前書き
前回の反省に鑑み、簡潔明瞭な文章と適切な字数で物語を進めていくことを考えております。回ごとに作品のトーンが異なって読みづらい点を御容赦頂きたいと思います。OFF会での御指導をもとに作風のフォーマットを模索しておりますゆえ、当物語の行方を見守っておられる読者諸兄は今少し不便をお忍び下さい。 はたしてレノラの運命や如何に?
それでは前回の続きを受けて参りましょう。
第二回
聖魔、深慮遠謀を巡らし
夢魔床を払いては、再びその性をあらわす
ぱああぁぁぁぁん ! ! !
限界を超えて膨らんだレノラの腹と乳房が大爆発して散り散りに弾け飛んだ。
胎内に過剰に蓄えられていた生命エネルギーは通常空間に物理的な影響力をほとんど及ぼさずに拡散してしまったので、爆発自体による家屋への損害(膨腹の過程で生じた壁や天井の損害は別)はなかった。
レノラの背後では彼女の肉体の圧力からようやく開放されたネルが疲労困憊して床にへたり込んだ。一方のレノラは腹の支えがなくなったせいで、ふらふらと身体が前の方へ泳ぐ。
しかしレノラの災難はこれだけに終わらなかった。
彼女の体を維持している本質(作者注 意思を司る魂魄の部分と違って、不随意に生命活動を維持している機能と解釈して下さい。ここが損傷を受けると天使や魔族は自分の身体を構成しているエネルギーが制御できなくなって死ぬ危険があります)が生命の危機を感知すると、自動的に治癒機能が働いて損失した腹部と乳房が一瞬のうちに修復されていく。だが、先程までの膨腹とそれに続く爆発でダメージを受けた本質は身体機能を制御できない。
そのために胎内に残ったエネルギーの大半がまだ膨腹現象に振り向けられたままで、傷口の塞がりかかった腹部は再び急速に膨張しはじめた。
「きゃああぁぁぁ! !」
一瞬のうちに治癒しかかった腹部が、一瞬のうちに再び膨らんで、床に届くぐらいの大きさになる。そのためレノラはネルのように倒れ込むこともできず、その場に棒立ちになってしまった。
しかも完全には傷口の塞がっていない下腹部からは、内圧が高すぎるのかいまだにエネルギーの漏れが止まっていない。肉体を得た魔族や天使は、生命エネルギーの流れを人間の血液に似せて体内を循環させている。レノラの腹部の裂傷からも血液に似た赤い液状のものが流れ出ては、それが流れ落ちる前に蒸発して空気中に拡散していく。
『は、早く傷口を塞がなきゃ・・・』
だが内圧と漏れが均衡状態になった彼女の腹は、直径が一メートルぐらいになったままそれ以上膨らみもしなければ萎みもしない。
「手が・・・手が届かない ! ?」
レノラは真っ青になった。
先日戦闘で傷ついたゼニアの身体を癒したように、彼女は治癒術を使って自分や他人の身体を直すことができる。しかしそれは彼女の手が届く範囲でしか作用しない。
自分の身体の一部であるにもかかわらず、エネルギーの漏れ続けている幾つかの傷口は巨大な爆腹の向う側なのだ。内圧によって半ば噴き出すような勢いのエネルギーが傷口の癒着を妨げるために、自動的に漏れが止まる気配はない。手も届かぬ下腹部はレノラにとっては世界の裏側ほども遠く感じられた。
もしもこのままの流出が続けば、いずれはエネルギーの減少につれて爆腹も萎み傷口に手が届くようになるのだろうが、その頃に自分の生命を維持できるだけのエネルギーが残っているかどうか疑わしい。
『まさか・・・死ぬ?』
横に目をやるとネルは虚脱状態で床に倒れたまま、意識があるのかどうかもはっきりとしない。それにこれだけの大騒ぎになっているのに、この家の周囲はまだ彼女が事前に張り巡らした夢想術の結界が破れていないせいか、誰も様子を見に来る気配がなかった。
このままでは一番鶏とともに術が解けて家人やネルが正気を取り戻すころには、彼女は一片の塵となって消滅してしまう運命にある。
「やだよぉ・・・こんなことで死にたくない・・・」
恐怖と絶望で涙も流れない。レノラは抱えきれない巨大な腹に手をやったままその場に膝をついて動けなくなってしまった。
レノラ自身にとっては消滅を待つだけの一秒一秒が無限にも思えるほどだったが、実際には三四分ほど経ったころだろうか。
寝室の窓の鎧戸を突き破らんばかりの勢いで黒い影が飛び込んできた。
「くぉらぁ〜〜、レノラぁ〜 ! ! なにして・・・・? ! 」
“おいた”しているところを取っ捉まえるつもりで闖入してきたゼニアだったが、室内の様子を見た途端に異様な事態に気付いて唖然としてしまった。
見回せば室内の内装やベッドがひどく傷んでいるし、床にはレノラのお相手とおぼしき小柄な少年が全裸で気を失って倒れている。それにレノラときては魔法のレオタードは何処へ行ったのか、これまた全裸で自分自身の身体よりも巨大な腹を抱きかかえてうずくまっているのだ。
「これは・・・? ?」
室内に残留している大量の生命エネルギーが流失した痕跡を、まだ額からそそり立ったままのゼニアの角が感知した。これだけの量が少年かレノラから失われたとはただ事ではない。ゼニアはまだ半ば生やしたままの背中の皮翼をしまいながらレノラに歩み寄った。
「あぁ、ゼ、ゼニアさん・・・た・・すけて・・・・」
ゼニアの姿の気がついたレノラが息も絶え絶えに助けを求めた。顔色はすでに青を通り越して土気色になりつつある。人間ならば出血多量でとうに死んでいるような状態だが、見た目はどうであれ血液や循環器系という物質的な器官に依存していない魔族だからこそ残り少ないエネルギーでかろうじて命脈を保っていられるのである。(作者注 人間の場合は大量に失血すると血圧が低下して、いくら心臓が動いても血液が循環しなくなります)
「でも、どうしたら?」
事態を察したゼニアは焦った。彼女にはレノラのように他人の身体を治すような治癒能力はない。手で傷口を抑えても多少漏れが減る程度で、遅かれ早かれレノラは助からない。
「本質が・・・暴走してる。何とか・・結合して・・・」
「レノラ、しっかりして ! 」
ゼニアは意識がなくなりかけているレノラの身体を支えた。
レノラの言う応急処置とは、彼女とゼニアの本質を結合させて彼女の本質をゼニアの制御下に置く。その上で少量のエネルギーでも分けてもらえれば、なんとか肉体の再生が可能になるはずだった。
時間もなくレノラの側から何もできない現在の状況では、昼間に交わったときのような肉体の接触程度では、二人の本質を結合させるのは困難である。ゼニアは強行手段を決意した。
ゼニアは額の角を目一杯に伸ばしながらレノラの背後に回り込んだ。これを肩甲骨のの下辺りからレノラの胸郭に挿し込んで彼女の本質に結合するのである。角の長さは約三十センチ、普通なら前の方から突き刺したほうが本質のある位置をとらえやすい。だが、現在の状況ではパンパンに膨らんだレノラの腹を突っついてエネルギーの流失を加速させるわけにはいかない。そんなことをすれば残り少ない彼女のエネルギーが全て消し飛んで元も子もなくなってしまう。
「痛いと思うけど我慢して」
ぐったりしているレノラの両肩をつかむと頭を下げ、肩甲骨と脊柱の間を狙って一気に角を突き刺した。
肋骨の間をくぐり、肺を貫通していく角の先端。
「ぐがっ ! がっ ! ガァァ ! 」
あまりの激痛にレノラがもがく。
一方のゼニアもレノラが暴れると首が痛い。それでも角が貫入していくにつれ、暴走している本質の波動が感じられる。こういうとき、戦士であるゼニアはレノラの身体を気遣いつつも非情になれる。
「もう少しだから辛抱して ! 一気に・・・ ! ! 」
レノラの肩をつかんだ腕に力を込めるとゼニアは思いきり深々と角を突き立てた。
その瞬間に魔力に敏感な角に何か強力なエネルギーが絡みついてきた。
『つかんだ ! ?』
荒れ狂うレノラの本質に接触すると、ゼニアの角はヤスリがけされるように猛烈に痛んだ。
互いの合意なくして行なう交合は相当危険なのだが、レノラの方がエネルギーを消耗しきっているので、ゼニアの魔力の源である角が致命的な損傷を受ける可能性は低い。
『もう少し・・・もう少し・・・』
ゼニアは痛みを堪えながら、全魔力を角に注ぎ込んで自分の本質をレノラの体内に送り込んだ・・・
「ふええぇぇぇぇん ! お姉さまぁ、もうダメかと思ったですぅ・・・」
なんとか一命をとりとめたレノラが、身を包んだ毛布がグシュグシュになるくらい泣いている。
ゼニアは彼女の嗚咽など二の次にして意識を失っている少年を床に敷いた夜具(前回注 ベッドはレノラの腹に押しつぶされて全壊しております)に横たえていた。幸い少年の命に別状はなく、ただ疲れ果てて眠ってるように見える。屋内の被害については翌朝家人が目覚めるころに、あらためて出向いて謝罪しなければならないだろう。年端も行かぬ少年とおおよそ一月もの間、毎晩ナニしていたなどと知れたら相当揉めるに違いない。
消耗しているレノラを一刻も早く連れて帰って手当てしてやりたいところだが、それよりも今夜の事件の究明と人間側の損害(精神的、肉体的被害、はたまた魔族と付き合っていたという外聞の悪さという社会的な損害)を最小限にとどめる事が優先である。だが一方でレノラを連れて帰って問いたださなければ事件の詳細がつかめないから適切な方策の取りようがない。
とりあえずは長老に報告してこのささやかな任務の失敗を報告せねばなるまい。そう考えるとゼニアは少し憂鬱になった。それに加えて無理やりレノラの本質と交合したせいで割れるように頭が痛む。
「ネルくん。ネルくん、大丈夫ですか?」
それがこの子の名前なのか。
ゼニアは少年の華奢な体に上布団をかけてあげながら、少年の裸体をしげしげと見た。深い眠りについている今となっては、レノラの腹を破裂させるまでに追い込んだ逸物も完全に萎えて、その年頃の男の子にしてもやや貧弱としか形容しようのない包茎チ○○(自主規制で二文字○)に戻っている。
ゼニアには人間の男性はおろか同族の異性ともろくに付き合った経験はなかったが、それでも少年の体を眺めていると、なぜレノラがこれほどまでに彼を気に入ってしまったのかさっぱり分からなかった。
「この子のことなら大丈夫よ」
ゼニアは毛布の中で心配そうにしているレノラを安心させるために言った。レノラは自分の命が助かったことからくる安堵感とネルを気遣うあまり、これまた人間には不可能なほどの涙腺の機能を発揮して、毛布の中で溺れてしまうのではないかと思うほどの涙を流していた。
「彼のことが心配でしょうけど、とりあえず夜の明けないうちに帰らないと」
「うん・・・」
レノラとしてはこの場を離れるのが忍びなかったが、ゼニアに抗うことはできない。
ゼニアはレノラを軽々と抱き上げると翼を広げながら窓から飛び出した。
数日後・・・・
「長老、此度のことは申し訳なく思っております。しかも、本来ならこちらの方から謝罪に赴くべきところ、わざわざ御足労を煩らわせお詫びのしようもごさいません」
天使達の住む寺院の中でももっとも荘厳華美に設えられた接見の間で、長老を上座に迎えてガブリエルは深々と頭を下げた。ガブリエルの横には蒲公英が硬い表情で侍していた。
「ガブリエル殿、儀礼的な挨拶は御無用に。それよりも先日のごたごたも大分片が付きましたのでな。報告がてらお互いの異心無きことを確かめに参った次第で」
紀元三十二年、最初の千年祭の祭司が亡くなった年に天使と魔族は互いに直接的な危害を加え、あるいは武力に訴えて互いの利益を謀り、この天地を騒がせることが無きように“門”の前で協定を結んだ。これは通称「ドミニオンの和約」と呼ばれた。長老の指摘する「異心」とは、今回の一件がこの協定に抵触するかも知れぬことを示唆していた。
「今回のことはあくまで当方の落ち度による事故です。加えて事故処理ではそちらの方で一切の責めを負われたことに関してはお礼のしようも無いと思っております」
ガブリエルは再度深々と頭を下げた。
ネルの家で起こった出来事に関しては全て魔族の側で泥を被る形で両親に説明されていた。いわく、レノラが勝手に睡眠中のネルの精気を頂きに来ていたことになった。その他、家人にはレノラの「訪問」は十日に一度くらいだったこと。最後の晩の事故については、レノラが性感を高めるために使ったある種の魔法が失敗した結果であること。家屋への損害は魔族の側で弁償(錬金術で作った金を支払う)すること。
これらの“事実”がネルの両親に説明され、ガブリエルがネルの体質を強化してしまったことも、蒲公英の悪戯も、あるいはネルがボテ嗜好であることも、彼の欲望がレノラを引き寄せたことも、はたまた毎晩やりまくっていたことについても口上にのぼることはなかった。
岩山の夢魔が自分の息子を“強姦”したことについてはネルの両親は相当な怒りを表明していた。人の噂を止めることは出来ず、早くも様々な憶測が人口に膾炙している。その結果ネルは学校へ通うことが出来なくなっていた。現在は心機一転するためにエルウィンの居るエアレンディル家の別荘に遊びに行っているが、近々転校届けを出してイスマスを出、アフラの町で一家を構えて商売している長兄(前回注 ネルは四人兄弟の末弟)の元へ寄宿することになっていた。
このような経緯で面目を保った天使側は魔族側に大きな負い目があった。所以、ガブリエルが頭を下げるわけである。
「まあ、そう謝りなさるな。貴殿のような大聖に頭を下げられるとこちらも尻の座りがが悪くてかないません」
長老は鷹揚に手を振った。
「それでその・・・レノラとか申しましたか。夢魔の娘の容態は?」
「うむ。一応快方には向かっておりますが、本質に少々損傷を受けたようで・・・」
「それは ! ?」
横で聞いていた蒲公英が思わず身を乗り出した。本質に欠損が生じた天使や魔族は変異して怪物になる(←前回注)可能性がある。そうなればレノラを“処分”しなければならず、蒲公英は間接的に彼女を殺したことになってしまう。
「・・・以前より・・・その、なんというか・・・身体が生命エネルギーの出入りに敏感に反応するようになったようで」
単に膨らみやすくなったというだけなのだが、性交に関する話しは天使達に尾籠(広辞苑注 礼を失すること)と受け取られかねないので歯切れの悪い遠回しな表現になってしまう。
「ほほう・・・」
言外の意味を察したガブリエルが興味を示したように少し膝を進めた。(←こいつ、もしかして同好の士か?)
