新 西遊記 『外伝』


最初にお断り
 
 この物語は新西遊記の外伝という建前です。(実は正伝の執筆が倦怠期です)登場人物や世界観、はたまた魔法等々に多少の相違点があっても突っ込まないで頂戴ね。
 ちなみにこのエピソードは正伝より数百年むかし、レノラが若かった頃(本人談:今でも若いわよ)のお話ですぅ。
 それでは本編の始まりはじまり。(拍手、拍手)


第1話


『あぁ・・・はぁ・・・も、もうだめぇ・・・・お、オナカいっぱい。お願い、やめてぇ。これ以上されたら破裂しちゃうぅぅ・・・』

グッ、グ・・・グゥゥ・・・ぎゅるるる・・・・・

「うきゅ〜〜〜ぅ、オナカ空いたぁ」

 なんとも情けないことにレノラは空腹で目が覚めた。ふと気がつくとプニプニと少し出っ張り気味の下腹部に両手をあてがっている自分に気がついてわびしい気分になった。

「うぅ、夢に見るようじゃあ、空腹も重症ねぇ。もっと“実入り”のいいお仕事ないかしら。とはいえ、実際とのところ転属願いは出せないし・・・・」

 レノラは豊かな濃紫の髪をいっときかき回し、布団の中で三分ほど七転八倒した後にぶつぶつ言いながら寝床から抜け出し寝具を押し入れに片づけた。

「おはよう。朝ごはんの仕度できてるよ」

 家の裏手には厨房に隣接して家人用の簡素な食卓がある。レノラがそこへ行くと、彼女の上司でありこの家の持ち主であるサキムニという少年が二人分の食事を食卓に並べ終えていた。レノラがここに配属されて一年近く、毎朝晩のようにサキムニは家事をこなし、一時的であるにせよ部下であるはずの彼女の面倒を見ていた。

「毎朝すいませんですぅ」

 レノラがいつものようにぼそぼそと礼を言いながら食卓につく。夜型の夢魔だけに早起きは苦手なのだ。それに彼女にしてみれば“ベッドの上での食事”の方が好きなだけに、このような生活は味気ない。

「いいの、いいの。気にしないでよ」

 サキムニが今朝牛小屋で搾ったミルクをコップに注いでレノラにすすめた。サキムニはその火眼金睛(あかめ)を別にすれば、一見愛くるしい少年ような姿をしているが、実はレノラより年長で獣の神、具体的には十二獣神(いわゆる干支の動物神みたいなもの)の一人で兎の精霊である。人類の魂に天使や魔族が関与してるように、獣神は動物達の庇護者として全能の主の手で精霊に列せられた存在なのである。
 彼らは天使や魔族のように多数の眷族を持たないために、ちょくちょく人手を借りにくる。だが天使にせよ魔族にせよ人間以外の生物にあまり興味を持たないから、貸し手側は人材の供出を出し渋る。それでレノラのように若手で魔族の傍流(サキュバス)などに出向命令が下されるわけである。
 傷ついた獣を助けたり、必要以上に人間に獲られたりしないように知恵を授けたり、逆に獲物の魂をきちんと祭る猟師の祈りを聞き届けたりといった仕事はさほど危険ではない。しかしレノラのような夢魔にとっては、小猫を木から助け下ろしたりしている生活では、ナニの方がとんと御無沙汰で今一つ潤いが無いと感じるのは致し方ない。
 夢魔にとっての一年とは人間の寿命で比べれば一週間にも満たない歳月だが、夢魔としてまだまだ育ち盛りで食べたい盛りのレノラにとっては、ナニから遠ざかっている一年は永遠に等しい長さに思われた。
 サキムニはなかなか見目麗しい少年の姿をしているのだが、そっちの方にはあまり興味がなさそうだし、彼女に出向を命じた魔族の総裁の一人、アモン大侯爵に釘を刺されていることもある。
 アモン侯爵は梟のような頭に狼の胴、そして蛇の尾を生やしたような恐ろしい姿をしている。レノラなどひと呑みにしてしまいそうな、その恐ろしい巨体で彼女を見下ろしながら言ったのである。
 曰く「獣神たちは主のもとにおいて、位階も実力も我ら爵位をもつ魔族と同格にある。くれぐれもサキムニを侮って粗相をすることが無いように」
 アモン侯爵の顔は梟のそれなのに、なぜか口の中には鋭い歯が生えている。侯爵はその口をカッと開いてしっかり言い渡したのである。
 曰く「特にあっちの方で迫ったりすることはないように」
 かくしてレノラの禁欲の日々が始まった。
 もっともサキムニは十二獣神の中でも最も慈悲深い性格だから、いよいよレノラが空腹で倒れたりすれば万にひとつの可能性もあるかもしれない。だが煩悩の無い相手とナニをしてもさほどの満足は得られないことをレノラは承知しているので、侯爵の念押しの手前もあって我慢を重ねていたのだった。
 あるいはサキムニにも多少の欲求はあるかもしれないが、少なくともレノラに対してそれらしい興味を示したことはない。

「あのさ、僕今日はベサルビオ(北大陸にある町)のラインハートさんとこの牝牛が難産になるって占いに出てるから、手伝いに行かなきゃいけないんだ」

 サキムニは表の畑でとれたレタスのサラダを口に運びながら言った。

「そのことなら五日前から予定に入ってますぅ」

 レノラだって上司の予定ぐらいは把握しているのだ。レノラはパンにバターを塗りながら答えた。“別腹”の空腹であまり食欲はないのだが、付き合いも仕事のうちだし、サキムニはアモン侯爵よりよほど取っつき易くて優しい上役である。

「うん、それなんだけど、別口で急な依頼が舞い込んでね。こっちも手が放せないから現地に先入りして、情報だけでも集めておいて欲しいんだ」
「どこでなんの動物のお世話をするんですか?」

 レノラの取り柄は夢魔の本業(ナニ)を別にすれば、治癒呪文が使えることぐらいである。おおかたどこかの農家の馬が足の骨でも折ったのだろうとレノラは期待した。
 いくらオナカがペコペコでも動物を相手にしようとは思わない。だが家畜ならその飼い主を誘惑する事はできる。事実、ここに勤めるようになってから四回ほどその機会に恵まれていた。
 しかしいずれの場合もレノラの膨腹体質があらわになると、驚いて男性が萎えてしまい、満腹どころか食欲が刺激される食前酒程度の精気しか得られない結果に終わっていた。
 首尾はともかく、こういった個人的な努力を咎めたりしない点もサキムニの寛大な性格の一端だった。

「今回は動物じゃなくて亜人だよ」

 サキムニはレノラのサラダを取り上げながら、飛び込みの用向きのことを説明した。食事は一応二人分用意するが、レノラが手を付けないのを承知しているのである。
 二皿目のサラダを頬張りながらサキムニは話を進めた。鼻をひくつかせながら菜っ葉をパリパリと噛んでいる様子が、いかにもウサギの精霊らしい。
 亜人というのはエルフやドワーフ、その他獣人など人類以外の人型異種族(胴に頭と両手足の五陽がある知的生命体)の総称で、人間側から見た多少の蔑視が含まれている点は否定できない。それというのも彼らが人間の崇める創造主に帰依していないからである。
 当然、亜人も山野の動物同様あまり天使や魔族の恩恵を受けられる立場にはない。そこで時たま土地神(地方土着の精霊、亜人とは呪術を通じて契約している。)の手に余る問題が、十二獣神であるサキムニたちに回ってくるのである。
 なんといっても亜人達が祀っている術力の限られた土地神と違って、獣神は上級天使や魔族の総裁に匹敵する神通力を備えているし、薄く広く大乗をもって万種の生物を救うことこそが彼らの存在する意義である。

