金庫。
「あっ、金庫。」
「権利書があるとしたら絶対に金庫だぜ。ヘヘ、今夜は早く帰れそうだ。」
チキンが金庫のダイヤルを回し始める。金庫は、あっさり開いた。
中には封筒が1枚。
「きっとこれだ。」
ポークが封を切った。意気揚々と読み上げるチキン。
『町内会 ビンゴ大会実行委員会、委員長からのご挨拶草案(没)』
「……違うな。他にはないか。ほら、もう1枚あるじゃないか。」
ポークが、金庫の奥にへばりついていた紙をペラッと取ってチキンに渡す。
『婦人会 慰安旅行積立金計算書(収支合わないバージョン)』
「違う。」
「違いますね。」
「こっちは。」
『子供会人形劇草案“実録! 怖い話。シャム猫の祟り vs. ビーグル犬の粗相~粗相の海で溺れたい~”※どうやっても怖くならないので没』
「下らねえモンばっかり金庫に入れるな!」
ポークが、手にした紙類を足元に叩きつけた。
それを合図に、2人は事務所中を引っ繰り返し始める。机を開けて、棚を漁って、天板を外して天井裏まで覗く。しかし、レース場の権利書だけが見当たらない。
「兄貴、ありませんぜ。」
「あるはずだ。」
「でも、ないですよ。」
「おかしいな……社長の情報では、大事なものはダイナーに隠してあるはずだと……。」
と、その時。廊下の奥から、ギィ……と、古びた引き戸の音がした。2人は凍りつく。
何かを引き摺るような足音が、ゆっくり近づいてくる。ズズ……ズズ……ズズ……。
やがて事務所の入口に、小柄な老婆が立った。
白髪をきっちり結い上げ、白い割烹着姿。片手には竹箒。もう片方にはランタン。そして無言。老婆は2人を見た。
「泥棒かい。」
静かだが、低い、迫力のある声だった。ポークは営業スマイルを浮かべる。
「いえいえ、お婆ちゃん。我々は設備点検で――。」
「設備点検? 夜中の1時にかい? 黒づくめで、窓まで割って? 嘘なら、もうちょいマジにつけや。」
一刀両断だった。老婆は竹箒を肩に担ぐ。次の瞬間、竹箒が唸った。
ブォン!
「うわっ!」
ポークの帽子が宙を舞う。
「出ていきな!」
「ちょっ、お婆ちゃん! 誤解だ!」
「誰がお婆ちゃんだい! あたしゃまだ花の23歳だよ!」
ドゴォン!
竹箒が机を叩く。重厚な樫の机が数センチ横へ滑った。チキンは蒼褪めた。
「兄貴……この婆さん、強いぜ。」
「諦めるな、相手は、たかがボケたババァだ。」
「何でボケてるってわかるんです?」
「白髪に割烹着が23歳なわけがない。」
「そうだね。」
2人がそう言っている間にも、老婆はずかずかと歩み寄る。
「若いモンは夜更かしばかりして! 早く寝ないと、イザって時に頭髪が生えてこないよ!」
この状況に頭髪と何の関係があるのかは不明だが、その言葉は、前髪に難のあるポークに少し刺さった。そして再度振り下ろされた箒は、ポークの真横に立っていた帽子掛けを一撃で破壊した。
「逃げろ!」
2人は脱兎のごとく飛び出した。
「二度と来るんじゃないよ!」
老婆の怒号が夜のサーキットに響いた。
車に飛び乗った2人は、タイヤを鳴らしてレース場から逃げ去った。500メートルほど走ったところで、ようやくポークが大きく息を吐いた。
「……助かった。」
「危なかったですね。」
チキンも同意する。
「それにしてもさっきのババァ、ただの婆さんじゃない。あんな婆さんがいるなんて話は聞いてなかったぞ。大体ありゃ……。」
ポークの話を耳半分で聞きながら、なぜか嫌な予感がしたチキンは、ふと後部座席を見た。
「あれ。」
「どうした。」
「兄貴……。」
「何だ。」
「アタッシェケースがありません。」
「アタッシェケースだと?」
「懐中電灯とか、スカンジナビアホテルの権利書とか、メイシーショッピングセンターの権利書を入れてたアタッシェケース、兄貴持って入ってなかったでしたっけ?」