「まあ、うちの方でも若干の者が今回の件でいきり立っておりますのでな。ボルテール家への謝罪など、後始末は気の利いた者に任せ、他は極力外出を控えるように言い渡しております」
岩山の住人は長老も含めて八人。そのうち長期休眠中の者は二人いる。残りの魔族も夢魔など同族中の亜種と軽んじているものがほとんどなので、本当にいきり立っているのはゼニアぐらいである。長老はゼニアは寺院へ乗り込んでいくのを防ぐために彼女にレノラの看病を命じていた。
「かさねがさねのお気遣い申し訳ありません」
「うむ、そこでものは相談なのだが・・・」
長老はちらりと蒲公英の方に目をやった。
「・・・そちらに控えておる天女の娘御には酷な物言いかもしれぬが、此度の一件でも分かるように祭司警護の役目、彼女にはちと重荷ではないかな。昨今、我々の目が行き届かずに物騒な地域が多いのは御承知のはず。千年祭についてはそちら同様、我々にとっても関心事。斯様に軽率な行動を取る者ひとりでは心もとないと思う。そこで当方からも人手をお貸しして旅の便宜を図ろうと愚考する次第なのだがどうであろう」
ガブリエルは今回の失態を貸しにして何かを要求してくることは当然予想していたが、こうも堂々と警護役への参加を要求されるとは思ってもいなかった。しかし内心の動揺を表には出さず、
「ははあ、なるほど。まあ、人間達のことわざではありませんが呉越同舟と申しますから、この際手を取りあって協力するというのも悪い考えではないでしょう。しかし、ここに侍している蒲公英も東海の神山は崑崙の大上老君に師事して修業を治めたなかなかの逸材。この近隣に彼女と遜色の無い者などそうそう居りますでしょうか?」
足手まといは不要との含意である。だが長老はガブリエルのやんわりとした皮肉と拒絶のほのめかしなど何処吹く風で、
「幸い数日前に戻ってきたゼニアという魔戦士がおります。あれならこの大任を果たすことが出来るでしょう」
これを聞いた蒲公英の顔色が変わった。
そのゼニアという魔戦士が重傷を負った夢魔と深い関係にあることは彼らも承知している。もしも蒲公英とゼニアが顔を合わせたら、たちまち争闘剣戟の修羅場が展開して西への旅など始まる前から終わってしまうのは目に見えている。これでは蒲公英をはずせと要求しているに等しい。
「それは・・・」
「口を挟むな」
横から口を挟もうとした蒲公英をガブリエルが穏やかに、しかし断固として叱責した。ガブリエルの澄んだ眼が深い眼窩の奥から見つめ返す長老の意図を読み取ろうとする。
「・・・そちらの意向に関しては、おおむね承知いたしました」
ガブリエルが感情を押し殺した声で内諾の意を示した。ガブリエルがかばってくれるものと思っていた蒲公英は透き通るような白い肌が目に見えるほど蒼ざめた。
「そうなるとこちらとしても人選を再考せねばなりませんが、仮にも蒲公英はエルウィンの信認を得た身。このことに関しては、彼女に再度連絡をとる必要があるでしょう。それと今後、エルウィンに同行する両者の間で感情的な食い違いが生ぜぬよう、現場の問題は各自の才覚で処理するように一任したほうがよいと考えますが」
とどのつまりゼニアと諍いを起こさぬために蒲公英は外さざるを得ない。
しかし、ガブリエルにしてみれば、長老が蒲公英に対して難癖を付けたように、わざわざ静水に石を投げ込むような長老の人選(百歩譲って魔族から護衛を同行させる案自体は承服しても)には納得できない。この蒲公英外しの一件を聞いた天使側の新任の護衛がどう反応するか、ガブリエルは保証しないし魔族側と協調していくことを上から特に強制はしないという表意である。
結局、蒲公英を外すことによって二人の護衛の間で諍いが起きる可能性があるかもしれない。意趣返しという低レベルな感情ではなかろうが、長老の提案に対するガブリエルの返球である。
「当方としては依存はありませんな」
案に相違した長老のあっさりと同意である。
ガブリエルにしてみれば脅しをかけることによって、天使側護衛役が優位に立つ何らかの言質を引きだしたかったのだが、それ以上の駆け引きの意味が無くなってしまったかたちである。
「結構です。それではもう少し細かい点について・・・・」
長老の真意をはかりながらガブリエルは話をすすめた。
「ふみいぃぃぃーーーー、ネルくんに会いたいですぅぅ・・・・」
「あのねぇ、レノラ、あの子のことはいい加減に諦めなきゃダメよ」
ゼニアは横で泣いているレノラをぞんざいに慰めた。
ベッドの上で二人とも全裸である。レノラは枕に顔を埋めて泣きじゃくり、ゼニアはその横で肩肘をついていささかうんざりした表情でそんなレノラを見ている。 実を言うと二人は一戦(←分かるよな)終えた後だった。レノラが危うく命をとりとめた晩以来、彼女のエネルギー補充と傷心を癒すために毎日二人は同衾していた。ゼニアにしてみれば、不器用ながらもレノラを慰めるために攻め役を引き受けて彼女をよがらせているというのに、レノラときたらイクだけイってコトが済んだ後にネルのことを思い出しては泣いているのである。
『ああ、アホらし。レノラときたら散々御奉仕させといて・・・・これじゃあアタシとするのが全然良くないみたいじゃない。それにしてもあんな包茎の粗末な・・・(以下、悪態省略)・・・のガキの何処がいいのかしら? そりゃあ、アタシは受けだと簡単にいっちゃってつまらないかもしれないし、攻めだって全然上手じゃないけど、レノラがして欲しいって言うからこうして頑張ってるのに・・・べつに無理やり強姦してるわけじゃないんだから、満足できなくてももう少し愛想良くしてくれたって・・・・』
ぴいぴい泣いているレノラを横目に、ゼニアとしても心中で延々と愚痴をこぼしてしまう。ただしゼニアの口から心中の憮然たる思いが漏れることはない。うっかりそんなことをすればレノラが今以上に荒れてどうにも収拾がつかなくなるのは目に見えている。
この数日、ゼニアとしているとき以外のレノラは泣き通しだった。とは言っても人間の悲涙号泣とは違って、彼女の涙は魔力で空気中の水分をかき集めて自分の涙腺から排出しているだけである。しかしそのおかげで地下七階と九階は喉が痛くなるほど乾燥し、逆に彼女の住居がある地下八階付近は岩壁が結露するほど湿っぽくなり、カビと苔が電撃戦を展開してそこここで大戦果を治めつつあった。
レノラの部屋そのものはゼニアが火系魔法で結界を張ってやっているのでさほど快適さを損なっていなかったが、一足廊下に出れば敏感な額の角がムズムズして肌にキノコでも生えてきそうな気がする。(作者注 食用菌糸類栽培業の方に不適当な表現があることをお詫びします)
「・・・ネルくん・・・ネルくぅん・・・・」
「ねえ、レノラ、そんなに泣かないでよ」
『シーツは換えたばかりだし、あんたが顔を埋めて濡らしてるのはアタシの部屋から持ってきたお気に入り枕なのよ・・・あぁっ
! 、枕カバーで鼻をかんじゃダメだってば ! !・・・・』
ゼニアは看病疲れ(慣れない攻め役)で苛々しているにもかかわらず、そんなことはおくびにも出さない。長老も含めて他の住人達は最初のうちこそレノラへのエネルギー補充も兼ねて見舞いに来てくれたものの、この二三日はレノラの様子に辟易したのか足が遠退きがちだった。世話役を引き受けているゼニアにはそれがなんとも恨めしい。長老から外出を控えるように命じられていなければ、寺院へ出向いて蒲公英を難詰したいところである。
まとまりのない思考の波にたゆたって惚けているゼニアの胸にレノラがすり寄ってきた。
「ぐすっ・・・お姉さま、抱いて・・・」
「はいはい・・・」
これが人間で言うところの恋患いであることも、失恋(?)の“やけ食い”であることも、魔族のゼニアには知る由もない。ただし、ゼニアの拙劣な攻めでは、いくらレノラが“やけ食い”してもネルとしたときのように腹が膨らんでくる気配はいっこうに無かったが・・・・。
『なんとかなってくれないかしら?』
心中溜め息をつきながらゼニアはレノラを抱き寄せた。
「なんとかならないかっていうのは、どういう意味なわけ?」
「うぅー、どういう意味ってきかれてもさぁ・・・・」
エルウィンに問い詰められてネルは言葉に詰まった。例の事件から数日たった今でも、自分で気持ちの整理がついていないのだ。
イスマスから一日旅程ほど離れたレーヴェンの村にあるエアレンディル家の別荘に逃げ込むような形で寄宿してから数日が経ち、レノラの夢操術の影響で時間軸に沿った明確な記憶はないものの、おおよその事情はネル自身も思い出せるようになっている。これは“最後の日”に膨腹を制御できなくなったレノラがパニックをきたして夢操術の効力が低下したためだろうと察せられた。
おかげでネルも自分の潜在意識下の性的嗜好(ぼてフェチ)に否が応でも気づかざるを得なくなっていた。
事件の詳細は明らかにはされず、詫びに来た魔族の言い分が全面的に通ったおかげでネルの嗜好が白日の下に曝されることだけは避けられたものの、人間と夢魔が逢い引きしていたという事実だけは隠しようが無い噂の種となっていた。
ネルにしても片思い(?)のエルウィンに童貞喪失の一件を知られたことは間違いのない痛手だった。しかしエルウィンはそのようなことをおくびにも出さず、都落ちして別荘に預けられたネルの相談(カウンセリング)に積極的に乗ってくれていた。
ネルにしてみれば彼女に自分の嗜好を知られなかったことは万に一つの幸運と言えた。もし事件の詳細が明らかになっていれば、いかにエルウィンが天衣無縫の性格とは言え、痩せ型体型(胸はこの半年で結構膨らみはじめていたが)の彼女自身とひき比べてネルに対する接し方は随分と変わっていたかもしれない。(多分変わらないと思うが、ネルにはそれに賭ける勇気はなかった)
“最後の夜”の“最後の射精”の後に何が起こったのか、ネルにも明確に思い出せなかったが、お相手をしてくれた夢魔(レノラという名前もはっきりとは思い出せない)が張り裂けた自分の身体を見て苦痛と恐慌の表情を浮かべていたことだけはおぼろげに記憶している。その後、事情を説明に来た魔族から彼女は助かったという説明がされているのだが、閉門蟄居中のネルに事実を確認する術はない。素直で優しい性格のネルにしてみれば、かの夢魔の安否が気遣われるところだった。
「ほら、哲学かなんかの授業で先生も言ってたじゃない。自己の認識と伝聞や間接的情報の客観的相違についてどうとか。あたしを相手にグズグズ言うより、自分で何とかする方法を考えたほうが良くないの?」
「だってうちのお父さんからエルウィンちのお父さんに僕は預けられてるんだよ。アフラの学校に転校手続がすむまでウロウロしちゃ駄目だって言われてるし」
「だからどうだっての? この家にはあたし達の世話をしてくれる使用人しかいないし、あたしだって挨拶にやって来るパパの知り合いの人たちの応対で忙しいんだから」
西方への旅支度を整えているエルウィンのもとには、彼女の噂を聞きつけた父の商売仲間が毎日のように入れ替わり立ち替わり訪ねてきている。縁起を担ぐ商人達が勝手に彼女を商売の生き神様に見立てて一目その“尊顔”を拝しようと引きも切らずにやって来るのだ。その他にも二人の通っていた中等学校の友達やその友達の友達、その親や再従兄弟までがどこからか彼女の居場所を聞きつけて押し掛けてくる。
千年祭の祭司との面会を個人的な願掛けの場と履き違えている人々の欲望にエルウィンも辟易しているのだが、父や級友の頼みを無下に断るわけにもいかず一日の大半を来訪者との面会に費やしていた。
幼なじみのネルとの会話は、西への出立まで事実上閉塞状態にあるエルウィンにとっても息抜きとなっていたが、結論の出ない堂々めぐりの繰り言に、相談役としての忍耐力も急速に枯渇しつつあった。明敏な直感と思考力、そして周囲からは奇矯ともとられかねない自信に満ちた直接的な行動をするエルウィンにしてみれば親の小言や周囲の目を気にしてグスグスしているのがなんともじれったいのだった。 ネルの話しを聞いている振りをしながらフンフンと首肯くのに厭きたエルウィンは矢庭に立ち上がった。
「ね、オナカ空かない? 台所へ行こうよ」
ネルの返事も待たずに部屋を飛びだす。ネルは慌ててその後を追った。
まだ午前中も早く朝食もすんだばかりで、二人とも本当に空腹なわけではない。別荘の周囲を物見高い弥次馬や面会希望者に取り巻かれている現在、塀を乗り越えてこっそり外へ遊びに行くのも難しくなっていた。自然に二人の行動範囲は使用人以外と顔を合わせずにすむ家の裏手に限られるようになっていた。