「そんなわけで、レノラさんが行くのは四大陸(人類中心の世界)の外、バビラリー島っていう大きな島なの」

 年下の部下にさん付けというのも妙だが、サキムニは外見どおり(外見上はレノラの方が少し年上)の喋り方をする。
 レノラは特に少年趣味があるというわけではないのだが、サキムニにお姉さん扱いされるとどうも尻の座りが悪くなる。この調子で空腹生活が長引けば、遠からぬうちに侯爵の禁令を破ってしまいそうだった。

「まぁ、詳しいことは僕もよく分かんないから、向こうの土地神に聞いてよ。名前はネスサさんていうんだ。昼前にこっちへ訪ねてくるから、事情を聞いた上で彼女について行ってくれ
ればいいよ。ほかにも二三用事があるけど、遅くても二日以内に僕も行くから」
「ふみっ、分かりました」



 サキムニが出かけると、残ったレノラは朝食の片づけをすませ、客を迎えるために家の前の門を掃き清めはじめた。
 サキムニの住まいは山間の肥沃な土地に切り開かれた長閑(のどか)な農場である。土地の庄屋が住んでいそうな広い屋敷に、農耕用のよく肥えた馬が一頭と毎朝のミルクを食卓に供する雌牛が二頭いる小さな畜舎。家の前の庭は二本の桃の木以外は菜園になっているのがいかにも野菜好きの彼らしい。
 家の周囲は山裾まで黍や麦が植えられた畑で、少し離れたところに畑に水を引き込む小川がある。ここに水車の粉ひき小屋があるのだが、屋敷からは背の高い玉蜀黍(トウモロコシ)に遮られて板葺きの屋根しか見えない。
 ここはまさに別天地、字義通りの仙郷である。
 いわゆる桃源郷とか隠れ里とかいわれる類のもので、具体的に何処というわけでもない。ときどき山中で道に迷ったものが偶然辿り着いたりするのだが、もう一度同じ場所に行ってもそこが存在しなくなっているという例の理想郷伝説である。
 サキムニは自分の術力でこの仙郷の出口を自在に制御できるので、世界中の何処へでも日帰りで出かけることができる。いわゆる転移魔法の一種である。(わかりづらい読者はどこでもドアを想像してください)
 多くの桃源郷伝説では川をさかのぼっていくと別天地に辿り着くことになっているが、ここもその例に漏れず川が転移魔法の出入り口となっている。
 今日なら水車小屋のある小川沿いの小道を下っていけば、サキムニが出かけていったベサルビオに辿り着くだろう。
 仙郷に迷い込む者はたまたまこの出入り口が開いているところに行き会わせるわけである。
 当然、今朝食卓の話題に上っていた来客の土地神もこの小川をさかのぼってくるのだろう。そのあたりはサキムニがキチンと準備してくれている。
 未熟なレノラが勝手に転移魔法を使ったりしたら、どこに出入り口ができるかわかったものではない。もし海の底に出入り口をつくってしまったら、海水が逆流してきて仙郷は海水の湖底に沈んでしまうし、地中深くなら溶岩が噴出してくる。
 家の中の掃除も済ませ、湯を沸かし茶菓子の準備などしていると早くも柔らかな日差しが沖天に昇りつつある。
 約束の時間が近づいたことに気づいたレノラが外をうかがうと、さわやかな風に乗って気配がする。門に出てみると川沿いの道を四人の人影に担がれた輿がやってくるのが見えた。
 サキムニでさえ臨時雇いのレノラしか助手がいないことを考えると、四人の従者は贅沢である。これ以上の助力が必要なのか、はたして手に余る問題とは何なのか、レノラがあれこれ想像を巡らせているうちに輿が近づいてきた。
 門の前までやってきた輿を見てレノラの疑問の一つは氷解した。
 輿を担いでいる従者と見えたものは四体の木人だった。いわゆる等身大の精巧に出来た木の人形で、輿に乗っているであろう土地神の魔法で動いているのは間違いない。これはよほど神通力のある術者が生命を吹き込まない限り、きわめて限られた仕事しかこなせないはずである。
 なるほど土地神風情では輿を担がせる程度のことしかさせられないだろう。
 レノラは木人が輿を肩から降ろすのを眺めながら考えた。輿はそれなりに立派な作りで朱塗りの台の上に日除けの屋根があり、そのひさしから四方に廉が吊られているので中を覗くことはできない。人間の貴族と呼ばれる階級の人々が使っているものと同じである。
 おそらくはバビラリーの亜人たちが寄進したものだろう。台の上は広くて二畳ぐらいありそうだった。この輿なら生身の人間なら倍の八人は人手がないと担ぐことはできないだろう。ここからも亜人たちの信仰がうかがえる。
 木人の一人が廉を巻き上げたのを見て、レノラはもう一つ納得した。あるいは納得したと思いこんだ。
 廉は人目をはばかるために下げられているのだ。その証拠に薄い紗のヴェールのような衣服(?)に包まれている肌色の巨大な塊は、どう見ても人間の姿をしているとはいえない。これを見ればたいていの人間は驚いて信仰心など吹っ飛んでしまう
 レノラ自身は魔族の出身だから、アモン侯爵に代表されるような非人間型、異形の姿を見て動じたりはしない。
 ・・・・と、輿の中いっぱいの肉塊からいかにも人間らしい手足が生え・・・・
 自分がなにを見ているか気がついたレノラは認識を改め、次いで自分の目を疑った。
 木人たちに介添えされて輿から降りてきたのは、人間型の姿をした女神だった。ただし、その胸と腹が輿の中いっぱいになるほど巨大な・・・・・
 レノラが目を丸くしていると、四体の木の従者はいかにも自分たちの仕事を心得ているようにその土地神の周囲の集まり、彼女が輿から出てくるのを手助けした。
 女神は巨大な腹によって両足を目一杯に押し広げられたはしたない格好で輿の端までなんとか出てきた。木人たちは二人が彼女の両脇にしゃがんで片方ずつ沓(くつ)を履かせ、両手をとって上体を支える。あとの二人は彼女の巨大な腹を両腕いっぱいに抱えて立ち上がるのを助けた。

「初めまして、ネスサといいます。このようなお見苦しい姿でおじゃまして申し訳ありません」

 立ち上がったネスサはレノラよりほんのわずかに背が高い。腰まで伸ばしたカラスの濡れ羽色の髪を後ろでまとめ、その瞳はサファイアのように深い青色である。鼻筋が通った気品のある顔立ちは人間で例えれば年の頃は二十代後半、成熟しきった女性の落ち着いた美しさをたたえていた。
 ほんのりと頬を赤らめているのはやはり人外魔境の領域(?)まで膨れ上がった自分の姿態が恥ずかしいからだろう 。土地神は普通の天使や魔族より格下だし、レノラの素性など知る由もないからネスサは丁寧な挨拶をした。ただしその挨拶も超乳超腹がつかえて頭を下げることなどできるはずもなく、四人の木人たちに支えられてふんぞり返っているようにしか見えない。
 日なたで見たネスサの肌は薄い小麦色で、いかにも健康そうである。ヴェールのような白い布地のゆったりとしたキャミソールは、その一糸まとわぬ豊かな裸体が九割方透けて見えていた。
 巨大な腹は仙郷の柔らかな陽光の下でパンパンに張りつめて光沢を放っている。ネスサ自身をかるく四人は孕めそうな腹は、彼女と二人の木人のいっぱいに伸ばした腕に支えられているのだが、今すこし毛筋ほどでも強く抱きしめれば張り裂けてしまいそうである。腹の中央にポツンと飛び出したヘソは、巨大な球体につけられた唯一の疵のようで、破裂寸前の危機感を必要以上に煽り立てているように見えた。
 乳房は片方だけで頭三つ分はありそうで、手のひらぐらいの乳輪は妊娠しているように色が濃く、乳首は豊かすぎる肉に陥没してしまっていた。

