6.女装中に職務質問を受けた実例自動車での移動中、警察官の職務質問にあってトランクの中に隠しておいた女装用品一式を見られてしまったとのこと、拝読いたしました。その時にはかなりの緊張感等があったと思いますが、結果として実に適切な対応だったと思います。
女装を趣味とされる方は、女装が好きであると同時に、その多くは女装にたいして何かしら、後ろめたさを持っている方が大変多く見受けられるようです。しかし、このコーナーで何度か繰り返した通り、警察官(を含めた公務員)には、職務上知り得た他人の秘密を漏らしてはならないという「保秘義務」があります。もし次に同じような経験をされた場合には、今度は安心して同じように「素直に」応じてください。心配するだけ損ですから(笑)。
また文中、警察官の台詞として「恥ずかしがらなくてもいいよ、前にも数回この様なことがありましたから…」とありましたがこの台詞は掛け値なしにそのまま受け取って頂いて結構です。私はむしろ、そのことをはっきりと和子さんに伝えたこの警察官を称賛したいくらいです。もしその警察官が「ふ〜ん…」という程度でなにもいわなかったとしたら、どうでしょう? 和子さんは「この警察官はなんて思っただろう?」等、なおさらにあれこれと心配されたと思います。
この台詞は、警察官のホンネそのものと受け取って頂いてもいいと思います。その警察官がトランクをのぞき込んだ瞬間に頭に浮かんだのは、
「女装用品」→「変装道具」→「何か犯罪に関係するのでは?」
あるいは
「狙いはひったくりだけど、下着泥棒を呼び止めたんじゃじゃないだろうなぁ?」
という思考法です。事実、何年か前に、神奈川県で空き巣に入るたびに女装して忍び込むという侵入盗が逮捕された例があります。ですから、正直に「女装用品です」といってしまったことで、その警察官は安心したのではないでしょうか。警察官は職務質問に付随して、質問された方の持ち物を見せてもらうことが実に頻繁にあります。ですから職務質問にあう人は「めったにない経験」でも、警察側はいろいろな人に声をかけていろいろな人を見て来た経験を積んでいますので、(法に触れていないかぎりは)質問された方が感じているほどには「ものに動じない」ものです。もちろんそれだけに違法行為には非常に敏感ですが、そうでなければたいした関心は持ちません。まぁもう少し正確にいえば、必ずしも好意的とはいえないまでも(警察もお役所ですから表立ってこんなことはいいませんが)、
「あぁ女装か、たまにいるんだよなぁ…。でも狙いのひったくり犯じゃないのは
まず間違いないし、早いとこ追っ放しちゃって、次の不審者を見つけよう…」
と、「無関心」になるものです。
逆に、警察官に声をかけられて「トランクを見せてください」といわれたとたんに、頭に血がのぼってしまって、
「あぁ〜、ヤバイ、ヤバイ!! あんなモン見られたんじゃ身の破滅だぁ〜!!」
と泡食って、「いったい何の権利があって・・・」などとゴネたりしたら、なおさらに「不審」と見られるのがオチです。その結果、長時間あれこれと質問をされた挙げ句に家族や知人、勤め先等に確認の電話を入れられたりしたらその方がよほど「身の破滅」でしょう。
余談ですが平成5年は東京サミットの年で、都内では検問の箇所が非常に多い年でもありました。前回の東京サミット(昭和61年)でも、爆弾等のテロの摘発を目的とした検問が多数設置され、1ヵ所でも1日に数百台からの自動車がトランクを開きました。たまたま止めた車が暴力団関係者であったり、また暴走族にからまれた経験でもあるのか「護身用に」などといってトランクに木刀が入っていたりすると、これは軽犯罪法に触れます。目的の爆弾は見つからないのに、次々と木刀を「隠し持った」車が来たために違反者を管轄の警察署に連れて行き、危うく検問を行なう人員がいなくなりそうになったという検問箇所もあったようです(もっとも警察も馬鹿ではありませんから、過激派が爆弾輸送のために、先に木刀を積んだ車を何台も先行させても、他の検問場所とのバランスから見て不自然であり、警戒が強化されるのがオチです)。
昨今、人権がどうのといって、無知なのか目的があってなのか、憲法を曲解して「警察に対抗する」主旨の本が出回っていますが(さすがに有効性がないのが知れ渡ったのか、近年減りつつありますが)、あのような本を鵜呑みにして警察官に対抗意識を持つなどは、私に言わせていただけば、愚の骨頂です。以前「法解釈」でも書きましたが、数百円の本の数冊を読んだくらいで法律を楯に警察官に反論しようなど、無謀もはなはだしいと断言いたします。警察官はほんのわずかでも「不審」と思えば職務質問をする権利があり(警察官職務執行法第2条)、その不審感がなくなるまではどう言い逃れようとも質問が続きます。そこで「にわか勉強」の法律知識で対抗してなんとかなると思うのがどうかしているわけで、法に触れる行為をしていないのであれば、聞かれたことに素直に答えて、さっさと職務質問から解放されることを考えるべきです。
その点、和子さんの「すべて私のもので罪になる理由等ない」という判断は、実に適切であったと思います。
繰り返しになりますが、公務員には「保秘義務」があり、その義務は退職後に至るまで有効です。私自身、現職の警察官から、
「この前夜中にパトロールで歩いていたら、男がテニススコートはいて
道路で踊ってるの見ちゃったんだよ」
というくらいは聞いたことがあります。しかし「いつ、どこで、どんな男が」という肝腎の部分が見事に省略された言い方で、「ほほぉ〜…」という以外に答えようのない範囲の、1つの「話題」という程度にしか聞くことができませんでした。女装に限らず、いくつかの話を聞いたことはありますが、いずれも興味を持っても確認の仕様もない程度のものでしかありませんでした。
本当は警察もこれくらい発表してしまえば、かえって信用されるのでしょうけど、どうもタテマエが強すぎるようで、かえって、「警察、組織ぐるみの犯罪」などというような、ちょっとものを知っていれば嘘だと判かるような本や雑誌記事が横行し過ぎるきらいがあります。真に警察に不正があれば、私もこれを糾弾することにやぶさかではありませんが、今のマスコミを鵜呑みにすると、逆に、女装のように「法に触れていない後ろめたさ」をもつ方々には、誤った法律意識で警察官に食ってかかったり、被害妄想にかかる傾向がありますので、かえってトラブルの元になるのが心配です。女装にはまだまだ「世間の目」という敵はありますが、それを法で禁じていないかぎりは、「保秘義務」を持つ警察官に知られることは、「誰にも知られていないのと同じ」と割り切って、無用の心配などせずに楽しまれるべきでしょう。