二人は毎日のように台所へ行って雑事に追われている(その中には家事以外にも塀を乗り越えてエルウィンに面会に来る不届きな侵入者を追い出すという仕事も含まれている)使用人を横目にその日の三時に食べるおやつを作ったりするのである。もっともおやつを作るのはネル独りで、エルウィンは専ら見物しているだけである。 家事という行為と全く性が合わないエルウィンは、使用人達からも台所の道具や食器に触れることがないように望まれていた。彼女が皿洗いを手伝おうとすれば、なぜか皿は彼女の手を滑り落ちて床で粉々になる。揚げ物でもしようとすれば煮立った油を頭からかぶりそうになる。リンゴの皮を剥くよりも自分の手の皮を剥く。 数年前にはとうとう使用人達に「お嬢様がケガをされると、私たちが旦那様に首にされてしまいます」と声涙ともにくだる勢いで哀願される始末で、それ以来エルウィン自身も家事に手は出さぬようにしていた。だが料理にせよ裁縫にせよ大工仕事にせよ、何かができ上がっていくのを見るのがエルウィンは大好きで、ネルが自分たちのおやつを器用にこしらえているのを傍で見ているだけでも結構楽しいのだった。
エルウィンとは正反対にネルが家事全般を器用にこなすので、二人一緒にいれば使用人達も厨房で遊ぶのを許可してくれる。
「今日はどんなのがいいの?」
ネルがたずねるとエルウィンは即座に、
「ケーキでいいんじゃない。見た目は派手じゃなくていいから。砂糖漬けの果物でもはさんで、お酒を使ってて少し大人っぽい味のヤツ。パパが南方から仕入れてきたショコラっていう黒っぽい粉も使ってみたら?」
(作者注 この世界にカカオ豆を製粉する技術があるかどうかは突っ込まないでください。バターやチーズはあっても生クリームはないにちがいないな)
そう言うエルウィンの片手には、早くもどこからくすねてきたのかブランデーとおぼしき酒瓶が握られていた。
「お酒勝手に使うと家の人に怒られるよ」
「いいの、いいの。あたしが食べるんじゃないんだから」
「?」
「見舞いよ、お・見・舞・い。心配なら行ってあげればいいじゃない。うれしいものよ、床から出られない病人にしてみたら」
ネルを励ますようにエルウィンが元気よく肩をたたいた。
外出禁止の自分にエルウィンが何をさせようとしているか察したネルは、彼女の助言をありがたく思うとともに、親の言いつけを破らなければならないので複雑な心持ちになった。
「どうせヤルとこまでヤってんでしょ。魔族と付き合いがあると外聞が悪いって言うのは大人の勝手な言い分よ。その病気になってる夢魔と付き合ってたっていうんなら、友情は大切にしなきゃ。親の言いつけ守るのも大事だけど、自分の気持ちも大切にしなきゃだめよ。大丈夫、あたしが表に出て人目を引きつけている間にこっそり裏口から出ていけば誰にも見つからないから」
どういう意味でエルウィンが、ヤルとこまでヤったなどという言葉を使ったのかわからないが、それを聞いたネルの耳朶は真っ赤になった。
魔族や天使というものは人間に比べると極めて寿命が長い。それは永続性と言う点では優れているが人間に比べると成長や変化が乏しいという欠点もある。目下のところ、ゼニアにとってはレノラの“看病”についての永続性が問題であった。
こうも毎朝昼晩におやつと夜食までつける形でレノラに付き添ってナニしていると、いくら時間を持て余していて快楽に貪欲で相手に好意を抱いていても、気分が弛れてくるのは仕方がない。
いや、それ以上にレノラの腹がわずかでも膨れてこないことが気に入らない。回数はこなしても二人の本質が“結合”してるわけではないから、目立った現象が起きないのも当然なのだが、自分が情けなくなって逃げ出したい気持ちになってくる。そんなわけでゼニアとしてもちょくちょく息抜きを兼ねて席を外し、気分転換のために普段は滅多にしない家事にいそしんでみたりしていた。
今しもレノラが鼻をかんだお気に入りの枕のカバーをはじめ、二人して汚した夜具や下着を洗濯(作者私見 ゼニアに家事は全然似合わんな)していると、一匹の黒猫が何処からともなく現れて彼女の足にすり寄ってきた。
ゼニアが足下を見下ろすと、黒猫は彼女の注意を喚起するかのごとく前脚でゼニアの足をトントンと叩いた。
「あら、何なの? エウリジェア四十三世」
ゼニアは濡れた手をふきながらかがみ込んで、瞳孔を絞った黒猫の瞳を覗き込んだ。
この妙な名を持つ黒猫は、岩山を守護、管理しているグロートゥスという変幻自在、剛力巨体の魔族の愛玩動物(ペットだよ。変な意味にとるなよ)で、その名が示すようにグロートゥスに飼われて四十三代目になる。
猫であるという点にかわりはないが、初代以来魔族の生命エネルギーの波動を浴びてきたせいで、グロートゥスの思考を中継できる一種の精神感応能力(テレパシー)を獲得していた。さらに数十代を経れば立派な使い魔が生まれるかもしれない。 エウリジェア四十三世は岩山を自分の縄張りと心得ていて普段でも各階の部屋や廊下を巡回しているが、時々は主人の伝令役として住人達のもとを訪れる。グロートゥスは門番も兼任しているから、エウリジェアが伝令としてやって来るときは大抵頼みごとを抱えた人間の来客があることを意味している。グロートゥスが客の意向を聞いて取り次ぎ、仕事に適任の魔族を呼びにやると言うわけである。
ゼニアがエウリジェアの瞳を覗き込むとすぐさまグロートゥスの思考が中継され、重々しい男性の声が頭の中に響いた。
『お前にではないが、来客がある』
『あたしにではない?』
『レノラだ。面会謝絶だと言ったのだが、言うことを聞かない。だからお前を呼んだ』
『どんな人?』
『子供だ。少年。例のレノラが付き合っていたネルヴァ・ボルテールという少年だ。用事は・・・』
なにか戸惑ったようにグロートゥスの思考が一瞬沈黙した。
『・・・見舞いだそうだ』
グロートゥスの戸惑いをゼニアも理解した。たしかにナニしすぎて膨腹破裂の重傷を負った魔族というのも前代未聞だが、それを見舞いに来た人間の少年というのも天地開闢以来のことに違いない。
『どうする? お前が話しをするか、それとも俺が追い返すか』
決断を促す頭の中の声。
現実逃避して洗濯を続けるか、今以上に問題がこじれる可能性もあるが、敢えて少年に会ってみるか?
『入れてあげて。あたしの部屋に』
苦手意識で問題を避けて通ってばかりいるのでは魔戦士ゼニアの名が泣くし、何と言ってもレノラは親友なのだ。一肌脱ぐのが・・・
『・・・ああ、でもやっぱりあたしは脱がされ役の方がいいのよねぇ』
レノラのお相手で攻め役としての自信を完全に喪失しているゼニアが呟いた。
『何か言ったか?』
まだ精神感応が完全には解けていなかったらしい。
『いえ、なんでもありません。後はまかせて。連絡ありがとう。以上』
接続を切ったゼニアがエウリジェアの頭を撫でてやると、黒猫は全てお見通しと言わんばかりにニャアと一声鳴いた。
「ガブリエル様、わたくしには納得がいきません。なにゆえあのような・・・・」
蒲公英は半ば食ってかからんばかりだった。
エルウィン護衛の件でガブリエルが提案したいくつかの条件について合意に至って長老が辞去した後、会談中は終始口を噤んでいなければならなかった蒲公英の憤懣が吹き出した。
自分の能力に疑問符を付けられ、名誉ある任務から事実上外された形になってしまった屈辱を理解できるガブリエルは寛大にも蒲公英の非礼な態度を咎めなかった。しかし、蒲公英の不満があらかた言葉となって出尽くしたと見るとやにわに切り出した。
「公英。私は上級天使であり、主の意志の具現者でもある。私の意志は主の意志であり、天使に属するものは疑義を挟むことなく与えられた勤めを全うせねばならぬ。また、私は私の意志を正当なものとして説明する義務を負わない。東方の神州に源を発する五仙の類いは我等天使とは起源を異にするとはいえ、主に帰依した身。そのことは理解しておろう?」
「出過ぎたこと言ってしまい、申し訳ありません」
ガブリエルの声に咎める響きはなかったが蒲公英は思わず身を正した。
「しかし、いくら説明不要とは言え、お前にしてみれば魔族に譲歩し事実上警護役を解かれることになっては大いに不服だろう」
「そ、そのようなことはございません」
妬心にかられてつまらない悪戯を仕掛け、レノラを傷つけてしまい、今回の一件の発端を作ってしまったことについては蒲公英なりに反省している。てっきり厳しい叱責の言葉が飛ぶと思い、蒲公英が顔を赤らめて否定すると、ガブリエルは莞爾として微笑んだ。
「無理をせずとも良いのだ。そもそもお前が槍玉に上げられた夢魔負傷の一件は口実に過ぎん。ある意味では長老に嵌められたというところかな」
「嵌められた?」
「どの道、長老は護衛協力を申し出ていただろうということだよ。その場合、なんら負い目が無くとも、絶対私が拒絶しないことも承知していたはずだ。今回の事件はそれを自然な形で運ぶための欺瞞工作に過ぎない。お前はその巻き添えになったのだよ」
「私を慰めるためとはいえ、ご冗談はお辞めください。未来を正確に見通すことなど上級天使や魔神でもそうそう出来ることではございません」
「それはそうだが、そうではないかもしれん」
「?」
「考えてもみよ。祭司の近辺に(この場合はエルウィンの友人であるネルに)近づく魔族に我々がどのような反応をするか、ある程度の予測はできる。第二に長老は積極的にレノラという夢魔の外出を控えさせようとした形跡がない。第三に、これは私の推測だが、お前がレノラに出会わなくても、かわりの誰かがいざこざに巻き込まれるように長老は仕組むだろうな」
「それはいささか・・・・」
牽強付会、こじつけ臭くありませんか、と蒲公英は言いそうになった。
「信じられぬなら一つ問う。お前は長老の名を知っているか?」
蒲公英は一時黙り込んで長老の名前を思い出そうとした。
「知りません」
「よいか。天使も魔族も主の被造物であることに変わりはない。それゆえに一定の属性と能力、そしてその限界を与えられている。名前は特定の枠組みで我々という存在を概念的にとらえやすくするためのもの。他と区別して認識するためのものなのだ。名の無いものは神通無辺にして広大。我々には認識できぬがゆえに名前を必要とせぬ。それゆえに主には固有の名が無いのだ」
「まさか?」
「うむ、今から話すことは世に知られる事無き真実・・・・もっとも主に近しい大天使と魔神たちの記憶にしか存在せぬ・・・いや我らが天使と魔族に別れる前のこと」
ガブリエルは二人しかいない謁見の間でぐっと声を潜めた。
「この世界が混沌から生じ天地別れて後、我らは主の代理人としてこの地に遣わされた。我らは被造物であるがゆえに、始まりがあり終わりがあり、与えられた属性による限界がある。人間たちには、主は始原から存在する唯一無二の存在であると云われてるがそれは違う。主同様に始原から存在するものはいる。かつてこの地上の支配を主と争った古(いにしえ)の荒ぶる神々やタルタロスに封じられた巨人族たちがそれだ。
主とその使徒たる我々はそれらの邪神たちを、あるいは滅ぼし、あるいは地の底深くに封じ込め、あるいは遠き宇宙の彼方へと放逐しこの地を万種の生物のために明け渡した・・・とされているが、それは主の威光をあまねく知らしめるための方便に過ぎない。
主は偉大だが、御一人で巨人族や邪神と戦い勝利をおさめることは困難だった。被造物である我々の助勢も限界があった。実際、戦局は決して有利ではなかった。 戦いの帰趨を制したのは、主の呼びかけに応じた十二人の古の神々の与力によるものだ。彼らは七賢五傑と称され、のちに長老派、あるいは十二使徒と呼ばれることになる・・・」
「十二使徒とは最初の千年祭の祭司に随行した十二人の人間たちのことではないのですか」
「それは歴史の陽の部分だ。この地の万物の霊を治める主の威光を顕かなものにするために千年祭は始められたのだが、各地に潜む邪神たちの眷族がこれを妨げようとする動きがあった。そのような状況下で人間たちだけの力で“門”にたどり着くことは不可能だった。また神々との戦いと、それに続く天使と魔族の分派抗争で我々も疲弊していた。第一回の千年祭の成功の陰には常に七賢五傑の助力があったのだ。
そして“ドミニオンの和約”の締結後、彼らは忽然とこの地から姿を消した」
「何故ですか?」
「そもそも彼らが邪神たちとの戦いで主のもとに馳せ参じたのは、敵の敵は味方という考えからだ。千年祭に協力したのは、我々と魔族との争いを見かね、“和約”締結への下敷きとして動いたのだろう。その証拠に二回目の千年祭には彼らは姿を現しておらんからな。
