そして近くまで来た時、飛空艇ハイウィンドが見えた。クラウド達が来ている!?こんな時

に!!私は走った、息が切れて肺が破れそうなほど苦しかった。

入り口まで辿り着いた時、台座の影に誰かが座り込んでいるのが見えた。床にはおびただ

しい血が流れている。

ツォンさんである筈がない。でも、私の足は竦んで動かないのだ。

もしツォンさんだったら、早く手当てをしなければ死んでしまう。この出血はただ事じゃない。

心臓が悲鳴を上げている、頭の中も体中が全て心臓になったように脈打っていた。

「ツ…ツォンさん…?」

影がピクッと動いた。

「イ、イリーナ…か?」

私の足は無意識の内に動いていた。バッと飛び出す様にして影の前に出ると、そこに座り

込んでいたのは紛れもなくツォンさんだった。

「な、何故…、もどっ…て、来た…。」

息を切らせながら、空ろな目で彼は私を見上げた。手で押さえた傷口からは今も血が流れ

続けている。…もう助からないのは一目見て解った。

「あ、あの時!!無理矢理でも一緒に帰ってたらぁっ!!」

叫び声が鳴咽に変わるのに時間なんてかからなかった。私はその場に崩れる様にして血の

海の中にへたり込んだ。

「…イリーナ、お前の…所為じゃ…ない。自分を…責める、な…ウッ、ゲホッ!!」

「ツォンさん!!」

私は血まみれの彼を抱きしめた。涙は頬を伝って彼の額に落ちた。

「気づいてたんですね!!最初から…セフィロスが近づいてるの…知ってて!!」

力ない微笑みだった。今にも消えてなくなってしまいそうなほど、儚い。

私はただ、泣く事しか出来なかった。ケアルガをかけても、持ちうる限りのエクスポーション

使っても、効果なんてなかったからだ。

本当の死を目の当たりにしたら、魔法もアイテムも役に立たないのだ。

「二人で…逃げるのは無理だと悟った。奴が攻撃してくるつもりなのは…分かって…いた

からな…。時間を稼いで…機会をうかがったが…だめ、だった…。」

「もうしゃべらないで下さい!!大丈夫ですよ!!急いで手当てすれば、ほ、宝条博士に

頼みましょう!!きっと…。」

彼は私の唇に人差し指を当てて、首を横に振った。

「自分の事は…自分が一番良く知ってる…。す、すまないなイリーナ…、飯食いに行く約

束は…守れそうにない…。」

「嫌です…、約束破るなんて…ツォンさんらしくないじゃないですか!!」

伸ばされた彼の手が私の頬を撫でた。温かい…まだ生きてる。生きてるのに!!どうして

何も役に立たないの!?どうして!?

「イリーナ…、レノに言っておいてくれ…これからは、お前が…タークスのリーダーだと。

それから…い、命は大事にしろと…。会社の為に…命を投げ出すなんて…馬鹿な人間の

…する事、だからな。」

私は首を横に振る事しか、もう出来なかった。

「ルードには、レノを宜しく頼む…と。命も…大事に、な…それから、イリーナ。」

「はい…。」

返事をしたつもりだったが、声にならない。私は泣きながら頷いた。

「何か…私に…、い、言う事が…あるんじゃないの、か?」

「あ…あぁ。」

「今を逃がしたら…、もう、き、聞く事が…出来なくなる…ぞ。」

ずーっと見てきた。神羅カンパニーに入社したての頃から…貴方だけ見てきた。

仕事をする後ろ姿も、優しい笑顔も…何もかも全部…。

「ず、ずっと…す、好きでした。今までも…これからも、ずっと…。大好きです!!」

綺麗な笑顔だった。満ち足りたような…これから死んでいく人には見えない…、とても

綺麗な笑顔だった。

「有り難う…、私も君が好きだよ、イリーナ…。」

彼は残りわずかな力を振り絞って、私の頬を優しく撫でると両手で引き寄せた。

触れ合う暖かな唇。生きている…ツォンさんはまだ生きている、それなのに…!!

「ツォン…さん…。」

もう一度微笑んで、それきり彼は動かなくなった。

まだ温かい、それなのに。何度声をかけてもゆさぶっても、それ以上その唇から言葉が

発せられる事はなかった。

「ねぇ、ツォンさん返事して下さいよ…食事に連れていってくれるって約束したじゃない

ですか!4人で飲みに行こうって…嘘吐き…嘘…つき…、うっ…あぁ。」

地響きがする。床にひびが入って神殿は今にも崩れ様としていた。

「いやぁぁぁ―――――――――――――っ!!!」