「あ。」
車内が静まり返る。
「やべえ、つい、うっかりダイナーに忘れた。」
2人は、大急ぎで、今去ったばかりのレース場へとUターンした。そして、レース場が見える辺りまで戻った時、ポークが言った。
「ダメだ。」
「え?」
チキンが聞き返す。ポークの指差す先、ハイエッジ・レースウェイのマーガレット・ダイナーには、昼間のように煌々と明かりが灯り、それ即ち、彼らの強盗未遂事件が露呈したことを示していた。
~2~
翌日。ここはワシントンD.C.郊外のカートレース場、ハイエッジ・レースウェイ。公式なレースを行うには少し小振りだが、趣味のカートレース場としては全米屈指の大きさであり、大勢の愛好家に親しまれている。
そしてここには、レース場の地下をほぼ全面に使った駐車場があり、その半分程度に、アメリカのカートレースの歴史が学べる展示場が設置してある。展示場だけなら無料で見学しに来ることができるので、夏休みの子供たちの自由研究などに重宝されていた。
そしてもう1つ、ここのパドックには、遊びに来る素人レーサーなら誰もが立ち寄るダイナー、マーガレット・ダイナーがあった。
店を切り盛りするのは、近所の有名人であり、誰からも慕われる女将、タバサ・クインシー。ここのカートレース場を作った伝説の男、ウルフ・クインシーの娘だった。ここで供されるパウンドケーキは、皿を覆いつくすほどの大きさで、紅茶との相性もよい。「これを食べずにレースに勝った者はいない」とまで言われる名物だった。経営は順調に思われた。そう、あの悪名高い地上げ屋に狙われるまでは。
「で、うちらに、その地上げ屋を二度とこのサーキットに関われないように、叩きのめしてほしいってか。」
開店前のダイナーの赤い革シートで、名物のパウンドケーキのオレンジ味を紅茶と共にいただきながら、ハンニバルが言った。Aチームの面々は、先週このコースで行われた“なんちゃってナスカーレース”で、マードックがぶっちぎりの優勝を果たしてから、ここの女将に気に入られて悩みを聞くような気やすい間柄になっていたのだ。
因みに、“なんちゃってナスカーレース”とは、“ガワだけ市販車なら、中身何でもいいよ速ければ、でも、使っていい予算は1000ドルまでね?”という縛りのカーレース。お金を使わずに速くするとか朝飯前の彼らにとっては、ちょっとした賞金稼ぎにもなる娯楽であった。因みに、賞金は3000ドル。予算7ドルで組んだ10年落ちのカマロは、手加減のできないコングのせいでF1並みに速かったので、賞金の3000ドルゲットに加え、地元の新聞にも載ってしまっていた。しかも、メカニックのコングとドライバーのマードックのカラー写真込みで。それを見た当局のデッカー大佐が、早速やる気マックスで捜査に乗り出しているのは、また後の話。
「そうなのよ~。度々立ち寄ってこのレース場を売れと迫られるだけならまだしも、ねえ?」
「とうとう強盗まで働いたってこと?」
フェイスマンが、パウンドケーキのメニューを眺めながらそう言った。チョコレート味に、ユズ、ラズベリー、ブルーベリー、抹茶、レインボー等、魅惑的なレパートリーの数々である。しかも、アイスクリームも+1ドルでトッピング可。
「まだ地上げ屋のせいって決まったわけじゃないんだけど、他に心当たりもなくて。それに……。」
ちょっと待っててね? と言って、女将タバサは、そそくさと奥の部屋へと去っていく。しばらくすると、アタッシェケースを持って戻ってきた。
「盗まれたものは何もないと思うんだけど、事務所の金庫前に、これが増えてたのよ。」
女将がアタッシェケースから取り出したのは、2冊の冊子。『スカンジナビアホテル権利書』と『旧メイシーショッピングセンター権利書及び重要事項説明書』。