神通広大な存在の意志は測り難いものだが、彼らは自己完結的で他者への干渉を好まぬようだ。この地が静かであるなら、誰が支配しようが構わぬのだろう」
「・・・長老たちは・・・その・・・主に勝っておられるのですか?」
蒲公英は恐る恐る不敬な質問をした。
「主の力は至大だ。七賢五傑が一丸となっても主には勝てぬだろう。だが、もし両者が戦えばその結果を見届けるまで生きていられる者などおらぬだろう。私と同格かそれ以上の上級天使が十人集まっても彼らの一人に傷つけることもできんだろうな」
ガブリエルは苦笑した。
「あの長老はそのうちの御一人なのでしょうか?」
「多分な・・・」
ガブリエルのあいまいな返事に蒲公英は眉を顰めた。
「確信はあるが、確認は出来ぬ。向こうから身元を明かす意志がないかぎり、こちらからそのような問いを発することは禁忌とされているのだ。
天眼通(注釈 天地の事象を自在に見通す能力。この場合は天使の役職の一つ)によれば、あの長老は二百年前から彼の岩山に住んでいるとのこと。アスタロト公爵の任命でイスマスにやって来たらしいが、長老派が裏で動いたことは確実だ。神々は過去に通じ、先を読むといわれるから、おそらくは祭司がこの地から選ばれることを予見していたに違いないな。事の詳細が明らかにされることはなかっただろうが、魔族の総裁たちにしても長老派の依頼を受けることは損にならんからな。 長い年月の間に我らや魔族も身元や行方が分からなくなっている者は多い。本質を失い、怪物になってしまった者も。
先程も説明したように、長老たちの正体はもっとも古く有力な天使や魔神たちしか知らぬこと。アスタロト公爵は長老の依頼を受けて記録を改竄し、この地へ潜入するための手引きをしたのだろう」
そんなに昔から自分は警護役を罷免される運命にあったのだろうか。無能呼ばわりされる運命にあったのだろうか。
蒲公英は憮然とした。
ガブリエルは蒲公英の心中を察し、
「いや、長老たちもそれほどまで瑣末なことは予見できぬだろうし、出来たとしてもさしたる注意を払わんだろう。お前に関してはあくまで無数にある選択肢の一つでしかなかったはずだ」
慰めは蒲公英の立場になんの意味ももたらさないが、彼女はガブリエルの心遣いに感謝した。
「ドミニオンの和約以降、長老たちは地下に潜った。それ以来、二千年近くを経て、邪神たちの眷族が各地で蠢動をはじめる一方で、我々の同胞の中には堕落して荒野を彷徨する怪物になるものが増えてきている。あまりにも緩やかなので眼には見えぬが、我らの権威は徐々に崩れつつあるのだ」
ガブリエルは頭を振った。
「認めたくないことだが、我ら天使や魔族だけではこの天地の隅々まで眼が届かぬのは事実だ。長老たちは決してこの天地の間の揉め事に首を突っ込むのを好いてはおらぬようだが、彼らの助力なしには主の威光が四海の隅々まで行き渡らぬのだ。 この時期に再び長老派が動いたことには意味がある筈。長老の要求を受け入れ、お前を辱めたのもそれゆえのことだ。我慢してくれ」
「もったいない御言葉です」 ガブリエルのような上級天使が下位の者に謝罪の意を示すことなどあり得ない。蒲公英は驚き、慌てて頭を下げた。
「そこで今後のお前の身の振り方なのだが」
幾分ひそめ気味だったガブリエルの声の調子がもとに 戻った。
「面目を失った今のかたちでは、このイスマスではやり辛いだろう」
「はあ」
気落ちした蒲公英にはどう答えたものか分からない。
「私の考えるところでは三つの道があると思う。一つは崑崙に戻ってほとぼりが冷めるまで修業でもしながら待つ。二つには私の伝手で他所の地へ行き、今まで通り人界で働く・・・」
「三つ目は?」
思わせぶりにガブリエルが口を閉じたので蒲公英は尋ね返した。
「密かにエルウィンの後を追い、陰ながら彼女を助ける」
「それは・・・」
単純な発想なのだが、上位者の意志に盲目的なまでに服従する天使にとって、罷免されたも同然の役職を勝手に続けることなど思いもよらぬことだった。
「長老はお前の才覚に疑問を差し挟むような物言いはしたが、お前を外せとは要求しなかっただろう。行き掛かり上、あちらの人選とぶつかってしまったから、意地になってお前が遠慮しているだけなのだ」
「しかし・・・」
「魔族のものに頭を下げたり、負い目を感じながら同道するのが嫌なのだろう。だが、一方ではこの任務を放擲したくもないはずだ。東方には呉越同舟という言葉があるのだろう。努力すれば和解することも可能な筈だ。
まあ、どうするかはお前自身が決めればよい」
ガブリエルは立ち上がると蒲公英の傍へ行き、彼女の肩に手を置いた。
「此度の千年祭は祭司の人選からして異例なのだ。主に帰依しておらぬ亜人(作者注 エルフ等の人間型種族のこと。 第一話注 エルウィンはハイエルフの血を引いている混血児)の血統を選ばれるなど・・・・私もいささか判断が曇りがちのようだ。これも異例なことだが、私から其方に命ずることはせぬから、自分で身の処し方を決めるが良かろう」
「レノラ ! ほら、レノラ、服を着て」
「ふみっ?」
レノラの部屋へ戻ってきたゼニアは、レノラの衣装戸棚をあさると薄いピンク色をしたユッタリしたワンピースとシルクの下着を引っ張りだしてきてベッドの上に投げ出した。
掛け布団の下に潜り込んでふて寝をしていたレノラは亀のようにヒョコッと頭を突きだした。
「お姉さまぁ・・・」
「ほらほら、ほらほら、ちっとはシャキッとすんのよ」
レノラが拗ねてみせると、ご機嫌取りの一手しかなかったゼニアの対応が変化している。ゼニアに愛想を尽かされて冷たくされていると勘違いしたレノラは、虚勢を張って不機嫌そうな表情をした。
「レノラはオナカのキズが痛いから起きられないんですぅ」
「そんなこと言ってもダメよ。あんたはもう直ってんだから、いつまでも世話焼かせないの」
腕力に勝るゼニアが布団を剥ごうとする。レノラもしがみついて剥がれまいとした。暇さえあればゼニアにおねだりしてナニしているレノラは全裸である。めくれ上がった布団の端からムチッとした白い太股を突き出し両手両足で布団にしがみつく。
「そんなことないですぅ。お姉さま、レノラのこと嫌いになったですかぁ ! ?」
先刻までのゼニアなら、こんなことでも言えば、「そ、そんなことないわよ」とか言って甘え放題に優しくしてくれたのだが・・・・
「んなことないのは、こっちのほうよ。あんたに会いたいって人が来てるから、呼びに来たのよ」
「たとえ長老様でもレノラは会いたくないんですぅ。独りにしといてください」
優しくしてくれないので少し意固地になっているレノラ。
するとゼニアはレノラの予想に反してあっさりと布団を引っ張っていた両手を放し、踵を返して出ていこうとした。
「あっそう。んじゃ、しょうがないからボルテール君には帰ってもらいましょう。かわいそうよねぇー、禁足破って遠出してきたって言ってたのに」
呟きというには余りにも大きな独り言がレノラの耳に飛び込んできた。
「ん ???・・・・だれ ?・・・ネルくんっ ! ! 」
いつもネルくん、ネル君と呼んできたレノラには一瞬誰のことを言っているのか分からなかったが、気づくや否やガバッとベッドの上に跳ね起きた。
「きゃっ ! ! ・・・たっ、あたたたた・・・」
勢い余ってベッドから転がり落ち尻を打ってしまう。普段でも運動神経が足りないうえに寝たきりの乱れた生活を送ってきたので身体が急には動かないのだった。
「ったく・・・」
ゼニアが苦笑しながら手を貸して起こしてやる。
「ネルくん。ネルくん、どこですか?」
「こんな湿っぽいトコヘ連れてくるわけには行かないでしょーが。あたしの部屋で待たしてるわよ。・・・っと、こらこら、ハダカで行くんじゃない、ハダカで
! ! あの子が驚くでしょーが ! ! 逃げやしないから、キチンと身繕いしていきなさい」
喜びのあまり我を忘れ、一糸まとわぬ姿で部屋を飛びだそうとしたレノラをゼニアが羽交い締めにして制止した。
「うきゅ〜〜〜っ。お姉さま、はやくはやく連れてくですぅ」
「ったく、もー、そんなにはしゃいじゃダメ」
ゼニアはレノラを自分の部屋まで先導していく間、ともすれば上気して走り出そうとするレノラの腕をずっととらえて放さなかった。
レノラはゼニアが引っ張り出してきたゆったりしたワンピースを着ているが、これがマタニティー・ドレスに見えてしまうのは読者の先入観と妄想・・・だけではないかもしれない。
一方のゼニアは引き締まった腹丸出しの丈の短い黒のタンク・トップにトランクス。彼女は厚着が大嫌いで、普段はトップレスでショーツ一枚という格好もざら。戦闘時でも単独行の時は軽快さを重視してレザー・アーマーの胸甲一つに鋼の手甲と帯剣用の腰帯といういでたちである。
(作者注 まあ、SMで女性が身に付けてるビキニ状のレザースーツでも想像して下さい。肌を覆う部分が少ない鎧など防具としての意味がないなどと突っ込まないで下さい)
ここで一寸、閑話休題・・・
ちなみに四散してしまったレノラの魔法のレオタードはどうなったのか? 彼女たち魔族や天使たちが使用している魔法アイテムは、各地にある“工房”で専門職の魔族や天使によって特注生産(カスタム・メイド)されている。それらの品々は発注者の好みと用途に合わせてデザインされ、完成品受け渡しの時点で使用者の生命エネルギーに同調するように調整されるのである。チューニングされたアイテムは使用者のエネルギーを吸収して、特殊な効果を発揮したり破損した場合には自動再生したりするのである。使用者のエネルギーを吸収するということは、使用者を消耗させる(生命エネルギーの減少に応じて安全機構が働くので使用者が干からびてしまうことはない)ので、よほど生命力が強い者(上級天使や魔神)でないかぎり所有できるアイテムの数は限られている。ゼニアなら前述の軽装アーマーと一振りの長剣、レノラは体形保持(膨腹制御)用レオタードというわけである。
(作者注 その他の衣服、家具、食料など生活必需品は人間から購入している。でも魔法アイテムの衣服は使用者が死なないかぎり、汚れも損耗しないから一張羅の着たきり雀でも困らない。食料については、物質化し肉体を得ている天使や魔族は、少量の食物は摂取する方が効率良く身体を維持・制御できるらしい。喫茶、飲酒などという人間の習慣や娯楽も彼らに浸透している)
そういうわけでレノラの体力が回復したのならば、当然レオタードも再生している・・・のだが彼女の手元にはない。外出禁止を言い渡されて、長老に没収されているのである。
(作者注 長老にブルセラの趣味はありません。またレノラの使用済みレオタードは通信販売しておりませんので、当方への問い合わせはご遠慮下さい)
閑話終了・・・・
「レノラ、そんなに引っ張らないでったら・・・・危ない ! 階段が ! ! ・・・・イタっ
!・・・」
いまや腕をおさえているゼニアの方がレノラに引きずられてる様な状態である。体力的にも体格的にも通常ならそのようなことは有り得ないのだが、愛の力(笑)にはゼニアの膂力も及ばないらしい。まるで自分より大きな犬を散歩させてる子供のようだった。
「少しは落ち着きなさいよ」
「あぁん、そんなこと言ったってぇ。ネルくんのこと考えただけで、レノラ、濡れてきちゃいますぅ
! 」
「ちょっと、アンタねぇ。向こうはホントに心配して見舞いに来てくれてんのよ。なにヤラシイこと考えてんのよ」
「冗談です、冗談。いやらしいことなんか考えてないですぅ」
「いいっ ! あの子の前で少しでも変なコトしたら、あたしの部屋からつまみ出すわよ・・・・ったく、あんたが寝てる間にこっちはいろいろ苦労してんだから・・・」
ゼニアはレノラの両肩をつかんで振り返らせると、レノラの顔の前で人さし指を振り回し、半ば本気で脅した。
「はぁい。お姉さまの言うこと聞きますから、ネルくんに合わせないなんて、意地悪言っちゃイヤですぅ」
レノラが元気になってくれたのは嬉しいのだが、今の今までむくれていたのがこうまで豹変されるといささか不安になってくる。
ゼニアはネルの体質を知らないので、何故にレノラがこれだけ熱を上げているのか理解できない。
『レノラって、こんなに激しい少年趣味があったのかしら?』
(お待たせしました、読者諸兄。ゼニアの疑問はじきに氷解いたします。
Answer for your question. ん? 文法間違ってない?)