「レノラといいます。サキムニ様の助手を務めています。主は出かけていますので、アタシが用向きを伺っておくようにいわれています」

 レノラも挨拶を返してペコリとお辞儀した。しかし頭を下げてもネスサの身体から視線を外すことができない。ネスサの腹が充分十二分どころか、二、三十分も生命エネルギーをため込んでいるのがひどく羨ましい。
 レノラは忘れかけていた食欲が刺激されて、すこし下腹のあたりが痛くなった。

「外で話しをするのもなんですから、どうぞ奥へ」

 レノラの案内を受けてネスサが後に続く。
 彼女を支えていた四体の木人は囲みをとくと輿の周囲に残った。この仙郷自体が特殊な空間だが、サキムニの屋敷はその中心で、さらに特殊な結界が存在する。そのため真の生命力を持たない存在は、門をくぐって屋敷の敷地に足を踏み入れることができない。もし無理に入ろうとすればネスサの魔法は効力を失って、木人たちはただの彫像に戻ってしまう。
 三人がかりでもようやく支えていた腹を抱えて一人で歩こうとしているネスサを見たレノラは、あわてて彼女の介添えを買って出ようとした。

「あ、お気遣いなく。一人で歩けますから」

 ネスサが恐縮してレノラの助力を拒んだ。
 なるほどネスサは飛空術(レノラが空を飛ぶときに使っている術。体重を軽減する効果もある)の一種を使っているらしく、腹の重みで転倒することもなく(重心の関係で物理的にはあり得ない)門の前に立っていた。
 盛大に迫り出した下腹のせいで足を前に出すのが大変そうだが、なんとか一歩ずつ歩を進めている。しかしいかに術の効果があるとはいえ、歩みにあわせてユラリユラリと左右に揺れる巨大は腹と乳房の慣性質量がスムーズな前進を阻んでいることは否定できない。牛歩という言葉は、まさに大牛(もしくは子牛を十頭?)を孕んだような体型のネスサのためにあるようなものである。
 ネスサの自尊心を尊重して手を出すのを控えたレノラは、彼女がつまずいて転んだりしないか気を揉んだ。
 すこしでも押したりつついたりすれば破裂しそうな腹である。術で体重を軽減してあるとはいえ、つまずいてバランスを失えば転倒することにかわりはない。転べば手よりも三十センチ先に腹が地面に接触するだろう。
 それに視界の下半分を完全にさえぎっている巨大な腹と乳房のせいで、ネスサが十メートル先の地面(十メートル先を足元とは言わない)だって見えていないことに、レノラは十年分の“絶食生活”を賭けてもよかった。
 これほど危なっかしい足取りは、這い這いを卒業したばかりの赤ん坊だってしないと思う。それにこの歩みの遅さでは、ネスサが屋敷に落ち着くのは夕方なっても不思議ではない。
 レノラは空腹と心労(ネスサの転倒の可能性については“心配”ではすまされない。【笑】)で“飯”に関連した思考ばかりが巡り続ける自分の神経をなんとかなだめようとした。お気楽お調子の彼女にしては珍しくイライラしていた。
 だがネスサはレノラの予想よりもだいぶ早く屋敷の玄関にたどり着き、客間に通されて落ち着くことができた。
 この桃源郷は万年春のような温暖な気候である。(畑の作物の生育のために多少の寒暑や降雨はあるが)そのため屋敷の間取りはゆったりとして、窓も出入り口も土間も風通しよく大きく設えられていた。それが今回は幸いしたといってよい。普通の民家のような玄関や廊下だったら、ネスサは腹がつかえて客間にたどり着くことなどできなかったに違いない。
 客間に通されたネスサはレノラが縁側から引っ張ってきたクッションのたっぷり詰まった幅広の寝椅子に身体を半ば横たえた。
 この寝椅子はサキムニがたまの休日に日向ぼっこのために使っているものである。
 ネスサの体型では普通のソファに座れるはずがないし、かといって客を床に寝させるのは失礼である。そこでレノラはネスサが例の歩調でえっちらおっちら巨大な腹を揺すりながら客間へ歩いているうちに、運動不足の筋肉をフル稼働させて寝椅子を引きずってきたのだった。

「お手数をかけまして、本当に申し訳ありません」

 お茶も出して相談を受ける準備も整った後、寝椅子の横のソファに腰を下ろしたレノラにネスサは礼を述べた。

「これはお仕事ですから気を使わなくっていいんですぅ。それよりそんなオナカじゃあ、いろいろ大変でしょう」
「ええ、まあ。でも普段はここまで大きくはないんですけど、この二三日でふたまわり以上大きくなってしまって・・・・・」

 ふたたびネスサの顔が紅潮する。
 寝椅子に落ち着くことが出来て、ネスサも内心ホッとしているらしい。両手がゆるゆると巨大な腹を撫で回して、パンパンに張りつめた皮膚の緊張をほぐそうとしていた。
 ネスサの自己紹介によれば、彼女はバビラリー島の土地神で、その外見通り豊饒の女神なのだそうである。風雨を順調にして作物の成長を助けたり、漁や女性の多産と安産を陰から手助けするのである。
 レノラは煩悩による性行為を介してエネルギーを得ているが、ネスサは島民の信仰心や供物を介してエネルギーを得ている。ただ天使や魔族に比べて術力(レベル)が低いために、爆乳爆腹になるくらいエネルギーを溜め込まないと、島民の願いを聞き届けてることが出来ないのである。
 そして千年以上も島の人々とつきあってきた現在では、術によって体型支持の魔法(レノラのレオタードと同じ)を使わなければ、腹と乳房が爆発してしまうサイズにまで膨らんでしまったのである。
 もしいま島民の信仰を失ってエネルギーを得られなくなれば、体型支持魔法を使えなくなったネスサの腹は内圧に屈して張り裂けてしまうかもしれないのだそうだ。

「ところが三日ほど前からある問題が起きまして、住民たちに不安が広がっているのです。それでわたしに対する祈りが急に増加してしまって・・・・」

 ふだん外出につかっていた輿にもやっとの事で乗り込めるような状態まで膨腹膨乳が進んでしまったのだという。

「今は一部の者しか事件を知らないので重大事には至っていないのですが。もしわたしが問題を解決できなくてパニックが広まれば・・・・・」

 ネスサはぶるっと身を震わせた。
 ことは腹部破裂の重傷だけではすまない。新たなエネルギーを得られなくなれば、最終的には彼女の存在自体が危うくなるのだ。
 ネスサとしても事件解決に乗り出したいのだが、こうも体型がサイズアップしては身動きもままならない。かといって問題を放置しても結果は同じである。そこで外部へ助力を依頼することにしたのだという。

「そういうわけでこちらへお願いにあがった次第です。わたしに出来る限りでお礼はいたしますから、今日中にでもあちらへ来ていただいてほしいのです」

 ネスサはサキムニの助手というだけでレノラを高く評価しているらしい。期待に満ちた目で横たわったネスサはレノラを見上げた。

「はぁ、それでその問題とかいうのはなんなんですぅ?」

 適当に相談相手になればいいと考えていたレノラは困って鼻の頭を軽く掻いた。土地神などというものは悪くいえば田舎者なので、どういう事情(実力不足)でレノラがサキムニの元へ出向しているか知らないのだ。
 