「権利書? このレース場と所縁のある土地なのか? まだ登記が親父さんのままになってる土地とかか?」
コングが、レインボー味(食紅色。味はバニラ)のケーキをミルクで流し込みながら問うた。
「それが不思議なんだけど、うちとは全く関係ないの。知らない人が持ってる、知らない場所の権利書。」
「無関係の権利書が、急にこのダイナーに出現したの? 超クールじゃね?」
マードックが楽しそうに言った。因みに彼が食べているのは、リコリスのケーキだ。全体的に黒くて、飲んでるドクターペッパーとの相性ばっちり。(オエ……。)【編注;最高やん。】
「そうなのよ。でね、土地の権利書なんかを普段から扱ってる業種と言えば、やっぱり不動産業じゃない? だから、いつも嫌がらせしてくるあの地上げ屋じゃないかと思って。でもあたし、学校出てないからさ、権利書置いてくのが何の意味になるのかわからなくてねえ……。脅し、になってるの?」
「なってない、と思う。あたしも、そんな脅しは聞いたことがない。だが、奇妙な状況であることは確かだ、少し調べてみるとしよう。この権利書、借りてくよ?」
「ええ、どうぞ。」
~3~
「来たわよー!」
例によってバーンと扉をぶち開けてエイミー・アマンダ・アレン女史登場。ここは、ホワイトハウスが見える雑居ビルの一室。目下のアジトだ。
「調べてきたわよ、ええっと、フロイド不動産、またの名を、フロイド土地研究所、グリーン・アース調査会、全国測量関係連合本部。これ全部、フロイド不動産と同じ社長がやってる会社。」
「アコギなことやってんのか?」
コングの質問に、エンジェルは首を横に振った。
「確かに地上げはしてるけど、安く買い叩いてるわけじゃない。むしろ、相場より高めの買い取り価格になってるわ。その代わり、目をつけた土地は絶対諦めない。その執着は何? ってくらいに地権者を攻めて、目的の土地を買い取ってる。これが、ここ数年でフロイドが買い取った物件の一覧。」
「ふむ。目的があって買ってるってことだな。」
エンジェルが広げた資料をパラパラと眺めながらハンニバルが言った。
「まあ、そうだろうけど、買い取った物件の権利書を、現在買収中の物件に置いてくるっていうのは一体何なんだ?」
「そこなんだよな……。」
4人は頭を抱えた。
と、その時。
ジリリリリ……。
電話が鳴った。フェイスマンが走っていって受話器を取る。
「はい。」
『あ、Aチーム? あたし、ダイナーのタバサだけど。』
「女将さん? どうしました?」
『さっきデッカーって人たちがやって来て、あなたたちを探してるみたいだったのよ。』
「え、デッカーが?!」
『そうよ、だから今度来る時は、地下の方の駐車場に停めてね。あそこなら暗いし人少ないし、車隠せるから。』
「了解、そうします、わざわざありがとう。……レース場、デッカー来ちゃったって。やっぱ新聞って侮れないね。」
フェイスマンが、電話を切って皆に報告。
「だから、来る時は地下駐車場使えって。あそこならバレないから。」
「確かに、あのレース場には、この辺にゃ珍しい地下駐車場がある。大体、こんな馬鹿でけえ土地があんのに、地下駐車場作ろうなんて、思いもしねえもんな。」
コングがそう言うのを聞いて、ハンニバルが何か思いついたかのように顔を上げた。
「モンキー、ダイナーに増えてた権利書を見せてくれ。」
「ほいよ。」
マードックがハンニバルに権利書を渡し、ハンニバルは、それらのページを確認すると、頷いてテーブルに広げた。
「これを見てくれ。」
と、ハンニバル。一斉に覗き込む4人。
「この2件の物件とレース場には共通点がある。まず、レース場には、地下駐車場がついてる。スカジナビアホテルにも、VIP用の地下駐車場がある。メイシーショッピングセンターは、そもそも平置きの駐車場がなく、あるのは地下駐車場のみだ。平置き駐車場がメインのこの一帯で、わざわざ珍しい地下駐車場を選んでる。」