「ネールーくぅーん ! ! 」
「あっ? ! ど、どうも。こんにちわ」
レノラがゼニアの住居に勢いよく飛び込んで行くと、簡素な居間の椅子にチョコンと腰を下ろして落ち着かなさそうにしていたネルが立ち上がって挨拶した。足下には見舞いの品を入れた籐製のバスケットが置いてあり、半分開いた蓋からは別荘の庭で二人して摘んだ小さな花束が顔をのぞかせていた。
「そ、その・・・レノラさんが、ひどいお怪我をしたって耳に挟んだもですからお見舞いに・・・」
(作者注 レノラの名前は先刻、ゼニアに確認したらしい)
定かではないが情熱的な(?)記憶が蘇ってきたのか、ネルの顔がたちまち紅潮してきた。初体験と呼ぼうが童貞喪失と言おうが、十三歳の少年にとってはいささか刺激的で生々しすぎる記憶である。
「見舞いに来てくれたのぉ? レノラ、とっても嬉しいですぅ」
レノラはネルの手をとって握手した。本当は線の細いネルの身体を力いっぱい抱きしめたいところだが、彼女が不埒な行動に出ぬように背後でゼニアが目を光らせている。
「ま、立ち話もなんだから、二人とも座ったら。あたしがお茶でも入れるから」
ゼニアは、いつまでもレノラが手を握ったままなので、ドギマギしているネルに助け船を出した。
「あのう、・・・」
ネルが屈み込んでバスケットの蓋を開け、アンジャベル(カーネーションの旧称)の花束をレノラに手渡した。バスケットの中には、その他にもお手製のケーキと葡萄酒の瓶が入っている。(作者私見 グリム童話の赤ずきんみたいな場面だが、狼は最初からベッドの上で待っているところが違うんだな)
「ふみぃ〜〜〜っ ! レノラ、モーレツにカンゲキしてますうぅ ! ! 」
何百年生きてきたのか勘定するのは忘れてしまったが、花束をもらうのは初めてである。感動のあまり泣き出してしまうレノラにつられ、ゼニアまで思わずホロリとしてしまった。
・・・と、その途端、ワンピースの下でレノラの腹がプゥーーッと膨らんできた。
何故か?
理由は簡単。
この数日間、レノラとゼニアは暇さえあればナニしていた。いかにゼニアの攻めが下手であろうと、本格的に“本質”を結合させなくても、少量のエネルギーのやり取りはあったわけである。塵も積もれば山となるのたとえ通り、相当量のエネルギーがレノラの胎内に蓄積されていた。
だが、レノラはゼニアが優しく接してくれるのを良いことに、下腹の筋肉に力を込めて引き締め、己の肉体を制御し、満足しているのを隠してきたのだった。
それでも普段のレノラならその状態を隠し通すことが出来ただろう。くだんの膨腹破裂で“本質”が軽微な損傷(前述 ガブリエルと長老の会話参照)を受けていなければ。あるいはワンピースの下に魔法のレオタードを着ていれば。
そして花束に感動したレノラはうっかり肉体の制御力を弱めてしまったのだった。
このあたりが、魂魄と肉体が直結したエネルギー生命体の性ともいえる反応である。
「いやぁぁぁん、オナカが膨らんじゃう・・・」
レノラは慌てて自分の腹に手をやった。
台所へ立ちかけたゼニアが何事かと振り返った。
「わわっ ! ?」
またしてもレノラの腹が破裂するのではないかと思ったネルが、バスケットを蹴飛ばしてレノラの腹部に抱きつき、膨らむ腹を押さえようとした。
・・・が、そこまで。レノラの腹は妊娠七、八ヶ月の妊婦ぐらいの大きさで膨らむのが止まった。所詮、ゼニアの努力はここまでだったようである。
「ああ、ビックリしたぁ」
「驚いたのは、こっちのほうよ。いったい、どうしたってのよ?」
「ごめんなさい、お姉さま。お姉さまがあんまり優しくしてくれるもんだから、ついつい甘えてたんですぅ」
心底すまなそうにレノラは謝った。
「ま、まあ、何事もなかったんだから、気にしなくていいわよ」
自分の努力が無駄ではなかったと知って、ゼニアも満更ではない気持ちだった。 だが、二人の間で何事もなかったわけではない人間が一人いた。
ふと二人が気がつくと、ネルが腹に抱きついた時のままの姿勢で、レノラの足元にしゃがみ込んだままだった。
「ありがとう、ネルくん。もう大丈夫みたい・・・って・・・ん? ! 」
レノラが新たにせり出した自分の腹越しに見下ろすと、ネルが恥ずかしそうに内股でモジモジしていた。
「ごめんなさい。ぼ、ぼく、何だか身体の具合が・・・」
その先は言わずとも分かる。世の男性全てに共通の現象だった。 レノラの身体同様、ネルもあの晩以来抑えていた心のたががはずれてしまったようで、彼女の腹に手を触れた瞬間、その感触に正直すぎるほど肉体が反応してしまった。
「えっ ! ? ・・・あ・・・やだ・・・」
ネルの様子を見たレノラも見る見る顔が赤くなってきた。廊下でゼニアと交わしたおふざけではないが、本当に濡れてきてしまったのである。もしもネルの身体に触れたらどうにかなってしまいそうな気分だった。
自発的に席を外せばよいのだが、なんとネルから離れたくなかった。かといって、ゼニアに釘を差されている手前、妙なことはできない。
一瞬、部屋の中に気まずい沈黙が降りた。
停止した時間の針を再び動かしたのはゼニアである。彼女には二人のような特別な感情はないから、三竦みに加わる必要はない。
ゼニアは頭をフル回転させてこの状況の打開策をひねり出そうとした。
其の一、二人に冷水を浴びせかける。
別に犬が交尾しているわけではない。却下。
其の二、レノラをつまみ出す。
腫れ物に触るのは賢明ではない。事実、いまのレノラは腫れている・・・訂正、膨れている。もしも、彼女を追いだせば、具合が悪くなったと勘違いして、ネルがまた心配するかもしれない。却下。
其の三、ネルを隣室に連れていく。
レノラはネルに対して特別な感情を抱いている。それに隣の部屋は寝室である。いまの状態のネルを寝室に連れ込めば、レノラがどういう反応をするか予想がつかない。あたしはその手のことが苦手だから、却下。
其の四、何もないふりをする。 二人が落ち着くまで待つ。おさえとしてあたしがいれば大丈夫。それに、幸いなことにレノラもネルも自制している。うやむやに面会が打ち切られて気まずい思いを残さずにすむ。
うん、衆議一決、これでいこう。
「あら、ネルくん、慌てて転んじゃったみたい」
ゼニアは白々しく手を貸して、ネルを椅子に座らせようとした。 あくまで椅子に座らせるためである。立たせるとあそこまで起っているのが分かってしまう。
(作者注 ここからは客観とゼニアの主観が交錯しております。読みづらい点は御容赦下さい。すこし○○○○が伝染してしまった。 ○○○○が当たった人には私のビデオ・コレクションからなにかプレゼントします)
この世界の下履き(ズボンorスラックス)にファスナーなどというものはない。そのファスナーのない股間のあたりをネルは両手で押さえているのだが。
えらく突っ張っているわね。
その両手を押し戻すぐらいの勢いでなにかが。
この子、ポケットに動物でも飼ってんのかしら?
立ち上がってくる・・・。
下履きの布地の盛り上がりはさらに股間から臍下まで走り。
ああ、イヤだ。まるで・・・。
下履きを腰骨で支えている幅広の編み紐(ベルトのこと。この世界に金属のバックル付きの帯革など佩剣用の帯以外にない)に進路を遮られていたが。
・・・長くて、太くて・・・いったいあれは?
ついに下履きとそれにたくしこんだシャツの間から。
まるでアルビノのアナコンダみたい・・・(爆笑)
ネルの逸物が顔を出した。
「あっぶないわねえ。レノラぁ、あたし、口が縦にさけてる蛇って初めて見たわ」
短小包茎状態のネルのものしか見たことのないゼニアは、とっさにそれが何であるか認識できない。大ボケである。
いや、先入観が邪魔をしたといっても良い。
「お姉さまぁぁ ! ! お姉さまが握っているのはネルくんの‥‥(自主規制)‥‥ですぅぅぅ
! ! ! 」
「え??・・・・」
口が縦にさけた蛇に睨まれた蛙ではあるまいが、ゼニアは硬直して動けなくなった。しかも、ネルの息子の頭をギュッとつかんだまま・・・。
「い、痛いよ、やめて、ゼニアさん・・・」
腰帯と自分の身体に挟まれ、さらにゼニアに頭をつかまれて、痛いのか気持ちいいのかネル自身にも分からない。
ただし、あの晩以来エルウィンの別荘に預けられて、自慰の一つもしていないから溜まりに溜まっていることだけは確かである。そこへもってゼニアのアイアン・クロー(んなわきゃ、ねーだろ)と、目の前には風を孕んだ帆のようなマタニティー・ドレス(ネルには、そう見える)をまとったレノラが・・・。
小休止。んで、あとは怒濤のお約束。子供は就寝の時間ね。
「お姉さま、ひどいですぅ。ネルくん、泣かしちゃったですぅ」
「・・・・・」
正確には泣かしてはいない。だが、ネルは情けない表情で椅子に腰掛け、股間を押さえて羞恥に耐えていた。
一方のゼニアは頭の中が真っ白になって呆けている。ついでに血の気がひいているわけでもないのに少々顔が白く・・・白いものが付着していた。ゼニアにしても、何百年いの人生で何度か異性の魔族とも付き合ってきたが、ネルほど立派な男性は見たことがない。
魔族の中にもネルのような立派な所有者はいるが、大抵は自分の肉体を制御して変形させている類いである。いや、それ以上に人間という短命な種族の放つ、短い肉体の最盛期の輝きがネルのそれに象徴されているようで、その一瞬の光芒(あるいは精力)にゼニアは圧倒されていた。
「ねえ、ネルくん、恥ずかしがらないで」
ゼニアが呆けているのを良いことに、レノラは座っているネルに近寄っていった。胸元のボタンをはずし、ワンピースを着崩すと項から肩にかけての線をあらわになる。柔らかくて大ぶりな乳房を持ち上げ気味に腕を組んで媚態をつくると、ゆったりとした着衣が引っ張られて腹部の丸いラインがくっきりと際立った。
「ね、思い出した、あの晩のこと・・・・あの時みたいに。ね?」
ネルの射精を見て火のついてしまったレノラは止まらない。
「おねえちゃん?」
うつむいていたネルが顔を上げた。二人の目があうと、それだけでネルの精気がレノラの体内に流れ込んでくるような気がする。
「レノラって呼んで、ネルヴァ・ボルテール。あたしのお腹がパンパンになるくらい膨らませて・・・」
ネルが視線を落とすと、目の前にはさほど大きいとはいえないが丸みをおびた腹があった。妊娠後期にさしかかって腹部が目立ちはじめた妊婦ぐらいの大きさだろうか。レノラの腹はネルによってさらに大きく膨らまされることを望んでいるように息づいていた。
「レノラ・・さん、ほんとに大丈夫なの? 前みたいに破裂しちゃったりしない?」
「大丈夫よ。はやくぅ・・・」
レノラの言葉に合わせて重々しく揺れる腹を見ていたネルは、股間を押さえていた手を放し、おずおずとレノラの豊かな曲線美に手を伸ばした。
「あぁっ、そうよ・・・ネルくん、もっとさわって・・・いっぱい・・・」
「こらぁっ ! 二人ともアタシの部屋でなんちゅうことを ! ! ・・・・・・ねえっ
?・・・ちょっとぉ・・・・もしもし・・・アンタたち、聞いてるの?」
正気に返ったゼニアは、眼前でむつまじく身体をまさぐりながら、互いの衣服を脱がそうとしているネルとレノラを止めようとした。
しかしどこ吹く風といった風情で、二人とも自分たちだけの世界に浸りきっている。ゼニアにしても二人の様子を見た途端に再び舞い上がってしまい、いくら大声を出しても迫力を欠いていた。
敏感体質のゼニアにとっては、他人の濡れ場を見ること自体が相当な刺激で、急速に心拍数を増した心臓の拍動にも乳房がうずいてくる始末だった。
覗きの趣味があるわけではないが、思わず二人の行為に見入ってしまう。
「・・・あのぅ・・・そういうのって、良くないと思うんだけど・・・あ、アタシは見逃してあげるけど・・・そのかわり、見てもいいよね?・・・」
もう自分でも何を言っているのか分からない状態である。
「ねぇ、さっきよりオッパイ大きくなってるの分かる?」
