ディベート


from 井上 けんなさん (2001年09月20日 14:27)

ひろかさん、神名さん こんにちわ。

わたしは通常個人名などを挙げて「悪口」を書くことはしないのですが、
前回の書き込みでその「個人的戒律」を破ったのは、Yoko氏がわたし個人宛のメールで
お二人の名を挙げて「レベルが低い」と罵倒した上(これは明らかな誹謗であると思います)
当事者に対する「不必要な不安をあおるので」これ以上書き込まないように、との趣旨の
「意見」を述べてこられたので、掲示板での意見表明をメールを使って「隠密理に」
封じ込めるようなやり方に反発を覚えたためです。ひょっとしてお二人にもこのような
メールが届いているのかな、と思いまして……(まあ、お二人ならそれぐらいのことは
しょっちゅう経験しておられるだろうし、意にも介していらっしゃらないとは思いましたが)

さて、(以下、ひろかさん宛の個人的な思いです)
ひろかさん、わたしはおそらくあなたを誤解してはいないと思います。数年にわたって
ひろかさんのご意見は各所で拝見していますし、個人的にお話を伺ったこともありますし……
ですからわたしの「かなり幸運な状況」と違って、ひろかさんが様々な困難をほぼ独力で
解決してこられたことに敬意を表していますし、ご意見も実体験に基づいた貴重なものと
思っています。むちゃくちゃな理屈で非難されても、いつもそれに対し真摯に対応して
反論されている様子に好感を覚えます。これからも各所でご意見を拝見するのを楽しみに
しています。(^^)

ここで、ディベートについてちょっと補足しておきたいと思います。
お二人とも「ディベート」を、最近日本でもはやってきた「競技ディベート」の意味に
限定してお使いのようなので……
わたしは「ディベート」という言葉を、広義の、というか英語の原義に沿った意味で使っていて
そこには競技や勝ち負けという概念は含まれていません。
日本にディベートが入ってきたとき、日本人たちは「物事をあらゆる方面から様々に眺め、
結論を導き出すために徹底的に考える」という本来の趣旨を「理解できず?」単なる
雄弁術、言い争い、相手を言い負かすための技術、という形でしか受け入れませんでした。
ですから、実際の競技ディベートにおいては「重箱の隅をつつき、揚げ足を取って相手を
困惑させる」「反証不可能な(ほとんど一般に知られていない)特殊例を突きつけて
黙らせる」「相手の個人的な弱みをついて逆上させる」ような技術が頻繁に使われています。
あるところ(ネット上の某所(^^;;)で「日本におけるディベートの達人」と自負する女性と
長期間議論したことがありますが、最後はほとんど五分おきにわたしを誹謗するような
文書が書き込まれるという世にも悲惨な討論となり、彼女は「お出入り禁止」になりました。
(ちなみにわたしは相手を逆上させることが得意なようです(笑))

もう一度、
ディベートとは、(Longman英英辞典からの意訳です)

  1. ある一つの問題について、それぞれが異なった意見を持つ少なくとも二人(二組)以上の人、
    もしくはグループにより、公衆の面前で行われる討論(議会におけるディベート)
  2. 一つの問題について詳細に検討すること(この問題にはまだディベートが必要だ)
  3. 結論を出すために討論を行うこと(増税問題についてディベートする)
  4. 自分の心の中で、ある問題について肯定論と否定論をつきあわせて考えること
    (彼らの申し出を受け入れるかどうか一人でディベートする)
というのが原義です。

わたしは小学校の頃、クラスを無作為に2つに分けて、例えば「都会の方が住みやすい」vs
「田舎の方が暮らしやすい」というテーマで討論させ、ある程度時間が経過したら、
「意見を取り替えて」今までとは反対の立場で討論する、という授業をしばしば受けました。
いままで相手をやりこめようと必死で考えた「理屈」が、今度は相手側の理屈として
立ちはだかり、更にその不備をつく新たな理屈を考え出さなければならないわけで、
非常にシビアな授業でした。
この過程で、「絶対的に正しい理屈は存在しないと考える」「反対意見を徹底的に検討する」
「一つの意見にどっぷり浸からずに常に両者を比較する」「ある人の(本当の)考えと、
その人が主張する意見とは一致しないこともある」「個人的な言い回しや感情表現は
意見の本質とは何の関係もない」「全員一致・異議なし、はものを考えていない証拠」
等々さまざまな原則を学んだと思います。

これがディベートの原点であり、言ってみれば哲学的思考と同じようなものではないかと
思うのですが……


哲学の方法

 ディベートについては、けんなさんが前回、「制服擁護論」vs「制服廃止論」の例を出されたので「競技ディベート」の意味に取っていたのですが、そういうことでしたら了解しました。それから、「競技ディベート」も広義のディベートの基礎訓練になり得るという事もわかりました。もう一度挙げてみると、

