2.女装と、それに関わる痴漢などの犯罪について
A.痴漢については、基本的に性別には関係がないと考えてください。
(関連・刑法第174・176・177・178・179・180条)
今回は主に公然わいせつと強制わいせつについて説明しましょう。痴漢といっても、いろいろな種類があります。たとえば、目の前に出て来た男がいきなりコートの前を開くと、その下にはなにも付けていない裸の姿・・・というのは、公然わいせつになります。時々これを、「わいせつ物陳列」という方が見られますが、これは「文書、図画その他の物」についてであって、男性の股間にあるのは一物ではあっても、ここにいう「物」ではありません。刑法175条にいう「公然わいせつの行為を為したる」に当てはまります。
これとは別に直接に体を触れてくる痴漢は、被害者の意に反してその体に触れる場合(当たり前ですが合意の上では痴漢になりません)、強制わいせつとして扱われます。刑法176条では、「十三歳以上の男女に対し暴行または脅迫を以てわいせつの行為を為したる者」とされています。被害者が13歳以下の場合には、その手段によらず、たとえ本人の合意があっても、強制わいせつとされます。ここで判かるように、強制わいせつでは、加害者・被害者の(法律上の)性別を問いませんし、その関係も異性に限られません。「わいせつの行為とその状況」だけが問題になります。それでは満員電車の中での痴漢のように、暴行や脅迫によらずただ無言で触るだけならいいのかというと、刑法178条に「人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、またはこれをして心神を喪失せしめ、もしくは抗拒不能ならしめてわいせつの行為を為し、または姦淫したる者は前二条(強制わいせつ罪と強姦罪)の例に同じ」とあります。満員電車の中で身動きが出来ず、また羞恥心から助けも求められない被害者はここにいう「抗拒不能」な状態にありますから、やはり強制わいせつになります。
ですから、痴漢に関していえば女装はなんら特別な解釈をしなければならない条件には数えられません。
ただし、これがエスカレートして強姦になると話は別です。強姦は刑法177条に、「暴行または脅迫を以て十三歳以上の婦女を姦淫したる者は強姦の罪と為し」とあります。被害者が十三歳未満の場合は、理由を問わず犯罪になるのは強制わいせつと同じです。ところが、ここでは被害者になりうるのは「婦女子」という限定があります。また法律上「性交」とは異性間の性器の接触のことで(挿入しなくても触れていれば性交とみなされます)、同性同士の性器では性交とみなされません。また、バックに無理矢理入れられたという場合でも、お尻は性器ではありませんから強姦罪には問われません。事情や結果によって判断が別れると思いますが、強制わいせつ、暴行、傷害のいずれかに問われることになるはずです。ただし刑はそれほど変わらないかと思いますが。
その代わり(?)これと逆の例があります。女装をして(していなくてもいいのですが)、法律上の同性である男性相手に売春が行なわれた場合です。法律上は両者の間に性交が持たれたとは認められないのですから、これは売春防止法の対象外になります。ただし、東京都の場合は条例によってこれを「売春類似行為」という名で禁じていますし、他府県にも同様の条例があるかも知れませんので、処罰されることには変わりはありません。これなどは女装者特有の罪といえるかも知れません。ただしホモの世界の、いわゆる「売り専」でも扱いは同じですから、女装していることを絶対的な条件として成立する罪は現在の日本にはありません。
もっとも戦前は太政官布告の違式かい(=言+圭)違条例(いしきかいいじょうれい)62条に「男にして女粧し、女にして男装し、あるいは奇怪の扮飾を為して醜態をあらわす者。ただし俳優歌舞伎等は勿論女の着袴するの類はこの限りに非ず」と言うものがありました(明治6年)。ですから、例外規定はありますが、女装も男装もそれぞれ処罰の対象だったのです。このほか、「婦人にしていわれなく断髪する者」も科料に処せられました。
ただしここで本当に言いたいことは、女装していることの弱味ということです。本当の女性であっても、性犯罪というものは訴え出の率が低いものであって、実際には犯罪統計の数倍の性犯罪が発生していると考えられています。まして、女装していることがばれてはまずい方(ほとんどの方がそうだと思いますが)は、2重に口をつぐんで泣き寝入りすることになります。少々腕の覚えのある方でも、スカートを履いて足元が慣れないハイヒールでは、実力のいくらも発揮できません。女装外出の際には、身を守ることよりも、身を守らなくてはならないような事態に遭わないように注意することが大切です。決して脅かすわけではありませんが、実際に女性が被害者となった性犯罪でも、かえって反抗したために殺害されたという例も多々発生しています。
(文中の法律等の条文は、読みやすいように、漢字や仮名遣いを一部替えてあります)