ワンピースを脱いだレノラはネルのシャツのボタンをはずしながら、自分もブラジャーをネルにはずしてもらっていた。
すでにベルトを緩められていたネルのズボンが足首までずり落ちているのが滑稽だったが、二人とも格好など気にしていない。
レノラはボタンをはずす手を休めると、あらわになったネルの下半身に手をはわせた。彼女が男性的な体毛など一本も生えていないほっそりとした太股に指を滑らせたせいか、はたまた自分の手が柔らかいレノラの乳房に触れたせいか、射精して幾分萎えかけていたネルの性器が再び頭をもたげはじめた。
それに手を添わせるように軽くレノラが握りしめると、ネルのそれは夢操術の影響下で勃起していたときよりもさらに堅く(まあ、太さと長さは前回と同じくらいで勘弁してね。でないと、本当にアナコンダになっちゃうからね)精気に満ちて痛いほどに脈打っていた。事実、二人の触れ合っている部分を通じて、今まで以上に力強いエネルギーがレノラの身体に流れ込んできた。
レノラは亀頭に手をやると、まだ半分ばかり被っている包皮を思いきり剥いてやる。ゼニア目がけて出したものののこりが彼女の手のひらを濡らした。
レノラはしたたる精液を塗り広げるようにしてネルのものをしごいてやった。
「これ、ネルくんが出したものよ。ヌルヌルして気持ちいいでしょ? ・・・また元気になって、もっといっぱい出してね」
その快感に膝の力が抜けてしまい、ネルは少しばかりレノラに身体を預けてしまう。レノラはネルを支えてやりながら手を動かし続けた。
「そ・・んなの、レノラさんの手、汚れちゃうよ・・・」
そう言いながらも、ネルは自分のペースを保とうと我慢しながらレノラのブラジャーをやや強引に脱がせる。ネルのものを触っている間にサイズ・アップしたのか、窮屈そうにしていた乳房が弾けんばかりの勢いでネルの手にこぼれ落ちてきた。
「ふふ、ネルくんのが汚いだなんて・・・レノラ、もっといいことしてあげちゃう」
レノラはネルの手を振りほどくと彼の足元に膝をついた。
「とても全部は口に入りきらないけど・・・」
そう言うやいなや、レノラはネルのものを口に含んだ。
「だめ、ダメだよ・・・そんな・・・」
腰を引こうとしたネルのものに熱いレノラの舌が絡みついてくきた。片方の手でネルのものをしごき続けながら、もう一方の手をネルの腰にまわし動きを促してやる。
初めて口で愛されるその感覚にネルは抗えない。じきに自発的に腰を動かすようになった。レノラはネルの動きに応えていっそう深く激しく彼のものを愛してやる。
「んんっ・・・んむっ・・・ネルくんの出したの、全部舐めちゃったけど、かわりにあたしのでヌルヌルにしてあげるね」
いったんネルのものから口をはなすと、含みきれなかった部分に舌を這わせた。ネルの長大な逸物の端から端まで丹念に舐め、接吻する。睾丸を軽く揉んでやりながら、レノラの唾液で濡れたものをしごき続けると、じきにネルのひざ頭が震えて頼りなくなる。
「で・・・レノラさん・・・出ちゃいそう・・・」
「待って、ネルくん・・・お口で受けてあげる・・・」
タイミングを見計らってレノラが再び亀頭を口に含むと同時に、ネルが腰を痙攣させて射精した。さっきゼニアの手の中で出したばかりなのだが、濃く熱いたぎりがレノラの喉を叩く。
「・・・・んくっ・・・ネルくんの・・・おいしい」
その量の多さにレノラは少しむせながらも、ネルの出したものを満足そうに飲み込んだ。
『わっ・・わっ・・レノラってば、大胆・・・』
「レノラさん・・・」
しばし射精後の放心状態になっていたネルだが、気がつくとレノラがまだ彼のものをしごき再び起たそうとしていた。
「よかった?・・・ね、今度は一緒にしよ・・・床の上じゃ冷たいから、あたしが下になるね」
そういってネルの手を取り、レノラは床に横になろうとした。
「待って」
ネルは逆にレノラの手を取り、彼女を引き起こそうとした。
「え?」
ここでするの、イヤなの?、という表情でレノラはネルを見上げた。
「ずるいや、レノラさんばっかり・・・その・・・僕も・・・」
恥ずかしくて口ごもってしまうが、ネルは思い切っていった。
「僕もレノラさんにしてあげたい・・・」
そういってネルはレノラの身体を抱き上げようとした。
しかし、体格的にレノラよりも小柄なネルに彼女を持ち上げられるはずかない。それでもネルは全力でレノラを動かそうとした。
『ネルくん・・・』
レノラはこの前のように背中に小さな翼を生やすと、飛空術を使って体重を軽くした。
「ん、よいしょっ ! 」
そうとは知らないネルは御機嫌で両腕に担いだレノラを抱きしめた。こういうことができると、ネルのような少年にしても自分が一人前の男性になったような気がするものらしい。少しばかり自信に満ちた態度で、積極的にレノラの唇に接吻した。 レノラの唇には先程ネルのものを受けた残り香がある。自分のものの味にネルは軽く顔をしかめた。
「レノラさん、ホントに僕のおいしかったの?」
「うふっ、子供には分かんないのよ」
耳元でレノラがからかう。
「僕は子供じゃないよ。ちゃんとレノラさんにだってしてあげられるんだから」
そういうと、ネルは居間の真ん中に据えられている横長の足の短いテーブルの上にレノラを横たわらせた。赤いテーブルクロスにレノラの白い肌がはえる。
二人とももはやここがゼニアの部屋であることなど意識していない。ついでに部屋の主の存在も完全に失念していた。
一方のゼニアは息を殺して二人の行為に見入っている・・・その顔は未だ拭われておらず、ネルの射精したものが付いたままである。ゼニアは二人に見られぬようにそっとそれを指ですくうと、口に運んだ・・・
ネルは拙い手つきでレノラのショーツを脱がせた。彼女の秘部を覆っていたそれは、湿っぽくて扇情的な異性の匂いを放っていた。
ネルはレノラの横たわるテーブルの横に膝をついた。
「そんなに見ないでよぅ」
ネルに両股を開かされたレノラは恥ずかしそうに手を伸ばして股間を隠した。レノラの羞恥心とは裏腹に、彼女の肉体はネルの積極的な愛撫を期待し、彼の精を受け入れた腹部は先程よりも一回り大きくなり、月数が進んで出産予定日を大幅に越えた臨月の妊婦のようになっていた。
経験が豊かではない(少なくとも、本人にはその自覚がない)ネルにしてみれば、複雑繊細でツボを心得た技巧でレノラを喜ばせることなどできないことは承知している。ただ先程レノラが自分にしてくれたことをそっくりそのまま模倣してお返ししてあげるだけである。
「ねぇ、レノラさん、両手をどけてよ」
本気で恥ずかしがっているのか、レノラがなかなか股間を覆う手を放そうとしない。脚はネルの両腕で押さえているのだが、彼が顔を近づけて下腹部に吐息が感じられるようになると、半ば本気で太股を閉じようとした。そうはさせじとネルはレノラの身体を引き寄せて、彼女の内股の間に自分の身体をおいた。
「させてくれないんだったら・・・」
ネルは迂回戦術をとることにして、レノラの膨らんだ腹に接吻した。
「あぁん・・・」
下腹の辺りをまんべんなく接吻されて身をよじるレノラ。
「お腹、さっきよりも少し大きくなったみたい。おへそも出てきちゃったね」
ネルは舌の先でレノラのヘソを突っついた。この部分は腹部でもいちばん皮と筋肉が引き伸ばされて薄くなっている。そこに触れられると直接愛撫が体内に響いてくる。
「そんなにしちゃ・・・」
膨らんだ腹に執着するネルの愛撫は、技巧に偏るその道の玄人よりも素晴らしい快感をもたらす。レノラは知らず知らずのうちに指を動かして自分で自分を慰めてしまう。花弁は溢れんばかりの蜜でうるおい、彼女の芽は痛いほどにとがって堅くなり、蜜蜂がやって来るのを待っていた。
「おねがい、ネルくん・・・して・・・」
自分からおねだりするのは恥ずかしいが、それ以上に我慢を続けて自分を慰めるのは無理がある。
ネルが視線を落とすと、レノラが自分で花弁を両側に広げてみせた。ネルはうなずくと、レノラの秘部にそっと唇を寄せた。
「ああぁ・・・いい・・・いいわ、ネルくん・・・」
ネルの舌が堅く充血した芽をそよがせ、花びらをめくり、唇がとめどなくあふれ出る蜜をすすった。その淫靡な音がますますレノラの羞恥心をかき立てた。
「・・・くふぅ・・・そんな音・・・そんなに吸っちゃダメぇ・・・」
子宮が丸ごと吸い出されそうな感覚にレノラの背が弓なりに反り返った。
「レノラさんのも、おいしいよ。・・・ねえ、もっといっぱい出して・・・」
そこが蜜の貯まったタンクであるかのごとく、ネルがレノラの腹を撫で回す。それに答えるように内圧が増し、腹はさらに大きく膨らんでいった。
「あぁ・・たし・・もう、自分で触ってらんない・・・お、おねがい。ネルくんの手で・・・」
自分で花弁を左右に広げていたレノラにかわって、ネルの手がそこに触れる。
「・・・そうよ、もっと・・・指も入れていいから・・・もっとあたしの身体の中を掻き回して・・・」
『あ、あたしも・・・なんか変になっちゃいそう・・・』
二人の行為を眺めていたゼニアは、知らず知らずのうちに自分の胸をまさぐり、トランクスの内側に手を差し入れていた。
人間の美少年が(しかも馬並? 以上? にでかいし、射精の量も回復力も半端ではない)が、レノラの膨らんだ腹を、そして股間を・・・。
他人の行為を、しかもこんな間近でみるのは初めてである。短命で傷つきやすく病気にもかかりやすい人間の肉体が、これほどまでに魅力的だと思ったことはこれまでなかった。
『もしも、自分もあんなにしてもらったら・・・』
そう考えただけでもいってしまいそうになる。
ゼニアの手は無意識のうちにトランクスの下で動いていた。
「ぼ、僕、もう我慢できないよ。そろそろいいよね?」
レノラの秘部を攻めている間に回復したネルが辛抱できなくなって身体を起こした。
「あたしも・・・」
仰向けになっていたレノラも起き上がって、テーブルの上からおりた。そしてテーブルの端に手をつくと、ネルの方へ腰を向けた。
「ね、後ろから・・・」
「え?・・・その・・・正常位じゃないの?」
ネルにしてみれば初めての男女がするときは、互いに向き合って正常位でするものだと学校の級友から聞いていた。その他にもいろいろ彼には想像できない体位があるらしいが、いきなり後ろからと言われると戸惑ってしまう。
一方のレノラにしてみれば、この前の晩からの延長戦という感覚があったのでこのような体位を望んでいた。
「僕、レノラさんのお腹が大きくなるのを見ながらしたかったのに」
「ダ〜〜メ。もっと大きくしてくれたら、ネルくんの好きな姿勢でさせてあげる」
「でも、これ以上お腹が大きくなったら、向かい合ってできなくなっちゃうよ」
あくまでネルは正常位にこだわっている。
「ネルくんのものならどんな体位でもできるはずよ。それにあたしは妊婦さんじゃあないんだから、オナカの上に乗っかっても大丈夫なのよ。だから、ね?」
レノラは双子を孕んだような腹を軽くポンポンと叩いた。実際、ネルの長大なものなら大抵の姿勢で不自由なく結合できるし、レノラも前回破裂してしまったとはいえ、彼の寝室いっぱいになるまで膨らんだという実績(?)がある。
「そう? そんなら約束だよ。次は僕の言う通りにしてね」
ネルもようやく妥協した。レノラにしてみれば、最低でも二回するという約束を取り付けたわけだから心中の喜びはいかばかりか。
「それじゃあ、レノラさん・・・」
「うん、一緒に・・・」
ネルはレノラの秘部に自分のものをあてがった。ネル自身の記憶にはなくても、身体は前回までの経験を覚えているもので、本人は初めてのつもりでも手慣れたものがある。 レノラができるだけ下腹部の力を抜いて腰を後ろへ落とすと、ネルもそれに合わせてゆっくりと腰を進めた。
深く、深く、深く。何度やっても、ネルのものを受け入れるのはきつくて大変だが、それでも彼のものはレノラの胎内におさまった・・・
「ああぁ・・・ネルくんの、オナカの中に届いてる・・・」
下腹部がいっぱいに満たされ、膝をついた両足ががくがくと震えた。
