3.女装中に出会った第3者の事件・事故

Q・ 先日新宿に女装して出掛けました。交差点で信号が変わるのを待っていたら、目の前で酔っぱらいが車にはねられる交通事故を目撃してしまいました。警察の調べに協力しようとは思ったのです。でも私の身分がばれたらいやだと思ったら、急に私は怖くなって逃げてしまいましたが、本当はどうすべきだったのでしょうか。

A.原則として法律上交通事故の目撃者には連絡・協力義務はありませんが、できれば可能な範囲で協力してください。
  (関連・道路交通法第72条、同第72条の2、同73条、地方公務員法第34条)

 交通事故の発生において、警察官への報告義務があるのは、道路交通法第72条に定めるところの、「当該車両等の運転者(運転者が死亡し、または負傷したためやむを得ないときは、、その他の乗務員。)」とされています。また、事故車両の停止や負傷者の救護、道路における危険を防止する処置等も、その事故の当該車両運転者その他の乗務員の義務とされています。

 しかし、いわゆる目撃者について規定された条文はまったく存在しません。またその事故にかかわる義務についても、まったく規定されていません。極端な話その自動車が逃走してしまい、あなたの他にだれも目撃者がなく、しかもあなたがその自動車のナンバーを記憶していて、目の前では車にはねられた人が今にも死にそうな状態で、あなたに救急車を呼んで欲しいとお願いしていたとします。その一切に目をつぶり、その場を立ち去ったとしても、人道上の問題はともかく、法律上は、あなたには何の罪もないのです。まぁ、電話ならば、お互いに顔も見えないことですから、せめて匿名で119番に電話して救急車くらい呼んであげても、何もあなたに迷惑はかかりませんし、その方が寝覚めもよいと思いますが。

 少し法律から離れますが、それでは逆にあなたが警察の調査に協力する意志があったとしましょう。そのときあなたの身に何が起きるかを、警察の実際の仕事の流れから考えてみたいと思います。

 まず運転者がその場にいる場合には、実は警察官が目撃者の証言を求めることは極めてまれなのです。なぜなら両当事者から話を聞くことのできる状態(この状態を当事者の確保といいます)にあるからで、大抵の場合はこれで用が済んでしまうからです。

 そのため通報を受けた警察官は、はねられた歩行者が救急車で運び去られてしまう前に現場に到着して、救急隊員から収容先の病院を聞きだします。負傷者が自動車やバイクを運転していた場合には、できるだけ先に免許証などを預かっておきます。万が一到着が遅れても救急車は待っていてくれませんが、目撃者に収容先の病院が判かるということもめったにありませんから、例えば東京ならば警視庁から東京消防庁に問い合わせることで収容先の病院を調べます。この場合も目撃者の証言は求められません。

 次に運転者が逃げてしまったり、運転者がその場にいても、はねられた人との証言が食い違った場合ですが、この場合は、他に目撃者がいればその証言を求めることになります。はねられた歩行者の状態(特に、ふらついていたなどの酔いの程度等)や、自動車が突っ込んで来た勢い。またそのとき信号がどのような状態だったかという証言は、事故処理の上で重要です。運転者が逃走している場合には、その運転者のだいたいの年齢や性別、着衣、自動車の車種やタイプ、色、ナンバー、同乗者の有無(乗車人数)、逃走方向等も必要です。これはただちに緊急配備をひく関係から一刻も早く欲しい情報であり、また緊急配備で捕らえることができなかった場合には、後日の捜査の手掛かりになるものです。

 このように貴重な情報ですが、もしあなたに協力の意志があり、他の人の注意を引かずに警察官と接触することが可能だったとします。この時、警察官は、あなたの住所、氏名、電話番号をお尋ねしますが、それが警察以外に漏れることはありません。また後日、詳しい話を聞きたいからと警察に呼ばれるときでも、まさか、「×月×日に女装して歩いていて交通事故を目撃した××さんをお願いします」などという電話をかけて来る警察官がいるはずもありません。警察では、あなたから是非とも欲しい情報を聞きたくて連絡するのですから、あなたを困らせたり怒らせたりするようなことはできないのです。また女装という問題を抜きにしても、事件や事故の証言というのは人の怨みを買う可能性のあるものですから、この情報を外部に漏らすことはできないのです。さらにいうと、他人の「職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする」という規定が地方公務員法第34条にあります。警察官もここにいう地方公務員ですから、うかつなことをいえば、警察官の方が処罰されてしまいます。

 唯一不安があるとすれば、逃走した運転者が捕まり、裁判になったときに証人として法廷に呼ばれたときでしょう。この時に弁護側から、「そのときあなたは何をしていましたか。またそのときの服装は」などという質問がこないとも限りません。実際には、かなり可能性が低いことですが、皆無とは言い切れないので書き添えておきます。

 まぁ両当事者の証言が食い違ったくらいでは、警察だけの調査でも(手間はかかりますが)ある程度の事は判かるので、黙っていてもあまり影響は残しません。もし0.1%の可能性でも、法廷に証人として呼ばれるのがいやだとか、新宿でお酒を飲んでいたということ自体を知られたくないという方は、初めから黙っているが賢明なのかも知れません。

 いわゆるひき逃げの場合、法廷での証言も困るけど、黙っているのもいやだという方は、とりあえずその場は我慢して1度帰宅しましょう。お化粧を落としてから、事故現場を管轄する警察署の交通課(交通捜査係)に行って、「実は先ほど、どこどこで事故を目撃したのですが」といってみましょう。女装の事など初めから口にしないで、急ぎの用事があったのでその場は立ち去ったが、気になったのでとでもいっておけば、もともと報告義務がないわけですから、怒られることはありません。この場合、緊急配備の役には立たないかも知れませんが、後日の捜査の手掛かりになることには変わりありません。以後、警察から裁判所まで、女装に関することは一切口にしないで通してしまえばいいのです。仮にその前にひき逃げ犯が捕まっていて、証言が不必要であるという事ならば、それはそれで喜ぶべきことではありませんか。どうせ、ひき逃げとなれば、事故の状況にかかわらず逃げた運転者の方が悪いのです。

 ただし、女装外出の際(に限りませんが、特に)、あなた自身が事故の当事者にならないように気を付けてください。最近では歩行者に限らず、女装で自動車の運転をする方もいらっしゃるようです。事故を起こしたうえに、女装がばれるのが怖くて逃げたらひき逃げで捕まってしまったなどということがないように、くれぐれも安全な運転を心掛けるようにお願いします。


PREV RISK CONTROL INDEX NEXT

[ 前を見る ] [ 法律をふまえた危機管理 ] [ インデックスページ ] [ 次を見る ]