「その前に説明しておかなければいけないんですけど。レノラさん、代理母という言葉をご存じですか」
「?」

 バビラリー島の住民は亜人と呼ばれるだけあって、外見の差異はともかく、人類とは異なった体質の種族であるらしい。その最大の特徴が生殖である。
 人類ならば男女の性が交わって胎をなし、十月十日後に月が満ちて母親の腹から子供が産まれてくる。
 バビラリー人の場合は男女の性が交わって三日ほどすると女性が卵を産む。といっても、鶏卵のように固い殻に包まれているのではなく、殻を剥いたゆで卵のようなゼラチン質の親指の先ほどの小さな卵を産むのである。
 この卵はそのまま丸一日も放置しておけば、当然乾燥して中の胚は死んでしまう。
 そこで女性たち産んだ卵を氏族の長が住む“生命の器”と呼ばれる建物に持っていく。
 どの氏族も長は女性で、彼女たちは千人に一人という特別な体質をしている。彼女たちは女性たちが大切に持参してきた卵を自分の◯◯◯に挿入する。すると卵は産道をさかのぼって代理母の子宮に着床し、ゼラチン質の外殻は羊膜と胎盤に変化する。
 そして腹を貸している女性たちは、臨月まで胎児を育て出産するのだ。これがネスサの説明する代理母である。
 子孫をつくることを少数の母親に依存しているという点では、どことなく蟻や蜂に似ていなくもない。

「でも、ずいぶんと効率の悪い方法ですぅ。それに一年に一人しか子供を産まないんじゃあ、人口が減少するんじゃあないですか?」

 レノラが人類の尺度で質問をしたのでネスサはクスッと笑った。

「バビラリー人は当然人類とは違うんですよ。子供は約三ヶ月で出産しますし、代理母たちは不定期に多重妊娠が可能なんです。むろん子宮の容量に個人差は限界はありますけど、だいたい十二三人から二十人弱ぐらいの赤ちゃんをいつもお腹に孕んでるんです。だから、彼女たちは毎週一人か二人は出産してるんですよ。代理母は種族の存続に関わる存在ですから、族長でありわたしを祭る巫女でもあるんです。まあ、彼女たちはレノラさんが見たら驚くような大きなお腹をしてますから、ふつうの人のような生活はできません。ですから、衣食住は共同体全体で供出しますし、身の回りの世話はそのとき卵を“預けて”いる家族の女性、たいていは卵を産んだ妻ですけど、が交代でしているんです。卵を産んだ女性は乳腺が発達してくるので、子供は自分の母乳で育てられるわけです。むろんそれだけたくさんの子供を妊娠してても、産まれてくる子供を取り違えることはありません。代理母はだれの卵がどこに着床したか知っていますし、母親も赤ちゃんも本能的に自分の血縁が分かるみたいです」

 たしかに二十人の胎児がいっぺんに臨月を迎えたら妊娠腹はたいへんな大きさになりそうだが、臨月(妊娠三ヶ月)の子が六人とか、妊娠したばかりの卵が五個とか、胎児の大きさ(成長過程)がまちまちならどうにか収まらないことはないだろう。 
 だがそのような代理母の腹は、人間に例えたら六つ子とか八つ子を孕んだ妊婦よりも大きいに違いないとレノラは想像した。

「代理母は大半、族長の家系に生まれるのですが、時々はふつうの夫婦の卵からも生まれることがあるんです。そういうときは、その子は代理母、つまり族長の養子として“生命の器”に住むしきたりになってるんです」
「そういう能力があるっていうのはどうやってわかるんですぅ?」
「もちろん初潮が始まったら男性と交わって妊娠してみるんですよ。ふつうの女性なら卵を産むだけですけど、代理母の資質があるものなら自分の子宮で卵が育ちはじめますから。だからバビラリーの女性たちは十代前半で結婚して最初の子供を作るのがふつうなんです。で、代理母たちはその能力を失う四十半ばまで、つまり約三十年間子供を産み続けて隠居し、つぎの年長の代理母に族長の地位を譲るわけなんです。ですから、代理母の腹は常に空席待ちの予約状態です。人口増加率はほかのどんな種族よりも低いでしょうね」
「ふぅん。でも、その族長さんとか代理母のヒトって、多少は血筋としてその・・・・“能力者”の生まれる確率が高いんですよね。いつ自分の子供を作るんですぅ? その・・・・・・妊娠中にそんなオナカで男のひととナニするんですか?」

 そっちの話しになると俄然レノラは力が入る。身を乗り出してネスサに尋ねた。

「むろん代理母たちもふつうの女性ですから、性欲もありますし、気分転換にセックスしたりすることはあります。そういうときは、卵を“預けて”いる夫婦が様子を見に訪ねて来ますから、その夫を誘うんです。バビラリー島も一夫一婦制なんですけど、代理母とセックスするのは浮気には当たらないんです。風俗の違いっていうか、代理母が快適な妊娠生活を送れるようにするのが一番大事なことなんです。それにさっきも言ったように代理母っていうのはすっごく大きなお腹をしてますから、立ち居振る舞いが不自由で男性と一対一でセックスするっていうのはほとんど不可能なんです。だから代理母からお誘いがかかると、夫婦で寝所におもむいて妻がセックスの介添えをつとめるのがふつうです。たまたま男性がいないときは、代理母と世話人が女性同士ですることもあるそうです」

 やりたい放題とは羨ましい。レノラは自分が代理母でないことを天に恨んだ。

「それと代理母自身の子供のことですけど、妊娠中に排卵が止まってしまうのは人類と同じなんです。だから代理母は四年に一度産休を取って自分の子供を作るんです。“預かって”いる赤ちゃんを全員産み終えると半月ぐらいして生理が始まりますから、そのときに複数の男性と交渉を持つんです。成人男性のほとんどが進んで子種の提供を申し出るのですが、指名権は代理母にあります。これも不倫には当たりません。それで代理母は父親の違う子供を六人から十人ぐらい、いっぺんに妊娠して出産します。男の子は出産後すぐに養子に出され、女の子は母親(代理母)自身の母乳で育てられ、隠居した元族長の手で養育されます。だから代理母は一生のうちに自分の子供を七八十人は産むわけです。そのうちの半数が女の子としても、代理母の資質のある娘は一人、多くて二人、三人現れることはまずありません。まぁ、族長の血筋といってもそんなものです」

 レノラは人類外種族の珍しい話しに聞き入っていたが、ふと肝心の相談事をまだ聞いていないのに気がついた。

「で、問題っていうのは、その?」

 こういう話題が長々と続いているからには、漠然と問題の指向している方向がレノラにも分かる。バビラリー人という種の存続(代理母システム)に関わる何らかの事件が起こったのだ。

「そうなんです」

 レノラの洞察(特に鋭いわけでもない)にネスサもうなずいた。うなずくといっても下顎を深い胸の谷間に埋めただけだったが。

「だいぶ遠回りしてしまいましたが、あちらの文化的、風俗的な側面はだいたい理解していただけたと思います。で、もう一つ代理母の特徴を説明するなら、彼女たちは決して流産や早産をしないんです。代理母の完全な子宮こそが、あの種族の存続に不可欠の唯一の要素なんです。ただでさえ人口が横這い状態の種族なんですから、代理母の身体に不具合が起きたら数世代で人口が半減してしまいます。その前に代理母の確保を巡って氏族間で戦争すら起きるかもしれません」

「それが起きたんですか?」
「ええ。ふつうの氏族は三、四人の代理母を中心に四千から五千の人口を抱えていますが。はラマジャという大都邑の氏族は十一人も代理母がいるのです。この氏族が島民のまとめ役で、事実上バビラリーの首都といっても間違いではないでしょう。わたしの神殿もここにあります」

