神名龍子
あるところで、ふと手にした雑誌が、『SPA!』(7/22号、扶桑社)だった。その中の「パトが行く」(P134)というコーナーに、思わず首をひねってしまうようなことが書いてあった。記事全体としては「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」に反対する論調のものだで、住民票や保険証の性別を変えて就職できても、もしバレたらどうするのか、戸籍を変えてもそれが本人を守ってくれるものにはなり得ない、と。確かに、これは制度だけの問題ではないから、その通りなのである。しかしその限界をわきまえた上で、少なくとも今よりは自由度を高めることは可能である。この問題が出てきた5月から思っていたことだが、どうして反対派というのは、まるで申し会わせたかのようにオール・オア・ナッシングの極論を言うのだろう…。
ただし、今回のテーマはその事ではない。この記事の中で言われている、問題は旅券(パスポート)だけで運転免許には性別欄がないから問題ない、というのが誤りなのである。もっとも、住民票や保険証の性別を変えても仕方がないという人にはどうでもよい話なのだろうが、これはおそらく、大部分の当事者が見逃している問題なのだと思う。今回はその点を、「住民票や保険証の性別を変えたいと思っている当事者のために」指摘しておくことにした。
確かに運転免許証には性別欄がない。しかし警察には免許台帳というものがあり、そこには性別が記載されているのである。免許台帳など、ほとんどの人は意識しない…というより、その存在すら知らないかもしれない。しかし、警察が免許証を発行(交付)している以上、その基礎資料としての台帳があるのが当たり前だ。もし近い内に免許の更新をする人は、申請書を見て欲しい。間違いなく申請書には「性別欄」が存在することが確認できるだろう(私も先月に免許の更新を行なった際に改めて確認した)。その性別が、免許台帳に記載される性別である。
さて、では仮に戸籍上の性別を訂正できたとして、この免許台帳の性別はどのような手続きをすれば訂正できるのだろうか。実は現状では、その手続きは存在しないのである(!)。現在定められている手続きは、免許証の記載事項変更だ。つまり免許証に記載されている住所・氏名・本籍地等は、試験場や警察署に行けば変更できる。例えば、都内から都内へ引っ越した場合には、免許証と住民票の写しを持って警察署(都内ならどこでもよい)に行けばよい。結婚などの理由で姓が変わった場合や、本籍地が変更になった場合には、免許証と本籍地記載の住民票の写しを持って行く。免許証の裏面に、手続きをした年月日と新しい住所等を記載される。
| ※ | ただし県警によっては手続きが異なる場合があるので、住所地(都道府県)を管轄する警察に確認のこと。 |
しかし現状では、運転免許に関して性別変更の手続きは存在しない。そもそも性別は「免許証記載事項」ではないし、人間の性別が変わるということを想定していたはずもないからだ。だから規定通りに考えれば、今のままでは警察署で変更手続きを受け付けないという事にもなりかねない。免許台帳の性別が変更されていないと、どういう事が起こるか。
たとえば免許証不携帯。現場の警察官には「免許証不携帯」と「無免許運転」の区別がつかないので、運転者が免許を取得しているかどうかを照会しなければならない。もちろん照会先の元データになるのは免許台帳である、その免許台帳の性別が変更されていないのだから、たとえば「神名龍子、生年月日・昭和58年6月22日、本籍・東京新宿区、女性」と送ると「該当なし」という答えが返ってくるはずだ。もしその時に事情を知らない同僚を同乗させていたら、本当のことを説明すると全部バレてしまう。それがいやなら無免許扱いされるしかないのだが、本当は免許証を持っているのだから、話も手続きもますますややこしくなる。
また、免許台帳の性別変更の手続きが出来るようになったとしても、免許証の裏面に「平成16年7月28日、性別変更」などと記入されても大変だ。今ごろ、各省庁では戸籍変更への対応について考え始めていると思うが、各運動体は早い内に、国家公安委員会と警察庁(及び各都道府県警)に対して、次の2点を陳情しておく必要があるだろう。