「レノラさんの中、あったかい・・・」
周囲から締めつけられる感覚に抗ってネルが力を込めて腰を動かす。
「ぐはっ ! ・・・も、もっとゆっくり・・・馴染ませないと・・・レノラのお腹が破裂しちゃうぅ・・・」
本当に破裂してしまう危険性はないのだが、奥の奥まで届かされる感覚についていけない。
今日のネルはガブリエルの術で体質を強化されていなくても強い。それは自分で望んでレノラと結ばれようとする、彼自身の魂と生命エネルギーの力だった。
レノラの声を聞いたネルははやる気持ちを抑えてゆっくりと抽挿を繰り返す。だが無理にペースを落とすと、リズムが乱れて焦点が定まらない。結果として、錐であけた穴をこねくり回して無理やり広げようとするような動作になってしまう。
(←我ながら、なんちゅうひどい比喩だ)
ネルの不穏な腰づかいで目茶苦茶に体内を掻き回されるような感覚に、レノラは慣れるどころの騒ぎではない。快感とも苦痛とも判別のできぬ感覚にレノラは翻弄される。
「ちょ、ちょっととめてぇ ! ! ほ、ほんとに・・・・マジで・・・」
感覚過多で体内の気(生命エネルギー)の循環に支障をきたすと、本質の傷ついているレノラは容易に肉体の制御力を失ってしまう。
パニクったレノラの身体が急激に膨らみ、臨月の双子状態を通り越し、一気に三つ子も容易におさまりそうな大きさになる。それにつられて乳房もサイズアップし、机の上に付いた両腕を左右に押し広げた。
レノラのあまりにも急激な膨張は、背後から彼女の腰を抱えているネルの目にも明らかである。ネルは慌てて自制心を総動員し、腰を動かすのをやめた。
「アハァッ 、ハア、ハア、ハア・・ハア・・ハア・・・ハア・・・・ネルくん、あ・・・あ、ありがとう・・・」
ようやく落ち着いたレノラが肩で息をしながら振り返る。レノラの腹は先程までの倍ほどの大きさになっていた。六つ子を孕んだ臨月の妊婦とでも言うべきか、重そうに垂れた巨腹が膝をついた床に届きそうだった。乳房も予想外に膨らんでテーブルについた両腕と等分に彼女の体重を支えていた。
「お腹の具合、大丈夫? ホントに破裂しちゃいそう? やめちゃおうか?」
ネルは心配そうに反り身になったレノラの背をさすった。
急速に増した内圧のせいでネルのものも締めつけられていて、今更抜こうとしても抜けるものではない。なんだかこの前の晩のような最悪の状態になりつつあるような気がする。
「だ、大丈夫よ・・・ネルくんのものがスゴイから、気持ち良すぎて少し取り乱しちゃっただけ・・・あたしのお腹、まだまだ大きくなれるから・・・大丈夫・・・続けて・・・」
これを克服してこそ、本当にネルと一つになれる。その思いが自信を失いかけたレノラを支えた。自分から腰を動かし、進んでネルのものに馴染み、ネルの注ぎ込んでくる全てを受け入れようとする。
「・・・んんっ・・・いいっ・・・いいよ、レノラ・・さん・・・」
ネルもレノラの背に身体を預け、背後から彼女の腹に手を回しながら腰を進めた。もはや正常位がどうとか、次のこと後のことなど考えていない。この一瞬に全てを燃やし尽くすつもりで彼女の思いに応えようとした。
『ああっ・・・スゴい・・・レノラってば、あんなに大きなお腹揺らして・・・』
ゼニア自身の指も二人の動きに同調しているかのように止まらない。
(ちょいと一服、休憩な)
「ああぁ・・・レノラさん、すごいや・・・こん・・なに・・・・」
急速に膨らむレノラの腹は今や床に届いている。上半身は乳房、下半身の体重は腹で支えている状態になりつつあった。
レノラ自身とその背後から身体を預けているネルの体重も加わって、圧迫されて変形した乳房と腹がミシミシときしんだ。膨らみには余裕があっても、二人分の重さを支えるのはつらい。レノラが腰を前後に動かすと、それにつられて腹も揉まれ、パーンと張った皮が今にも破けてしまいそうなほど捻じれて不均等な圧力がかかる。だが、そのような危険もおかまいなしにレノラはネルを求め続けた。
「もっと・・・もっと・・・・いいのぉ・・・ああぁ、もっと・・・もっと膨らませて・・・・いひっ
! ! ・・・膨らんじゃう・・・オナカ、パンクしちゃいそう・・・」
行為が進むにつれてますます腹は膨らみ、腹にかかる圧力が増す。そうすると締まりが良くなり、ネルのもので胎内を掻き回される充実感も一層増す。その快感の循環には、膨腹破裂の危険があるという理性の声など通用しない。逆に腹の弾力を利用してますます激しく腰をつかった。
「ぼく・・ぼくも・・う、いっちゃいそ・・・・」
「もう少し・・・もうすこしで・・・あ・・たしも・・・」
いまや押しつぶされた超腹超乳は、横に張り出すかたちで変形している。レノラの手足は完全に床から離れ、ネルもまた彼女の両足の間からはみ出してきた下腹部の上に膝をつくような体勢になっていた。巨大に膨れ上がり、押しつぶされて変形した腹が円形のベッドのようで、その上で二人が後背位で交わっているように見える。
もしもこのままの体勢で二人が絶頂に達すれば、急速に腹の内圧が上昇してレノラの肉体の限界を超えることも・・・・。
『・・・っ ! ! ・・・ヤバイっ ! ! マジでレノラのお腹が破裂しちゃう !
! 二人の姿勢を変えさせないと・・・』
自慰に浸っていたゼニアが、三度目の軽い絶頂を迎えたあとの虚脱感の中でふと事態の深刻さに気がついた。
ゼニアは慌てて立とうとしたが、自分の蜜でビショビショになったトランクスが股間にまとわりつき、自慰の余韻で足がふらつく。
目の前では二人とも最後の瞬間を控えて今まで以上に動きがペースアップしている。レノラの腹はパンパンに膨らみきって、限界まで引き伸ばされた皮膚は艶のある光沢を帯びていた。
ゼニアは背中から翼を生やすと二人の背後に飛びかかった。
「ハっ ! ! ああああああぁぁぁぁぁ ! ! 」
「いくううぅぅぅぅぅ・・・・! ! 」
二人が達した瞬間、ゼニアが背後から手を伸ばし、ネルの身体越しにレノラの肩に手を掛けると火事場の馬鹿力で二人を一気に引き起こした。
偶然とはいえゼニアが飛空術をつかっていたのは賢明な判断だった。もし二人を引き起こす際に一瞬でもゼニアの体重がわずかでも負担をかけていれば、レノラの押しつぶされた超巨腹は耐久力の限界を超えて大爆発をしていたに違いない。 ネルはゼニアとレノラの間に挟まれながら、今までに経験したことのないほどの絶頂をむかえた。レノラの体内深くに挿入されている長大な逸物から、一度の射精としては並外れた量の白濁した液が、限界まで膨らんだ彼女の腹を突き破らんばかりに子宮の底に叩き付けられた。
レノラはその瞬間、ネルの与えてくれる愛情と精気の全てを受け入れた。背後からゼニアに抱き起こされながら、ネルが注ぎ込んでくる熱い怒濤を限界に達しつつある巨大な腹に貪欲に飲み込んだ。
持ち上げられたレノラの身体の下から、まさに爆発的な勢いで膨らみ始めた超巨大な爆腹が飛び出し、先程まで彼女が手をついていたテーブルと椅子を前方へ押しやる。テーブルの上にあったネルの花束はその勢いで床に落ち、床に置いてあったケーキの入ったバスケットもいささか乱暴に二三回転した。テーブルの角に当たった腹の皮が破れなかったのは幸運以外のなにものでもない。
膨らむ腹に押されてバランスを崩した三人は、そのままの姿勢で折り重なるように尻餅をついた。
一番下になったゼニアは、二人に膝の上に乗られて動けなくなってしまった。初めて身近に触れる人間の少年の肉体に魅せられてしまい、ネルの背中にぎゅっと抱きついた。
射精の余韻で痙攣しているネルの腰を両太股に感じてしまい、思わずいってしまうゼニア。
ネルは絶頂の余韻でビクッビクッと腰を震わせ、その間にも止めどなく緩やかに射精し続けた。
レノラの腹と乳房は膨らみ続け、背は反り返り、顔は自分の胸の谷間に挟まれて窒息寸前というありさまになってしまう。
“岩山”の住居はどこも天井が高く作られているので、レノラの腹が天井に接触するということはなかったが、それでも彼女の腹は直径二メートル超、彼女自身の身長よりもはるかに大きくなっていた・・・・
(本日はここまで。なっ)
「あぁん、ネルくんの抜いちゃイヤですぅ」
「こらこら、イヌじゃあるまいし、いつまでもつながってんじゃないわよ」
三人が離れるのは結構骨の折れる仕事だった。
重ね餅になったうえにレノラの小山のような腹に組み敷かれているのである。まずレノラが力技で一番下から抜け出し、身体の自由を確保した。そしてレノラに飛空術を使わせて体重を軽くし、二人で力を合わせて腰を持ち上げ、ネルが抜け出す余地を作ってやる。その際、ネルのものが再び元気になったりしないように、刺激を与えないよう三人とも機械的に作業を行うのが大変だった。
今まで息が詰まりそうなほど満たされていただけに、ネルのものが萎えてズルズルと自分の体内から引きだされていくと、五臓六腑が抜き取られてしまうような喪失感に襲われてしまう。
切なくなったレノラが悪戯心を出してきゅっと締めると、半分ほど引きだしたネルのものが再び堅くなりはじめた。
「レノラァァァっ ! ! 」
パァァァーーーーン ! ! !
怒ったゼニアが本気でレノラの尻をひっぱたいた。赤く腫れるどころではない、紫色の痣になるような勢いである。
(レノラのお腹が破裂したと思った人は残念でした)
その怒気に一瞬にしてネルのものが萎え、二人はようやく離れることができた。
「グスっ・・・・い、痛いですぅ」
巨大な腹を抱きかかえて身動きのできないレノラは涙目でゼニアを見た。
「欲張らないの。これ以上したら、本当にあんたのお腹破裂しちゃうわよ」
ゼニアが諭すように言う。
「ごめんなさいですぅ」
レノラも素直に謝った。
「ぼくも時々遊びに来るから。ね?」
完全に萎えて元の短小状態になったネルも慰める。
部屋の空気も和んで落ち着いてきた。
「ねぇ、お腹空かない?」
「そーいえば、ネルくんが何か持って来てたですぅ」
「そうそう、僕、ケーキ作ってきたんだよ。ええっと・・・」
ネルが転がっているバスケットを拾い上げて中をのぞき込んだ。バスケットの中は葡萄酒の瓶が割れこそしなかったものの、相当転げ回ったらしい。
「少し潰れちゃってるよ・・・」
ネルが顔を上げて眉をしかめた。
「そんなの、関係ないわよ」
「ネルくんのお手製なんて・・・レノラ、モーレツに感激ですぅ」
「感激はもういいの。これ以上膨れたらどーすんのよ?」
ゼニアが軽くレノラを小突くと、三人は声をそろえてドッと笑った。
(ほのぼの路線もたまにはいいか・・・)
ニャグウゥー
「あれ? 黒猫がいるよ」
どこからともなく部屋に現れたエウリジェアにネルが気づいた。
「エウリジェアよ。どこから入ってきたのかしら?」
ゼニアが椅子から立ち上がった。
ざっと片づけた居間で三人はお茶を飲んでいた。レノラはゼニアが寝室から運んできたマットレスの上に寝ていた。午後も遅くなってきたので、そろそろネルも帰らなければいけない時間である。
「ねえ、触ってもいい?」
トコトコと歩いてくるエウリジェアにネルが手を伸ばした。
「ええ、いいわよ。でもレノラには近づけないでね。お腹に爪でもたてられると大変だから」
ゼニアが何気なくエウリジェアと見つめると、グロートゥスの声が頭に響いた。
『お楽しみのところ申し訳ないが、長老が戻ってこられた』
『ちょっと、それって・・・・』
ネルを連れ込んでいることがばれてはまずい。
『大丈夫だ。そちらのことはすでに知っておられる。そのことは不問だ。お前とレノラに用があるそうだが・・・・レノラは無理なようだな』
確かに今の状態のレノラは、立つことはおろか身動きもままならない。万一立つことができたとしても、巨大な腹を抱えていてはゼニアの部屋の扉をくぐることは不可能だろう。
『お前だけでもいい。急ぎの用ではないから、人間の少年を送り返した後で謁見の間へ来い』
『分かったわ』
謁見の間・・・ということは?