(作者注:たとえば代理母が三ヶ月に十五人、一年で六十人の子供を三十数年生むとすれば単純計算で一生に二千人近い出産数になる。とすると代理母三人では一年百八十、四人で二百四十前後、約三十余年で六千人から八千人の出産となる。これは上記の老若男女合わせて一氏族四五千という人口と釣り合わないと指摘する読者もいるかもしれない。だが医学の急速に発達した二十世紀以前は新生児の死亡率が極端に高かったことを思い出してもらいたい。中世や古代の平均寿命は二十歳などと多くの資料に書かれているが、これは病気や飢饉に弱い幼児を多産多死する結果であり、十代二十代の青少年の死亡率が特に高かったわけではない。
 しかし、作者も統計学に詳しいわけではないのでいい加減な数字をあげている点は認めます。今後も当HPでぼて小説を書いていく上で、こういう小道具的説明は作品のリアリティーのために大事なので、この種の計算方法などを教授してくれる読者がいればたいへん有り難いです。有意義なつっこみ大歓迎、注釈が長くなってすみません)
「この三日間で三人の代理母が予定より早く破水してしまったのです。幸いにも早産した子供たちは全員二ヶ月半(人間でいえば妊娠八ヶ月以上?)を過ぎていたので命は助かりましたが。さいわい素早く箝口令が敷かれたので、このことは“生命の器”から外へは漏れていません。ですが族長や代理母をはじめとして、現場に居合わせた世話人たちも大災厄の前触れではないかと動揺しています。いずれは誰かが口を開いて、噂が広まってしまうでしょう」

「病気とかつまずいて転んだとかいう事故ではないのですか?」

 それなら治癒魔法の使えるレノラも対処できる。

「病気ならわたしにも分かりますし、代理母の身辺にはいつも介添えの世話人がいますから。それに事故があったとしても、それを隠すような世話人はいませんし代理母も黙ってはいないでしょう。それに胎児たちを包んでいる羊膜はとても丈夫で、月が満ちてもいないのに破水することなどあり得ないのです。でなければ、多重妊娠したのを順次出産することなどできませんから」

 たしかに三日で三人となれば偶然ではあり得ない。そこには何らかの良からぬ意図が働いていることになる。

「では、なにものかが?」
「わたしもその三人の代理母に会ってみました。ですが、ショックからか三人とも早産する前の晩の記憶があやふやなのです。しかし三人とも早朝に破水をうったえていることから、その晩のうちに何かがあったことはたしかです」
「それを確認した人はいないんですか?」
「二人目が早産した時点で族長も不審に思ったらしく、代理母全員の寝室に見張りを二人ずつ付けたのです。それなのに今朝三人目が・・・・・それに見張りに立った者の記憶もハッキリしない有様で。これはもう妖怪のたぐいの仕業としか思えないのです。わたしはこんな身体ですから、そちらの方は全くの不得手で。それでこちらへお願いにあがったという次第です」

 ネスサは心配のあまり、島民の不安感で膨れ上がった山のような破裂寸前の腹をまさぐっていた。少しでも小さくなって欲しいのだろう。

『ふみっ、妖怪退治ってのはアタシの専門外だしなぁ。怖いのは苦手だし』
 憂いをたたえた目で慎重に腹を撫で回しているネスサは、変人はそれとは知らずに蠱惑的な艶気を周囲に発散している。その雰囲気に嗅覚を刺激されながらレノラは考え込んだ。
 ここはひとつサキムニを呼びに行くしかあるまい。そう考えてレノラの思考ははたと行き詰まった。
 ネスサがここへやってきたということは、現在仙郷の出入り口はサキムニが出かけたベサルビオではなく、バビラリー島へつながっているのだ。
 そしてレノラ自身の転移魔法はどこに出入り口を作るか分かったものではない。
 三日続けて事件が起こったということは、その妖怪が満足していない限り今夜も起こる可能性が高い。しかし、レノラ一人では(爆発寸前、超ぼて体型のネスサは当然戦力外)妖怪退治などできるはずもない。
 レノラも攻撃呪文を知らないわけではないのだが、それだって一度も使ったことはないのだ。だいいち、こうも空腹ではどんな呪文だって使用する余力がない・・・

「!」

 ここまで考えてレノラはひらめいた。
 妖怪退治の依頼と受け取ると、腕力勝負で攻撃力ばかりが重視されているように思えてくる。だが防御に徹して、サキムニが来るまで時間稼ぎをするという手もあるはずなのだ。
 さいわいこの屋敷の書斎にはたくさんの魔術書がある。その中には役に立つものがあるはずだった。
 たとえば、その代理母たちが住んでいるという“生命の器”とかいう建物の周りに防御障壁をつくって妖怪を入ってこられないようにするとか・・・・・

 グッ、グ・・・グゥゥ・・・ぎゅるるる・・・・・

 お腹がエネルギーを求めて抗議の声をあげた。もはや我慢も限界である。

「ネスサさん、事情は了解しました。不肖ながらこのアタシが、サキムニ様の来られるまで代理母さんたちをお守りしましょう」

 空きっ腹の座ったレノラは、すっくと立ち上がると景気良く自分の胸を叩いた。妖怪退治するとは言ってないから嘘はついていない。

「本当ですか」

 自信に満ちたレノラの様子(虚勢)にネスサの顔が輝いた。

「その前にっ!!」

 レノラはずいっと前に進み出た。

「その前に?」

 レノラの気迫に押されたネスサが両手で腹を抱え込む。気合いで破裂すると思ったのだろうか。

「腹が減っては戦が出来ませんですぅ。手付けといってはなんですが、エッチしてくださいませんかぁ。アタシ、オナカがペコペコなんですぅ〜」
「はっ? はぁ??」

 相手がナニを要求しているかも理解せぬまま、ネスサは目を丸くして首肯いた。



「あっ・・・んっ・・・・んむっ・・・・・」

 レノラの舌が半ば強引なまでにネスサの唇をこじ開け、ネスサの舌と絡まり合う。その濃厚なくちづけにネスサは喘いだ。

「あんっ・・・・そんなに胸・・・揉んじゃ・・・ダメ・・・・」

 接吻を続けながら、レノラがネスサの両の乳房をまさぐっているのだ。

「優しくして・・・じゃないと、破裂しちゃう・・・・」

 実際には、レノラはさほど乱暴に胸を揉んでいるわけではない。手のひらほどもある乳輪に手を置いて、親指の付け根のあたりで陥没した乳首の先を刺激しているだけなのだ。わずかでも指を立てたりしていないのだから、揉んでいるというより撫でさすっているという方が適切な表現だろう。
 だが、パッツンパッツンに膨らみきったネスサの身体と外界を隔てているものは、限界を越えて伸びた皮膚一枚きりである。ほんのちょっと緊張して鳥肌が立っただけでも破裂しかねない腹と胸なのだから、ネスサの懸念も当然だし、レノラもそれを承知していた。
 しかし、それよりなによりレノラにとって大事なのは、ネスサをその気にさせることである。
 いくらネスサの溜め込んでいるエネルギーを貰おうとしても、煩悩と信仰心では波長が違う。これでは砂の上に水を撒き、水と油を混ぜようとしているようなものである。
 じじつ、こうして接吻しているだけでもネスサからレノラに流れ込んでくるエネルギーはそれなりにあるのだが、それらは流れ込んでくるやいなやどこかへ消えていってしまうようで、少しもお腹にたまるような気配がない。
 長い空腹生活でレノラが容易に満足しないこともあるのだろうが、やはり波長が違うと吸収効率が悪いのだ。
 だからレノラとしては、コトの成り行きに戸惑っているネスサを刺激しすぎて破裂させたりしないようにすると同時に、彼女が自分から望んで行為にのめり込んでくれるように性欲をかき立てなければいけないという慎重なプレイが求められていた。しかも、夕方までには現地入りしなければならないという時間制限付きである。(バビラリー島の住民にナニして貰えばよいと指摘される方もいるかもしませんが、事件解決後の宴席ならともかく、不安に陥っている島民に手付けをおねだりするほどレノラも図々しくはないのです。それに砂漠で渇きに苦しんでいる遭難者は、明日バケツ一杯の水を貰うより、いまコップ一杯の水を飲ませてもらうことのほうが有り難いものです)