  1. 「絶対的に正しい理屈は存在しないと考える」
  2. 「反対意見を徹底的に検討する」
  3. 「一つの意見にどっぷり浸からずに常に両者を比較する」
  4. 「ある人の(本当の)考えと、その人が主張する意見とは一致しないこともある」
  5. 「個人的な言い回しや感情表現は意見の本質とは何の関係もない」
  6. 「全員一致・異議なし、はものを考えていない証拠」

ということですね。これらは確かに「哲学的思考」に必要です。

 誤解する人がいるかも知れないので1番目にちょっと補足すると、「絶対的に正しい理屈は存在しないと考える」というのはいわゆる「客観的真理」のようなものは存在しない、ということであって、これを「ディベートの参加者全員が納得するような意見は存在し得ない」という意味に取ると、ディベートそのものの意味がなくなってしまいます。

 「都会の方が住みやすい」vs「田舎の方が暮らしやすい」でいうと、どちらか片方が正しいということはあり得ない。だけど、どういう場合に(あるいはどういう生き方において)「都会の方が住みやすい」と感じたり「田舎の方が暮らしやすい」と感じたりするのかという形に問いを立て直すと、これはその場にいる人が全員納得するような「都会 or 田舎の選択基準」のようなものを考えることも可能ですね。ここから、

  1. 「あらゆる問いに答えがあるのではない」

を付け足してもよいと思います。つまり回答不可能な問いというのがあって、その場合にはその問いが立てられた動機を、いわば問いの本質を考えてみます。「競技ディベート」の場合にはある意味でディベート自体が目的であり動機であるわけですけれども、普通はこういう「都会の方が住みやすい」vs「田舎の方が暮らしやすい」の場合には、それぞれの意見を信念として持っている人が、その信念をぶつけ合うわけですね。

 この場合、どちらの信念が正しいかではなく、それぞれの信念の根拠を問うわけです。つまり「問いを立て直す」のです。「都会の方が住みやすい」という信念の持ち主は、その信念が「ほんとうだ」と思えるような生き方をしている(あるいはそういう生き方をしたい)人だという事がわかります。「田舎の方が暮らしやすい」という信念の持ち主についても同じです。そこから「都会 or 田舎の選択基準」が出てくるわけです。もし「都会 or 田舎の選択基準」が一致した見解として得られないとしたら、それは参加者の間で「都会」や「田舎」について異なったイメージが持たれているためで、この場合にはまず「都会とは何か」「田舎とは何か」をテーマに話し合う必要があります。

 一方、相手を言い負かすための技術・弁論術というのはおっしゃる通り、

実際の競技ディベートにおいては「重箱の隅をつつき、揚げ足を取って相手を
困惑させる」「反証不可能な(ほとんど一般に知られていない)特殊例を突きつけて
黙らせる」「相手の個人的な弱みをついて逆上させる」ような技術が頻繁に使われています。

という方法が使われます。これは私が前回書いた「直観補強」のやり方です。これは既に古代ギリシャにもあって、こういう弁論術を教える人達を「ソフィスト(=知者) 」と言いました。現在「ソフィスト」の語が「詭弁家」という意味で使われるのも、ここに由来しています。だけど、これを続けていると結局は「言葉ではなんとでも言える」という懐疑主義・相対主義のニヒリズムに陥ります(いまでは現代思想がこの状況に陥っています)。

 それを立て直そうとしたのが、アリストテレス〜プラトンの「フィロソフィー(=知を愛する)」、つまり「哲学」です。彼らが用いたのが「対話法」で、プラトンの『饗宴』なども登場人物の対話の形で描かれていますね。そしてこれは「弁証法」という形で、一人でも行なうことが出来ます。つまりある命題(テーゼ)に対して、それと矛盾する命題(アンチテーゼ)を置き、そこから両者を包括するような高次の命題(ジンテーゼ)を導き出すという方法です。先の例でいうと、

になります(ただしアンチテーゼはテーゼと矛盾すればよく、必ずしもテーゼの否定の形を取るとは限りません)。これが「物事をあらゆる方面から様々に眺め、結論を導き出すために徹底的に考える」ための方法で、逆にいうとこれを複数の人数で行なうのが「ディベート」だと考えればよいわけですね。あくまで「討論」であって「闘論」ではない・・・と(笑)。

 そういうことでしたら、そこに至る過程は異なっても、私達はほぼ同じ方法に行きついていると思います。

L.Jin-na


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