「で、ハンニバル、それがどうしたんでい。」
「ああ、わかったかも。」
フェイスマンが紙を1枚テーブルに広げると、真ん中に〇を1つ、〇の中にWの文字。そして、端っこに東西南北の印を描いた。
「真ん中の〇がホワイトハウスね。とすると、ホテル跡がここ! ショッピングセンターがここ! で、ちょっと離れてるけど、レース場がここ!」
フェイスマンの描いた図では、3つの物件がほぼ等間隔でホワイトハウスを囲んでいた。
「……何だこれ。何のために?」
「理由は明白だろう。タンクや装甲車等の物騒な車両を隠して置きたいんだ。イザという時まで。つまり、この買収は、ホワイトハウスを標的としたテロ計画に絡んでるってことだ。」
「テロ!?」
「テロだと?」
「テロかぁ。」
「そうなると、急いだほうがいい。エンジェル、さっきのリストで、テロに係わりがありそうな物件を当たってくれ。」
「わかったわ! これ、結構スクープじゃない? 期待してて!」
エンジェルは、来た時と同じような勢いで去っていった。
~4~
一方その頃、ポークとチキンは、めっさ落ち込んでいた。なぜって、社長に怒られたから。彼らの会社の社長、怖いのだ。何でも、マフィア的な何かと、運動団体的な何かと、宗教的な愛国団体がバックについているとかで。そんな社長に怒られて減俸になった挙句に、「落とした権利書と、レース場の権利書、合わせて3通、今日中に耳を揃えて持ってこい! 持ってこなかったら、タダじゃ置かねえからな!」と、ダメ押しでドヤされた本日である。
「どうする、兄貴。もう1回忍び込むかい?」
「忍び込んだって、もう3通とも、わからない場所に隠し直してるだろうし……。」
「でも、レース場のはともかく、他の2通は、あいつらにも持ってる権利ないからね! そもそも全く他人の物だし、言えば返してくれたりしないかな。」
「……あるかもしれねえな……レース場のは、この際、置いといて。マイナスをゼロにするところから行ってみるか。」
2人は、全く気乗りがしないままに、ハイエッジ・レース場へと向かった。
その頃、Aチームはと言えば、言われた通りのレース場の地下駐車場の、わかりにくい辺りに車を停めて、ダイナーへと上がっていった。
「いらっしゃい。何か進展はあった?」
タバサが4人の前にコーヒーカップを配りながらそう聞いた。
「ああ、この件、結構物騒みたいだ。テロに関係しているかもしれん。」
「テロですって?」
「そうなんだよ……それで、ここの権利書なんだけどさ、どこにしまってあるか思い出せないかな? 盗まれていない、ちゃんと君たちが保管してる、ってことを確認しときたいんだ。」
「うちの権利書ねえ……。昔、パパに聞いたのは、大事なものは、大事なところにしまってある、って、それだけ。」
「それじゃあ、わかんねえよなあ。あ、俺、リコリスね。」
と、パウンドケーキを注文しつつマードック。
「そうだわ、ママなら知ってるかも!」
「ママ?」
「ここの大女将。最近ちょっとボケちゃって店には出てないけど、今でもパウンドケーキ作りは手伝ってくれてるの。ちょっと呼んでくるわね。」
そう言って、タバサが出ていった。程なくして、割烹着の小さな老婆を連れて戻ってくる。
「はい、これが、大女将のマーガレット。ママ、お客さんよ?」
「おや……? お父さんの友達かい? どう……ぞ、パウンドケーキしかありませんが、ゆっくりしていってくださいね。」
「女将さん、済まないが、ここの権利書が必要なんだ。どこにしまったか覚えてるかな?」
「ああ、ああ権利書ねえ、覚えてますとも……どこだったかねえ~。」