「ああっ、こんなこと・・・・島の人たちが見たら・・んぅっ・・・なんて言うか・・・」
「んくっ、これも事件の解決に必要なことですぅ。・・・あむっ・・それにネスサさんの乳首、コリコリにかたくなってますぅ」

 そういいながらレノラは重ね合わせた唇を離すと、攻撃目標を乳首へと転じた。
 寝椅子の横に膝をついてネスサの肉体を攻めるのはもどかしい。寝椅子はレノラとサキムニが並んで日向ぼっこできるほど大きいのだが、ネスサが妊娠した巨鯨のごとき肉体を横たえると、その圧倒的な質量の腹と乳房が寝椅子の端からはみ出してしまうほどである。レノラが二十日鼠にでも変身しない限り、二人そろって寝椅子の上でナニすることは不可能だった。
 それで最初はネスサを寝室へ誘うつもりだったのだが、レノラ一人では膨張しきった巨大な腹を支えながらネスサを起きあがらせるのは、腹が張って危険と判明したのである。これなら少しぐらいエネルギーを頂いて、超腹の内圧を低下させてあげたほうが善行というものであろうとレノラは自分の後ろめたさを納得させていた。

「いやぁ・・・そんなこと・・・言っちゃ」

 裸にされたネスサが羞恥に身を捩ると、山のような乳房と腹がプルプルと震えた。

「言っちゃダメでもホントですぅ。ほら・・」

 レノラが舌先で乳輪を舐めながらほぐしてやると、その中心で胸の肉に埋もれていた乳首がポツッとレノラの口の中にこぼれだしてきた。唾液に濡れて久しぶりに外気にあたった小さめの乳首は少し寒そうに縮こまっていたが、それでもレノラの誘うような愛撫に応じて半ば勃起しかけていた。

「はいっ、もう片方もコンニチワしましょうねぇ」
「もうダメ・・・・エネルギーは分けてあげるからやめて」

 横たわったネスサは寝返りをうってレノラの愛撫を逃れようとした。しかし、膨満しきった腹と胸が重すぎて寝返りどころか仰向けになることも出来ない。
 魔法で体重を軽減しようにも、レノラの技巧に集中力を削がれ、一瞬持ち上がるかに見えた腹が重々しくクッションの上に着地した。

「お腹が邪魔なの・・・・」

 レノラの攻めを逃れようのないネスサは、自らの肉体の豊かさを嘆きながらも精一杯両手を伸ばし、かろうじて乳輪を覆い隠した。
 だが、ネスサの独り言を聞きつけたレノラは早くも乳房から攻撃の矛先を転じていた。

「どれどれ? ナニが邪魔なんですかぁ?」

 レノラはネスサの呼吸に合わせて軽く上下している超腹に鼻を近づけ、フンフンと犬のように匂いを嗅いで何かを探すふりをした。

「やっ・・・・そこは・・・・」

 ネスサはレノラの息にお腹の皮をくすぐられ、レノラの意図を察して焦った。乳輪はなんとか隠せても、三抱え以上ある腹は庇いようがない。
 もとい、庇いようがないというより、彼女の手は脇腹あたりの限られた部分しか届かないのだ。面積に換算すれば八割方は自分で触れることはおろか、見ることも出来ないのである。
 レノラの鼻先はネスサの肌に触れるか触れないかのところで広大な腹をさまよい、さんざんネスサをその呼気でもてあそんだ後に、腹の中央あたりで停止した。

「あっ、ひょっとしたら邪魔なのってこれですかぁ?」

 レノラは飛び出して今にもほつれてしまいそうなヘソを舌でちろちろと舐めた。

「うーん、引っ張ると取れちゃいそうだから、邪魔なものなら取っちゃいましょう」
「ひっ!?」

 本気にしたネスサが慌てて自分の腹越しにのぞき込もうとした。
 レノラは上下の唇で包み込むようにヘソをくわえると口の中でたっぷりと唾液にひたし、柔らかくなったそれを舌でなぶりながらやや強めに吸った。

「ひゃうっ、ほ、本気?・・・・そ、そんなに強く吸ったら・・・・おへそが・・お腹が破裂しちゃうぅ・・・・」

 見えない部分を刺激されるのは、感覚が想像力によって掻き立てられて大げさにかんじる。ましてやヘソは膨らみきったネスサの腹のうちでも一番皮の薄い部分である。例えレノラが冗談でも、ほんの少し傷がついただけで張り裂けてしまうかもしれない。そう考えたネスサは泣き声でレノラを止めようとした。

「むみゃ、冗談ですってばぁ」

 レノラは心得てしているのだが、あまりネスサを不安がらせるとそれだけで子宮筋が収縮してお腹が破裂してしまう。
 潮時を感じたレノラはヘソを吸うのをやめると、その周りを腹の中心線にそって、母猫が子猫を舐めてやるときのような優しく舌で愛撫しはじめた。

「あっ・・んっ・・・ふぅっ・・・・」

 責めから解放された安心感と、一転して優しくなったレノラの舌使いにネスサは我知らず愉悦の吐息を漏らした。
 ネスサの緊張を解けだしたことを察したレノラは、先ほど乳首を立たせたときのように両手のひらをなめらかな曲線美につつまれたお腹にあてがい、円を描くようにゆっくりとなで回しはじめた。

「やっ・・・・んっ・・・・」

 ネスサがかすかに身を震わせる。
 レノラの手のひらを通じて、先ほどとは波長の異なる生命エネルギーが流れ込みはじめた。円を描き続けながら、手のひらをうぶ毛に触れるくらいわずかに引いて指の腹だけで愛撫すると、ネスサがわずかに身じろぎして山のような腹が前へせり出してくる。
 べつにネスサの腹が膨らんでいるわけではない。彼女の身体が無意識にレノラの愛撫を望んで前へ進み出ているのだった。

「んー、大っきなオナカって最高ですぅ」

 完全にネスサを落としたとは言い切れないが、明らかにレノラの身体にネスサのエネルギーが満ちてくるのが感じられる。
 腹の大きさこそ変化はないものの、エネルギーがレノラに移って行くにつれて、パンパンにゆるみなく膨らんでいた張りがとれて、その分弾力が増してきた。頃合い良しと判断したレノラは上半身を乗り出すと、両腕いっぱいにネスサの超腹を抱きしめ、顔を腹の肉に埋めるようにして頬ずりを繰り返した。

「・・・やぁ・・・いいっ・・・」

 先ほどまでだったらこのような力を込めた抱擁はネスサを怖がらせていただけだろうが、余裕のできた今は違う。むろん彼女自身はどれぐらい自分の腹の内圧が低下したのか、レノラがどれくらい強く抱きついてきたのか、見ることもできなければとっさに冷静に判断することもできない。(もし抱擁された腹が若干変形しているのが見えたら、血の気が引いていただろう)
 だが、そもそもネスサは豊饒の女神で、その気だても優しく母性愛が強い。親愛の情に満ちたこのような肉体的接触は嫌いではない。
 技巧的な前戯はともかく、こうして小さな(身長はほとんど一緒だが)レノラが甘えるようにむしゃぶりついてくると本能的にそれを受け入れてあげたくなる。

