女装や性同一性障害を理由に…。


from 美歩さん (2002年06月17日 01:09)

W杯日本と韓国が決勝進出で盛り上がっている最中で、不思議なニュースを見つけました。
某出版社で、性同一性障害を理由に解雇され、現在裁判で係争中になっているのですが、日本ではなぜそれを理由に解雇されるというのでしょうか〜?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020613-00001060-mai-soci


企業はゲゼルシャフトである

 まず、この記事を一応全文引用してみます。

<性同一性障害>36歳の男性 「女装」理由に解雇

 性同一性障害と診断され「女性」として暮らす男性が、勤務先の出版社「昭文社」(本社・東京、青柳栄次社長)から「女装して出勤した」ことなどを理由に懲戒解雇されていたことが13日、分かった。男性は解雇直前、同社を相手取り、東京地裁に地位保全を申し立てており、その決定が近く出される。性同一性障害を抱える人々の就労問題に司法が判断を下すことはほとんど前例がなく、注目される。 【小国綾子】

 懲戒解雇されたのは、横浜市に住む男性(36)。今は女性として生活し、女性への性別適合手術も希望している。

 97年に入社後、00年に性同一性障害と診断を受け、カウンセリングとホルモン療法を始めた。01年には、男性名から女性名への改名が横浜家裁に認められた。しかし職場で問題化するのを恐れ、上司一人だけに事情を告げ、旧名で男性として勤務を続けた。

 しかし、治療の結果、体つきが女性的になり、男性トイレの使用も苦痛と感じ、通勤時に周囲から「男装した女性」と間違われることも増えた。今年1月、会社側から配置転換を打診されたのを機に「女性として働きたい」と訴え、(1)女性の服装で出勤する(2)女性用トイレを使う(3)女性更衣室を使う――の3点を配転の条件に挙げた。

 男性によると、会社側はこれを拒否し、女性の服装で通勤を始めた男性に対し「女装は服務規定違反。懲戒委員会にかける」と通告。男性の写真やビデオも撮影したという。

 解雇の意図を感じ取った男性はこの3月、東京地裁に申し立てたが、同社は翌4月、懲戒解雇を通告。「女装で出勤しないこと」という業務命令や配置転換命令に従わなかった、などがその理由だった。

 男性は「性同一性障害の人は治療の過程で職場を追われたり、転職を余儀なくされたり、戸籍の性と生活上の性が違うため、正社員として働けない人も多い。現状に一石を投じたい」と語る。

 昭文社は、地図出版で有名な東証1部上場企業。同社総務部は「係争中なのでコメントできない」と話す。同社の代理人、河合弘之弁護士は「性同一性障害は理解できるが、男性として採用した社員が突然女性になることを会社側が受認するのは難しい。女装は職場の秩序を乱す行為で『女性として扱わねば配転を拒否する』というのは服務規程違反に当たる」と話している。

 性同一性障害の問題に詳しい神戸学院大法学部の大島俊之教授の話 性同一性障害の人が解雇され、裁判に訴えている事例はおそらく前例がないと思う。会社側は、性の問題より職務怠慢を理由に配置転換などを迫るのが通例で、多くの人はプレッシャーに負け、自ら辞表を出してしまう。ヨーロッパでは「性同一性障害を理由にした解雇は違法」という判例があり、日本でも根づいてほしい。(毎日新聞)
[6月13日15時31分更新]

 「懲戒解雇」の時期が4月ということで、これはたぶん、その当時にフジテレビで放映されたという件だと思います。ですからいまさら、今月になって「13日、分かった」なんていうものではないと思うんですけどね。それとも、それとは別にもう一人解雇された? なぜ今になってこんな報道が出てきたのか、背景が理解できない記事ですね。

 報道は必ずしも事実ではありませんし、また逆に、事実のすべてが報道されているという保証もありません。ですから、ここではあくまでも「この人物が他に懲戒免職されるような問題を起こしていない」と仮定して話を進めます。

 まず原理論的には、大島教授のコメントにある「性同一性障害を理由にした解雇は違法」というヨーロッパでの判例が、日本においても妥当なところだろうと思います。雇用は、あくまでも契約関係であって、労働力として問題がなければ会社側からの一方的な契約の破棄ということになります。つまり会社側には、この人物が「労働力として問題がある」ということを証明できなければなりません。

 次に、これを個別的具体例としてみた場合ですが、「懲戒解雇」の理由として、「『女装で出勤しないこと』という業務命令」や「配置転換命令」に従わなかったなどが理由として挙げられています。どちらもこの記事の表現だけでは具体性に乏しく、判断のしようがありません。ただ、ここで問題になるのは(あくまでも記事の記載を事実とするならば)、「女性として働きたい」を、配置転換を承諾する交換条件とすることに妥当性が認められるかどうかだと思います。

 GID 当事者の立場からいえば、周囲の人間関係が変化する配置転換を「男性として採用した社員が突然女性になる」ための好機だと判断することには、それなりの妥当性があります。ただ問題は、それが雇用契約の観点から見ても妥当性があるのかどうか、ということです。ここには、私はちょっと疑問符を付しておきたい。もう少し正確にいうなら、これは私の知識で判断出来る範囲を越えているので、専門家の判断を待つしかない、ということです。

 それから、法的な判断を離れていえば、会社側とこの当事者との間に、必要なコミュニケーションがまともに成立しなかったことが、今回の問題を引き起こしているのではないかと思います