ネルの帰宅後。
「ゼニア、参りました」
魔族の謁見の間は、天使たちの寺院と違って黒曜石を基調とし、暗く重々しい。ただ荘厳である点のみが共通してる。四方の壁には、この世界に顕在化したルシフェルを筆頭に魔族の総裁達の姿を模したレリーフが彫り込まれている。
この大広間は岩山の最深部、地下十三階から十階の四層を縦貫している。各階層はもともと天井が高く、しかも階を隔てる岩盤は相当な厚みを持っているので、これを貫く謁見の間は相当広大な空間を占拠している。ゼニアが飛空術をつかって飛び回れるほどの広さで、総裁たちが来訪する際には饗応役の魔族たちが空中剣舞を披露したりもする。
謁見の間の中央では長老が待っていた。長老の左側には鉄色の巨大な柱が二本聳え立っている。これなん、黒猫エウリジェアの飼い主グロートゥスの両足である。広間の照明は人間サイズの魔族にあわせてあるから、見上げても光の届かない薄暗い天井同様、グロートゥスの容貌は分からない。長老の右側には侍従よろしくエウリジェアが腰を下ろして髭の手入れをしていた。
「ラウリウムから帰ってきたばかりで、まだ疲れも癒されておらぬことと思うが新しい任務を命ずる」
一片の同情もない形式的な口調で長老は慰めの言葉をかけた。
ゼニアは敬礼すると二人と一匹の前に跪いた。謁見の間での下命は最重要の扱いを受ける。ゼニアは彼女なりに(相変わらず薄着だったが)戎装(武装、軍装のこと。ゼニアは戦士系だからを礼服はこうなる)を整えていた。
長老は相変わらず魁偉な容貌に読解不能な表情を浮かべている。頭上はるか彼方ではグロートゥスがわずかに身じろぎしたのか、頭上の気流が不規則な流れをつくった。
「イスマスのゼニアよ。汝に問う。
汝が手に携えたるものは何か?」
「我が右手に携えたるは剣、左手に携えたるは師より学びたる戦士の教えであります」
「汝が振るう剣の正しさは何をもって証明されうるのか?」
「我が剣の正しさは、主とその代理者である総裁達の意に従うことによって証明されます」
「よろしい。それでは申し渡す。お前は三日後にレーヴェンの村へ赴き、出立の準備を整えた祭司エルウィンに合流。、西方まで彼女に同行し、護衛をつとめること」
「はい」
驚いたゼニアだが、受命中に感情をあらわにすることは許されない。ゼニアは黙ってうなずいた。
と同時に、蒲公英と同行か、と思ってウンザリした。それを察したわけでもあるまいが、長老が言葉を続けた。
「天使側の護衛に関しては若干の異動があることを先方が申し入れてきた。アフラまでは護衛はお前一人だ。彼の地にて新しい護衛と合流し、以後行動を共にすること」
『ということは、蒲公英は外されたということかしら? やれやれ、天使と一緒に長旅をするっていうだけでも疲れるもんね。多分、長老様が気を利かしてくれたんだわ』
「ただし、今回の人事に関しては先方は相当の不興を示している。祭司の安全にかかわるようないざこざは絶対に避けるように。それ以外の所では、多少の意地の張り合いははやむを得ん。我らの名誉を辱めぬよう、お前なりに考えて対応するがよい。
それと、旅のはなむけというわけでもないが、若干の贈り物がある」
長老が合図すると屈んだわけでもないのにグロートゥスの巨大な手がスルスルと降りてきた。巨大な手のひらには一振りの長剣と何やら小さな光るものが乗っていた。
長老はまず長剣を手に取ってゼニアに差し出した。
「私のつくったフランベルジェ(剣身が炎のような形状をした両手剣。傷口を広げるのに有効。残酷だね)だ。お前が扱いやすいように火系の属性を強めてある。今の剣よりはるかに強力だ。あとでグロートゥスに調整してもらうとよかろう」
「お心遣い感謝します」
「それともう一つ」
長老は光るものを取り上げた。指輪にはいささか大きすぎる金の輪である。
「お前の本質と能力の根源は額の角にあるのだったな。これを角にはめるがよい」
金の輪を手渡されたゼニアは正直にそれを自分の角にはめた。途端に金の輪は角の根元をぴったりと締めつけた。
「いたたっ、こ、これはいったい何なのです?」
ゼニアは慌てて輪を角から外そうとしたが、もはや輪は根が生えたように食い込んで外せなくなっていた。
「すまんな。ガブリエルとの約束でな。お前が護衛としての役目を逸脱せぬように、この輪をはめさせることを条件の一つとして持ち出されたのだ」
そういって長老が何やら口中で呪文を唱えると、金の輪がぎゅっとゼニアの角を締めつけてきた。
「痛いっ、やめて、やめて下さい」
あまりの激痛にゼニアは謁見の間での礼儀も忘れ、頭を抱えて七転八倒した。
金の輪はただ締めつけるだけではない。ゼニアの本質を捉え、体内のエネルギーの循環を妨げるのである。
「ああ、すまんすまん」
今度ばかりは長老も幾分かの同情を示して呪文を唱えるのをやめた。
「今のは緊箍呪といって、その輪を操るための呪文だ。この呪文は祭司だけに教えることになっている。お前には厄介なことと思うが、天使側の不信を拭うにはある程度の不便は忍んでもらわねばならん。無論、お前が護衛の任を降りたいというなら、すぐにもその輪は外してやるが」
ゼニアは知る由もなかったが、これこそ十二使徒のつくった魔法アイテムの一つ“金箍”である。大きさは変幻自在で、頭に被ることもできれば腕輪や首輪、胴鎧としても使うことができる。元来、折伏した妖魔や魍魎の類いを使役させるときに使うアイテムで、被使用者の体内機能を自在に制御できる優れ物である。
ガブリエルは長老の正体を看破した時点で、この伝説のアイテムの存在を思い出し、これを天使側に利する条件として持ち出してきたのだった。
「いいえ、これが護衛参加の条件であるというなら結構です。天使側がどう思おうが、私は与えられた勤めを疎かにはいたしません」
いささか憮然としながらもゼニアは改めて任務受領の意志を示した。
「よしよし。まあ、そう不機嫌になるな。ガブリエルはこの“金箍”の能力の半分しか知らん。これはお前の本質を制御できるが、それはマイナスとばかりは言えん。逆用すれば本質の限界を拡大し、一時的にだがお前の能力を飛躍的に高めることができる。ただしお前が蓄えているエネルギーの総量は限られているから、攻撃力や機動力と引き換えに若干持久力は落ちてしまうがな。
祭司の安全をはかるときのみこの能力が発現するように調整をしてやるから、これを利用して天使側の護衛を見返してやるがよかろう」
これを聞いて、ゼニアも溜飲が下りた。
「お前の任務についてはここまでだが、もう一つ言っておくことがある。レノラの処分が決定した」
ゼニアは、レノラも(動ける状態なら)同席するように言われていたのを思い出した。
「彼女はイスマスから追放されると決定した。今後五十年はこの地に足を踏み入れることはあいならん」
ということは、ネルに会えなくなるということなのだろうか。ゼニアは少しばかりレノラが可哀想になった。
長老が合図すると再びグロートゥスの手が下りてきた。手には取り上げられていたレノラのレオタードがあった。
「退去の日限は十日以内、行くあてや希望の土地があるなら私が紹介状を書いてもよい。この衣服に関しては、あれの体質も変化(膨らみやすくなった)しているようだから、特に儂が強化処置(圧縮率大幅アップ。今後を楽しみにしてよな)をしておいた。それから・・・」
長老はどこに隠していたのか、ゆったりしたローブの下から一本の短い杖を取り出した。杖は木とも金属とも判然としない奇妙な材質でできており、二匹の蛇が絡みついた浮き彫りが施されていたがゼニアに与えられた武器のような獰猛な感じは一切しなかった。
「カドケウスの杖だ。地脈からエネルギーを得、治癒魔法の効果を高める。あれは本質が傷ついて以来、例の少年の精気に対する依存度が高まっておる。このままでは少年の精気なしには生きていけなくなるだろう。
この杖を使ってエネルギーを得、人間の精気に惑わされぬようにして本質を癒すようにお前からすすめるがよい。あれは治癒魔法を使えるから、病んだ人々を助け、功徳を積んで罪業を清めるよう努めさせなさい」
これで話しは終わったのか、長老はゼニアに退出するよう軽くうなずいた。 ゼニアが預かったアイテムを両手に抱えてさがろうとすると、長老が背後から声をかけた。
「ああ、一つ言い忘れておった。レノラの相手をしておった少年だが、アフラの親族の元へ転居することになったようだ。ここを出た後、目立った振る舞いをせぬようにお前からも釘を刺しておいてくれ」
「承知いたしました」
レノラはイスマスを追放されるが、他の地でどのような生活を送ろうと長老の関知するところではないということなのだろう。つまりアフラに転居したネルに会うことは一向に差し支えないということである。
ゼニアはレノラに代わって、長老の計らいに心から感謝した。
『さて、ここでの用事も済んだことだ。この姿でいるのも疲れた。儂もそろそろこの地を離れることとしようか』
謁見の間では後に残った長老とグロートゥスがエウリジェアを介して会話していた。
『それでは・・・?』
『お前にも苦労をかけたな。アスタロトに言うて、じきに後任のものを寄越させるとしよう』
『ゼニア達は大丈夫でしょうか?』
『何があっても、祭司だけは“門”に辿り着くだろう。あとの者は天使も魔族も消耗要員だ。それはやむを得ぬこと・・・
運が良ければお前とも再会できる筈』
『二人が去り、貴方様まで居られなくなるとは・・・ここも寂しくなりますな』
『乗ずれば、機もあろう。とにもかくにもこれで役者は揃った、というところだ。ここまでは、ガブリエルも含め、何もかも私の思うがままだった。だがあとは・・・・』
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「長老様も粋な計らいをしてくれるわよねぇ」
「うぅ、レノラ感激ですぅぅ」
「もうそれはいいんだってば」
ゼニアは部屋に戻るとことのあらましをレノラに話した。
レノラは腹は先程よりは一回り小さくなっているが、それでも小山のように巨大である。ゼニアはレノラの横に滑り込むと、パンパンに膨らんだ巨大爆腹を撫で回してその感触を楽しんでいた。
「でも、お姉さまがいなくなっちゃうと寂しくなるですぅ」
引き続きネルと会うことができるのは嬉しいが、ゼニアが西方へ旅立ってしまうのは寂しい。それでなくとも護衛役が消耗要員であることは二人とも承知している。生きて再び会える保証はどこにもなかった。
「大丈夫よ。必ず帰ってくるから」
そういうゼニアの目も心なしか涙ぐんでいるように見える。
「ねぇ、お姉さま、レノラも荷造りに十日も必要ないです。だからアフラまではお姉さまを送っていきますね」
「ありがと」
ゼニアもレノラが愛しくなってギュッと抱きしめた。
「お姉さま、大っきいオナカ好きなんでしょ? 最後に思いっきり・・・・ね?」
「うん・・・・」
かくして三日後、エルウィンとネルはエルウィンの父親が用意してくれた行商隊の荷馬車に揺られてアフラへと向かい、これに影のごとく付き従うゼニアとレノラの姿もあった・・・・
さてさて、いよいよ始まりました、遥かな西方を目指す旅。
次回にては天使側の新たな護衛役が合流しますれば、呉越の同舟することは難しきことと。
犬猿のごとくに魔族天使がアフラの街で闘争剣戟の修羅場を繰り広げますれば、その結末やいかに。
それでは、第弐回西遊伝、ひとまずここまでとさせていただきます。−了−
後書き
“敗軍の将、兵を語らず”と申しますれば、もう何も語ることはいたしません。 月刊化? 誰だ、そんなことを言ったヤツは?
ああ、このままでは季刊になってしまう。構想だけなら二十回分はできているのに・・・せめて隔月刊という実績を作るためには九月中に次回を発表せねば・・・シクシクシク・・・そういえば、書きかけのイラストも五六枚はあるし・・・同人活動って大変なのね。
それもこれも全部ぼてへの愛情のせい・・・
読者の皆さん、首が長くなって鶴さんキリンさんになるまでお待たせして、大変大変申し訳ありません。(六月中旬から七月はほとんど筆が進まなかった。もう、言い訳はせんぞ。どりゃぁぁぁ)
次回、第三話はAl Catさんも気になっている新キャラの登場だ ! (←ゼニアとレノラの名付け親ということで、一応のキャラ設定は報告してあるの)
捲土重来を期して執筆のスピード記録に挑戦だ。それでは第三回でお会いしましょう。 読者諸兄は作者をお見捨てなきように、平に御愛顧御指導御助言御激励をよろしくお願いいたしまするぅ〜〜〜〜
ほんと、こんなに脱稿が遅れてしまって、五月のOFF会で顔をあわせた人々には面目無いです。(特に主催のAl
Catさんとゲストの毬者さん)
ああ、誰か私を責めて・・・・(←マゾか、お前は?)
追伸
エッチ・シーンを読んでもらうと分かるけど、最初はゼニアもからんで3Pという構成だったのよね。でも紙面の都合もあるし、果たしていきなり彼女にネルのモノが挿入できるのかと考えてやめちゃいました。敏感体質のゼニアは後々ゆっくり調教して膨らめるようにしていきたいと考えております。ゼニア・ファンの方(いるのか?)は楽しみにして待って下さい。
エルウィンに関しては、現在のところ今一つ影が薄いけど、後々お楽しみもある予定。ロリぼて好きの人も楽しみに待ってね。(十三歳ってロリの範疇?)
長老派は、主の最強無敵、唯我独尊、一人勝ちっていうパターンが嫌いなので設定しました。本家西遊記でもしばしば観音や菩薩の類いが登場して三蔵法師一行の手助けをしています。既存の天使(ガブリエル等)や魔族(ルシフェルやアスタロト)は、主のしもべという範疇を脱却できないので、このような自由度の高いキャラを設定したわけです。本文中ではガブリエルが「七賢五傑は主に敵わない」と言っていますが、それは彼の贔屓目だと思います。エッチとは関係ないけど、戦闘シーンでの十二使徒の加勢にも期待して下さい。
追々伸
そーいえば、十月か十一月に東京へ遊びに行くんよね。暇な人(失礼)は一声かけてね。