「レノラ・・さん・・・・」

 乳輪を隠していた両手を放してレノラを差し招く。手の下から顔を見せた乳首はレノラに責められなかった方も勃起して、もはや陥没してはいなかった。
 招かれたレノラは素直にネスサの腕の中に・・・・もとい、胸の谷間に埋もれるようにして抱かれた。

「うっ、ぷぷっ」

 ネスサに抱き寄せられると、レノラは弾力を増した乳房に鼻も口もふさがれて息が詰まった。

「ご、ごめんなさい。わたし、こういうの不慣れなので・・・・」

 まだ堅苦しい言葉遣いの残っているネスサが謝った。

「んー、気持ちいいから謝らなくてもいいんですぅ」

 レノラは余裕ができて扱いやすくなった乳房を揉みながら、顔の三倍はあるそれを両側から寄せて自分から谷間に顔を埋めて頬擦りを繰り返した。

「そ、そう? そんなにお腹が空いてるんだったら、わたし・・その・・こんな・・・だから、もっと分けてあげるわよ・・・・」

 レノラがエネルギーを得るためにはナニする必要があるとネスサも了解したらしい。だが、ネスサの口調にはそれ以上の意味が含まれていた。

「でも、あんまり時間がないから。どうしたらいいかしら?」
「効率のいいやりとりには、気持ちよくなるのがイチバンですぅ」

 より積極的な行為を期待して、レノラが胸の谷間から見上げた。

「でも、わたしあんまり激しいのは・・・・」

 余裕ができたとはいえ、限界が近い腹と乳房にかわりはないのだ。それに土地神にせよ魔族にせよ性に対する嗜好は千差万別で、レノラのように房中術と称してナニに励むものもあれば、一滴たりとも精を漏らさずひたすら気を練っているだけのものもいる。
 ネスサの肉体がそれなりに快感に反応しているのはたしかだが、さほどその方面にのめり込むタイプではなさそうだった。ただし、膨らみすぎの腹と乳房はレノラの“刺激”に対して反応しているし、ネスサ自身も張りがとれるとリラックスできるらしい。

「それじゃあ、オナカを中心にマッサージするコースでいかがですぅ」

 同意は取り付けたが、さほどネスサが熱心ではないのでちょっとがっかりするレノラ。 心配事を抱えていては乗り気になれないのも当然であろう。だが、決してナニが嫌いというわけではなさそうだから、事件が解決したあとはいい関係になれるかもしれないとレノラは思った。とりあえずはレノラにしても楽しむことよりエネルギーの補充である。
 レノラはネスサの頼みで彼女が仰向けになるのを手伝った。先ほどは腹が張って動けなかったのだが、今度は魔法で体重を軽減することができたので二人が協力してどうにか体勢を変えることができた。
 細かいようだが、これなども属性以外の術は不得手な土地神というものの特徴の一つである。レノラにせよほかの魔族にせよ飛空術は初歩の魔法で、魔力さえ十分ならさほど意識せずにこの術を使える。だが、ネスサは先ほどレノラに愛撫されたときのように、集中力を妨げられるとうまくできないらしい。
 仰向けになったネスサは女性が出産するときのように両足を開き、浅く“く”の字に立てて(下腹部が邪魔で深くは曲げられない)寝椅子の上で踏ん張り、両手で天井向けて突きだした腹を支えた。こうしなければ体重の四分の三以上を占める腹の重さで、左右どちらかに横転してしまうからである。
 レノラは左右にひろげたネスサの両股の間に陣取った。残念ながらせり出した下腹部のおかげでネスサの秘部を拝むことはできない。もっとも、断りなく手を出せばネスサに拒まれる可能性は高い。これも事件解決後に征服すべき宿題としてレノラは心に刻みつけた。

「うーん、それにしても大っきなオナカですぅ」

 三抱えある腹は腰を降ろしたレノラの座高より高い。膝立ちになって山のてっぺんはと眺めてみれば、先ほどまでレノラが弄っていたヘソが山頂の石塚のようにポツンと孤高を保っていた。

「あんまり大きいって言わないでください。気にしてるんですから」

 山の向こうからネスサが半分ふざけて、半分本気で抗議した。
 現地でも少数の多産能力の女性が大事にされているだけ、土地神としてのネスサも住民の理想の姿をしているから恥ずかしがることはないはずである。だがこれほどまでにエネルギーを溜め込まないと十分な魔法を使えないというコンプレックスがあるのだろう。
 魔族(傍流の夢魔だが)であるレノラに対する引け目がうかがえた。

「そんなことないですって。アタシ、とっても羨ましいですぅ」

 もしレノラが作物を実らせたり風雨を順調にする術を心得ているならネスサと交代したいぐらいである。
 レノラはふたたび山のような腹に両手を回して愛撫の続きをはじめた。股間に腰を据えているから、下腹部を中心に山の頂上から脇腹(どこが脇腹なのか判然としないが)へと大きく円を描くように手をすべらせる。むろん医療行為としてのマッサージではなく性感を刺激するのが主体だから、ときどきは顔を寄せ接吻したり舌を這わせたりもした。
 広大な腹部の面積からすればレノラの接吻など球体の一点に触れるにすぎないのだが、そのつぼを心得た技巧にネスサの身体も反応して、息をのんだり喘いだりする気配が山の向こうからしてくる。それに手と口の連係プレイがうまくいくと、ネスサの臀部の筋肉に力がこもって大山脈に小規模な地震が頻発する。
 派手な反応ではないのだが、腰の動きにつれてユラユラ揺れる超腹の眺めはなかなか壮観で、いつバランスを崩して横転してしまうかもしれないという危機感もある。攻めるレノラも激しい行為ではなく、そのあたりの微妙なタッチを楽しむようにしながらことを進めた。
 ネスサの腹はなかなか感度がよいらしく、五分もマッサージを続けていると明らかにレノラの両手に伝わってくるエネルギーの質と量が変わってきた。質はといえば進んで愛撫を求める煩悩に傾斜しているし、量については先ほどまでを酒杯で水を汲んでいると例えれば、今の状態は桶で汲んでいるようなものである。

「あ・・・流れ込んでくるぅ・・・・」

 ぴったり身体を覆っている魔法のレオタードの下で、レノラの腹部が膨らんできた。はじめは妊娠初期のようにほとんど目立たなかったのだが、六ヶ月、七ヶ月、八ヶ月と月数を分秒で重ねていって見る見るうちに臨月の妊婦のような腹になる。それでもマッサージを続けているとレノラの腹はさらに膨らんで双子を孕んでいるような大きさになった。

「あぁ・・・ん? いまのなに?」

 レオタード地に包まれたレノラの腹が自分の下腹部にムギュッと押しつけられた感触に、ネスサは戸惑いの声を上げた。

「アタシのオナカですぅ。アタシもネスサさんと一緒で、お腹がいっぱいになってくると膨らんじゃう体質なんですぅ」
「ふぅぅん・・・・あの・・恥ずかしくなかったら、ちょっと見せてもらえない?」