 この人は一応、昨年の内に「上司一人だけに事情を告げ」ていたわけですね。その時点では既に、「女性名への改名」が認められています。記事中では触れていませんが、この人が実際に戸籍の名の変更の手続きを済ませていたとしたら、本当は会社にもそれをいわなくてはならない。「上司一人だけ」ではなく、総務・人事あたりには、それを知らせていなければならないわけです。「旧名で男性として勤務を続けた」というのが、それをしていなかったということなのか、それとも書類上の手続きを取った上で、周囲の同僚に対しては旧名を名乗り続けたという意味なのか、判然としません。

 もし仮に後者だとしても、事情を告げられた上司はこの時点で何らかの手を打つ必要があったと思います。書類上の手続きの問題もそうですし、これからこの当事者が変化して行くであろうことも、ある程度は予測できたと思います。どの程度の説明を受けたのか、またそれをどの程度理解できたのかという問題もありますが、この当事者がずっと「男性」としてこれまで通り勤務を続けると考えていたのなら、ちょっと呑気すぎますね。

 この「昭文社」という会社は私は製品(地図)しか知らないのですが(^^;)、私の眼から見ると、概して民間企業というのは必要事項の報告・連絡が杜撰です。その根底には、問題意識・危機管理意識の欠如が見える

 企業というのは、基本的には官僚制で組織されます。この「官僚制」というのは上下の役職や各部署にわかれ、それぞれの役割とそれにともなう権限および責任が分配されている組織形態をいいます。だから政府の「ナントカ省」だけではなく、企業(個人商店は別ですが)も軍隊や警察も全部「官僚制」組織です。別のいい方をすれば、企業はゲゼルシャフトであって、成員が感情的に結合し合うゲマインシャフト(共同社会)であってはならない。だけど、日本の企業や官公庁には、まだまだ「ムラ社会」的なゲマインシャフトの性質をひきずっています。特に、民間企業にはその傾向が強く残っていて、タテマエとしての企業形態と、その実態との間に乖離が見られ、そのズレがしばしば問題を引き起こします。

 私の推測では、事情を打ち明けられた上司は、何もしなかったのではないかと思う。当事者の側に対してその変化を認めないという、不作為に終始したのだろうと思います。おそらく、職場内に性同一性障害の当事者がいたというのは、この上司にとって見れば初めてのケースだったでしょう。ですから、事情を打ち明けられてすぐに適切な対応を取れというのは、無理な注文です。そこまで要求しても、これは「ないものねだり」ですね。

 だけど、すぐに対応することは出来なくても、どう対応すればよいのかを調べることはできるわけです。そういう形で、事態への対応に取り掛かることは出来る。もちろん、この上司一人だけではなくて、(この会社の組織がどうなっているのか具体的には知りませんが)総務なり人事なりに相談して、限られた部署において組織的に対処に取り組むくらいは出来たはずです。そうしたら、この当事者に対しても「今は対処について検討しているところだから、もうしばらく待て」という事はできたでしょう。

 部下の質問や相談に対しては、可能な限り即答できること。もしそれが不可能な場合には、回答期限を示すこと。これは組織として、また組織の中においての上司・上官あるいは指揮官として、最低限の心得ごとです。これが出来なければ「無能」の烙印を押されても文句はいえません。性同一性障害に対する理解がどうのという以前に、組織の中での自分の役割(ポジション)が理解できていないからです。会社員であれ公務員であれ、その組織はゲゼルシャフトであり、各員は自分がゲゼルシャフトの一員としてポジションを占めているんだという事を忘れてはいけない。

 また、もし仮に会社側がこのような対応を取っていたにも関わらず、当事者側が即時対応を希望して業務命令を無視したのであれば、これは当事者の側にもそれなりのペナルティ(どの程度が妥当なペナルティなのかわかりませんが)が課せられてもやむをえないと思います。

 それからもうひとつ、この当事者側の問題として、昨年以降、今年の解雇に至るまで、この上司以外の他の上司・同僚に対して、自分のことをどのように説明していたのか、という問題があります。一般にはカミンブアウトの是非ということが問題にされる場合もありますが、同じ会社に勤め続けるのであれば、これは「上司一人だけに事情を告げ」るだけではダメで、周囲の理解ということが必須の問題になります。事情を知っているのが「上司一人だけ」なのに、本人がどんどん変化していったら、周囲との軋轢が生まれないほうがおかしいでしょう。まして、

  1. 女性の服装で出勤する
  2. 女性用トイレを使う
  3. 女性更衣室を使う

という変化を、事情を知らない同僚、とりわけ女性社員がどう受け取るかということは、容易に推測できるはずです。この点は、適切な対応をしなかった会社側と、当事者本人と、その両方に責任があると考えるべきだと思います。

 個人的には、「懲戒解雇」が撤回された上で、会社側とこの当事者と双方がともに、もっとマシな意思疎通が出来るように努力する、というところが「落としどころ」として妥当な線だろうと思います。それは片務的な義務ではなく、あくまでも両者がそれぞれともに負う努力義務と考えるべきです。

 それでも、あくまでも会社側が応じないというのでしたら、「懲戒解雇」に対して不当という判決が出るのを待ち、退職金を受け取って辞めちゃったほうがいい。そんな企業はこちらから見限ってやれ、といいたいですね(笑)。

L.Jin-na


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