神名龍子
| ジェンダー記号の例(表1) | ||
| 散見的記号 (行為・通時的) | 運動的記号 | しぐさ、話し方、言葉遣い、立ち居振る舞い、(性自認、思考法) etc. |
| 社会的記号 | 性役割(gender roll)、通称 etc. | |
| 継続的記号 (形・共時的) | 身体的記号 | セックス、体毛、性器、乳房、体形、髪型、筋肉 etc. |
| 外装的記号 | 服装、化粧、アクセサリー etc. | |
| 登録的記号 | 本名、性別等、主に公文書上の記載 | |
| ※これらの分類は当座のものであって、他によい分類方法を考え付いたり、 ある記号の属するカテゴリーに矛盾があったりすれば変更されることもありうる。 | ||
順に説明すると、「散見的記号」というのは、時間を追って観察することによって、行為として時折あらわれるものを指します。このように時間の流れを視点に含む場合を「通時」といい、言語学においてソシュールが唱えた概念です。散見的記号はさらに「運動的記号」と「社会的記号」に分類されます。
それに対して「継続的記号」というのは文字どおりある一定時間以上継続して観察されるもので、その一定時間内においては時間の概念なしに、つまりどの一瞬においても観察が可能なものをいいます。このように時間の概念を含まない(空間のみが対象となる)場合を「共時」といいます。継続的記号はさらに「身体的記号」と「外装的記号」、「登録的記号」に分類されます。
表1を見ると「運動的記号」の中に「性自認」や「思考法」が括弧でくくられて含まれていることに気がつくでしょう。これは「性自認」や「思考法」というものが通常は表面から判らないものであるために「記号」の概念に含んでよいものかどうか迷ったためです。しかし、私の持つ運動の概念からすれば「思考もまた脳という身体の一部によって行う運動である」ため、あえてこのような形で(暫定的に)含めておくことにしました。
なお、私が単に「運動」という場合は「身体運動」の意味であって、いわゆる社会運動等の概念を含みません。もちろんデモ行進だけを取り出して「身体運動」として見るような場合には「運動」の概念に含まれますが・・・。
また同じく表1において「身体的記号」の中に「セックス」が含まれている事についても賛否両論があるかと思いますが、これによって前述(第1章)の「セックスはジェンダーを構成する一要素に過ぎない」事を示したつもりです。
図4の「RS」と「FS」については、先の「性自認」や「思考法」の問題と同様、私が元々「運動(身体運動)」を扱うために必要としたもので、高岡英夫氏が提唱する運動科学から学んだものです。これは、おそらく言語学や記号論では使われていない概念かと思います。「FS」は「姿形記号」の略で元々は「見た形」に注目したものですが、広い意味では言語での「聞いた音」などもこちらの概念に含めてよいでしょう。それに対して「RS」というのは「関係記号」の略で位置関係(位相)の変化に注目するものです。
例えば、二人の人間が並んでいる姿を一つの記号として見る時、「FS」として見れば「二人の親密さ」をあらわす記号として了解されるかも知れません。しかし「RS」として位置関係の変化を記号として捉える場合には、二人がさらに接近しつつあるのか、それとも離れつつあるのかで意味は違ってくるはずです。
「しぐさ」や「性役割」のような「行為」の意味を捉えるためには、時間の経過という通時的な視点が欠かせません(と思うのですが、実をいうと、この「RS」と「FS」についてはジェンダーについて語る上で使いみちがあるのかないのか、まだ判りません。今の時点では、判らないままにとりあえず付け加えておきます)。
一方、「身体的記号」「外装的記号」「登録的記号」のような共時的記号に「RS」を考える必要はありません。