マーガレット婆さんの天然ボケに、全員がズッコケたその時。
バーン! と、ドアを蹴り開けて、ポーク&チキン登場。
「権利書を返してもらおうか!」
「返してもらおうか!」
2人が口々にそう叫んだ瞬間、スパパーン! とスリッパが飛び、2人の額に片方ずつ当たって、2人はその場に倒れて気を失った。スリッパを投げた大女将は、ゆっくりと2人に近づき、スリッパを回収して履き直した。
「……お客さんも増えてきたから、パウンドケーキの追加を焼こうかね?」
マーガレットはタバサを振り返ってそう言った。
所変わって、ここはダイナーの厨房。
「何で権利書探しがケーキ作りになるんでい。」
そう言いつつ、エプロン姿のコングは、しっかりとボールを抱えて卵の白身を泡立てている。
「女将さん、砂糖と小麦粉は?」
「後ろの棚。卵は冷蔵庫ね。」
「オッケ。」
フェイスマンが手際よく粉を篩い、砂糖を量る。タバサとマーガレットの指示の下、男たちは黙々と働いた。失神から目覚めたポークとチキンも、有無を言わせず生地を捏ね、型に流し込むのを手伝わせた。
「リコリスはどこ?」
「引き出しにパウダーが入ってるわ。あ、味が強いから控えめにね。」
「うぃーっす。」
マードックが相当な量のリコリスパウダーを叩き込む。そして、次々にパウンドケーキが焼けていった。
「じゃあダイナーに戻って、焼き立てをいただきましょうか!」
タバサの言葉に、大女将が、あっ、と声を上げた。数々のパウンドケーキの型が雑多にしまってある引き出しを開ける。そこには、薄い封筒があった。
『ハイエッジ・レースウェイ土地権利書』
~5~
お茶を煎れて、ポーク&チキンを含む全員がダイナーで一息ついていると。
「全員、動くな!」
ダイナーの扉が勢いよく開いた。デッカー大佐だった。
「Aチーム、今度こそ逃がさんぞ!」
「おや? デッカー。ちょうどよかった。ちょっと話があったんだ。」
ハンニバルが鷹揚にそう言った。
「Aチームが、この俺に話だと? 命乞いなら聞いてやってもいいぞ。」
「そうじゃなくて、ほらこれ。」
と、テーブルに並べる3通の権利書。そして、これまでにわかったことを、手短に話した。フロイド不動産による土地買収。地下駐車場を持つ物件ばかり狙っていること。ホワイトハウスとの位置関係。即ち、この買収は、テロ組織が関わっている可能性が高いこと。
「ふむ。話はわかった。だが、それっぽっちの情報じゃ、お前らを見逃してやるわけには行かない。ハンニバス・スミス、他3名、お前たちを国家反逆罪で逮捕する!」
と言いつつ、胸ポケットを探るデッカー。ない。逆ポケットも探る。ズボンのポケットも、尻ポッケも。
「おい、えーと、俺、逮捕状どうしたっけ。」
デッカーが部下を振り返る。
「はっ、最後に見たのは、署のデスクの上でした! 持っていこうとしたら、それは自分が携帯するからいい、と、大佐が。」
部下の言葉に、デッカーの顔色が見る見る白くなっていく。
「俺が、逮捕状を、忘れた、だと?」
その言葉に、マードックが噴き出した。
「それは、あれ? つい、うっかり、ってやつ?」
「黙れ!」
「まあまあ、ケーキでもお食べ。Aチームさんは逃げたりしないよ。」
タバサが美味しそうなケーキと紅茶をデッカーに供した。思わず一口行くデッカー。
「……美味い。」
そして、夢中でケーキを頬張り出した。
その間にAチームさんが逃げたりしたことに、デッカーはまだ気づいていなかった。
その後、ポークとチキンは無事不動産屋を辞め(フロイド不動産が捕まったので、退職金も出なかった)、レース場の下働きをしながら大女将に扱かれているという。
【おしまい】
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