どうして? (ジェイソン・ヒックス)




テンピーはぼくのともだち。
ぼくの「どうして?」にこたえてくれる。
こたえてくれないときもたまにある。


どうしてテンピーはぼくのともだちなの?
だれもぼくたちとともだちになろうとしないからさ。


どうしてだれもぼくたちとともだちになろうとしないの?
ぼくたちがなかよしだからさ。


どうしてぼくたちはなかよしなの?
ほかになかよしのともだちがいないからさ。


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テンピーはぼくに「テンピー」とよばれるのがいやみたい。
ぼくがテンピーを「テンピー」とよぶと、テンピーはぼくをぶつ。
ぶたないときもたまにある。


どうしてテンピーは「テンピー」ってよばれたくないの?
ぼくのなまえは「テンピー」じゃないからさ。


どうしてぼくが「テンピー」ってよぶと、テンピーはぼくをぶつの?
ぼくは「テンピー」ってよばれたくないからさ。


どうしてテンピーは……
……ぶたれた。


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どうしてぼくたちはずっといっしょにすんでるの?
どうしてぼくたちはすりきれたふくばかりきなきゃいけないの?
どうしてぼくたちはいじめられるの?
どうしてぼくたちにはパパとママがいないの?


ぼくはテンピーにたくさん「どうして?」ってきいた。
テンピーはふつう、「そうなんだ」っておもうようなこたえをくれた。
ときどきテンピーは「そうだね」ってそれだけいって、なきそうなかおになる。
でも、テンピーはなかない。


どうしてテンピーはなかないの?
どうしてテンピーはじっとそとをみてるの?
どうしてテンピーはおとなのひととふつうにおはなしできるの?
どうしてテンピーは「どうして?」っていわないの?


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ぼくはだんだん、「どうして?」ってきかなくなった。
「どうして?」っておもうことがなくなってきたから。
がっこうでいろんなことをおしえてもらったから。
じぶんで「どうしてなんだろう」ってかんがえられるようになったから。


あるひ、ぼくにパパとママができることになった。
テンピーにほうこくしたら、テンピーはびっくりしてた。
そして、「どうして?」っていって、なきだした。
ぼくも、「どうして?」っていって、なきだした。


ぼくがテンピーにさよならするひ、もうテンピーもぼくもなかなかった。
もうテンピーもぼくも「どうして?」っていわなかった。
ぼくたちは、わらって「じゃあね」っていった。
「クリスマスになったら、またあおうね」って。


パパのくるまのなかで、ぼくはうしろをみていた。
テンピーがどんどんちいさくなっていって……みえなくなった。
ぼくは、「どうして?」っていって、なきだした。
パパもママも、こたえてくれなかった。
あとがき
この作品はノン・フィクションで、全部僕が体験したことです。
僕は物心ついた時から孤児院の育ちで、当時TP君が僕の唯一無二の友達でした。親友であり、家族であり、兄弟であり、また、TP君は、他の誰とも口を利かなかった僕と外界とを繋ぐ架橋でもありました。
彼がいなかったら、今の僕はなかったと思います。ですから、この本はTP君への感謝の気持ちとして書きました。
結局、恩知らずだった僕は、クリスマスにTP君に会いに行きませんでした。養父母や養祖父母と楽しく厳かなクリスマス休暇を楽しみ、TP君のことは忘れてしまっていました。TP君はクリスマス休暇中、ずっと僕のことを待っていたんでしょうか。あの年のクリスマスだけでなく、その後もずっと。
TP君を引き取ってくれる人は現れなかった、と噂に聞きました。TP君がベトナムで戦死した、という噂も耳にしました。あの時の約束を果たせなかったことが悔やまれます。もう二度と、僕はTP君に「どうして?」と聞けないのです。
テンピー、いろいろ教えてくれてありがとう。会いに行かなくてごめん。忘れてしまってごめん。今、君のお墓を探しているところです。見つかったら、今まで会いに行かなかった分、会いに行きます。君が好きだったチョコレートバーを必ず持っていきます。
ロサンゼルスの自宅にて  ジェイソン・ヒックス
第5版記念 あとがきのあとがき
信じられないことに、僕の絵本第1作目である『どうして?』(この本)が再版に再版を重ねて、ついに第5版となりました。まさか、こんなに多くの人に読んでもらえるとは、僕自身、思ってもみませんでした。この本を手に取ってくれた皆さん、買ってくれた皆さん、どうもありがとう。
この本は、絵本と言っても子供向けと限ったものではなくて、むしろ大人の方が読んでくれているようです。僕も1人の大人として嬉しいです。大勢の大人が「絵本なんて子供の読むものだ」と限定せずに絵本を読んでくれていること、それがすごく嬉しいです。
読者の皆さんのおかげで、TP君の情報も集まりました。情報を寄せて下さった皆さん、心から感謝します。何と、彼は戦死したわけじゃなかったんです。今も生きているそうです。それを聞いた時、僕は本当に嬉しくて、泣きながら部屋中を跳んで回りました。
テンピー、今、君を捜してます。簡単には会えないようだけど、すぐに会いに行くから、もう少し待っていて下さい。もし君がこの本を読んでいたら、すぐに連絡して下さい。アフリカにいるのだとしても、飛んでいきます。もちろん、君が好きだったチョコレートバーは必ず持っていきます。
ロサンゼルスの自宅にて  ジェイソン・ヒックス