 共通点があるということは連帯感を強める。ネスサの口調には先ほどまでとは違う気安さと興味があった。

「恥ずかしいなんてとんでもないですぅ」

 久しぶりに膨らんだお腹をかかえて動くのは大儀である。レノラは背中に小さな翼を生やすと、飛空術を使ってフワッと宙に浮き上がった。
 ネスサが見ていると、視界の大半を遮っている自分の腹の向こう側から、四つん這いになってるような姿勢のレノラが、背中の小さな翼をパタパタと羽ばたかせながら姿を現した。レノラの腹の大きさはネスサに比べると格段に小さいが、それでも三つ子を孕んでいるのではないかと思えるくらい堂々とせり出していた。
 下向きの身体の下で、胸ぐりの深いレオタードからこぼれ落ちそうな爆乳と超特大の西瓜を詰め込んだような腹が重そうに垂れていて、レノラはいまにもネスサの腹の上に落っこちてきそうである。

「ほーら、どうですぅ。ネスサさんのおかげでこんなオナカになったんですよ」

 久しぶりの満腹感に、レノラは喜色満面で自分の爆腹を満足げにぽんぽんとかるく叩いた。

「そう。で、お腹一杯になったの?」
 ネスサは自分の超腹と接さんばかりにユラユラと揺れているレノラの爆腹に目を奪われながら尋ねた。善行の神だけに、自分の腹をマッサージしてもらったことよりも、レノラが喜んでいることの方が嬉しいのである。

「もーちょっと欲しいかなぁ。分けてくれるんなら幾らでもいただいちゃいますぅ」

 レノラが一センチ足らず高度を落とすと、二人の腹はそっと重なり合った。

「ひゃっ・・んっ・・・」
「オナカ、こんなに大きくなっちゃって・・・」

 レノラが腹を両手で抱えてユラユラと揺すると、腹部を覆うレオタードがネスサの腹を擦る。

「あっ・・・」

 腹と腹の擦れあう感覚が心地よい。
 今度は上からレノラに表情を見られている。ネスサは恥ずかしさに真っ赤なった。

「?」

 ネスサはレノラと視線を合わせることができず、かといって横を向くこともできずに、二人の肉体が接している部分を眺めていることしかできなかった。最初は目の錯覚かと思っていたのだが、よくよく見ているとレノラの腹がゆっくりと膨らんで、三つ子を孕んでいるような腹がいつの間にか四つ子くらいは納まりそうな大きさになっている。
『わたしのお腹の上でレノラのお腹が膨らんで・・・・彼女、わたしみたいに大きくなるのかしら?』
 快感とレノラの身体に対する興味がエネルギーの伝導率を変えた。

「ひゃっ? わわっ!!」

 急に増加したエネルギーの流入に、膨張が加速したレノラの腹がぷうぅーっと膨らむ。四つ子腹が、五つ子、六つ子と急激に大きくなる。自分の腹がネスサの腹を押しつぶしてしまわないようにレノラは慌てて高度を上げた。
 だが、一瞬後にネスサの好意が高まって膨腹が進んでいることに気がつくと、嬉しくなって自分の腹を大切そうに撫で回した。

「ふみぃ、こんなにされたらレノラのオナカ、ぱぁぁんっていっちゃいそうですぅ」
「ふふふっ、そんなことないでしょう? わたしのお腹を熱心に触ってたくせに。いまだってわたしのお腹に触れなくなったものだから、自分のを触って気持ちよくなってるんでしょう?」
「そんなことないですぅ」

 図星である。

「隠してもだめよ。本当はもっともっと大きくして欲しいのよね? ほらっ」
 
「いやぁぁ・・・」

 七つ子、八つ子、九つ子。どんどん膨らんでいく爆腹に、レノラはパニックを起こしたように空中で手足をばたつかせた。しかしそれは演技で、レノラの頬はゆるみっぱなしである。
「もう、オナカ一杯ですぅ」
「まだまだ、もっと分けてあげる・・・・って・・あら?」

 気のせいか、ネスサ自身の腹がむくっと隆起したように見えた。だが胎内のエネルギーをレノラに分け与えて内圧の低下している腹が膨らむはずはない。
 見上げるとレノラも怪訝そうな表情をしていた。

「ど、どうして?・・・・・まさか」

 ネスサが考えを形にするまもなく、再び痙攣的に腹が膨らんでその上のレノラを押しはなした。今度は疑いようがない。ネスサの腹はさっきまでよりひとまわりは大きくなっていた。

「いっ! レ、レノラさん、はやくオナカはなれて。もうダメ、これ以上・・・!!」

 ネスサの言葉も待たずにさらに二まわり以上大きくなった。もはやネスサの腹は四抱えはある。しかも膨腹の速度はさらに増していた。

「ネスサさん、なにが?」

 レノラは転がるようにして高さを増してくるネスサの腹を横によけた。もう少し遅ければ超腹と天井の間にレノラの身体は挟まれていただろう。もはや上からではネスサの顔はおろか手も見えない。
 床に舞い降りると、肉の大球体に押しつぶされるようにしてネスサが顔を引きつらせていた。必死になって膨らみ続ける腹を両手で抑えようとしているのだが、こうも腹が巨大化しては腕に力を込めることなどできない。もしできても、少しでも締め付けたら腹が破裂してしまうのは確実である。

「た、たすけて・・・体型支持が・・・」

 自らの腹の下でネスサが呻いた。

「ふみっ!」

 切れ切れに聞こえるネスサの声に、レノラは事情を悟った。
 ネスサはある程度のエネルギーを溜め込まないと十分な魔力を使えない。いままではエネルギーが多すぎて、破裂寸前まで腹が膨らみきっていた。だが今度はレノラにエネルギーを分け与えすぎたために、体型支持のための魔力が衰えて自重と内圧に肉体が耐えられなくなったのである。
 つまり、多すぎてもダメ、少なすぎてもダメという微妙なバランスが崩れて、秤が一方に傾きすぎたのだった。

「ひっ、はっ、お腹支えてぇ! 破裂しちゃうっ!!」

 レノラが呆然として上を見ると、決して低くはない屋敷の天井にネスサの腹が届きそうだった。下では寝椅子が飛空術(体重軽減)のできなくなったネスサの身体の重みに耐えかねて抗議の声を叫んでいる。
 ネスサの身体は完全に腹の下敷きになって、手足の先が見えているにすぎない。顔も腹によって押し上げられた胸の谷間に挟まれ、長い黒髪が見えているだけである。

メシメシッ! バキッ!!

 ついに寝椅子の足が腹の重みに耐えかねて折れた。

「あっ、ひいいぃぃぃっ!!」

 腹の下でくぐもった悲鳴をネスサが上げた。
 腰が抜けているレノラの目の前で、肌色の大山脈がグラリと傾いた。それがこちらへ向けてなだれ落ちてくると見たレノラは顔を引きつらせた。この腹下敷きになれば重傷は確実である。空腹状態のレノラなら大げさな表現かもしれないが、エネルギーを分けてもらって膨張した腹を圧迫されたら子宮が破裂してしまう。
 だがネスサが転倒するよりもはやく急速に膨らむ腹が天井まで達してつかえてしまった。加速度的に進むネスサの破局がレノラを救うこととなったのである。
 天井の梁は膨張する超巨大風船腹の圧力に軋みながらも辛うじて持ちこたえた。行き場を失ったネスサの腹は横の方向へ膨らみ続け、相対的に押しつぶされた球形となる。このために膨張可能な方向に圧力が集中する結果となり、薄く伸びきった腹部の腹筋や子宮筋に部分的なひずみが生じた。

「わっ・・わっ・・・」

 超絶的に膨らんだネスサの風船腹の皮下組織が裂けて妊娠線が走る。最終局面が一瞬後に迫っていることを察したレノラは為すすべもなく後ずさりした。

 「もうっ、ダ・・・・」

ぱぁぁぁぁぁぁぁん!!!


中編に続く


後書きは後編終了後。たまにはこーゆーのもいいでしょ。


(第1回、了)